第5章 起業家教育を取り入れた商業教育の創造
第1節 起業家教育の現状
平成23年 3月に発表された「三重県教育ビジョン-子どもたちの輝く未来づくりに向けて」の 第2章総論に、教育をとりまく社会状況として「(1) 少子化・高齢化・核家族化の進行 (2) 国 際化・グローバル化の進展 (3) 環境・資源問題の深刻化 (4) 高度情報化社会の進展 (5) 経 済社会構造の変化 (6) 社会意識の変化」の六つをあげている。しかし、本論文の基調である地 域問題、東紀州・南伊勢・伊賀地域ですすむ人口急減と地域経済の衰退が含まれていない。また
17 高等学校学習指導要領解説・商業編(p3)「改善の具体的事項(教科横断的な事項)」三つの視点より抜粋 第3章 学力と社会への参画力の育成 〔今後の取り組みの方向〕
○ 教育活動全体を通したキャリア教育の拡充・深化
子どもたちが、社会的・職業的自立に必要な能力や態度・知識を身につけるとともに、働くことが自己の成 長に結びつくこと、働く上で仲間と協力することが大切であることを理解できるよう、各学校で教育活動全体 を通じたキャリア教育を一層推進します。
キャリア教育を進めるにあたり、より良い社会づくりに参画・貢献する「市民」として必要な知識や能力、
組織に適応するのみならず組織の風土を改革していく意欲や力量等を育む視点を大切にします。
○ 専門性を生かした職業教育の推進
経済社会の構造が変化する中、実社会で必要な基礎的・汎用的能力*1 の土台の上に、専門的な知識・技術・
技能および起業家精神などの資質・能力を育むため、学校と地域・産業界が連携し、専門性を生かした職業教 育を推進します。 下線は筆者において追加 資料 32 キャリア教育が主流の「三重県教育ビジョン」
平成 23 年 3 月発表「三重県教育ビジョン~子どもたちの輝く未来づくりに向けて~」 p.62 より抜粋
- 39 -
その対策としての起業家教育については、資料32の記述のように様々な課題の一つという認識に とどまっている。
経済産業省『平成17年度「全国新規事業発展基盤調査」-起業家教育の実施状況及び普及・定 着に関する調査-(調査期間:平成17年2月13日~3月31日)』(巻末資料)の同報告書(p.37)
の第2章「調査 ~ 我が国の起業家教育の現状と課題とをさぐる」に「2.我国の起業家教育実 施地域」が図示されている。それによると三重県での実施地域は、四日市市と津市とある。都道 府県別に実施地域を数えてみた。その結果、上位ベスト5は、次のようになった。トップは愛知 県の9地区、つづいて岩手と岐阜が8地区、北海道・福岡・東京都がともに7地区である。それ ぞれ自治体の人口や学校数などを勘案したとしても三重県の2地区は少ない。
北海道教育委員会が平成18年3月に実践指導集「北海道における起業家教育の実践-創造力豊 かに自立心あふれる人を育む-」を発表している。高校だけでなく小中学校における事例も掲載 されており、その内容の豊富さに驚く。北海道教育委員会のホームページ(2013.12.10 検索)
に、平成25年度キャリア教育・職業教育推進事業計画書の見本(資料33)が掲載されている。
興味深い語句や表現があった。例えば「地域人材育成会議等」である。地域のとりくみが組織的 であり、学校と地域との連携が成立していることが分かる。また起業家教育の課題や悩みも散見 できる。
「起業家教育」は、カリキュラムに位置づけられたものではなく、希望者の任意参加の講座で あることが下線②から推察できる。また下線③「起業家教育への興味・関心を高め広く参加を呼 びかける必要」は、生徒だけでなく指導者である教職員の認識も深まっていないことを示してい る。「地元企業からの助言」(下線①)ということばにそれが現れている。起業家教育が起業家
精神や知識の伝達にとどまっており、生徒たちの興味や関心を集めるに至っていない。
次に、大学における「起業家教育」の研究状況はどのようなものだろうか。論文検索システム 資料 33 北海道教育委員会、起業家教育を前面に
平成25年度キャリア教育・職業教育推進事業計画書 【別紙様式C】
教育局 十勝 学校 北海道池田高等学校
1 地域人材育成会議の実施による地域産業と学校との連携について、以下の項目毎に記述し てください。
(1) 昨年度の課題
「起業家教育」において、地域人材育成会議等と連携して、①地元企業から有益な助言を得 ながら、起業に関連した法令等の知識や、起業の具体的方法等について理解を深めたが、②参 加希望生徒が少なく、企業に向け検討や実施業務が一部の生徒に集中する状況があった。
このことから事前指導を充実し生徒の「起業家教育」の興味・関心を高め、広く 参加を呼びかける必要がある。
(2) 今年度の計画
第一年次からの長期計画に「起業家教育」を追加することにより、生徒の職業や社会への③ 関心・知識を高め、工夫改善する創造力やチャレンジ精神を涵養する。
2 キャリアアドバイザーとの連携について、記述してください。
(1) 高校生と大学生等とのワークショップ
キャリアアドバイザーの助言により、高校生と大学生・社会人等によるグループ単位の対 話式ワークショップを実施する。
(2) 大学等との連携
(
下線と番号①③③は筆者)
http://www.dokyoi.pref.hokkaido.lg.jp/hk/kki/sa/h25kyaria_8.pdf 2013.11.6 参照
- 40 -
Cinii で「起業家教育」をキーワードに検索(2013.11.7)を試みた。結果は、資料 34 の通りで ある。
資料 34 起業家教育」検索結果(2013.11.7)
1.ベンチャー起業家社会の実現 : 起業家教育とエコシステムの構築 熊野正樹著[2013]
2.起業家教育に関する実践的研究 藤川大祐編 千葉大学大学院人文社会科学研究科[2011.2]
千葉大学社会文化科学研究科研究プロジェクト報告書 第 237 集 3.知識創造活動を通じた起業家教育 : 大学発農業ベンチャー起業における知識創造事例分析 巽龍雄 [著] 2009.9
4.キャリア女性の再チャレンジ=起業を支援する短期集中プログラム 京都大学[2009]
社会人の学び直しニーズ対応教育推進プログラム 平成 20 年度 , 平成 21 年度 5.ファイナンシャル・プランナーママの実践マネー教育 [アールズ出版 2008.4]
「おこづかいの渡し方から、投資教育、起業家教育まで」柳沢美由紀, 森田久美子, 平山寛子著 6.大阪商業大学の地域や高校と連携した起業教育・起業家育成 :
平成 16 年度文部科学省「特色ある大学教育支援プログラム」成果報告書(平成 16-19 年度) 大阪商業大学起業教育委員会編 大阪商業大学 2008.3 7.起業家精神教育の試論的アプローチ「地域人材育成の現場・大学からの発信」広島修道大学 2007.2 8.起業家教育促進事業の効果検証に関する調査報告書 経済産業省 2005.3
9.大阪商業大学の起業家育成 : 「ベンチャー育成部会」の活動記録 大阪商業大学 2005.3 10.総合的な学習の時間における起業家教育の方策の研究 研究代表者 山根栄次 2005.3
科学研究費補助金(基盤研究(B)(1))研究成果報告 平成 14 年度~平成 16 年度 11.地域インキュベーションと産業集積・企業間連携 :
起業家形成と地域イノベーションシステムの国際比較 三井逸友編著 御茶の水書房 2005.11 12.ベンチャー育成論入門「起業家マインドの醸成に向けて」野田健太郎編著 大学教育出版 2004.4
13.ベンチャービジネスと起業家教育 土井教之, 西田稔編著 御茶の水書房 2002.7
関西学院大学産研叢書 26 14.起業の神話と現実 : 起業家教育のメッカ、米バブソン大学からのレポート古田龍助著文眞堂 2002.4
15.ベンチャー起業の神話と現実 : 起業家教育のメッカ、米バブソン大学からのレポート 古田龍助著 ; 熊本学園大学産業経営研究所編 文眞堂 2002.3 熊本学園大学産業経営研究所研究叢書 33 16.子どもを伸ばす 5 つの遊び : 小学生からの「起業家教育」のすすめ 大江建, 平井由紀子著 青春出版社 2001.4 17.「起業家教育」で子供が変わる! : 「ビジネスの楽しさ」を教え、独創性と行動力を育てる
大江建, 杉山千佳著 日本経済新聞社 1999.9 18.起業家教育とその評価 テクノフォーラム[199-]
Selected scientific & technical report Data No. TF-6727(5)
検索ヒット数は、18件。もっとも古い研究は、1999年の「起業家教育で子供が変わる」日本経 済新聞社発行の大江建、杉山千佳両氏によるものである。すでに14年の時が経過しているが、ヒッ ト総数は18件と少ない。ちなみにキャリア教育は、240件である。若者の勤労観、職業意識の欠 落と、それに伴う離職率の高さが社会問題となり、研究がすすんだことが背景にある。しかし皮 肉にも、労働環境は激変した。規制緩和は、若者に非正規労働を強制する結果となり、キャリア 教育の目標と企業が求める「安上がりな労働力」との間に乖離がさらに広がった。
アメリカ発の起業家教育は、アメリカの子どもたちへの教育であって、そのまま日本のテキス トとすることはできない。なぜなら国民意識に大きな違いがあるからだ。例えば、父母の多くが もつ「ブランド志向」、有名大学・大企業志向は、容易に変えることはできない。起業家教育を 根づかせるためには、その必然性と背景を丁寧に語り、納得させる必要性がある。
生徒たちが変わり、保護者が変わり、さらには指導する教師や地域社会も変わらなければなら ない。したがってコトバだけで説得できるものではない。具体的な成果と事例が求められる。