第 4 章 EGR クーラの性能回復挙動
4.2 コールドスタート試験による EGR クーラの性能回復
4.2.4 試験結果の考察
ス温度は高負荷運転時でも350℃程度であり400℃よりも低いため,堆積したす すが高温の排ガスによって酸化していることはさほど考慮する必要はない.ま た低温酸化の問題もあるが,すすが堆積する伝熱面上は排ガス温度よりも相当 低温となっているため,これも本論では考慮しないこととする.従って,熱伝 達率の回復は SOF成分の蒸発による堆積層の物理的性状の変化や,堆積層の物 理的な離脱が中心と考えられる.
Fig.4-5 DTA analysis of deposits
化分解温度が低いことから,すす堆積層中の炭化水素の成分割合がホットスタ ート試験と比べて高いことが考えられる.すす粒子やその堆積層中の SOFや炭 化水素の成分割合の増加は,どちらもすす粒子の凝集を容易にさせるため,す す粒子の凝集により堆積量を増加させる方向に作用すると考えられる.3.2節の 排ガス流路の断面観察結果から,コールド試験後とホットスタート試験後のす す堆積層において,かさ密度に大きな差があってもその熱伝導率はほとんど差 がないことがわかった.従って凝集によりすすの堆積層自体が厚くなれば,そ の熱通過率は低下しEGRクーラとしての熱伝達率も低下する.
これまでのすす堆積試験においては,コールドスタート試験の繰返しによる EGR クーラの熱交換性能劣化は小さく,またホットスタート試験で性能が劣化 した後にコールドスタート試験を実施することで熱伝達率が回復する結果が得 られた.さらに表4-1のNo.20とNo.22の比較からは,コールドスタート試験の 方がすすの堆積質量が少ないという結果も得られている.すなわち,未燃成分 によるすす粒子の凝集効果によるすす堆積層の増加の影響は小さいと考えられ る.また性能回復時のすすの質量減少については,前節の4.2.3で行った示差熱 分析の結果から,酸化分解によるものではないことがわかった.以上の結果か ら,コールドスタート試験での伝熱性能劣化の抑制や伝熱性能の回復は,すす 堆積層の凝集による堆積厚みの減少や,すすを物理的に除去するメカニズムが 作用することによって起きていると考えられる.
コールドスタート試験による性能回復の要因を推測するために,4.2節のすす 堆積試験の結果を用いて詳細な検討を行った.この試験では,第11サイクルの 運転中に性能回復が見られ,第 12 サイクルから第 20 サイクルにかけての性能 推移は横ばいであった.従って第11サイクル中の熱交換性能の推移をそれ以降 のサイクルと比較すれば,第11サイクル中のどの時点で性能回復が起きたのか を知ることができる.たとえば,第11サイクル中の熱伝達率は,運転開始直後 では第 12 サイクル以降よりも低い値で推移し,性能回復が起こる期間で第 12 サイクル以降の値に漸近していくことが想定される.
図4-2にNo.16 として示したJE05モードの繰り返し試験中の熱伝導率の推移
を図4-6に示す.これは第11サイクルから第14サイクルにかけてのJE05モー ド運転開始から 600 秒までの期間における熱伝達率の推移である.図から運転 開始より80秒以降では,各サイクルの間に熱伝達率の差は見られない.また図 に示してはいないが,600秒以降においても同様に熱伝達率の差は見られなかっ た.一方初期の80秒の期間では,熱伝達率が低い値から高い値へと変動し,第 11 サイクルにおいてはこの変動幅が最も大きくなった.ただし,この初期の期 間は冷却水と排ガスの温度がともに低いため,定量的な判断が困難であった.
80 秒以降では熱交換性能に差が見られないことと合わせて評価すれば,この初 期の80秒の期間内で,熱交換性能の回復現象が起きていると推測することがで
きる
Fig.4-6 Transitional heat transfer coefficient in No.16 fouling test
(Early stage of JE05 mode: 0sec-600sec)
Fig.4-7 Transitional situations of temperature and flow in the 11th JE05 mode cycle of No.16 fouling test
(Early stage of JE05 mode: 0sec-400sec)
0 200 400 600 800
0 200 400 600
11 12 13 14
Operation time t sec Heat transfer coefficient aW/m2・K
No.16 JE05 mode 0sec-600sec
0 10 20
0 100 200 300 400
0 100 200 300
0 100 200 300 400
0 50 100
0 100 200 300 400
Operation time sec Exhaust gas temperature℃Coolant temperature℃Exhaust gas flow g/s
Tg_in
Tg_out
Tc_out Tc_in
図4-7 にNo.16試験の第11 サイクルの運転初期における排ガス流量,排ガス 温度,冷却水温度の推移を示す.ここで Tgと Tc はそれぞれ排ガス温度と冷却 水温度を,またinとoutはそれぞれEGRクーラの入口側と出口側を表す.第11 サイクルはコールドスタート試験であり,ここでの性能回復は,図4-6の結果か ら図 4-7 中の太枠で囲まれた排ガス温度と冷却水温度の両者が低温の期間にお いて起こったと想定される.冷却水温度が低温の状態における運転期間におい ては排ガス流路内に凝縮水が発生することが過去の研究報告[2]からわかってお り,凝縮水による熱交換性能の回復メカニズムの有無が問題となる.図4-7より 排ガスの温度が 40 秒以降で 100℃を超え,排ガス流量も増加していること,ま た図4-6よりそこでの熱伝達率が急激に高まっていることを考慮すれば,凝縮水 の蒸発に伴うすす堆積層の剥離などが回復メカニズムの候補として挙げられる.
第 5 章においてはこの凝縮水も含め,低温におけるエンジン運転状態がすすの 堆積に対してどのような影響を与えているかについて,より詳細に検証する予 定である.