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認知プロセスにおける相互作用的活動の 実証的分析

第3章認知プロセスにおける相互作用的活動の

3.1エピソードの漸進的な変容に関する分析

 ここでは、A血(1996)のグループ学習による数学的問題解決に関する文献の発 話プロトコルを分析データとして引用する。それは、成功的な数学的問題解決を 示す事例であり、その発話プロトコルには、Artztによるエピソード分析の結果

としての適当なエピソード(【】で囲まれた部分)がラベリングされている。

 なお、被験者のグループ構成は、数学の成績が上位,中位,下位を含む第7学年 の4人構成(A,B, C,D)のグループである。そのとき設定された調査課題は、次の ような銀行業務問題(A血t他,1992)である。

銀行員は50枚の硬貨を使用して1ドル紙幣(100セント)を両替し なければならない。ただし、クォーター硬貨(25セント)、ダイム 硬貨(10セント)、ニッケル硬貨(5セント)そしてペニー硬貨(1セ

ント)の各硬貨を少なくとも1枚使用すること。このために、銀行 員は硬貨をそれぞれ何枚使用しなければならないか?

 この調査課題の特徴は、解法へのアルゴリズムが分かりにくく構造化されたア プローチの適用が難しく,そのため試行錯誤をかなり必要とする点にある(A丘zt 他,1992)。なお、この課題は次節以降の2度の事例調査でも同様に使用されてい

る。

A:【計画】どうして全部使わないの。ダイムに,クォーターに,ニッケル硬貨でしょ。全部でいくらになるの。

D=【実行】ダイムとクォーターとニッケル?だったら40セントだよ。

B=   41セントだよ。

Al   そうよ。40セントよ。3枚使ったわ。

D:   何について言っているのかまだよく分からないよ。

B:   いいかい。いい考えが浮かんだぞ。もし…使えば(C君によって遮られた)。

C:【理解】50って?

B:【分析】1回だけ全種類のコインを使うとすると41セントになり残り46枚だ。

A=    どうしょって言うの。

B:   一度全種類のコインを使っておけば、もう心配要らない。それで41セントなって残り46枚だろ。

    ペニー硬貨をもっとたくさん使えばいいんだ。

c=【理解】それがいくらになればいいの。

B:    1ドルだよ。

A:【実行】なるほど。硬貨を4枚持っているところに、それにペニー硬貨を46枚加えるとどうなるの。

C=    (加えていって)98だ。

B=【理解】いや、待てよ。50枚硬貨を使うんだぞ。

A=   そうだわ、言う通りよ。

B=【計画と分析】さっき言ったことをしてみよう。クォーター1枚とダイム1枚とニッケル1枚とペニー1枚。

     それで41セントで硬貨を4枚使った。

A:【実行】(ペニー硬貨を46枚加えるというアイデアを使って計算し処理した後)できたわ!

B=【分析】さらに46枚の硬貨が必要だ。

Al【確認】できたわ。見ていてね。硬貨5枚。(彼女が解法を書いて確認している間、全員が彼女の解答用紙を

    注視している)

D:    やった一、うまくいく。一ペニー硬貨は45枚。うまくいっている。

 この発話プロトコルは、15分間の問題解決セッションにおける終盤の5分間 のプロトコルであり(A彪t,1996)、【】内のエピソードはA血の分析に拠ってい る。 「エピソードの変容」の観点から、グループ学習による問題解決過程をより 明示的に捉えるために、この発話プロトコルを活用した。すなわち、Schoen飼d のプロトコル解剖図(Schoenfbld,1985;前掲2.3.1参照)を参考に、 Artztの分析に よる【】内のエピソードに基づいて、図3−1のようなグループ学習のプロトコ ル解剖図を作成した。

読み

b

理解M o日●且

分析

l 竃      ・        ・

探究

iqM)

…マ

言画

l

 行

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D B C

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馨 、

@ 鵜 選1…

備考・醗内のプ・トコルはメタ認知的水準を表す

@ 灘

図3−1グループ学習のプロトコル解剖図

 グループ学習による成功的な数学的問題解決過程におけるこのプロトコル解剖 図は、Schoen飼d(1985)が提示した熟達者(エキスパート)の問題解決過程のプロト

コル解剖図(図3−2)と図の形状が類似している。すなわち、グループ学習による 成功的な数学的問題解決には、熟達者の場合とほぼ同様の計画、実行、分析のエ

ピソードの変容が見られる。これは、初心者(ノービス)による非成功的な問題解 決行動に典型的に見られた、読みと探究のエピソードに終始した図(図3−3)の形 状とは大きく相違する点である。「エピソードの変容」の観点から言えば、グル ープ学習による成功的な数学的問題解決では、Schoenfbldが提示した熟達者によ る場合と類似の「エピソードの変容」を生起させたということである。これは、

幾つものエピソードが連続的に変容しながら問題解決が進展している状況であり、

そこではエピソードが漸進的に変容している。つまり、 「エピソードの漸進的な 変容」が生起していると解釈できる。

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 図3−2熟達者のプロトコル解剖図  図3−3初心者のプロトコル解剖図

   【Schoen飼d(1985)より抜粋】    【Schoenfeld(1985)より抜粋】

 しかし、グループ学習による成功的な問題解決と一人の熟達者による問題解決 には大きな相違点もある。それは、個人の場合とは違って、グループ学習では解 決過程に複数の仲間の貢献が存在する点である。この事例では、図からも分かる ように、生徒A、Bはそれぞれ理解、分析、実行のエピソードに貢献し、生徒C は理解と実行に、そして生徒Dは実行と確認のエピソードに対してそれぞれ貢 献していると見なされる。

 このような分析から、グループ学習による成功的な数学的問題解決では、仲間 の貢献による「エピソードの漸進的な変容」が生起することが示唆される。次節 以降では、事例調査を基に、グループ学習での生徒同士の相互作用に焦点化して 認知プロセスをさらに探究する。

3.2エピソードの共有に関する分析

 ここでは、Webb(1991,1992)やLeikin他(1997)の研究から示唆を得て、「課題に 関連した質問と説明」に着目し、グループ学習での生徒同士の相互作用に分析の 焦点を当てる。最初に、この「課題に関連した質問と説明」の内容を明らかにす るために、「対話的コミュニケーションとしての質問と説明」、「援助・被援助と しての質問と説明」、「メタ認知的活動としての質問と説明」の3っの観点から理 論的考察を行う。このように、グループ学習における質問や説明に注目すること は、「対話的コミュニケーションは単なる意味の伝達以上の機能があり、意味を 再編成し創出する機能を持っている」(佐藤1996a,p,20)という観点からも興味深 いことである。

3.2.1対話的コミュニケーションとしての質問と説明

 数学教育におけるコミュニケーションに関しては、多くの研究がある(例えば、

江森1997;金本,1998;金本・小林,1997a;Leikin他,1997;Webb,1991)。江森(1997)は、

数学の学習における情報の伝達過程を4種類のコミュニケーション連鎖に類型化 し、その伝達過程で参画者間の相互作用によって新しいアイデアが創出されると いうコミュニケーションの創造性に注目している。金本(1998)は、授業をコミュ ニケーションの場と捉えた上で、生徒はコミュニケーションを通して理解と情意 の形成および共有や他者との関係性を築いていくと述べている。さらに、グルー プ学習を念頭に置いた協同学習の意義として、そのような協同学習をコミュニケ ーションのための共通の基盤(金本はこれをコミュニケーションのための「土台」

と呼ぶ)を築こうとするものと捉えている(金本他,1997a)。 Leikin他(1997)は、グ ループ学習で生起する生徒同士の目的指向的な学習活動として、「課題に関連し た質問と説明」を数学的なコミュニケーションと捉えた上で、「質問と説明によ るコミュニケーションを伴う相互作用は、数学を学習する過程における意味を掴 むプロセスの本質的な構成要素である」(p.352)と指摘している。

 このように、数学授業におけるコミュニケーションには、相互作用によるアイ デアの創出や理解の共有、情意の形成などの様々な機能があり、さらにコミュニ ケーションと相互作用の間に強い関連性のあることも示唆されている。

 例えば、授業でのある生徒の「なぜ?」の質問に対する説明や応答を契機にし て、「それは、つまりどういうことなんだい?」とか「具体的に言って欲しいな

一」などとより詳細な説明を求める質問を引き起こすことがある。さらにそれは、

「具体的には…という例や事実がある」とか「もしも…だとすれば、それは…

ということになるだろう」、「この説明で分かった?」などと、生徒同士の対話的 な活動として、事実の提示や推論あるいは理解の確認などを伴う相互交渉に発展 する場合もある。こうした一連の質問と説明による相互交渉は、生徒の課題や解 法などに対する理解を促す機能のある、対話的なコミュニケーションとしての側 面を持つと考えられる。

3.2.2援助・被援助としての質問と説明

 課題に関連した質問と説明は、協同的な学習形態であるグループ学習では、特 に仲間に対する援助(help)と深く関わると思われる。 Webb(1991)は、数学の学習 に関連する実験的研究(empihcal researches)を集約し、その結果からグループ学習 における言葉による相互作用的活動の中で、学習のパフォーマンスに対するポジ ティブな要因として、「課題に関連した説明を与えること」を特定している。

 生徒が数学的問題解決に取り組む際、質問は様々な局面で生起すると考えられ る。そのような質問は、例えば、2.3.1で記述したArtzt他のエピソード分析モデ ルに象徴されるような問題解決過程の各局面、すなわち課題の理解・分析、解法

の分析・探究・計画・実行、そして確認などの様々な局面において生じた疑問や 不安などを源として生起すると思われる。それらの質問の中には、噛分ではど

うしていいか分からない」という生徒の学習困難な状況から発せられた援助の要 求も含まれているかもしれない。その意味で、生徒の「課題に関連した質問」に は、援助を求める学習活動という側面がある。

 さらに、質問には次のような側面もある。すなわち、「問いを発する場合も、

他人へ向けられた質問は、同時に自分にも向かっているのであり、自己の疑問を 明確化し、次の理解に向かう重要な契機になっている」(佐藤1996c,p.99)。また 同様に、「他者に向けられた質問は他者の考えや他者の問題点を指摘すると同時 に、それは自分の疑問を明確化する。そして次の自分の考えを深めたり新たな考 えを探索する重要な契機になるものである。すなわち、人は他者との間で質疑や 説明のやり取りを繰り返す中で、各自の思考の中に一定の論理的整合1生(秩序)を 創り出していく」(加藤・丸野,1996,p.115)という指摘もある。

 これらのことから、仲間との相互作用が問題解決の進展に重要な役割を果たす と思われるグループ学習では、「課題に関連した質問」は必ずしもネガティブな

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