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第 6 章 宇野浩二の戦後作品の文体特徴に関する分析

6.1 仮名の使用率

第4章の分析結果から、病後より病前の作品における仮名の使用率が高いことがわかった。

先行研究では、宇野浩二が仮名と句読点を多用する特徴は病後というより、戦後に現れてい るという説もある(梶谷,1971)。本節では、宇野浩二の病前、病後と戦後の作品における仮 名の使用率を経年的に可視化するために、各作品の使用率を時系列順に並べた。その結果を 図6.1に示す。

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図6.1 仮名の使用率の経年変化

図 6.1 では、病前、病後と戦後の作品はそれぞれ黒い三角、青のプラス記号と赤のバツ記 号で示している。病前から病後にかけて仮名の使用率が徐々に減少している傾向にある。第 2次世界大戦が終結する前に発表された「身の秋」(1941年)、「水すまし」(1943年)の2作 品から、使用率が一旦急激な増加傾向を示した。戦後の「自分一人」(1950 年)という作品

での76.93%をピークに、その以降の作品では、急速な減少に転じ、最終作の「人間同士」ま

で減少し続けた。全体的に、病前の「子を貸し屋」という作品では、仮名の使用率が最も高

い77.16%に達している。病後の「母の形見の貯金箱」での仮名の使用率が最も低いことがわ

かる。

病前、病後と戦後の作品における仮名の使用率のボックスプロットと多重比較の結果を図 6.2に示す。ボックスプロットからわかるように、全体的に病後の作品における仮名の使用率 が最も低く、戦後の作品では最も高いことがわかる。病前の「子を貸し屋」という作品では 仮名が多く使われ、外れ値になっている。3つの時期での仮名の使用率に対して、シャピロ・

ウィルクの正規性の検定を行い、𝑝値が 0.20 であり、正規分布に従うことが確認された。バ ートレットの検定結果により、𝑝値が0.56 で有意水準0.05より大きいため、3 群のデータの 分散は等しいことがわかる。さらに、等分散の条件の下で一元配置分散分析を行い、𝑝値は

1.73e-07であり、効果量と検出力はそれぞれ0.39、1.00である。有意水準0.05で時期によっ

て仮名の平均使用率に有意差があると言える。

具体的に、どのグループの間に差があるのかを考察するために、テューキー・クレーマー による多重検定を行った。その結果、病前と病後、病前と戦後、病後と戦後の 3 つのグルー プの間では、𝑝値はすべて有意水準0.05より小さいことが確認できた。検定の結果を図6.2の プロット、𝑝値、効果量と検出力を表6.1に示す。仮名の使用率に関しては、3 つのグループ

0.600.650.700.75

仮名の使用率

使 _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ 西_ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _

病前 病後 戦後

80 の間で統計的有意な差があると言える。

図6.2 病前と病後の作品における仮名の使用率のボックスプロット(左)と

多重比較分析の結果のプロット(右)

表6.1 仮名の使用率の多重比較検定の結果

検定 𝑝値 効果量 検出力 テューキー・クレーマー検定

(Tukey-Kramer test)

病前-病後 9.41e-04 1.11 0.98 病前-戦後 7.21e-03 1.01 0.85 病後-戦後 1.00e-04 1.97 1.00

なお、第 2 次世界大戦が終結する前後の仮名の急増の背景に、国民の読み書きの負担を軽 減し、教育上、社会生活上の能率を高めるため、日本政府による日本語表記を単純化しよう とする動きが強まっていたことがあった。1946年(昭和21年)11月16日に、現代仮名遣い と当用漢字の実施に関する内閣訓令が告示された。当用漢字は、「当用漢字表」に掲載された

1,850の漢字を指し、当時使用頻度の高いものを中心に構成され、公文書や出版物などに用い

るべき範囲の漢字のことである。この当用漢字で書けない場合、言葉遣いを変えるか、また は、仮名表記にすべきとされていた。宇野浩二の作品においては、1946年の「青春期」から 仮名の使用率がすでに上昇する傾向にあった。この仮名の使用率の急激な増加に、当時の漢 字を制限または廃止する風潮から一定の影響を受けた可能性が高いと考えられる。

病前 病後 戦後

0.600.650.700.75使

病前 子を貸し屋_

-0.10 -0.05 0.00 0.05

病前 病後 - 病前 戦後 - 病後 戦後 - (

(

( )

)

) 95% family-wise confidence level

Linear Function

81