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カンボジア稲作の経済変容に関する実証的研究 ―農業地域と都市近郊の二村比較―

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カンボジア稲作の経済変容に関する実証的研究

-農業地域と都市近郊の二村比較-

平成

31 年

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カンボジア稲作の経済変容に関する実証的研究

-農業地域と都市近郊の二村比較-

指導教授(主査) 泉田 洋一

副査

板垣 啓四郎

副査

宮浦 理恵

平成

31 年

橋 優希

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ii 要 旨 1. テーマと背 景 1.1. 背 景 と目 的 本 論 文 の分 析 の背 景 にあるのは近 年 におけるカンボジア経 済 の順 調 な発 展 である。 カンボジア経 済は 1990 年 以 降、年平 均 実 質 成 長率 が8%を超えている。この経 済 成 長は、経 済成 長と農業 の関係を論じた多くの文 献で説かれているように、農業の在り方 に大 きな変 化 をもたらす。農 村 における農 業 労 働 力 の他 産 業 への流 出 が農 村 労 働 力 の不足を招来し、労働 節約的な農 法の導 入が起き、さらには農地利 用 の再編も引き起 こす。世 界 銀 行 が論じたように、カンボジア農 業 は経 済 成 長 の中で転 換 期 にあるとみら れる。 カンボジアにおける農 業 は国 民 経 済 の中 心 的 役 割 を担 い、その中 でも稲 作 は基 礎 食 糧 の供 給 手 段 としてカンボジア国 民 にとって不 可 欠 な存 在 である。さらに、近 年 では 単 収 の向 上 による生 産 量 の増 加 とともに輸 出 産 品 としての存 在 が増 している。しかし、 同 国 の稲 作 は多 くの課 題 を抱 えている。水 田 のインフラ整 備 は不 十 分 であり、天 水 雨 季の一作が主流で、平均単収は近隣諸国と比 較すれば低く(ha あたり籾で 3t 台)、し かも、著しく単収が低い地域も存在する。 このようにカンボジアにとっての稲 作 は極めて重 要であるが、経 済 発 展 の中で稲 作 が いかなる影 響 を受 け、どう変 容 するかについての文 献 は多 くない。もちろん、カンボジア 稲 作 全 体 に関 する文 献 は過 去 に多 く存 在 するが、カンボジアの稲 作 の変 容 を 同 国 の 自然条件に規 定された生産構造を踏まえると同時に、経済成長のもたらす稲作への影 響 を意 識 しながら分 析 したものは少 ない。特 に兼 業 化 の進 展 を意 識 しながら、つまりは 農 業 所 得 と農 外 所 得 の関 係 に注 意 を払 いながら、カンボジア稲 作 の経 済 変 容 を分 析 した研究はほとんど見受 けられない。 タイやベトナムといった近 隣 諸 国 の稲 作 経 済 変 容 に関 する文 献 も、また世 界 銀 行 の 途上 国 農村の農 家規 模 の変 化に関するまとめも参考 になるが、文 献をまとめていうなら ば、小 農 が中 心 の農 業 にあっても経 済 発 展 の中 での農 業 変 容 は一 様 ではなく、自 然 条 件 や土 地 制 度 、政 策 、農 地 転 用 の状 況 等 の諸 要 因 により規 定 されているということ になる。日 本 の農 業 基 本 法 が想 定 したような離 農 者 農 地 の集 積 による農 業 の規 模 拡 大に進むとは限らないのである。

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iii 本 研 究 は以 上 のようなカンボジア経 済 と農 業 の現 状 認 識 に沿 って、カンボジア経 済 の発 展 に伴 う稲 作 の構 造 変 容 に焦 点 をあて、カンボジア稲 作 の現 状 と変 化 の方 向 を 実 証 的 に把 握 すると同 時 に、カンボジアの農 業 ・農 村 の発 展 の方 向 性 を探 るものであ る。 1.2. 材 料 と方 法 以 上 のようなテーマ設 定 のもと、分 析 の材 料 となるのは稲 作 農 家 を対 象 としたフィー ルド調 査 である。ただし単 にフィールド調 査 を蓄 積 するだけではなく、以 下 のような4点 を考慮して調査を設計し、分析することとした。 第 1 に、稲作生産構造 の特質を生態系に規定 された農業という点から分析した。そ れはカンボジア稲 作 における自 然 環 境 要 因 の影 響 力 を勘 案 したためである。カンボジ アの稲作は水 利等 の近 代的インフラが未 整備で、水文 条 件等 の生 態的 な部分が稲作 のあり方 に大きく影 響 している。同じ農 家が保 有 する水 田もプロットごとに違った技 術が 適 用 され、単 収 も生 産 費 も大 きくばらつく。その点 を踏 まえて、調 査 にあたっては作 期 別あるいは圃場別にデータを収集 して分析を行った。 第 2 に、経済 発 展のもたらす水 田農 業 の変 容 は著しい地 域 差をもっている。そのた め本 研 究 では農 業 地 域 と都 市 近 郊 地 域 からそれぞれひとつの農 村 を選 定 し、二 村 間 の比 較を行いながら分 析した。経済 発 展の影 響 度が異なるふたつの地 域を比 較するこ とで、本 研 究 のテーマである経 済 発 展 における稲 作 の経 済 変 容 をより適 切 に分 析 する ことに繋がるであろう。 第 3 に、テーマの設定 上、稲作生産自体の分 析に加えて稲作が農家 による非農業 的活動によっていかなる影響を受けているかについても考察した。 第 4 に、農地移動についての分析を行 った。ただ本論文の農地移動 調 査は調査時 点 で存 在 する調 査 農 家 に過 去 を振 り返 って農 地 保 有 の変 化 を答 えてもらう回 顧 型 調 査が分析材料になっている。したがって、調査 農家に農地を売却した農家やこの 10 年 間に離農した農家についての農地移動は対 象 となっていない。 分 析 では、まずは生 態 系 に規 定 された稲 作 生 産 の特 徴 を作 期 ごとに示した。続 いて 稲 作 生 産 における産 出 である単 収と、投 入である費 用 構 造 を作 期 別 に考 察し、あわせ て収 益 性を評 価 した。その分 析 の中で経 済 の進 展 が稲 作 にもたらす影 響を把 握 した。 さらに、二 村 における農 地 移 動 について、世 帯 レベルでの比 較 を含 めて分 析 を行 い、 水田 保有の規 模変 動の推移について論じた。以 上の分 析を踏まえて、カンボジア稲作

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iv 農村の将来を展望することとなる。

1.3. 調 査 対 象 村 の特 徴 と調 査 農 家 の概 要

調査対象村として Kampong Cham 州 Samraong 村(以下、S村と記す)と Kandal 州 Trea 村 (以 下 、T村 と記 す)の二 村 を選 定した。S村 は首 都 から約 90km 離れており、カ ンボジアでも有数の稲作地帯にある。一方でT村 は首都プノンペンから 28km と都市近 郊 に位 置 している。両 村 の農 業 は稲 作 を中 心 としている。また、両 村 ともに、その度 合 いは異なるものの、兼 業 化 が進 行している。S村 では、村 内 から縫 製 工 場 への通 勤 、あ るいは首 都 やタイ国 境 地 帯 への出 稼 ぎといった兼 業 がみられる。一 方 で、都 市 近 郊 の T村 周 辺 には多 くの縫 製 工 場 が立 ち並 んでおり、村 民 は通 勤 可 能 な農 外 就 業 機 会 に 恵まれている。 S 村 を 選 定 し た 理 由 は 、 同 村 が カ ン ボ ジ ア の 典 型 的 な 農 業 地 域 で あ る Kampong Cham 州 に属 しているためであるが、同 時 に東 京 農 業 大 学 がカンボジアで実 施 していた JICA 草 の根 技 術 協 力 事 業 の対 象 地 区 でもあったことも大 きい。またT村 はカンボジア の首 都 に近い稲 作 地 帯 であり、都 市 近 郊 農 村 としては適 切 な調 査 地であると判 断 した。 カンボジア稲作には小 規模な家 族経 営に限らず、バッタンバン地区などにみられる大 規 模 経 営 稲 作 農 家 や企 業 も存 在 している。二 村 の調 査 対 象 稲 作 農 家 の保 有 する水 田 面 積 規 模 はカンボジア全 土 の平 均と比 較 すれば、S村 は同 等 、T村 はそれ未 満と小 規 模 なものである。調 査 二 村 の稲 作 農 家 が保 有 する雨 季 田 では二 期 作 が可 能 である が、これは天 水 雨 季 の一 作 による稲 作 生 産 を行 う農 家 が多 いという同 国 の現 状 からみ て、調査対 象稲 作農 家 は比較的 有 利な水田を保有しているとみることができるかもしれ ない。とはいえ、選 択 したふたつの農 村 は小 農 によって営 まれている稲 作 という点 でカ ンボジアの他の大半の稲作と共通するところが多く、この二村を対象とした分析は、カン ボジア稲作の構造変 化 を論じる際の有力な材料を提供することができると考えた。 対 象 とした二 村 の調 査 農 家 の概 況 をまとめると次 のようになる。まず両 村 における稲 作 農 家 の家 族 構 成 員 及 び就 業 家 族 員 の規 模 はほぼ同 等 であった。兼 業 化 は両 村 で 進 行 していた。但 し、兼 業 度 は農 業 地 帯 にあるS村 よりも、都 市 近 郊 のT村 で高 かった。 T村ではいわゆる第 Ⅱ種 兼業農家が大半を占めていた。 保 有 水 田 面 積 はS村 がT村 の約 2倍 となっていた。これは、S村 には雨 季 田 に加 え、 乾 季 田 が存 在 しているためである。さらに、年 間 の作 付 回 数 も S村 では雨 季 田 での二 期作 に乾 季 田での一 作 を加え、年 三作を可能としていたが、T村では雨 季田での二期

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v 作 に限 られていた。また貸 借 についてはS村 では水 田 の貸 借 は少 ないが、T村 では貸 借により経営規模を増やしていた農家が存在していた。 役 牛 所 有 の状 況 をみると、S村 では役 牛 の所 有 が一 般 的 であるが、T村 では役 牛 を 手 放 した世 帯 が多 い。これは兼 業 度 の違 いからも理 解 できる。 T村 では就 業 可 能 な家 族構成員を農外就業させる時間の確保のために役牛の世話を止めたのである。 農 業 機 械 の所 有 について述 べると、集 計 稲 作 農 家 全 体 のハンドトラクターの所 有 台 数はふたつの村で同 数 であった。調 査 村では所 有 機 械 による稲 作 生 産 への機 械 利 用 、 さらには未 所 有 世 帯 については機 械 所 有 世 帯 への作 業 委 託 により、稲 作 生 産 への機 械 導 入 が積 極 的 に進 められていた。両 村 における灌 漑 ポンプの所 有 台 数 の差 につい ては、作 付 けの頻 度 が影 響 していた。S村 では年 三 作 でポンプの導 入 が必 須 であるが、 T村 では小 規 模 な水 田 でのポンプ利 用 度 は小 さく、必 要 な期 間 に用 いられる灌 漑 は、 作 業 委 託 に頼 るという農 家 が多 かったのである。乗 用 トラクターや大 型 コンバイン所 有 世帯は未だ両村ともに存在していなかった。 調 査 稲 作 農 家 の家 族 構 成 員 の就 業 状 況 をより詳 しくみれば、S村では男 女 ともに農 業従事を重点に置きつつも、農外へも従事していた。一方でT村では状 況が異なり、第 Ⅱ 種 兼 業 農 家 の特 徴 を反 映 し、男 女 ともに農 業 と農 外 の両 方 へ従 事 する者 が多 かっ た。特に女 性は主として農外へ従 事し、その傍らで農業へも携わる例が多く見 受けられ た。S村では就業可能な家族員のうち 58%が、T村では 70%が農外へ従事していた。 両村ともに農外就業者 比率は高い。 2. 調 査 二 村 における稲 作 生 産 2.1. カテゴリー別 に見 た水 田 の特 徴 次に、二 村の稲 作について自然 条 件を考慮しながら作 期別 に比較していく。まず、S 村 には村 の周 辺 に広 がる雨 季 田 と、S村から離 れたメコン川 流 域 の氾 濫 原 域 に在 る乾 季田が存在する。T村では村周辺に雨季田があるが、乾季田はない。 S村 の雨 季 田 では二 期 作 (雨 季 早 期 作 、雨 季 中 期 作 )が、乾 季 田 では一 作 が行 わ れており、合 わせて年 三 作 が可 能 であった。T村 では、雨 季 田 での二 期 作 (雨 季 早 期 作 、雨 季 中 期 作 )が可 能 であり、更 に降 雨 量 の多 い年 には三 期 作 も可 能 であるが、今 回の調査では三期作は確認されなかった。 2.2. 作 期 別 にみた稲 作 生 産 の特 徴

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vi 両 村で作 付 される雨 季 田での雨 季 早 期 作と雨 季 中 期 作では、各 作 期 において共通 した特徴が見られた。 まず雨 季 早 期 作 はS村 で6月 -9月 、T村 では4月 -7月 に作 付 けが行 われる。両 村 ともに主として販 売を目 的とした稲 作生 産を遂 行する。雨 季 早 期作では、両 村とも共通 して高 収 量 品 種 を採 用 し、条 件 が許 せば直 播 による作 付 を行 う。また肥 培 管 理 につい ては化 学 肥 料 による施 肥 と農 薬 の散 布 が一 般 になされる。加 えて、S村 では有 機 肥 料 を投入し、収量の向上を図る。労働力はほぼ家族労働に頼っている。灌漑や耕耘作業、 収 穫 作 業、運 搬 作 業などへは機 械 が幅 広く導 入 され、雇 用に頼 らない稲 作を可 能とし ていた。ハンドトラクター所有者は自ら機械を操 作し、耕耘にあたる。未 所有者は、所有 者 への作 業 委 託 に頼 っていた。収 穫 作 業 に用 いるコンバインについては外 部 委 託 が 利用されていた。 雨季中期作についてはS村で9月-12 月、T村では7月―12 月に作付が行われ、こ ちらは両村ともに自 家 消 費 米の確 保を主 目 的とした稲 作生 産を行うが、栽 培技 術は水 条 件 の制 約 により、両 村 で異 なっていた。作 付 面 積 が比 較 的 大 きい稲 作 農 家 は自 家 消費米の生産に加え、余剰米の販売も行うことで、次年 度の稲 作生 産 の資金を確保し ていた。雨 季 中 期 作 に導 入 される技 術 は自 家 消 費 米 の生 産 を背 景 に主 に嗜 好 品 種 が作 付 される。但し、S村 では労 働節 約 的な直 播が可 能であるのに対して、T村 では水 嵩 が増 した水 田 での直 播 は不 可 能 であり、移 植 が行 われていた。また、化 学 肥 料 及 び 農 薬 については、水 条 件 の制 約 により、低 投 入 型 の稲 作 がなされていた。労 働 力 は 家 族 労 働 を中 心 としているが、T村 では移 植 作 業 や収 穫 作 業 等 の農 繁 期 には家 族 労 働 に加えて、雇用労働や交換労働が用いられた。機械もまた両村で積極 的に導入されて いるが、T村では水 文 環 境 の影 響 を受け、収 穫 作 業 への機 械 導 入 は制 約 されている。 そのため手刈りによる収穫が行われる。 作 期 別 にみた肥 培 管 理 は、雨 季 早 期 作 では両 村 で共 通 した特 徴 が見 られるが、雨 季 中 期 作では降 雨 量 及 び灌 漑インフラの状 況の違いから、用いられる技 術が異 なって いた。また、機 械 利 用は、作 期 別 又 は水 田の位 置 によって水 文 環 境 の制 限を受けるた めに、その利用程度は異なるものの、両村で積 極的な導入が行われていた。 S村の乾季作は、12 月から 3 月にかけて作付され、販売用の米生産を目的とした稲 作が行われ、栽培 技 術 は圃場 のある水域 が低 水域か深 水域かにより異なっていた。作 付品 種には高 収 量品 種 を用い、化 学肥 料や農 薬の施用することで肥培 管理 を容 易に

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vii していた。機 械 もまた、積 極 的 に利 用 されているものの、深 水 域 では水 嵩 が高 く、機 械 利 用 は困 難 であるために、家 族 労 働 力 を中 心 にしながらも農 繁 期 には雇 用 労 働 力 を 用いていた。 S村では、現在でもなお、役牛の牛 糞による有 機 堆肥の施 肥が行われているが、T村 では有 機 肥 料 の施 肥 はほとんどみられなかった。また、農 繁 期 における労 働 力 の投 入 にはS村 では、ほぼ家 族 労 働 に頼 っているが、T村 では家 族 労 働 に加 え、雇 用 労 働 や 交換労働にも頼る世帯がみられた。 3. 調 査 二 村 における稲 作 農 業 経 済 的 側 面 3.1. 稲 作 生 産 の費 用 と収 益 続 いて、作 期 別 にみた稲 作 生 産 費 と収 益 を両 村 間 で比 較 しながら分 析 する。まず、 単 収の差であるが、これは生 産 目 的に左 右される。販 売を目 的とした作 付であるS村 の 雨季早期作や乾季作では、前者が ha 当り 4,641kg、後者は 4,518kgであり、カンボジ ア平均単収である 3,100kg を大きく上回っていた。しかし、T村の雨季早期作では単収 は ha 当り 2,787kg であり、販売を目的とした生産技術を導入したものの、不完全なイン フラ整 備 や不 十 分 な肥 培 管 理 により、単 収 として成 果 を出 せていない。雨 季 中 期 作 の 単収では、S村は ha 当り 3,228kg、T村については 3,284kg と両村ともに国内平均とほ ぼ同等であった。 粗 収 益 の水 準は、単 収の高 さと作 付 品 種の庭 先 価 格によって決まる。調 査 村では作 期 ごとに生 産 目 的 に対 応 した作 付 品 種 が選 ばれており、主 として販 売 用 のコメ生 産 を 目 的 とした雨 季 早 期 作 と乾 季 作 では、高 収 量 のポテンシャルをもつが質 が劣 る安 価 な 品種を作 付けしていた。自家 消費 用の米 生 産が主流である雨季 中 期作 では嗜好 品種 の作 付 が行 われ、庭 先 価 格 の高 さは考 慮 されない。ただし粗 収 益 からみると T村 の雨 季 中 期 作 の庭 先 価 格 がやや高くなっている。それでも粗 収 益 の水 準はほぼ単 収とパラ レルに動いている。 次 に粗 所 得 の水 準 についてである。ここでの粗 所 得 (gross margin)は粗 収 益 から自 給 物 財 費 や家 族 労 働 ・交 換 労 働 部 分 を含 む費 用 合 計 を除 したものに、家 族 ・交 換 労 働 費 を戻して求められるが、減 価 償 却 費 は考 慮 していない。そのため所 得 はグロス(粗 ) のものであるが、減価償却費を計算に含めなかったのは ha あたりの減価償却を求める ための使用面積割合に関するデータが得られなかったためである。

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viii 農業地帯に属するS村 の稲作の粗 所得は、集計農家に関する限り、ha あたり 140 万 リエルから 200 万リエルの水準にあるが、都市近郊のT村では 50 万リエルから 100 万リ エルの水 準でしかない。両 者を比 較すると、S村 では相 対 的 に収 益 性 の高い稲 作 が実 現できているが、T村では脆弱である。また作期 によるばらつきも確認できる。 以 上 にみた粗 所 得 水 準 についての議 論 を補 強 するために、別 の指 標 を使 って検 討 する。まず、収 益 性 を粗 付 加 価 値 率 で見 た場 合 である。粗 付 加 価 値 率 は T村 の雨 季 早期作を除いて 60%以 上となり、特にS村の雨季中期作と乾季作についてはそれぞれ 67.8%、71.3%と高 い水 準 となった。このことからも、S村では比 較 的 生 産 性 の高 い稲 作 が行われていることがわかる。一方で、T村の雨 季早期作では単収が低 いために、粗収 益が低くなり、粗付加価 値率は 51.2%と他と比較して低いことがわかった。 次 に、稲 作 農 家 による時 間 当 たり労 働 報 酬 を比 較した。S村 の3作 期はすべてT村と 比較して2倍以上と高い水準となった。それは、S村の農業雇用労賃 2,075 リエル/時や 縫製業賃金 2,155 リエル/時よりも高く、特に雨 季早期作では 3.5 倍にもなる。ここには 稲作生産における機械 利用が貢献 していることが示唆される。 T村の雨季 早期 作の時 間当たり労 働報酬である 3,149 リエル/時は、農業雇 用労賃 2,092 リエル/時 や縫 製 業 賃 金 2,656 リエル/時 よりも高 水 準 となったが、これもまた、S村 同様に労 働投 入を機械 によって代替したことからくる効果とみなされる。ただし、雨季中 期 作 については水 嵩 が増 すことから機 械 導 入 の制 約 を受 け、労 働 多 投 的 な生 産 を余 儀なくされている。 3.2. T村 における小 規 模 農 家 の二 期 作 からの撤 退 T村 の集 計 稲 作 農 家 を一 作 農 家 と二 期 作 農 家 について比 較 すると 、雨 季 早 期 作 と 雨季中期作の両 作期での二期作が可能な圃場 は 59 筆(1,357a)存在したが、実際に はわずか 9 筆(257a)でのみ二期作が行われていた。一方で、雨季中期 作に注目する と総筆数 129 筆のうち、村外にある休閑地1筆(30a)を除いた 128 筆の全ての水田で 作 付 がなされていた。これは、二 期 作 が可 能 な水 田 が存 在 するにも関 わらず、意 図 的 に雨 季 早 期 作 を回 避 する傾 向 にあることを示 す。そこで何 がこの二 期 作 回 避 の要 因 と なっているかを探るために一 作 農 家と、雨 季 早 期 作と雨季 中 期 作 の両 作 期を作付した 二 期 作 農 家 を比 較 分 析 した。まず両 者 には水 田 保 有 面 積 に差 がある。一 作 農 家 の水 田所有面積は 44a であったが、二作農家のそれは 76a であった。次に両者が作付を行 っている雨季中期作の生産費を検討する。両 者ともに生産目的として自家消費米の生

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ix 産を主としていたが、二期作農家は更に販売米 の生産も行っていた。一 作農家は飯米 確 保 のため、単 収 向 上 に向 けて積 極 的 な肥 料 投 入 を行 って物 財 費 が嵩 張 っている。 また、両者には委託費に大きな差がみられたが、これは機械所有の有無 による。 こういった違いを念 頭 に置 いて、小 規 模 な一 作 農 家 が雨 季 早 期 作 の作 付 を行うと仮 定すると、収 益性 が極めて低くなる。単収は高くなく、また農 業 機械 未 所 有であることか ら委 託 費 用 が嵩 む。この委 託 費 を抑 制 するためにハンドトラクターや灌 漑 ポンプといっ た農 業 機 械 を購 入 するのも経 済 的 とは言 えない。つまり、小 規 模 農 家 にとって雨 季 早 期作の作付を避けることが合理的となる。 二 期 作 農 家 による雨 季 早 期 作 の粗 収 益 及 び粗 所 得 は、雨 季 中 期 作 と比 較 してもそ の水準は成 果としては低 いものであるが、借地や二期 作の実践による作 付面 積拡 大が 可 能 であり、そのことで所 有 機 械 の利 用 効 率 改 善 を図 ることが可 能 であったといえる。 またT村 の機 械 所 有 農 家 (二 期 作 農 家 )による作 業 受 託 は、村 内 における兼 業 化 を支 える役割を果たしていることにも注意しておく必要があろう。 3.3. 機 械 化 の進 展 と規 模 の経 済 両 村 ともに機 械 化 が進 展 しており、それは所 有 機 械 や作 業 委 託 の利 用 といったかた ちで稲作 生 産に浸 透していたことは既に述べた通りである。ここで特筆 すべきは費 用合 計 (自 給 部 分 を含 む)に占 める委 託 費 の高 さである。S村 の雨 季 早 期 作 や雨 季 中 期 作 、 T村 の雨 季 早 期 作 など水 条 件 による制 約 を受 けない作 期 における作 業 委 託 費 は雇 用 労働費を上回る。 興 味 深 い点 は、作 業 委 託 料 金 について両 村 の利 用 料 金 を比 較 すると、T村 の委 託 作 業料 金はS村よりもかなり高いものであったことである。耕 耘 作業を二 度 行うとしても、 T村の作業委託費はS村 の 1.5 倍にもなる。収穫作業に関 する利用料金には約 2 倍も の開 きがあり、T村 における作 業 委 託 費 はS村 の二 作 分 の委 託 費 に相 当 する。この単 価 は受 託 業 者 が兼 業 世 帯 の農 外 所 得 を見 越 した作 業 料 金 であると考 えられる。逆 に 言 えば、兼 業 農 家 はその兼 業 所 得 の高 さによって、相 対 的 に割 高 な作 業 料 金 を受 け 入れているとみられる。 S村 の単 収 (y:kg/ha)を最 小 二 乗 法 により作 付 面 積 (x:a)で回 帰 させた結 果 、3作 期 とも規 模に対して有 意な正の関 係をもっていないことが確 認された。他 方 でT村 雨 季 中 期 作 では作 付 面 積 の係 数 の符 号 は負 であり、単 収 は規 模 の拡 大 に伴 って有 意 (5% 水 準)に減 少していた。雨 季 中 期 作における小 規 模 農 家は単 収 の高さを実 現し、一 方

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x で大規模な農家ほど単 収が低くなることが統計 的に示された。小規模 農 家が自家消費 米 の確 保 を目 的 として単 収 の高 さを目 指 す一 方 で、大 規 模 農 家 については自 家 消 費 米に加え、販 売を目 的とした高付 加 価 値米 の生 産を目 指したことにより単収 が低 くなっ たことが影響したとみられる。 次に作 期 別 に単 位 面 積 当 たり粗 所 得(y:riel/ha)を最 小 二 乗 法により作 付 面 積(x:a, 係 数 )で単 回 帰 した結 果 は、S村 の3期 作 及 びT村 の雨 季 中 期 作 において(粗 所 得 で みた)有意な規模の経済 は無かった。 3.4. 農 家 総 所 得 と生 計 戦 略 稲作所得の農家 総所得 に占める比率は、S村では 53.2%と 5 割を超えているが、T 村ではわずか 4.8%であった。この背景にあるのは二村の稲作 所 得と農 外所 得の水 準 が大 きく異 なることである。稲 作 所 得 水 準 を比 較 してみれば、作 付 面 積 と粗 所 得 の水 準差によって、S村の平 均稲作所得はT村の 4.5 倍にもなる。一方で、農外所得につい てみれば、T村の平均農 外所得はS村の 5.5 倍とはるかに高い。その結果 として農家総 所得を比較すれば、T村 の水準はS村の 2.4 倍ほど高くなったのである。 農 家 家 計 における稲 作 所 得 はS村 では所 得 源 としても重 要 であるが、T村 での稲 作 は自家消費米の確保を目指したものであると判断できる。 なお、両村の農 家総所 得は作付面 積の規模と関係がないことも明らかとなった。T村 では農 家 総 所 得 は農 外 に就 業 している家 族 員 数 によって規 定 されていた。したがって、 この論 文 が対 象 としたT村 に関 する限 り、農 地 の作 付 規 模 と兼 業 度 との間 には明 確 な 関連はない。この点は日 本の経 験とは違っている。日本では通常 農地 保 有規 模の小さ い農 家 ほど農 外 所 得 が多 いという傾 向 にあったが、都 市 近 郊 に属 するT村 ではその傾 向は見られなかった。 ここでは、調 査 農 家 を世 界 銀 行 が2008年 世 界 開 発 報 告 書 「開 発 のための農 業 」で 用いた生計戦略(Livelihood Strategy)という視点から分類して論じる。S村では農業志 向型世帯が 11 戸存在 し、彼らの作付規模は比 較的大きく、同村の稲作 の担い手と考 えられる。一 方 、T村 の農 業 志 向 型 世 帯 (3戸 )による作 付 は年 一 作 のみであり、農 家 総 所 得は他と比 較しても低いことから、高 齢世 帯 によることがわかる。また、兼 業の部 分 に焦 点をあてると、S村 では多 角化 志 向型 が多 く存 在し、このタイプの農 家は農 外 所得 と稲 作 所 得 の両 方 によって家 計 を成 り立 たせている。T村 では農 外 所 得 を生 活 手 段 と し、稲作はあくまでも飯米確保を目的とするといえよう。

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xi 4. 調 査 に村 における農 地 保 有 変 動 4.1. 農 地 保 有 の分 布 とその変 化 調 査 農 家 の農 地 保 有 規 模 の分 布 をより細 かくみると、両 村 の雨 季 田 保 有 面 積 規 模 別 農 家 割 合 の分 布 は単 峰 型 であったが、S村 の乾 季 田 にのみ着 目 すると分 布 は双 峰 型 であった。これは、雨 季 田 と乾 季 田 での農 地 制 度 変 遷 の違 いからくるものである。雨 季 田 ではポル・ポト政 権 崩 壊 以 後 に均 分 に分 配 されたが、乾 季 田 はポル・ポト政 権 時 から耕 作 対 象の水田と見なされていなかった。乾 季田 の耕 作 権はその地で以 前から続 く「鋤 による獲 得 」の法 則 によって耕 作 を行 っていた世 帯 へ継 承 された。一 部 では、開 墾によって乾季田を保 有することとなった世帯もみられる。 次に過去 10 年における水田保 有面 積規 模別 農家 比率の分布の変化 をみる。S村 での雨季 田と乾季田を合わせた保有 面積 については、小 ・大規模 層が減り、中規模層 が増えるという特徴が見 られた。しかし、農家割合が最も高い層は 60a から 120a の層で あり変 化していない。一 方でT村では、小規 模 層が増加し、中・大規 模 の層で減 少する という傾 向 が確 認 された。T村 では全 体 的 なダウンサイジングが起 きているとみられる。 10 年前は 30a から 60a の層 が最も比 率 が高 い層であったが、調 査 時 点ではゼロから 30a 層 の割 合 が最 も高 くなっていた。 4.2. 変 化 の要 因 調査農家について過去 10 年間における農地移 動の内訳を見ていくと、S村では 10 年間で稲作農家は3戸 増加し、保有面積については 298a 増加していたが、T村では 9 戸が増加し、保有面積 は 12a 減少していた。S村では、保有面積の増 加に対して購入 による増 加 (574a)が貢 献 していた。婚 姻 により世 帯 を離 れた子 への分 与 によって減 少 した部 分 (330a)を購 入 の増 加 によって補 い、結 果 として全 集 計 稲 作 農 家 の保 有 面 積 は 10 年で若干増加することとなった。また、世帯平均でみれば、保有面 積は 120.9a か ら現在は 119.6a へとほぼ変わらない。 一方で、T村では 10 年間に婚姻によって新しく世帯を形成した世帯(9 戸)が登場し、 彼らが親からの相続を受けることによって全体では 350a の増加要因となった。また小規 模 世 帯 や、両 親 から相 続 を受 けられなかった若 年 世 帯 が購 入 (243a)により経 営 規 模 の拡 大 を狙 ったことも増 加 要 因 となっていた。ただし購 入 は大 規 模 層 による経 営 規 模 拡 大 を狙 った水 田 購 入 ではなかった。しかし、婚 姻 によって世 帯 を離 れた子 へ 分 与 し

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xii たケース(463a)が多く存 在したことから、結果として 10 年で全集計稲 作 農家の保有面 積はほとんど変わっていない。しかし、世帯あたりの平均保有面積は 55.2a から 45.6a へと 9.6a の減少となっている。 調 査 地 に関 する限 り、農 地 保 有 の変 動 要 因 としては経 済 的 な背 景 要 因 よりもむしろ、 均 分 相 続 という社 会 的 要 因 が大 きい。平 均 農 地 保 有 面 積 の減 少 は均 分 相 続 によると みなしてよい。 こういった均 分 相 続 を通 した水 田 保 有 規 模 の縮 小 圧 力 は、子 供 の数 が世 帯 平 均 で 2を超えているため、今 後も持 続するとみられる。T村では自 家 消 費 米 生 産が困 難 な若 年 世 帯 が今 後 も増 加 する可 能 性 がある。ただし、売 買 による農 地 移 動 も重 要 な要 因 で ある。特 に稲 作 地 帯のS村では農 地 購 入 による農 地 保 有 増 加の比 重 が大きい。これは 背後に農民の離 農・離 村に伴う売却がかなり存在していることを示唆している。とはいえ、 調査 村に関する限り、購 入による大規 模経 営体 の出現には繋がっていない。離農 者の 農 地 を集 積 した大 規 模 農 家 の出 現 は、筆 者 の調 査 地 に関 する限 り、当 面 難 しいので はないだろうか。 5. 主 要 なファインディングス 本稿の分析によるファインディングスは以下の通りである。 第 1 に、調 査地では近 代 的インフラが未 整備であることから、環 境条 件 が直 接 的 に 稲 作の在り方を規 定 している。稲作 の技 術、使っている品種、施 肥 法、単 収、粗収 益 、 費 用 、収 益は同じ地 域 の中でもばらついている。また生 産 目 的 も市 場 志 向 型と自 給 米 確 保 に分 かれている。カンボジアの稲 作 はばらつきが大 きく、平 均 の数 字 では論じきれ ない。世 界 銀 行 の報 告 書も同じ認 識 にたって、稲 作を地 域 別 、作 期 別 、技 術 別に論じ ているが、本分析でもこの点の重要性を再確認 できた。 また農 地 移 動 につても、土 地 制 度 の変 遷 の違 いもあって、乾 季 田 と雨 季 田 では違っ た取り扱いが必要なことも確認できた。 第 2 に、調査した農村における稲作には在来 性と近代性をあわせもつことが指摘で きる。これは途 上 国 農 村 の二 重 性 (dualism)といわれることであり、例 えば生 産 目 的 に おいて飯 米 確 保 と市 場 出 荷 いうふたつの点 が稲 作 農 家 のモチベーションに影 響 を与 えていること、在 来品 種 と近代 品 種が同じ農家 の中で利用 されていること、機 械の利 用 拡 大 がある一 方 で家 族 労 働 や交 換 労 働 の意 味 がなお大 きいことなどがその二 重 性 を

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xiii 具 体化したところとである。そこは水田を取り巻く環 境の複 雑さと(インフラの未 整 備とい うこともあり)、他 方 における機 械 や近 代 品 種 の浸 透という要 素 がからみあっている結 果 ではないかと考えられる。 第 3 に、稲作の変容という点については、都市近 郊農村と農業地域に位 置する農村 ではわけて考えなくてはいけない。農 業 地 帯 のS村では、多 角 化 志 向 型 農 家 の存 在 が 大 きく、農 村 経 済 が変 化 していく中 でも稲 作 の重 要 性 は失 われていない。生 計 におけ る稲 作 の比 重 も高 く、近 代 品 種 の採 用 や機 械 の利 用 によって相 対 的 に収 益 性 の高 い 稲 作 生 産が実 現 されていた。稲 作 生 産における省 力 化と効 率 化も実 現 されていた。他 方でT村では全 般 的にみて稲 作は脆弱 化している。これは水 田 規模 が小さいこと、イン フラ整 備 がなされていないこと、併 せて農 外 収 入 が確 保できることから来 ているとみられ る。雨 季 早 期 作 では、水 利 施 設 の未 整 備 ということもあって近 代 的 技 術 の採 用 が単 収 の高 さや収 益 に結 びついていない。したがって小 規 模 農 家 が、作 付 は可 能 であっても 経 済 的 には収 益 性 の低 い雨 季 早 期 作 から撤 退 したことは合 理 的 な判 断 でもあろう。し かし、雨 季 中期 作 には、飯 米の確 保という目 的 のもと、家 族 労働を投 入しながら稲 作を 継続している。 第 4 に、農地保有の移 動については、二村ともに均分相続が大きな減少要因であっ た。結 果 としてT村 では全 般 的 な水 田 保 有 面 積 のダウンサイジングが観 察 された。S村 では分 与による減 少 傾 向と、離 農 者 の農 地 購 入 による規 模 の拡 大 が相 殺しあって、調 査農 家の保 有規 模は平 均的 には動いていない。同村 における農 地 保有 規模は、過去 10 年 間 で分 与 による減 少 を経 験 した稲 作 農 家 が存 在 しながらも、小 規 模 稲 作 農 家 に よる農 地 購 入 がみられ、集 計 農 家 全 体 での平 均 的 農 地 保 有 規 模 は維 持 されていた。 ただし農業地域のS村 でも大規模な農家が出現 するには至っていない。 6. 調 査 二 村 の稲 作 の将 来 展 望 と残 された研 究 課 題 両村の稲作 の今 後を展望すれば、以下のようになると考えられる。まず都市 近郊の農 村 であるT村 では、農 地 保 有 規 模 の縮 小 は均 分 相 続 という制 度 のもと今 後 とも縮 小 す るとみられる。ただし飯 米 確 保の意 欲は強 く、正 の粗 所 得が確 保できる限りは稲 作を継 続 するのではないだろうか。ただし都 市 化 の波 がこの村 にまで押 し寄 せて農 地 の大 規 模 な転 用 が進 む段 階 では稲 作 は存 続 しえないとみられる。他 方 、農 業 地 帯 にある S村 では、労 働 力 の流 出 は今 後 とも持 続 するであろう。離 農 者 の農 地 を購 入 する機 会 は増

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xiv えるであろうが、規 模 の経 済 は存 在 せず、また均 分 相 続 という制 度 が存 在 するかぎり、 土地の集 積による大規 模な経営体の出現を期 待することもできそうもない。稲作を機械 や直播の利用により合 理化し、労働の節約をすすめながら、1ha 程度の小規模稲作生 産が続くのではないだろうか。 本 研 究 では、多 様 な稲 作 経 営 体 が存 在 するカンボジア稲 作 について、家 族 経 営 に よる小 規 模 経 営 体 に焦 点 をあて、経 済 発 展 の中 における稲 作 農 家 の実 態 を把 握 して きた。今 後 は対 象 地 区 を広 げ、よりダイナミックに農 業 が動 いている地 域 を対 象 に、稲 作の変容について研究 を進める必要があろう。

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xv 謝 辞 本稿を執筆するにあたり、多くの方々のご指導を受けました。この場をかりて感謝の 意を表したく思います。特 に、指導教官である泉田洋一教授から長年に渡るご指導を 賜りました。農業経済学 の理論的思考や学術的 な文章の書き方など、多くのことをご 指導いただきました。故藤本彰三教授には、私 が学部生から大学院に至るまで人々の 暮らしを現場からみつめることの大切さを学びました。また、板垣啓四 郎 教授および宮 浦理恵教授には、論文 審査の労をとっていただきました。本研究の審査 過程において も様々なアドバイスをいただいた国際バイオビジネス学専攻の先生 方にも心より感謝申 し上げます。また、ともに学んだ東京農業 大学大 学院農学研究 科国際バイオビジネス 学専攻の当時の院生 皆 さんも多くのアイディアを提供してくれました。 本研究および現地調査 は、多くの方々の支えがなければできませんでした。筆者は 本研究の基礎となる博 士前期課程在 学中には、「東京農業 大学姉妹 校留学制度」に より、カンボジア王立農 業大学への長期留学の機会 に恵まれました。また、一般社団 法人海外農業 教育・研 究発協会から「海外調 査研 究支援制 度」、博士後期課程 在 学 中には、東京農業 大学 総合研究所から「大学 院博士課程研 究支援制 度」および「海 外研究発表支 援制度」をいただきました。 さらに調査時には、調査 地選定の際には特定非 営利活動法人 環境修復 保全機構 (ERECON)からのサポートを受けました。カンボジア王立農業大学の先 生方や学友た ち、ERECON スタッフらには現地での生活支援 や調査へ同行させてもらうといった貴重 な経験をくださいました。調査地滞在中には、Samraong 村 Vantheng 家 族と Trea 村 Srey 家族 に調 査 滞 在 先 として受 け入れていただき、カンボジアの学 友 たちには調 査 パ ートナーとして協力いただきました。彼らや村民のみなさまからはカンボジアの文化、農 民生活など彼らの生き方 を通して、研究の軸となる多くのことを学びました。以上の 方々、そして筆者を支えてくれたそのほかの多くの皆さんに心からお礼申 し上げます。 私が農村経済を探求するきっかけをくださった農家である両祖父母との生活や思い 出が調査や研究における豊かな土壌となりました。本稿を祖父母たちに捧げたいと思 います。最後に、私がこの道を進むことを許し、長年に渡って温かく見守り、経済的に 支えてくれた両親と弟家 族 、そしていつも隣で叱咤激励してくれたパートナー・Kaio に 心から感謝申し上げます。

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xvi 目 次 要 旨 . . . ii 謝 辞 . . . xv 目 次 . . . xvi 表 目 次 . . . xviii 図 目 次 . . . xxi 第 1 章 課 題 と 方 法 1.1 研 究 課 題 と背 景 . . . 1 1.2 カンボジア稲 作 の経 済 変 容 に関 する先 行 研究 . . . 2 1.3 研 究 目 的 と方 法 . . . 5 1.4 論 文 の構 成 . . . 9 第 2 章 カ ン ボ ジ ア 稲 作 の 特 質 2.1 カンボジア稲 作 生 産 における栽 培 環 境 の特 徴 . . . 11 2.2 カンボジアの農 業 および稲 作 . . . 15 2.3 農 業 分 野 における政 策 および農地制度 . . . 26 第 3 章 農 業 地 域 農 村 に お け る 稲 作 生 産 の 現 況 ― 年 三 作 地 域 の 事 例 分 析― 3.1 本 章 の目 的 . . . 30 3.2 調 査 地 と調 査 の概 要 . . . 31 3.3 調査結果分析 . . . 47 3.4 農家総所得 における稲 作 所 得 の水 準 . . . 59 3.5 まとめ . . . 60

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xvii 第 4 章 都市 近郊農村 における稲作生産の現 況 4.1 本 章 の目 的 . . . 62 4.2 調 査 地 の概 要 と稲 作 . . . 62 4.3 調 査 の概 要 と調 査 農 家 の特 徴 . . . 67 4.4 稲作生産と所得 . . . 77 4.5 まとめ . . . 97 第 5 章 二 村 に お け る 農 地 保 有 変 動 の 比 較 分 析 5.1 本 章 の目 的 と調査概要 . . . 99 5.2 二 村 における水 田 の再 分 配 の実 際 . . . 97 5.3 二 村 における稲 作 の特 徴 . . . 99 5.4 水 田 保 有 面 積 の変 化 ―全体分析 ― . . . 105 5.5 水 田 保 有 面 積 の変 化 分 析 ―要因分析 ― . . . 113 5.6 まとめ . . . 125 第 6 章 総 括 6.1 論 文 の概 要 (1):テーマと方 法 . . . 130 6.2 論 文 の概 要 (2):調 査 二 村 における稲 作 . . . 137 6.3 論 文 の概 要 (3):稲 作 生 産 の経 済 的 側 面 . . . 139 6.4 論 文 の概 要 (4):水田 保 有 の変 動 とその要 因 . . . 146 6.5 主 要 なファインディングス . . . 148 6.6 二 村 における稲 作 の展 望 と残 された研 究 課 題 . . . 149 引 用 ・ 参 考 文 献 . . . 151 付 録 . . . 158 A b s t r a c t . . . 175

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xviii 表 目 次 表 2 . 1 カ ン ボ ジ ア の 稲 作 生 態 環 境 別 作 付 面 積 ( 1 9 9 4 年 - 1 9 9 5 年 ) . . . 1 2 表 2 . 2 東南アジア諸 国における灌漑面積率(2011 年) . . . 1 4 表 2 . 3 主 要 な 経 済 指 標 . . . 1 7 表 2 . 4 カ ン ボ ジ ア の 世 帯 当 り 月 平 均 可 処 分 所 得 ( 2 0 0 9 年 - 2 0 1 5 年 ) . . . 1 8 表 2 . 5 カ ン ボ ジ ア に お け る 主 要 農 産 物 の 生 産 量 と 生 産 性 ( 2 0 1 4 年 ) . . . 1 9 表 2 . 6 カ ン ボ ジ ア と 近 隣 諸 国 に お け る 米 平 均 単 収 の 比 較 ( 2 0 1 4 年 ) . . . 2 3 表 3 . 1 S a m r a o n g 村 の 概 要 ( 2 0 1 1 年 ) . . . 3 5 表 3 . 2 調 査 対 象 農 家 の 概 要 . . . 3 8 表 3 . 3 就 業 形 態 別 世 帯 主 数 . . . 4 0 表 3 . 4 就 業 形 態 別 家 族 員 数 . . . 4 1 表 3 . 5 集 計 農 家 に よ る 土 地 所 有 状 況 . . . 4 2 表 3 . 6 集 計 農 家 の 家 計 資 産 所 有 状 況 . . . 4 3 表 3 . 7 農 業 用 資 産 の 所 有 状 況 . . . 4 4 表 3 . 8 家 畜 の 所 有 状 況 . . . 4 5 表 3 . 9 調 査 農 家 に よ る 水 田 所 有 面 積 お よ び 水 田 経 営 面 積 . . . 4 6 表 3 . 1 0 水 田 貸 借 別 の 農 家 戸 数 お よ び 平 均 経 営 面 積 . . . 4 6 表 3 . 1 1 栽 植 法 別 の 平 均 単 収 . . . 4 8 表 3 . 1 2 調 査 農 家 に よ る 作 付 品 種 別 の 平 均 単 収 と 作 付 農 家 戸 数 . . . 4 9 表 3 . 1 3 作 付 時 期 別 世 帯 当 り の 販 売 量 と 自 家 消 費 量 の 割 合 . . . 4 9 表 3 . 1 4 品 種 別 種 子 購 入 単 価 と 販 売 単 価 . . . 5 2 表 3 . 1 5 作 期 別 の 稲 作 生 産 費 お よ び 粗 所 得 ( 2 0 1 2 - 2 0 1 3 年 ) . . . 5 7 表 4 . 1 T r e a 村 の 概 要 ( 2 0 1 5 年 ) . . . 6 5 表 4 . 2 T r e a 村 に お け る 土 地 資 源 利 用 . . . 6 5 表 4 . 3 調 査 対 象 農 家 の 概 要 . . . 6 9 表 4 . 4 就 業 形 態 別 世 帯 主 数 . . . 6 9 表 4 . 5 就 業 形 態 別 家 族 員 数 . . . 7 0 表 4 . 6 集 計 農 家 に よ る 土 地 所 有 状 況 . . . 7 1

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xix 表 4 . 7 集 計 農 家 の 家 計 資 産 所 有 状 況 . . . 7 2 表 4 . 8 農 業 用 資 産 所 有 の 状 況 . . . 7 3 表 4 . 9 家 畜 別 の 平 均 所 有 頭 数 . . . 7 4 表 4 . 1 0 調 査 農 家 に よ る 水 田 所 有 面 積 お よ び 水 田 経 営 面 積 . . . 7 5 表 4 . 1 1 水 田 貸 借 別 の 農 家 戸 数 お よ び 平 均 経 営 面 積 . . . 7 5 表 4 . 1 2 作 付 可 能 な 回 数 別 の 水 田 筆 数 と 実 際 の 作 期 別 の 作 付 筆 数 . . . . 7 7 表 4 . 1 3 栽 植 法 別 の 平 均 単 収 . . . 7 8 表 4 . 1 4 作 付 品 種 別 の 単 収 お よ び 庭 先 価 格 . . . 7 9 表 4 . 1 5 T r e a 村 に お け る 作 期 別 の 稲 作 生 産 費 お よ び 粗 所 得 . . . 8 2 表 4 . 1 6 作 付 時 期 別 世 帯 あ た り の 販 売 量 と 自 家 消 費 量 割 合 . . . 8 4 表 4 . 1 7 T r e a 村 に お け る 二 期 作 農 家 お よ び 一 作 農 家 の 概 要 . . . 8 6 表 4 . 1 8 雨 季 中 期 作 に お け る 二 期 作 農 家 お よ び 一 作 農 家 の 稲 作 生 産 費 と 粗 所 得 . . . 9 0 表 4 . 1 9 一 人 一 日 当 り の 農 家 所 得 別 に み た 稲 作 所 得 割 合 . . . 9 6 表 5 . 1 調 査 二 村 に お け る 水 田 制 度 の 変 遷 . . . 1 0 3 表 5 . 2 調 査 地 に お け る 水 田 の 特 徴 . . . 1 0 5 表 5 . 3 二 村 に お け る 水 田 保 有 規 模 の 変 化 . . . 1 0 7 表 5 . 4 S a m r a o n g 村 に お け る 水 田 保 有 の 増 減 変 化 . . . 1 1 6 表 5 . 5 S a m r a o n g 村 雨 季 田 に お け る 世 帯 別 水 田 保 有 面 積 の 変 化 . . . 1 2 0 表 5 . 6 S a m r a o n g 村 乾 季 田 に お け る 世 帯 別 水 田 保 有 面 積 の 変 化 . . . 1 2 1 表 5 . 7 S a m r a o n g 村 水 田 全 体 で み た 世 帯 別 水 田 保 有 面 積 の 変 化 . . . 1 2 2 表 5 . 8 T r e a 村 に お け る 水 田 保 有 の 増 減 変 化 . . . 1 2 6 表 5 . 9 T r e a 村 に お け る 世 帯 別 水 田 保 有 面 積 の 変 化 . . . 1 2 7 表 6 . 1 二 村 に お け る 調 査 稲 作 農 家 の 概 要 . . . 1 3 5 表 6 . 2 二 村 の 就 業 形 態 別 家 族 員 数 . . . 1 3 6 表 6 . 3 二 村 の 水 田 貸 借 別 の 農 家 戸 数 お よ び 平 均 経 営 面 積 . . . 1 3 7 表 6 . 4 二 村 に お け る 作 期 別 に み た 稲 作 の 特 徴 . . . 1 3 9 表 6 . 5 二 村 に お け る 作 期 別 の 稲 作 生 産 費 お よ び 粗 所 得 . . . 1 4 1 表 6 . 6 二 村 に お け る 作 期 別 の 粗 付 加 価 値 率 . . . 1 4 1 表 6 . 7 調 査 二 村 に お け る 作 期 別 に み た 時 間 当 た り 労 働 報 酬 の 水 準 . . . . 1 4 2

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xx 表 6 . 8 調 査 二 村 に お け る 作 期 別 に み た 労 働 費 と 委 託 費 の 占 有 率 . . . 1 4 3 表 6 . 9 調 査 村 に お け る 作 業 委 託 料 金 . . . 1 4 4 表 6 . 1 0 調 査 二 村 に お け る 労 働 力 別 の 労 働 時 間 数 と 割 合 . . . 1 4 4 表 6 . 1 1 農 家 総 所 得 に 占 め る 稲 作 所 得 割 合 . . . 1 4 5 表 6 . 1 2 生 計 戦 略 別 に み た 稲 作 農 家 . . . 1 4 6

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xxi 図 目 次 図 2 . 1 カ ン ボ ジ ア 土 地 利 用 地 図 . . . 1 2 図 2 . 2 カ ン ボ ジ ア に お け る 主 要 稲 作 地 帯 . . . 1 3 図 2 . 3 カ ン ボ ジ ア 保 有 農 地 規 模 別 農 家 比 率 . . . 1 7 図 2 . 4 カ ン ボ ジ ア に お け る 米 の 生 産 量 推 移 . . . 2 0 図 2 . 5 総 作 付 面 積 と 雨 季 ・ 乾 季 の 作 付 割 合 の 推 移 . . . 2 1 図 2 . 6 米の年間総 生 産量と乾季作米及び雨 季作米の生産割 合の推 移 . . . 2 2 図 2 . 7 カ ン ボ ジ ア に お け る 消 費 者 物 価 指 数 と 籾 生 産 者 価 格 ... 23 図 2 . 8 労 働 種 別 一 日 あ た り の 収 入 . . . 2 4 図 2 . 9 米 価 格 の 推 移 . . . 2 5 図 2 . 1 0 四 辺 形 戦 略 . . . 2 6 図 3 . 1 Cambodia 王国 Kampong Cham 州 Preychhor 郡 Samraong 地区位置図 . . . 3 3 図 3 . 2 Kampong Cham 州 Preychhor 郡 Samraong 地区の周 辺図 . . . 3 3 図 3 . 3 Kampong Cham 州 Preychhor 郡 Samraong 地区 Samraong 村位置図 . . . 3 4 図 3 . 4 S a m r a o n g 村 に お け る 水 田 作 付 パ タ ー ン ( 2 0 1 2 - 1 3 年 ) . . . 3 6 図 3 . 5 潅水 深度でみた Samraong 村における稲作モデル図 . . . 3 7 図 3 . 6 S a m r a o n g 村 の 全 集 計 世 帯 に よ る 人 口 ピ ラ ミ ッ ド . . . 3 9 図 4 . 1 K a n d a l 州 K a n d a l S t u e n g 郡 T r e a 地 区 位 置 図 . . . 6 3 図 4 . 2 T r e a 村 と P h n o m P e n h 市 の 位 置 図 . . . 6 4 図 4 . 3 T r e a 村 の 位 置 と 周 辺 図 . . . 6 4 図 4 . 4 T r e a 村 の 水 文 地 図 . . . 6 5 図 4 . 5 T r e a 村 に お け る 水 田 作 付 パ タ ー ン . . . 6 7 図 5 . 1 S a m r a o n g 村 雨 季 田 の 水 田 保 有 規 模 別 世 帯 比 率 の 分 布 . . . 1 0 8 図 5 . 2 S a m r a o n g 村 乾 季 田 の 水 田 保 有 規 模 別 世 帯 比 率 の 分 布 . . . 1 0 9 図 5 . 3 S a m r a o n g 村 の 家 族 員 数 別 世 帯 比 率 の 分 布 . . . 1 1 0 図 5 . 4 S a m r a o n g 村 の 水 田 保 有 規 模 別 の 世 帯 分 布 ( 水 田 全 体 ) . . . 1 1 1 図 5 . 5 T r e a 村 の 水 田 保 有 規 模 別 世 帯 比 率 の 分 布 . . . 1 1 2 図 5 . 6 T r e a 村 の 家 族 員 数 別 世 帯 比 率 の 分 布 . . . 1 1 2

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1 第1章 課題と方法 1.1 研究課題と背景 カンボジアは長期にわたり内戦および政治的混乱が続いていたが、1991 年のパリ和平協定 の締結とその後の総選挙をきっかけに政権は安定し、国家の復興と経済成長が期待されてい る。近年、カンボジア経済は順調に成長してきている。1990 年以降の年平均経済成長率は実 質8%に達し、一人あたりGNP も 2013 年に 1,000 ドルを超えた(UNDP 2014)。 問題は農業部門ないし農村経済をどう健全に育成するかであろう。近年、農村部の貧困率 は改善されたとはいえなお 19.0%という高い水準にある(World Bank 2014a)。カンボジアにお ける農村の貧困はなお厳しいし、農村の貧困がカンボジア全体の貧困を規定している。

ところで開発経済学の知見によれば、低所得国農村の貧困問題は土地資源の賦存量に対 して人口が過剰であるという点に求められる(Tomich et.al. 1995、速水 1995)。カンボジアの人 口は 1,577.6 万人(2016 年)であるが、うち 7 割は農村に居住している()。農業部門の労働力 については約 6 割と高い水準を占める。しかし、土地資源は地域差があるものの僅少であり、 世界銀行の報告では農業人口一人あたり農地は 0.4ha にすぎない(World Bank 2014a)。

したがって、カンボジアは Tomich ら(1995)の主張する過剰農村労働国(CARL:Country with abundant rural labor)の典型であり、農業に労働を集約的に投入するものの生産性は低 く、この低生産性が農業者の低所得をもたらしている。農業・農村の貧困や農業の生産性の低 さは、農村に滞留する過剰人口に起因するのである。 こういった状況におかれたカンボジア農村の経済状態を改善していくには、経済発展がもた らす農村過剰人口の暫時的解消ということを契機にした、農業・農村側の(あるいは政策担当 者サイド)主体的対応がポイントとなる。具体的に説明すれば、非農業部門の拡大による農業 労働力の非農業部門への流出をチャンスととらえ、農業経営体の規模拡大や多角化に繋げる とともに、農村における農業(on-farm)ないし農外(off-farm)の労働市場の拡大を実現できれ ば、カンボジアにおけるより健全な経済発展を期待することができると考える。 農業・農村側は国民経済の発展とそれによる農業労働力の流出を受け身として捉えるので はなく、より主体的に、自己変革を通じた農業の生産性向上、あるいは農業の雇用創出力の 強 化 を戦 略 的 に志 向 することが必 要 である。これは 世 界 銀 行 の 2008 年 「世 界 開 発 報 告 」 (World Bank 2007)で主張された「開発に貢献する農業」(Agriculture for Development)とい う視点のカンボジアへの応用でもある。

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2 繰り返す説明になるが、経済成長は、経済成長と農業の関係を論じた多くの文献で説かれ ているように、農業の在り方に大きな変化をもたらすものである。農村における農業労働力の他 産業への流出が農村労働力の不足を招来し、労働節約的な農法の導入が起き、さらには農 地利用の再編も引き起こす(後藤・泉田 2009)。カンボジアはこういった論理で説かれるような 状況の下にあるとみられる。言い換えれば、世界銀行が論じたように(World Bank 2015)、カン ボジア農業は経済成長の中で転換期にあるとみられる。 ところで経済発展のもとで農業がどう変容するかという課題はカンボジア経済にとってもまた カンボジアの人々にとっても決定的に重要である。というのはカンボジアにとって農業の意味は きわめて大きいからである。また農業の中でも稲作はその比重の大きさの故に、また生きていく ために必要な食料を生産しているところからみても国民全体の死活に関わるような営為なので ある。先ほども触れたが、カンボジアにおける農業は比重が低下してきたとはいえなお 26.7%の 比重を占めている。国民の 7 割は農村に住み、そして農業の中心に位置する稲作は基礎食糧 の供給手段としてカンボジア国民にとって不可欠な存在である。ポル・ポト時代の混乱と飢餓を 経験した人々からみれば食料の安定的な確保は最優先されるべき事項である。しかも、稲作が 重要であることはそのとおりだとしても、カンボジア稲作の現状を見れば、そこには課題が山積 されていることに気づくであろう。水田におけるインフラ整備は不十分であり、天水雨季の一作 が主流で、平均単収は近隣諸国と比較すれば低く(ha あたり籾で 3t 台)、さらには著しく単収 が低い地域も存在する(Nesbitt 1997、山崎 2007)。カンボジア稲作は改善するべきところがあ まりにも多いのである。ただこれは、裏を返せば、まだ伸びる余地が大きく、今後大きく改善され る可能性を有しているということでもある。経済発展の課程で稲作が変化を迫られているとすれ ば、それはまた同国の稲作にとっての好機といえるかもしれない。 経済発展のもとでカンボジアの稲作がどう変容し、どの方向に向かっているかのという研究課 題はきわめて興味あるものであるし、同時に、政策的も大きな意味をもつものである。 1.2 カンボジア稲作の経済変容に関する先行研究 カンボジア農業の文献を紐解くと、近年では天川(2004)や矢倉(2008)を嚆矢として Sophal (2011)、 Gardere(2014)、Bingxin and Xinshen(2011)、World Bank(2015)等、経済発展の 中での農業変容を議論した文献が散見される。これは農業変容とその方向性に対する関心の 高まりを反映している。とはいえ、農業構造の変容を実際のミクロの稲作経営分析から論じ、そ の実態解明に取り組む文献は多くない。

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3 カンボジアの稲作についての研究論文は多く、英文では Nesbitt(1997)がカンボジアの稲作 を包括的に論じているが、経済的あるいは社会的な視点からの分析は少ないように見受けられ る。Bingxin et.al.(2011)は稲作地帯を対象とした大規模な稲作経営調査を行い、定量的な分 析を用いて、カンボジアにおける米産業の潜在力の高さについて明らかにしている。 和文では、橋本ら(2006)によって稲作における病害虫や雑草、土壌保全及び施肥管理な ど稲作栽培管理について詳しい現状報告がなされている。また矢倉 (2008)は、カンボジア農 村における貧困の現状を明らかにすべく、農村における稲作技術の特徴とその概況を明らか にしているが、ただこれも稲作については一カ所の事例を基にした議論であり、一般性という点 では弱さがある。福井・園江 (1999)は二州三村を対象とした稲作農家調査を実施し、農村社 会や農法、稲作技術と収益性及び農家経済概況についてカンボジア農村における現状を明 らかにした。 さらに、小林(2004)はトンレサープ湖東岸地域における一村内の稲作農家によって作付け された水文環境の異なる水田を4類型に分け、各水田の特徴(水条件や品種、収量性等)と米 生産の目的に言及し、天水に依存する不安定な米生産の実態を明らかにしている。 矢倉(2011)は、灌漑設備の拡充と近代品種の導入により、二期作が可能になった一方、労 働力が不足しはじめた稲作部門で水稲直播技術が普及していることを論じている。 また、非農業部門の進展と農業との関連については、グローバル化のインパクトとして急激な 工業化が進み、農業 労 働力が工業部門に吸収され、稲作農村では農業労働力の流出が顕 著となっており、特に縫製業への就業による農外所得の家計所得への影響を指摘している(天 川 2007)。 こういった農外所得による稲作生産への資本投入は単収を増加させ、稲作所得の向上に貢 献することを Chea and Tsuji(2004)が明らかにしている。また若林(2002)はカンボジア南部に 位置する二村を対象に家計所得及びその水準の規定要因について論じ、二 村における農業 所得と農外所得の特徴から農地面積が農業所得を規定していることを明らかにしている。加え て天川(2004)は農村部の生計の特徴と生計維持に与える影響要因を考察し、階層間別にそ の差異の特徴と階層間格差を生み出す要因を明らかにした。 著者の知る限りでは、自然条件に強く規定されたカンボジア稲作の生産構造の特徴を踏ま え、農家家計における農業所得と農外所得の関係性について分析したものは多くはない。また、 ここ 10 年で農外就業機会の拡大により農村における農業労働力の流出が加速し、稲作農民 の就業形態は稲作生産を中心としたものから、農外就業を重視へと変わりつつあり、農家 家計

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4 の在り方は一村内の中でも多様化しつつある。 その中で稲作の生産構造もまた影響を受けているが、過去 10 年における研究成果はマクロ 研究に関しての蓄積は進んできてはいるものの、実際に農村に踏み込んで稲作生産の実際を ミクロの視点で明らかにしようとした研究はわずかである。 全体的にカンボジアの農業、特に稲作を経済的ないし社会的視点から分析したものは少な いといえるであろう。 ここで近隣諸国における経済発展下における稲作の経済変容に関してレビューしてみると、 タイでは輸出志向型の農業を推奨し、水田を高付加価値作物栽培用地に転換させて農業を 発展させてきた。そこでは、日本の農業基本法で想定されたような農地の規模拡大は限定的 であり、家族経営を中心とした小・中規模の農業が行なわれている。タイでは、輸出指向型農 業の促進という戦略の下、作物転換によって利益を得た農家は資本投入型技術を導入し、土 地面積規模の拡大は限定的なのである。また都市近郊優良農地は宅地化されていったことも 指摘されている(井上 2015、 重冨 2015)。 また、農地利用の実態に関してベトナムの先行研究をレビューすると、田中(1999)はベトナ ム紅河デルタにおける農地の零細化と分散化の実態とその問題解消へ向けた対策の遅れの 実態を明らかとした。後藤・泉田(2009)によれば、ベトナム紅河デルタでは農地規模別農家割 合の分布は単峰型が左へシフトする動きをみせており、これは均分相続と土地への執着に起 因する全般的なダウンサイジングであった。一方で、南ベトナムのメコンデルタ流域では農地規 模別農家割合が単峰型から双峰型へ二極分解する動きをみせるといった地域による違いを明 らかにしている。 また、荒神(2015)は開拓地という特徴を持つ稲作地帯であるメコンデルタでの経営農地拡 大の変遷を明らかにし、経営農地の拡大は 1990 年前半の開墾から購入、現在では貸借によ る経営規模の拡大を図っていることを明らかにしている。さらに山崎・鎌川 (2015)によって、地 域によっては土地転用を狙った投機的動きが二極分解的な動きを歪めていることも報告されて いる。 近隣諸国における稲作経済の構造変容は、一様ではなく、それは生態環境的条件、相続 を含む土地制度、土地へのメンタリティ、政策、農地転用の状況等の諸要因によって規定 され ており、経済発展が常に稲作の規模拡大に進むとは限らないのである。本研究はカンボジアの 稲作の構造変容を論じるが、近隣諸国と比較しながらカンボジア独自の動きとその要因を抽出 したい。

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5 1.3 研究目的と方法 1.3.1 目的とアプローチの方法 本研究は以上のような問題意識と現状認識に沿って、経済発展に伴う稲作経済の構造変 容に焦点をあて、カンボジア稲作の特質と変化の方向を実証的に把握すると同時に、カンボジ アの農業・農村の発展の方向性を探るものである。 以上のようなテーマ設定のもと、研究の方法は稲作農家を対象としたフィールド調査が基本と なる。ただし、単にフィールド調査を蓄積するだけではなく、以下のような4つの点から調査を設 計した。 第 1 に、カンボジア稲作農家による稲作の生産構造の特質を生態系に規定された農業とい う点を基本軸において分析を試みる。カンボジアの農業(特に稲作)は地形と水文環境(天水 や氾濫水)によって厳しく制約されている。農村インフラは未整備(灌漑、道路、電化など)であ ることから、水条件等の水田を取り巻く栽培環境が稲作の在り方を規定している。こういった制 約の中にある稲作の現実をできるだけ現場から捉えるという点を踏まえて、調査の際は作期別 あるいは圃場別にデータを収集して分析する。 第 2 に、経済発展がもたらす農村および稲作生産の変容は、経済発展の中心となる都市 か ら農村までの距離によって地域差を持つといわれる。そのため、本研究では農業地域と都市近 郊のそれぞれから稲作農村を一村選定する。分析の際には、二つの稲作農村における稲作 生産の特質の把握に加え、その二村間の比較を試みる。 第 3 に、稲作農家の家計が兼業化の進展によっていかなる影響を受けているのかについて 考察するため、稲作農家の家族構成員の就業 状況や農家所得における農外所得の比重の 特徴についても把握を試みる。農村家計における生計戦略としての稲作および農外就業の位 置づけを探ろうというものである。 第 4 に、調査村二村における農地変動がどのように進展するかについて実証的な研究を進 めたい。特に、稲作の進展を見る際に、規模の拡大が起きるのか、あるいは規模の変化が効率 的な稲作に繋がるかは重要な視点である。その為、各調査村における農地保有の変化の特徴 と、その増減を規定する要因について世帯レベルでの把握を二村間の比較分析 により試みる。 ただし、調査は調査時点で存在する稲作農家に対し遂行し、彼らに過去 10 年間を振り返って 農地保有の増減を聞き取ることで、時系列データを収集している。その為、調査対象となった 稲作農家へ農地を売却した世帯やこの 10 年間で離農した農家についての農地移動は調査

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6 の対象としていない。 なお、本論文はカンボジアにおける小規模稲作農家を対象として調査及び分析を遂行する。 カンボジア農業は大規模農家と小農が併存しているが、カンボジアの農業及び農村における 小農は、家族経営による自給的な零細農家として数の上で圧倒的な存在 である。 彼 らは経 営 規 模が零 細 であり、それゆえに資 金 制 約や情 報へのアクセスが限 られるなど、 様々な制約に直面する中で、食糧を自給して生計を成り立たせている。このような小農は外部 からの影響を受けやすく、特に経済発展の中では、農村に滞留する余剰労働力が吸引される かたちで、兼業化が進展していく。また、その兼業度合いは地域差をもって稲作生産の構造変 容における規定要因としても作用する。 調査対象とした二村の保有水田規模は小規模なものでありながらも、天水雨季作の一作が 主流なカンボジア稲作において、二期作や三期作が可能な比較的優良な水田を有する稲作 農村である。このような調査地を選定することで、水田の位置や作期によって異なる水文環境 に対応する彼ら小農の稲作を垣間見ることで、カンボジア稲作の多様性と小農による創意工夫 を生産構造の分析から読み取ることが可能である。 さらに、兼業化の進展の中で、優良な水田が存在する稲作農村の小農にとって稲作生産が いかなる役割をなしているのかを探 る。そして兼業化が小農による多様な稲作の在り方とその 位置付けに対して与えうる影響を多面的に捉える。加えて、その小農による稲作の在り方と方 向性をさらに的確に把握するため、二村間比較によって地域差を捉えながら論じる。併せてカ ンボジアに存在する多様な稲作の実態を解明し、さらに、様々な制約を受けながらも、生計戦 略を駆使して生計を成り立たせていく小農の対応と姿勢を読み解く。このことから、今後、経済 成長によってカンボジア全土の小農に生じうる兼業の浸透と、それによる稲作経済及び農村経 済の変化とその方向性を視野に入れた議論が可能となる。 したがって、本研究の対象とした二村の小規模稲作農家による稲作は、カンボジア稲作の 全体像を掴む事は難しいが、カンボジア稲作の構造変化と今後の方向性について論じる際に は、有意義な材料提供ができるであろう。 分析では、まずは栽培環境に規定された稲作生産の特徴を調査地及び作期ごとに示し、カ ンボジアの天水に依存した水田における多様な稲作を考察していく。続いて、調査地及び作 期ごとに異なる多様な稲作であることを念頭に置き、稲作生産における産出である単収と投入 である費用構造を把握していく。あわせて収益性の評価によって、稲作 生産の特徴を見出し、 その分析の中で経済の進展が稲作にもたらす影響を把握したい。さらに、二村における農地

図 2.10  四辺形戦略
図 3.2 Kampong Cham 州 Preychhor 郡 Samraong 地区の周辺図
図 3.3 Kampong Cham 州 Preychhor 郡 Samraong 地区 Samraong 村の位置図
表 3.11  栽植法別の平均単収
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参照

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