実証的分析
第3章では、対話やコミュニケーションを通して生じる生徒同士の相互作用と いう観点から、グループ学習による数学的問題解決過程の中で起きていることに ついて実証的分析を行った。その結果、問題解決の進展に必要な「エピソードの 漸進的な変容」が、グループ学習における生徒同士の言葉による相互作用的活動 によってもたらされている可能性が示唆された。
この第4章では、グループ学習による数学的問題解決の認知プロセスについて、
問題解決における推進力としての役割を果たすと考えられているメタ認知(岩合 他,1990)の観点から探究する。というのも、メタ認知研究の先駆者であるGarofalo
&Lester(1985)やSchoenfbld(1987)などによる数学的問題解決研究では、「問題解 決の困難性に関わる主な要因は、生徒が問題解決の間に従事した認知プロセスを 積極的にモニターし、続いて調節(subsequently regulate)することができないこと」
(Artzt他,1992,p.138)であると示唆されているからである。
ところで、グループ学習では、このような個々の生徒のモニタリング(監視)と コントロール(統御)だけでなく、生徒相互の「間個人的モニタリング」や「間個 人的コントロール」が推進力となって問題解決の進展に貢献しているかもしれな い。ここでは、このような間個人的なメタ認知的活動の観点から、グループ学習 における数学的問題解決の認知プロセスを探究する。
4.1節では、2.2.2のグループ学習の対話モデルおよび、2.2.3で述べたメタ認知 に関する議論などを踏まえて、グループ学習における「間個人的モニタリング」
と「問個人的コントロール」について理論的考察を行う。
4.2節では、Artzt他(1992)の文献のデータおよび、3.2節および3.3節で行った中 学生の事例調査から得られた発話プロトコルを基に、グループ学習による数学的 問題解決の認知プロセスについて、「間個人的モニタリング」および欄個人的
コントロール」というメタ認知的活動の観点から実証的分析を行う。
4.1黒鯛人的なメタ認知的活動の機能
認知は、22.3で述べたように、狭い意味で知覚と同じように考えられるもの であり、例えば計算する、測定する、作図する、グラフを書くなどの直接的な数
学的活動に働く知識や技能であり、メタ認知とは、問題解決者としての自分自身 に意識的に気づく能力であったり、自分の心的過程をモニターしコントロールす る能力であり、問題解決における推進力としての役割を果たすと考えられている。
ここでは、問題解決における認知活動の進み具合いを監視することであるモニタ リングと、認知活動を制御することであるコントロールに着目する。
4.1.1間個人的モニタリングと問個人的コントロール
グループ学習では、2.2.2で提案したグループ学習の対話モデルから推測され るように、対話やコミュニケーションを通して「対話空間」に放たれた発話が、
発話者本人のモニタリングの対象になると同時に、仲間の生徒からのモニタリン グの対象になる可能性もある。さらに、それは仲間によるコントロールを生起さ せるかもしれない。そのようなモニ・タリングやコントロールは、A丘zt他(1992)が 示唆するように問個人的な性質のものであろう。本研究では、それらを「間個人 的モニタリング」および「間個人的コントロール」と呼び、2.2.3(2)で述べたよ
うに、それらを次のように規定した。
すなわち、「問個人的モニタリング」とは、グループ学習に従事する個人が、
対話空間を介してグループの仲間の解決活動の所産や過程などをモニター(監視)
することである。また、「間個人的コントロール」とは、「間個人的モニタリング」
を基に、次に出てくる仲間の解決活動の所産や過程などをコントロールすること である。ただし、間個人的にモニタリングされるものは、対話空間に向けて放た れた生徒の発話全般であると想定し、それには式・図表・グラフなどを伴う説明 なども含まれている。また、「間個人的モニタリング」および「間個人的コント ロール」は、そのような発話全般として表出する可能性があると仮定する。
ところで、メタ認知的技能であるモニター、自己評価、コントロールには、そ れらが一連の過程として機能する「モニター⇒自己評価→コントロール」とい
うサイクルが想定されている。これに対して、清水・山田(1997)は、Kemey&
silver(1993)の自己評価に関する先行研究から、「モニター→自己評価→コントロ ール」というメタ認知過程のサイ.クルを「モニター⇒自己評価」と「自己評価
⇒コントロール」の2っに区別して捉える考えを示している。
本研究では、基本的には「間個人的モニタリング」は「モニター→自己評価」
のメタ認知過程に対応するものとし、また「間個人的コントロール」は「モニタ ー→自己評価→コントロール」というメタ認知過程のサイクルにおける「コン
トロール」に対応するものと捉えている。グループ学習の対話モデル(2.22参照)
でみるように、グループ学習では対話空間に放たれた発話は、仲間の間で共有さ れると仮定している。そして、共有された発話に対して仲間から様々なフィード バック(反応)が期待される。それらのフィードバックの中身は、コントロールの 内容を含まない単なるモニタリングの内容や、あるいはモニタリングを踏まえた コントロールの内容であることが推測される。
図44は、グループ学習の対話モデ
,レを参考にしながら、以上のような考、こ:馳1『1∫;
察を基に、グループ学習での「間個人 的モニタリング」と「間個人的コント ロール」を概念的に図的表現したもの である。このモデルは、5人構成のグ ループ学習を想定したものであり、
Person−AとPerson−Bが対話し、Person−C、
Person−D、 Person−Eらはその2人の対 話を見たり聞いている、といった最も 基本的な状況を想定している。ここで は、Person−AとPerson−Bの対話は「対 話空間」を介してグループの全員に共 有されると考えている。
この図は、その対話から志せられた 発話に対して、Person−Dによる「間個
対話空間 Person. C
P諭h.E
P6fsoかA:
:間個人的モニタリング :間個人的コントロール
図4−1間個人的なメタ認知的活動のモデル
人的モニタリング」、およびPerson−Eによる「間個人的コントロール」が生起し たことを概念的に表すものである。ただし、これは、「間個人的モニタリング」
や「問個人的コントロール」が別々の生徒からしか生起しないことを指示するも のではない。つまり、後でみるように、一人の生徒からその両方が生起する可能 性を否定するものではない。
4.1.2発話アイテムのプロトコル分析
ここでは、上述した間個人的なメタ認知的活動の考察を踏まえて、グループ学 習で生起する「問個人的モニタリング」および「間個人的コントロール」の具体 的な証拠を確認する。そのために、A面他(1992)の文献から得られた4人構成
(C,D,S,W)のグループ学習における生徒の発話プロトコルを分析する。この二連 の発話プロトコルは、問題解決セッションの中盤における生徒の対話を詳細に記 述したものであり、2.2.2で提示したグループ学習の対話モデルで言えば、2者 間の対話に他の仲間が相互に介入している様子を伝える内容になっている。
なお、各発話プロトコルの前部に付記した記号は、筆者がラベリングしたもの だが、左から順に、発話の元になった情報(発話プロトコル)、発話の主体、主な 発話の相手を表している。例えば、発話アイテム3Wには記号2C→W→Cとい
う記号が付してあるが、これは発話アイテム2番の生徒Cの発話プロトコル「あ とどれだけ(硬貨が)要るのか?」という、素朴な質問に応答した生徒Wによる生 徒Cへの発話であることを表している。
また、Block−1からBlock−4は、筆者が解決過程の文脈から判断して付けた便宜 的な区分である。なお、記号Gはグループ全員を指示する。
】BlockF1(1〜7)
lW:
2C:
3W:
4S:
5C:
6W:
7S:
W→G lW→C→W 2C→W→C 3W→S→W 3W→C→W sC→W→C 6W→S→W
待て。待て。4枚ですでに41セントあるよ。
あとどれだけ要るの?
46枚要るよ。
46枚も要るの、…ん一 59ってのは?
59セントだろ。
なるほど。
Blockr2(8〜12)
8D:1W〜7S→D→G じゃ、全部ペニーを使えば。
9W: 8D→W吟D 40一?、46枚。
10C:8D,9W→C→D 46枚だよ。
11W:5C〜10C→W→C,G 59と46。なんのことだったかな?
12S: 11W→S→W なんか、混乱しているよ。だって46は枚数で59は合計のことでしょ。
Blockp3(13〜16)
13W: 12S→W→S いや、46枚ペニーを使うとどうなるかという意味だよ。
14D: 13W→D→W それは、1ドル5セントだよ。
15C: 14D→C→D そうだけど、ニッケルとペニーを使わないといけないよ。
16D: 15C→D→C そっか一。
Blockp4(17〜21)
17W: B2,B3→W→W,Gわかったぞ。
18S: 17W→S→W,Gたぶん、ニッケル硬貨を5枚使うと,ペニー硬貨は41枚使うことになるのよ。
19W: 18S→W→G やってみよう。
20S: 19W吟S→G だから、ニッケル硬貨5枚は25でそれに41を足して。
21C: 2①S→C→C (自分自身に向かって)また66だ!前にも一度なったぞ。41たす25に。
これら4つのBlockには、それぞれ様々』な「間個人的モニタリング」や「間個 人的コントロール」が生起していると思われる。それらを以下に列記する。