第1章 模倣に対する行政的救済
4. 請求権発生の要件
4-1 特許・商標の場合 (1)差止請求権
同請求権は権利を侵害され、又は侵害されるおそれがある場合、行使することができる。
判断するときには、客観的で明白な証拠によらなければならない。人的・物的施設の有無 及び準備の程度、投資計画、投資状況、特許権などを侵害する物品に対する宣伝、広告な どを総合して判断しなければならない。権利侵害又は侵害のおそれがあれば足り、侵害者 の故意又は過失は要件でない。
(2)損害賠償請求権
①不法行為の一般原理により、主観的要件として故意・過失を要する。
・特 許:他人の特許権又は専用実施権を侵害した者は、その侵害行為に対して過失が あるものと推定する(特許法第 130 条)。特許権等は公報による登録公告制度及び特許 標識等で一般に広く公示されるので、特別な事情がない限り、侵害者は侵害行為に関 して過失があったものと推定される(立証責任の転換)。従って、侵害者は過失が無い ことを立証しなければ、その責任を免れることができない。
・商 標:登録商標であることを表示(商標法第 90 条)した他人の商標権又は専用使用 権を侵害した者は、その侵害行為に対してその商標が既に登録された事実を知ってい たものと推定する(商標法第 68 条)。
・著作権:登録されている著作権、出版権又は著作隣接権を侵害した者はその侵害行為 に過失があるものと推定する(著作権法第 93 条)。
②客観的要件として違法な侵害による損害がなければならない。
③侵害と損害発生の間に因果関係がなければならない。因果関係は合理的な蓋然性があ れば十分である。
(3)信用回復請求権
・特 許:業務上の信用失墜とは、特許発明を模倣した製品が粗悪な場合などである。
従って、侵害の事実があったということだけで業務上の信用が失墜したと見ることは できず、これに対する別途の立証が必要である。
・商 標:故意又は過失により商標権又は専用使用権を侵害することによって、商標権 者又は専用使用権者の業務上の信用を失墜させた場合に、損害賠償に代えるか、又は 損害賠償と共に信用回復のために必要な措置を命じるようになる。
・著作権:著作者は、自己の著作人格権を侵害した者に対して、損害賠償に代えるか、
又は損害賠償と共に、名誉回復のために必要な措置を請求することができる。この場 合、侵害者の故意又は過失を要する(著作権法第 95 条)。
(4)不当利得返還請求権
損害賠償請求と異なり、故意・過失がない場合でも、不当利得の返還を請求でき、損害 賠償請求権の消滅時効(3年)が成立した場合にも、不当利得返還請求権(10 年)を行使でき るという点で実益がある。
4-2 不正競争行為の場合 (1)差止請求権
禁止及び予防請求権は、不正競争行為により営業上の利益を受け、又は侵害されるおそ れのある場合に行使することができる。即ち、①不正競争行為があること、②営業上の利 益が侵害され、又は侵害されるおそれのあることである。営業上の利益とは、不正競業か ら保護されるべき利益、即ち、営業上の信用(goodwill)を意味し、不正競争防止法の趣旨 に照らして「営業」や「利益」の概念を過度に厳格に解釈してはならず、弾力的に解釈し なければならない。「営業」には農業が含まれ、継続的な経済活動をする主体であれば十分 であり、弁護士、医師、公証人、弁理士などは勿論、薬剤師、画家、作家、農場主などが 全て含まれる。「利益」は、法律上保護価値のある正当なものでなければならない。賭博、
麻薬、売春のような公序良俗に反する営業上の利益は保護されない。
侵害は現実に発生する必要はないが、客観的で侵害可能性がなければならず、抽象的な おそれだけでは足りない。混同の事実が認められる場合には、特段の事情がない限り、営 業上の利益が侵害されるおそれがあると見る。混同のおそれ、取引先の喪失、売上の減少、
営業上の信用や名声の毀損などがあれば、利益侵害があるものと解釈されている。典型的 なのは、侵害の意図で混同的商標を登録出願したり商号を登記した場合で、これを実際に 使用しなかったとしても、侵害のおそれがあると見る。一時的休業の場合は、侵害のおそ れがあるが、廃業して営業意思がないものと見られる場合には、侵害のおそれがあると見 ることができない。
(2)損害賠償請求
損害賠償請求には①行為者の故意・過失、②不正競争行為の存在、③不正競争行為によ る営業上の利益の侵害による損害の発生、④行為と損害発生との相当因果関係の存在が必 要である。
4-3 著作権の場合 (1)差止請求権
著作権、その他著作権法によって保護される権利(放送事業者の実演者及び音盤製作者に 対する補償請求権を除く)を有している者は、その権利を現実的に侵害している者、または 侵害する恐れのある者に対し侵害の停止を請求することができる。
(2)損害賠償請求権
侵害行為に過失があるものと推定する(著作権法第 93 条)。