第 2 章 研究背景
2.1 先行研究
2.1.4 英語の可能表現
2.1.4.1 法助動詞の定義
助動詞とは、一般的に動詞に意味を追加する目的で使われるものである(畠山(編)
2016: 5)が、その意味するものは言語によって異なる。そこで、英語における助動詞、及 び法助動詞とはどのようなカテゴリーなのか、まずは確認することにしよう。
英語における助動詞(auxiliary verbs)とは、亀井・河野・千野・西田(1988: 732)で は「元来、独立した動詞であったものが、その本来の意味から離れて、形式的に動詞の補 助的な役目をするもの」であり、「その補助的な役割は、主として動詞の文法範疇(アスペ クト、時称、法、態など)の明示にある」と定義されている。そのうち、法(モダリテ ィ)の文法範疇を表すものが法助動詞と言うことになる。つまり、法助動詞を定義すると なると、必然的に法、つまりモダリティをどのように定義するかに依存することになる。
モダリティは意味的な文法範疇であるから、このような助動詞定義は意味的な定義という ことになる。山岡(2014: 235)では、法助動詞とは、「文で述べようとする内容に対する 話し手の心的態度を表す助動詞のこと」と定義している。話し手の心的態度には、話し手 の判断や推量といったものが含まれるが、法助動詞はそれ以外にも主語に関する能力や主 語に対する許可・義務・命令などを表し、前者は「認識的モダリティ(epistemic
modality)」、後者は「根源的(または義務的)モダリティ(root/deontic modality)」と呼
ばれている。
特に英語をはじめとする印欧語においては、可能性と必然性という論理学における概念
(=意味)と法助動詞の体系(=形式)に整合性があり、その表裏一体の関係を中心にモ ダリティと言うカテゴリーが編成されている。それゆえに、モダリティの定義を見ると
「法助動詞によって表される意味」とあり、法助動詞の定義を見ると「モダリティを表す 助動詞」とあるように、意味からの定義では循環論的になってしまう場合もある。ここで はまず文法的カテゴリーとしての法助動詞の位置づけを確認し、次節でモダリティという
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意味的な文法カテゴリーの定義について議論することにする。
生成文法における句構造規則では、助動詞(Aux: Auxiliary)は、名詞句(NP: Noun
Phrase)、動詞句(VP: Verb Phrase)とともに文(S: Sentence)を構成する要素の一つで
ある。このような英語の最も基本的な句構造規則は、(56)のように示される。
S → NP Aux VP S
NP Aux VP
(中井・上田・奥・高尾・松岡・Hirose 2004: 43)
英語のAuxには、法助動詞(modal auxiliary verbs)、have+過去分詞、be+現在分 詞、及び時制要素(Tense)が含まれる。時制要素は文の一番初めの助動詞に付与され、
助動詞がない場合は動詞に付与される。これは(57)のように表される。
Aux → Tense (M) (have en) (be ing)
Tense → Present / Past (中井他2004: 52)
つまり法助動詞とは、助動詞(Aux)のうちhave+過去分詞、be+現在分詞、及び時制要 素(Tense)以外のもの、ということになる。
Greenbaum and Quirk (1990) は、名詞や形容詞などと対立する語類の一つとしての「動
詞」を、それが動詞句の中で果たす機能に従って、「本動詞(あるいは語彙的動詞)」、「基本 動詞」、「法助動詞」の三つの主な範疇に分けている。そのうち、基本動詞と法助動詞は、閉 体系的な部類26であるから、その全部を列挙することが出来るとし、基本動詞として be, have, do、法助動詞としてcan, may, shall, will, must, could, might, should, wouldを挙げ
26 閉ざされた類(closed class)は成員の数が少なく新しい語が加わりにくい類のことで、例 えば冠詞や助詞などがある。それに対し、開かれた類(open class)は、名詞のように、成員 の数が多く、新しい要素が加わり得る類のことである(田中1988: 87)
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ている(Greenbaum and Quirk 1990, 池上訳: 41) 27。そのうえで、助動詞は、操作詞と して(58)のような共通の特徴をもつとしている。
a. 否定形にする場合、notがすぐ後に置かれる。
She may do it.
She may not do it.
b. 疑問節を作るには、主語の前に置かれる。
He will speak first.
Will he speak first?
c. 否定ではなく肯定であることを特徴づけるために、ストレスを帯びることがある。
Won’t you try again?
Yes, I WILL try again.
d. その機能が、それを除いた残りの叙述部分が省略されている範囲に及ぶ。
Won’t you try again?
Yes, I WILL.
(Greenbaum and Quirk 1990, 池上訳: 59-61より抜粋)
さらに、法助動詞のみに特有の機能として(59)のような特徴を挙げている
a. toなし不定詞(すなわち、動詞の基本形だけで、toに先行されないもの)を伴う。
You will ask the questions.
b. 不定動詞句の機能で(つまり、不定詞または分詞として)用いることは出来ない。
その結果として、動詞句の最初の動詞としてしか用いられない。
*to may, *maying, *mayed
c. 現在時制、3人称、単数に対して-sのつかない形を有する。
You must write. She must write.
27 助動詞と主動詞の中間的な存在として、法的イディオム(had better, would ratherなど)、 準助動詞(be able to, be going to, have toなど)が別途挙げられている。前者は助動詞と不定 詞、ないしは副詞の結合したもの、後者は本動詞haveまたはbeによって導かれる一連の動詞 句のことである(Greenbaum and Quirk 1990, 池上訳: 70)。
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d. 過去形が現在時や未来時を指して(しばしば断定を避けるという意味合いで)用い られる。
I think he may/might be outside.
(Greenbaum and Quirk 1990, 池上訳: 61-62より抜粋)
したがって、英語の法助動詞を統語的特徴から定義すると、(58)、(59)の特徴をもつ言 語形式ということになり、脚注27に挙げた周辺的な形式を除くこととすれば、先に挙げた 9つの形式(can, may, shall, will, must, could, might, should, would)が英語の法助動詞 である、ということになる。本研究において英語の法助動詞と言う時は、これらの9つの形 式を指すこととする。