3.3.1 要素投入と単収
本節では、集計農家の稲作経営データを用いて調査村における稲作の特質を示したい。す でに述べたように、調査地における稲作は作期によって異なる。筆者の調査によれば、調査村 では 2012 年雨季早期作、雨季中期作、および 2013 年 4 月までの乾季減水期作という三つ の作期があった。そこで本章では三期 に区分して検討する。同時に、栽培技術のあり方(直播 か移植か、品種選択、肥料の利用 )によっても稲作のあり方やその成果 (単収、および収益な いし所得 )は変わってくる。その点 に十分な注意を払いながら分析を行いたい。はじめに要素 投入と単収について分析を行い、続いて要素投入を貨幣換算した生産費の分析を行う。
まず作付時期別の平均単収をみると、雨季早期作の籾収量(以下同じ)がhaあたり4,641kg と最も高く、雨季中期作では 3,228kg となり、雨季早期作の7割まで落ち込む。乾季減水期作 については ha あたり収量は 4,518kg と雨季早期作に次いで比較的高いものであった。そのこ とを踏まえて要素投入との関係を考察する。
まず移植と直播に分けて単収の水準をみていく(表 3.11 参照)。平均的にみた移植と直播 の単収差は、三作期ともに 150kg/haから230kg/haと小さい。だが、雨季田では移植栽培の単 収 が わ ず か で は あ る が 、 直 播 よ り も 高 い10。 一 方 で 、 乾 季 減 水 期 作 で は 、 直 播 の 単 収 が
230kg/ha高い結果となった。
雨季早期作では、直播農家戸数は 33戸であり、移植と比べ、作付面積および筆数ともに多 く、全体の7割が直播栽培を導入している。調査村では移植と直播を併用する農家が存在 して おり、それは雨季田と乾季田では要因が異なる。雨季田においては人手不足を補うために直 播技術の導入がなされている。加えて稲作農家によっては自給用米を意識して移植栽培が採 用されるという要因がある。飯米には移植を使う品種が好まれている。
乾季田で移植栽培を行う要因としては、深水域での直播栽培の導入は困難であることがあ る。そのため、移植栽培の導入を余儀なくされている。乾季田は氾濫原での乾季減水期作で あるため、土壌に含まれる栄養分が豊富であり、移植栽培、直播栽培ともに一定の単収が期 待できる。
10 Kamoshita et.al. (2009)によれば、カンボジアにおける直播栽培技術は未だに低く、生産
者の経営能力を高める必要性があると指摘されている。
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表 3.11 栽植法別の平均単収
作付品種は早生種、中生種、晩生種に大別されるが、どの早晩種を選ぶかは、土壌条件、
灌漑の有無、湛水深によって決定される(全国農業改良普及協会 2004)。調査地では早生 種がほとんどであり作付期間を短くするような品種選択がなされている。
Kampong Cham 州における主要品種は調査時点で IR504、IR66、Phka Romduol、Kngok
Pongの 4品種であった。この中でいわゆる改良品種は前 3種である。調査稲作農家において はこの主要品種 4 品種に加えてSen Pidor、Chulsa、99(IR 品種)、Neang Toyの 4品種の栽 培が確認できた。全体として 8 種類の品種があるが、ほとんどの農家が IR 系の品種を使用し ていた。
品種別に単収の特徴を示した表3.12をみると、年間を通したIR品種の作付が見られる。特
に IR504 の作付け総農家数は 46 戸のうち 41 戸と全体の 8 割強を占めることがわかる。近代
品種が多く採用されているのである。IR504 を筆頭とした近代品種の導入によって、雨季早期 作が可能となり、雨季田の二期作化が進んだ。調査村には農家から米を買いつけて仲買を行 う産地仲買人と呼ばれる世帯が 3 戸存在しており、IR504 をベトナムへ輸出する販路が存在し ているが、IR504品種は販売米としての生産を意図して用いられているのである。
ただし、雨季中期作の作付品種目数は、雨季早期作と乾季 減水期作と比較して多様である。
特に食味が好まれる品種(Chulsa, 99, Kngok Pong, Neang Toy) が目立つ。雨季中期作では 家庭での消費用米の生産を目的として食味を考慮した品種選択による作付を行う農家が存在 していることが示唆される。実際、生産量のうち飯米に向かう米の比率は雨季中期作で5割強 を占めている(表 3.13 参照)。なお調査時の聞き取りによって、高齢者と同居する世帯は食味 を考慮した品種を作付けしていることがわかった。一方で、品種 を考慮せず、自家消費米をそ
(籾換算, 集計農家戸数:46戸)
作付時期 作付 戸数
平均作
付面積 筆数 平均筆 面積
平均 単収
作付 戸数
平均作
付面積 筆数 平均筆 面積
平均 単収
(戸) (戸) (a/戸) (筆) (a/筆) (kg/ha) (戸) (a/戸) (筆) (a/筆) (kg/ha) 雨季早期作 44 12 33.2 18 22.1 4,884 33 54.7 74 24.4 4,732 雨季中期作 44 20 36.5 34 21.4 3,353 29 53.1 57 27.0 3,177 乾季減水期作 39 23 61.4 43 32.8 4,232 23 70.4 38 42.6 4,461
合計 46 33 76.9 95 26.7 4,082 36 137.9 169 29.4 4,161
出所:2013年7月に実施した調査による。
総戸 数
移植 直播
49 の都度、収穫時に確保する農家も見られた。
次に要素投入について作付時期別に分析する。稲作生産における主な要素投入項目とし ては、種苗、有機肥料、化学肥料、除草剤、農薬、労働があげられる。
種子の投入量については、調査村では移植と直播が並存しているため、作付け時期ごとの それぞれの作付面積割合によって平均投入量の増減が見られる。特に雨季早期作は直播栽 培を用いる農家数と作付面積がともに大きく、平均投入量がほかの時期よりも高い。農家は一 般的に移植栽培では、ha 当たり 20 ㎏の種籾を播種・育苗するのに対して、直播の場合は品
表3.12 調査農家による作付品種別の平均単収と作付農家戸数
(籾、集計農家戸数:46戸)
作付品種名 平均 作付面
積 戸数 平均 作付
面積 戸数 平均 作付面 積 戸数 (kg/ha) (ha) (戸) (kg/ha) (ha) (戸) (kg/ha) (ha) (戸)
IR504 (早生) 4,529 18.6 33 3,361 9.0 17 4,549 26.2 33
Sen Pidor (早生) 5,066 2.0 4 3,078 3.2 8 4,917 2.0 4
Phka Rumduol (中生) 3,444 0.2 1 2,887 6.2 13
IR66 (早生) 4,729 1.6 7 3,553 1.3 7 4,395 1.8 4
99 1) 2,609 1.0 3 3,000 0.2 1
Kngok Pong 2,909 0.6 1
Chulsa (早生) 3,000 0.2 1
Neang Toy 2) 4,375 0.9 1
出所:2013年7月に実施した調査による。
注記:1,2)品種名は正式名称ではなく、調査対象村でのそれぞれの品種の呼び名である。
3)農家は一品種に限らず、多品種を作付する農家もみられた。
雨季早期作 雨季中期作 乾季減水期作
表3.13 作付時期別世帯当りの販売量と自家消費量の割合
(籾換算, 集計農家戸数:46戸)
(戸) (a) (kg) (%) (kg) (%) (kg) (%) (kg) (%) (kg) (%) (kg) (%) (kg) (%) 雨季早期作 44 50.1 2,476 100.0 2,236 90.3 125 5.1 75 3.0 18 0.7 22 0.9 0 0.0 雨季中期作 44 51.6 1,702 100.0 621 36.5 934 54.9 48 2.8 35 2.0 68 4.0 0 0.0 乾季減水期作 39 77.7 3,938 100.0 3,365 85.5 28 0.7 328 8.3 152 3.9 4 0.1 0 0.0
出所:2013年7月に実施した調査による。
注記:1)作業委託の籾米による支払いは、生産工程では存在しなかった。しかし、自家消費米の精米作業は籾米での支払による。
農家 戸数
作付
面積 生産量 販売量
目的別消費量内訳
自家消費 種苗 賃借支払 飼料 作業委託1)
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種によって投入量の差は見られたものの、1haあたり100kgから200kgと、移植栽培の5から10 倍多くの種子の投入量が必要となる。ほとんどの農家は村長を介して種籾を種苗会社から購 入するか、あるいは政府からの奨励品種を地域の農業局を通して調達しており、その購入頻度 は2、3年に1度である。また、農家によっては同品種の種籾を他の農家が収穫した1年目の比 較的新しい種籾と自家採取を続けた種籾によって収穫した籾米を交換し、籾米の購入を避け る農家も存在した。在来種の種籾は自家取り置き米を使用するか、他の農家との交換11によっ て調達している。
有機肥料は、調査農家すべての農家で施用が見られた。有機肥料は牛糞堆肥及び燻炭堆 肥が用いられる。牛糞堆肥は、農家が自家生産する。一方で、燻炭を購入し、田で牛糞堆肥と 混ぜ合わせて施用される。1世帯あたりの成牛頭数は 2 頭であり、1 頭あたり年間糞排出量を
1,080kg/頭/年(築城・原田 1997)とすると、一世帯あたりの年間堆肥生産量は 2,160kg となる。
しかし、雨季早期作における投入量は1,589kgであり、一作分の投入量しか賄えていない現状 がある。農家は二期作を見込んで有機肥料を雨季早期作に投入し、肥料効果を最大限に活 かすよう努めているとみられる。
化学肥料はすべての稲作農家が施用していた。化学肥料投入量については、尿素(46-0-0)
とリン酸を多く含む DAP(18-46-0)を相対比2対1での投入が一般的であった。また、雨季中期 作における化学肥料投入量は雨季早期作と比べて少なく、これは水嵩が増したために、追肥 しても効果が見込めないことがある12。
調査村における農薬の施用目的は、雑草防除や虫害及びジャンボタニシ(スクミリンゴガイ)
被害への対策である。ジャンボタニシの被害は大きく、殺タニシ剤を使用する農家が半数ほど いた。しかし、タニシを食用としている農家も存在するため、農薬を使わない農家も存在した。
他に蟹、鼠、牛による被害が確認できた13。
11 異品種での交換も親戚間で存在した。
12 聞き取りの際の調査農家の話によれば、雨季中期作では水が豊富なため、安定的な生産 が可能なことから家庭内消費用米の生産を目的として生産しており、さらには化学肥料に頼ら ずに作付が可能で、安心して食すことができる米作りが可能だということであった。また、嗜好 品種に限らず、雨季中期作に生産した米の食味も好まれていた。
13 これらに対する対策としては、夜間に家畜を狙う鼠を感電死させる農家がいる程度であった。
殺鼠剤も商店で販売されていたが、購入する農家は希であった。