第 4 章 宇野浩二の病気前後の文体変化に関する分析
4.4 読点の打ち方
4.4.2 読点が打たれる場所
本節では、病前と病後の作品における読点が打たれる場所にどのような相違が見られるか について分析する。読点と読点前の一文字を特徴データとする場合、53編の作品から合計574 項目の変数(読点前の一文字)が得られるが、本論文では第31項目から574項目までの変数 を「その他」にまとめて対応分析に用いた。病前と病後の作品における31項目の出現頻度を 表4.1に示す。作品ごとの各項目の出現頻度を付録4.1に示す。図4.9に示しているのは、対 応分析の第1と第2の個体スコア(作品)の散布図である。図の中の楕円は、第2スコアま での個体スコアにより推定した病前と病後それぞれの95%許容楕円であり、そこに2次元正
規分布の95%のデータが含まれている。
病前 病後
0.040.060.080.100.12
読点数総文字数/
病後 身の秋_ 病後 水すまし_
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表4.1 読点と読点前の一文字のデータ
読点前の文字 出現頻度
(病前)
出現頻度
(病後) 読点前の文字 出現頻度
(病前)
出現頻度
(病後)
て、 4,375 3,221 の、 370 275
は、 2,740 4,382 る、 266 326
が、 2,847 3,177 う、 202 140
で、 2,678 3,318 日、 104 233
に、 1,916 2,524 な、 205 116
と、 2,036 2,322 や、 212 80
ら、 1,736 1,661 ど、 73 204
も、 1,240 1,202 き、 34 232
り、 627 1,192 頃、 79 165
か、 834 537 だ、 134 102
し、 497 728 ず、 130 105
た、 483 617 ば、 116 110
く、 466 598 間、 90 98
時、 440 447 れ、 45 142
い、 384 481 その他 1,432 3,007
を、 355 374
図4.9では、病前と病後の作品はそれぞれ黒と青の色で示している。第1 と第2 スコアの 寄与率は、それぞれ31.72%、13.55%である。両グループの作品は少し重なっているが、病前 の作品は散布図の左側に集中していることに対し、病後の作品は主に右側に配置されている。
そのうち、赤色で示している「日曜日」という病前の作品は、病後のグループに入っている ことが確認できる。
作品と読点前の文字の対応関係を考察するために、対応分析のバイプロットを図4.10に示 す。左側の病前の作品では、「や」、「な」、「か」、「て」、「だ」、「う」などの後に読点が多く打 たれている。一方、右側の病後の作品においては、読点が「き」、「れ」、「日」、「頃」、「り」、
「その他」、「は」、「ど」の後に付けられることが多い。これらの特徴項目の出現率を表 4.2 に示し、出現率の高いグループの値を太字で示す。
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図4.9 読点前の文字に基づいた対応分析の個体スコアのプロット
図4.10 読点前の文字に基づいた対応分析のバイプロット
-0.6 -0.4 -0.2 0.0 0.2 0.4 0.6
-0.6-0.4-0.20.00.20.40.6
CA factor map
Dim1 (31.72%)
Dim2 (13.55%)
. .
病後 二つの道_
病後 人さまざま_ 病後 人間同志_
病後 人間往来_ 病後 善き鬼・悪き鬼_ 病後 器用貧乏_
病後 夢の跡_ 病後 夢の通ひ路_
病後 女人不信_ 病後 女人往来_
病後 子の来歴_
病後 文学の鬼_ 病後 旅路の芭蕉_ 病後 木と金の間_
病後 枯木のある風景_ 病後 枯野の夢_ 病後 楽世家等_ 病後 母の形見の貯金箱_
病後 水すまし_
病後 湯河原三界_ 病後 終の栖_
病後 線香花火_ 病後 身の秋_
病後 風変りの一族_ 病後 鬼子と好敵手_ 病前 「木からおりてください」_
病前 ぢゃんぽん廻り_
病前 人に問はれる_
病前 人癲癇_
病前 俳優_
病前 十軒路地_ 病前 千万老人_
病前 古風な人情家_
病前 夢見る部屋_
病前 如露_病前 子を貸し屋_
病前 従兄弟の公吉_
病前 従兄弟同志_
病前 心つくし_
病前 思ひ出の記_
病前 恋の躯_
病前 或る春の話_
病前 昔がたり_
病前 晴れたり君よ_
病前 東館_
病前 歳月の川_
病前 浮世の窓病前 続軍港行進曲__
病前 足りない人_
病前 軍港進行曲_
病前 高天ヶ原_
病前 鼻提灯_
病前 日曜日_
-0.6 -0.4 -0.2 0.0 0.2 0.4 0.6
-0.6-0.4-0.20.00.20.40.6
CA factor map
Dim 1 (31.72%)
Dim 2 (13.55%) 病後 二つの道_
病後 人さまざま_ 病後 人間同志_
病後 人間往来_ 病後 善き鬼・悪き鬼_ 病後 器用貧乏_
病後 夢の跡_ 病後 夢の通ひ路_
病後 女人不信_ 病後 女人往来_
病後 子の来歴_
病後 文学の鬼_ 病後 旅路の芭蕉_ 病後 木と金の間_
病後 枯木のある風景_ 病後 枯野の夢_ 病後 楽世家等_ 病後 母の形見の貯金箱_
病後 水すまし_
病後 湯河原三界_ 病後 終の栖_
病後 線香花火_ 病後 身の秋_
病後 風変りの一族_ 病後 鬼子と好敵手_ 病前 「木からおりてください」_
病前 ぢゃんぽん廻り_ 病前 人に問はれる_
病前 人癲癇_
病前 俳優_
病前 十軒路地_ 病前 千万老人_ 病前 古風な人情家_
病前 夢見る部屋_
病前 如露_病前 子を貸し屋_ 病前 従兄弟の公吉_
病前 従兄弟同志_
病前 心つくし_
病前 思ひ出の記_ 病前 恋の躯_ 病前 或る春の話_ 病前 昔がたり_
病前 晴れたり君よ_
病前 東館_ 病前 歳月の川_ 病前 浮世の窓病前 続軍港行進曲__
病前 足りない人_
病前 軍港進行曲_ 病前 高天ヶ原_
病前 鼻提灯_
病前 日曜日_ て、
は、
が、で、
に、
と、
ら、
も、
り、
か、
し、
た、
く、
時、
い、
を、
の、
る、
う、
日、
や、な、
ど、
き、
頃、
だ、
ず、
ば、
間、
れ、
その他
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表4.2 各特徴的な項目の出現率(%)
読点前の文字 病前 病後 読点前の文字 病前 病後
て、 16.12 10.03 や、 0.78 0.25
は、 10.09 13.64 ど、 0.27 0.64
り、 2.31 3.71 き、 0.13 0.72
か、 3.07 1.67 頃、 0.29 0.51
の、 1.36 0.86 だ、 0.49 0.32
う、 0.74 0.44 れ、 0.17 0.44
日、 0.38 0.73
また、両グループの作品における特徴的な項目を考察した結果、病前では並列関係の語句 を「や」と「とか」でつなげ、その後に読点を打つ書き方が多い。一方、病後では「や」と
「とか」を使わずに、並列的な語句を読点で区切って羅列することがわかった。さらに、「そ の他」という項目が病後の作品の特徴的な変数になっている。「その他」には「漢字+読点」
のペアが多く含まれ、全体の83.97%を占めている。表4.3に出現頻度が高い上位20項目と両 時期の作品での割合を示す。
表4.3 「その他」項目に含まれる「漢字+読点」の出現率(上位20項目,単位%)
読点前の文字 病前 病後 読点前の文字 病前 病後
然、 0.14 0.40 局、 0.07 0.13
後、 0.24 0.30 年、 0.04 0.15
又、 0.24 0.26 来、 0.09 0.11
晩、 0.18 0.30 角、 0.15 0.03
論、 0.26 0.11 他、 0.01 0.14
前、 0.15 0.14 度、 0.09 0.07
上、 0.05 0.17 方、 0.06 0.09
今、 0.11 0.11 際、 0.14 0.03
朝、 0.09 0.13 唯、 0.08 0.07
程、 0.18 0.04 事、 0.00 0.12
KWIC検索によって病前と病後の作品から抽出した「や(並立助詞)+読点」、「とか(並立 助詞)+読点」の用例をそれぞれ付録4.2、4.3に示す。一方、漢字の後ろに読点を打つ例とし て、一般的に「名詞+読点」のパターンが多い。そのうち、名詞の羅列が「名詞+読点」のパ ターンが増加する原因の 1 つとして考えられる。KWIC 検索によって抽出した名詞を読点で 区切って羅列する用例を付録 4.4 に示す。病後の作品での使用例が病前の作品より多い。さ らに、両時期の作品における並列的な語句の書き方の詳細を示すために、原文から一部を抜 粋し、それぞれ例の(1)~(4)に示す。用例(1)と(2)は病前の作品、(3)と(4)は病 後の作品から抽出したものである。
例(1)は、「木からおりてください」という作品から抽出した用例である。この文では、
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軒並に並んでいる商売屋の例として「煙草屋、小間物屋、湯屋、宿屋」、または、人物の例と して「役者、幇間、芸者、博奕打、旦那」を例挙するとき、助詞「とか」が用いられた。「人 に問はれる」という作品から抽出した用例(2)では、「女中、番頭、下足番、風呂番」を例 挙する際に助詞「や」が使用された。
(1) 表通りにしても、これ迄いた屋敷町とは違って、煙草屋とか、小間物屋とか、湯屋と か、宿屋という商売屋が軒並にならんでいた。(中略)それ等は彼の家を除くと、役者 とか、幇間とか、芸者とか、博奕打とか、旦那とか、ことごとくそんな風な変り種の 人たちばかりだった。
「木からおりてください」(病前:1926年)
(2) だから、ちょっと考えると、雇人には住みよさそうに見えるが、こんなのは普通の人 間には却って勤めにくいと見えて、無数の女中や、番頭や、下足番や、風呂番などが 新しく来ては、間もなく暇をとって行った。
「人に問はれる」(病前:1925年)
(3) 青い物の殆んど見られない茶褐色の野の果てには、雪をかぶった紀伊の山脈、その手 前に黒褐色をした和泉の山脈、汽車の行く手には、右側に、二上山、葛城山、金剛山、
左側に、信貴山、百足山、生駒山などが墨絵の景色のように眺められ、目の下の野に は、ときどき村落、ときどき森林、などが走り過ぎるだけで、人の子ひとり犬の子一 ぴき見えない。
「枯野の夢」(病後:1933年)
(4) それに、部屋を借りたビルデイングは立派で、借りた部屋も小奇麗であったが、その 部屋の中で、図案兼設計家のような男、外交員のごとき男、俄に書記になったような 男、遊撃とでもいう役の男、その他、合わせて六七人の、似たり寄ったりの連中が仕 事の真似形のような事をしていたのであるから、成功する筈がなかった。
「楽世家等」(病後:1938年)
(太字と下線は本論文の筆者によるもの)
上記の用例(3)と(4)は、1933 年と 1938 年に発表された「枯野の夢」と「楽世家等」
から抽出した例文である。「二上山、葛城山、金剛山」の山脈を表す語の羅列、「雪をかぶっ た紀伊の山脈、その手前に黒褐色をした和泉の山脈」の山脈を修飾する句の羅列、「図案兼設 計家のような男、外交員のごとき男、俄に書記になったような男、遊撃とでもいう役の男」
の男を修飾する句の羅列といった例では、読点のみが用いられている。
また、病前の作品では「て+読点」、病後の作品では「き+読点」、「り+読点」、「れ+読点」
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がそれぞれの特徴として挙げられた。「て+読点」は「動詞+て+読点」、「き+読点」、「り+読点」、
「れ+読点」は、「動詞+読点」のようなパターンから抽出された。このことによって、病気前 後の作品で文の区切りに相違があり、病前の文章では動詞の「て」形と読点で文を区切るこ とが多いが、病後になると動詞の連用中止形と読点で文を区切ることが多くなったと考えら れる。この傾向は、4.4.2.2 節と 4.7 節の文節パターンの分析結果から窺える。詳細なデータ
を4.4.2.2節と4.7節で示す。
4.4.2.2 読点と読点の前の品詞
前節では、読点と読点前の一文字を特徴量として抽出し、宇野浩二の病気前後の作品にお ける読点が打たれる場所について分析した。本節では、読点がどの品詞の後ろに打たれてい るかについて、病気前後の相違を考察する。同じコーパスから特徴データを抽出し、53編の 作品を個体、11種類の品詞に読点が付く頻度を変数として対応分析を実行した。病前と病後 の作品における 11項目の出現頻度を表 4.4に示す。作品ごとの各項目の出現頻度を付録 4.5 に示す。
表4.4 読点と読点前の品詞のデータ
読点前の品詞 出現頻度
(病前)
出現頻度
(病後)
助詞+読点 19,377 21,388
名詞+読点 1,622 3,346
接続詞+読点 2,484 2,476
助動詞+読点 1,950 1,823
動詞+読点 622 1,753 副詞+読点 638 874 形容詞+読点 339 362 感動詞+読点 80 24 記号+読点 20 40 連体詞+読点 13 27 接頭辞+読点 1 3