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第 3 章 調査

3.2 調査

3.2.1 量的調査

3.2.1.2 調査2

調査1(Imaizumi 2019)では、日本語原作の小説『キッチン』とその英・中翻訳をデータ とし、274の文脈から日・英・中可能表現の意味地図の構築を試みた。しかし、このデータ が意味地図を構築する上で十分であるのか、また、日本語原作のデータのみで問題がないの か、つまりデータの質と量による影響に疑問が残る。そこで、今泉(2018a)では英語原作 の小説『ハリーポッターと賢者の石』とその日・中翻訳を用いて同様の手順で調査を行った。

3.2.1.2.1 調査の目的

調査2の目的は調査1(Imaizumi 2019)と同様に日本語・英語・中国語の対訳テキス トをデータとし、これら三言語における可能表現の統計的意味地図を構築することである が、データの質と量を追加し、調査1で得られた結果の妥当性を検討するために行った。

3.2.1.2.2 調査対象

本調査のデータは英語原作の小説『ハリーポッターと賢者の石』とその日・中翻訳版で ある。収集対象とした形式は、調査1と同様の、日本語「える」、「られる」、「できる」、

「ことができる」、英語can、could、may、might、中国語「能」、「能够」、「可」、「可 以」、「会」、および可能補語形式(動詞+不/得+補語)である。

3.2.1.2.3 調査手順

調査は調査1と同様の手順で行った。まず三言語のテキストデータから、対象形式が用 いられている文脈とその対訳を収集したところ、90645の文脈が収集された。次に、

44 本節は今泉(2018a)の調査に基づくが、一部のデータの変更を行ったため、結果も一部異な

る。図20~25, 26は今泉(2018a)に掲載されたものではなく、最新版である。

45 今泉(2018a)では、955の文脈が収集されたが、「見える」「聞こえる」「わかる」などの知 覚・思考表現が収集対象として含まれていたため、今回はそれらを除外した。

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906×906全ての文脈同士の(非)類似性をハミング距離として計算した。それらの距離デ

ータについて、R関数cmdscale()を使ってMDSを実行し、3次元(及び2次元)スペー スにマッピングした。

3.2.1.2.4 調査結果

MDSの結果、図 20が得られた。次に各言語の表現形式の分布を観察するために、それ ぞれの言語の表現形式別に表示した図を作成した。調査1と同様、観察の便宜上次元を2 に設定した図を挙げる。

図 20 MDSの結果(『ハリー』)(今泉2018a:350修正版)

図 21 英語表現形式の分布(『ハリー』)(今泉2018a:351修正版)

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図 22 中国語表現形式の分布(『ハリー』)(今泉2018a:351修正版)

図 23 日本語表現形式の分布(『ハリー』)(今泉2018a:350修正版)

3.2.1.2.5 分析

今回は地図中で各用法がどのように分布しているのかを観察するため、各文脈の用法別 に表示した。x軸、y軸の観察のために二次元図(図 24)、z軸の観察のために三次元図を 作成した。

96 図 24 用法別(二次元)(『ハリー』)

(今泉2018a:351修正版)

図 25 英語表現別(三次元)(『ハリー』)

3.2.1.2.5.1 x軸

x軸は、マイナス側(左方向)からプラス側に向かって「認識的用法<内的・外的可 能<自発<受身」という連続になっている。これは、調査1のDimension1「事態志向的

/話者志向的」というスケールに相当する。x軸マイナス側がより話者指向的、プラス 側がより事態指向的であると解釈できる。

3.2.1.2.5.2 y軸

y軸はプラス側(上方向)からマイナス側(下方向)に向かって「内的・外的可能>

許可>認識的可能性/自発>受身」という連続性をなしている。これは調査2の

Dimension2「コントロール可能性」と解釈できる。調査1では、自発と受身の差が顕著

に見られなかったが、今回の結果では受身がよりコントロール可能性の低い位置に配置 された。ただし、動作主内的/動作主外的可能の差は今回も見られなかった。

3.2.1.2.5.3 z軸

今泉(2018a)ではz軸に関して知覚・思考表現がマイナス側に集中しているという考 察を提出した。しかし、データには「見える」「聞こえる」「わかる」などの知覚・思考表

可能

認識 受身

許可

未来 自発

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現が収集対象に含まれていた。本調査でそれらを収集対象から外したところ、can/could の対立が現れた。図 25を見ると、プラス側にcould、マイナス側にcanが多く分布して いる。調査1同様、日本語と英語では分布の規則性が見られなかった。「could>can」と いう順序は「即時性」に沿うものであるが、今回も、will/would、may/mightのペアには z軸に関わる分布の差はみられなかった。データが小説であるため、基本的に過去時制で 語られていることがcouldの出現に影響を与えている可能性がある。本調査では「時制」

を考慮に入れなかったため、「即時性」のスケールが時制までを含んでこれらのデータの 分布を説明できるかどうかは、今回の分析からはわからない。z軸の解釈に関しては、不 明点が残るが、「即時性」という解釈ができる可能性がある、という結論にとどめたい。

3.2.1.2.5.4 まとめ

以上の観察から、x軸は調査1のDimension1と同様「事態志向的/話者志向的」とい うスケール、y軸は調査2のDimension2と同様「コントロール可能性」のスケールと解 釈できた。z軸については。調査1のDimension3と同様「即時性」と解釈できる可能性 が見られたが、確証はできなかった。

3.2.1.2.6 日本語原作データによる意味地図との比較

今回得られた意味地図と、調査1で得られた意味地図を比較してみよう。以下の図 26 は調査1で得られた図 17を反転させたものである。

98 図 26 日本語表現形式別(二次元)反転版

(『キッチン』)(今泉2018a:352修正版)

図 23(再掲)日本語表現形式別(二次元)

(『ハリー』)(今泉2018a:352修正版)

どちらも三方向への広がりが見られ、全体として三角形の分布になっており、分布の 配置も同じ傾向を見せ、軸の解釈についても同様に解釈することができた。

3.2.1.2.7 結論

調査2の結果、『ハリー』における日英中可能表現の意味地図は(106)の三つの軸からな り、図 27のように表示されると結論付けられる。

a. 事態指向的/話者指向的 b. コントロール可能性 c. 即時性(?)

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図 27 『ハリー』における日英中可能表現の意味地図