第 5 章 EGR クーラの性能回復処理
5.3 定常運転による性能回復試験
5.3.6 試験結果の考察
ここまでの性能回復試験の結果を表5-4にまとめて示す.性能回復処理中の冷 却水温度が20℃と25℃の場合,熱伝達率が回復し,さらに排ガス流路内に凝縮 水が発生していた.一方冷却水温度が 35℃の場合,熱伝達率は回復せず,凝縮 水は発生していない.すなわちEGRクーラの性能回復においては低温の冷却水 による凝縮水の発生が必要であることが示唆された.ただし定常運転試験によ る熱伝達率の回復率をコールドスタート試験による回復率と比較すると,前者 は後者と比較してわずかの回復効果しか得られていないことがわかる.また表 4-1で示したとおり,コールドスタート試験による性能回復時には堆積物の質量 減少が起きていたが,表5-1に示した定常運転試験による性能回復時の質量変化 を見ると,回復の前後で堆積物の質量はほとんど変化していない.そこでコー ルドスタート試験時と5.3.3項の性能回復試験時の運転条件の相違から,性能回 復が起こる条件を推測する.
Table5-4 Summery of recovery test
Varying
(16g/s:High load) Constant(8g/s)
Exhaust flow
Cold start test
(JE05 mode)
Steady operation test
Exist 0.14 20℃
0.62 -0.07
0.04 Recovery ratio
Not - Exist Exist
Condensate water
10℃
35℃
25℃
Coolant temp.
Varying
(16g/s:High load) Constant(8g/s)
Exhaust flow
Cold start test
(JE05 mode)
Steady operation test
Exist 0.14 20℃
0.62 -0.07
0.04 Recovery ratio
Not - Exist Exist
Condensate water
10℃
35℃
25℃
Coolant temp.
※Initial temperature
※
図4-7に示したNo.16のコールドスタート試験結果から,性能回復が起こる場 合,その期間は0sec~80secの運転開始初期であると推定した.この期間におけ る排ガスと冷却水の状態を5.3.3項~5.3.5項の定常運転による性能回復試験の条 件と比較したものを表5-5に示す.両試験の間で大きく異なるのは,運転開始時 の排ガス温度と,期間内での排ガス流量の最大値であることがわかる.まず排 ガス流量は,コールドスタート試験の 0sec~80sec の期間における最大流量は定 常運転試験時のおよそ 2 倍であった.排ガス流量が大きければ堆積物を離脱さ せる作用は当然大きくなると考えられる.また排ガス流量が大きいほど時間あ たりにEGRクーラ内に凝縮する水分量も大きくなる.従って低温の冷却水によ って凝縮水が発生し,かつ排ガス流量が大きいことが,性能回復の条件として 考えられる.4.1.2項において本研究のEGRクーラの場合,らせん溝の内部では 排ガス流速が遅くなるため,排ガス流れによるすすの堆積層からの離脱は起き にくいことを述べたが,凝縮水の存在によって堆積物と伝熱壁面の間の結着力 に変化が生じ,すすの離脱が起こり易くなる可能性も考えられる.また試験開 始時における排ガス温度については,コールドスタート試験時は性能回復試験 時に比べて低温であるため,こちらも前者のほうが排ガス中の水分が凝縮しや すい状況であったと言える.すなわちEGRクーラの性能回復には,冷却水温度 だけでなく排ガスの温度や流量も大きく影響していると考えられる.
Table5-5 Comparison of recovering test and cold start test
上記の考察を踏まえ,新たな条件で定常運転による性能回復試験を行った.
その試験条件を表 5-6 に示す.ここまでに行った No.52~No.54 の排ガス温度 220℃,排ガス流量8g/s,冷却水温度20℃~35℃の条件に対し,排ガス温度を50℃ に低下させた条件,排ガス流量を 16g/s に増加させた条件および冷却水温度を 0℃以下に低下させた条件を追加した.ここで排ガス温度50℃は性能回復処理の 初期の排ガス温度であり,運転時間の経過で上昇する.
性能回復処理としての定常運転試験を行う前に,5.3.5 項の試験と同じ条件で ホットスタートのすす堆積試験を10サイクル実施した.定常運転試験の手順は
20℃ 40℃
17g/s Cold start test
No.16
25℃ 220℃
Recovering test 8g/s No.54
20℃
220℃
Recovering test 8g/s No.52
Temperature of inlet coolant at the
begining of test Temperature of
inlet gas at the begining of test Maximum value of
exhaust gas flow
20℃ 40℃
17g/s Cold start test
No.16
25℃ 220℃
Recovering test 8g/s No.54
20℃
220℃
Recovering test 8g/s No.52
Temperature of inlet coolant at the
begining of test Temperature of
inlet gas at the begining of test Maximum value of
exhaust gas flow
排ガス入口温度が 220℃の場合は前項までと同様とであるが,排ガス入口温度
50℃で試験を開始する場合は次のように変更した.まず試験ラインにEGRクー
ラを設置後,エンジンの暖機を行う.このとき排ガスはバイパスを流れるため,
試験ラインの配管は常温のままである.次にエンジンを一度停止し,冷却水循 環装置によって試験温度に調整した冷却水の供給を開始する.その後エンジン を始動し,速やかにエンジン回転数2000rpm,軸トルク40Nmの条件で運転を開 始する.このアイドリングから負荷運転への切替え時点を定常運転試験の 0sec と設定した.また運転時間はおよそ500secとした.図5-13にNo.65の試験を例 として,定常運転試験時における排ガス温度と冷却水温度の時間変化を示す.
負荷運転開始時の排ガス温度はおよそ 50℃であり,冷却水温度は試験全体を通 しておよそ 20℃で一定に制御した.定常運転の終了後,ホットスタート試験の 第11サイクルを実施した.ホットスタート試験の第10サイクルと第11サイク ルの熱伝達率およびすす堆積前の熱伝達率から性能回復処理による回復率 R を 式(5-4)によって算出した.
Table5-6 Experimental condition of recovering tests
0 220
16 67
20 50
16 68
20 220
16 66
20 50
16 65
20 50
8 69
-5 -5 -5 20 35 25
Initial temperature of inlet coolant ℃
50 16
60
50 8
59
220 8
58
220 8
54
220 8
53
220 8
52
Initial temperature of inlet gas ℃ Exhaust flow
No. g/s
0 220
16 67
20 50
16 68
20 220
16 66
20 50
16 65
20 50
8 69
-5 -5 -5 20 35 25
Initial temperature of inlet coolant ℃
50 16
60
50 8
59
220 8
58
220 8
54
220 8
53
220 8
52
Initial temperature of inlet gas ℃ Exhaust flow
No. g/s
Fig.5-13 Temperature of exhaust gas and coolant
表5-6の中の4つの性能回復試験について,定常運転試験後に実施したすす堆 積試験第11サイクルにおける熱伝達率を図5-14に示した.すす堆積試験の第1 サイクルと第10サイクルの熱伝達率も併せて示しているが,定常運転験前の状 態は各サンプル間で差はないと考えられるため,代表として No.54 の結果を示 している.5.3.3 項で実施した定常運転試験のNo.54 の試験条件を基準として,
No.69は試験開始時の排ガス入口温度を下げた条件であり,No.66は排ガス流量
を増加させた条件となっている.また No.65 は排ガス入口温度と排ガス流量の 両方を変化させている.No.66とNo.69の結果から,排ガス流量の増加と排ガス 温度の低下は熱伝達率の回復を増大させることがわかった.また排ガス温度の 低下と排ガス流量の増加の両方を行った No.65 では,どちらか片方を行うより もさらに熱伝達率の回復効果は大きくなり,ホットスタート試験第 1 サイクル 相当にまで熱伝達率が回復した.
図5-15 は表5-6に示した各試験における熱伝達率の回復率Rを,性能回復処 理時の冷却水温度に対してプロットしたものである.また熱交換性能が繰返し 試験の第1サイクル相当まで回復した,No.21のコールドスタート試験における 回復率を併せて示している.回復処理後の熱交換性能の評価はホットスタート 試験 1 サイクルを単位として行うため,この値が回復率のおおよその上限とな る.回復率は性能回復処理時の冷却水温度の低下によって増大し,冷却水温度
を20℃から-5℃へと変化させた場合,回復率は5%~15%増大した.また排ガス
の状態が性能回復に与える影響は大きく,排ガス温度 50℃,排ガス流量 16g/s で行った試験では,排ガス温度220℃,排ガス流量8g/sで行った試験に対して回
復率が 30%~35%増大した.低い排ガス温度と低い冷却水温度は,伝熱面上で
0 50 100 150 200 250
-100 0 100 200 300 400 500 600
Operation time t sec
Temperature T ℃
Idling
Steady operation (2000rpm, 40Nm)
Tg_in
Tg_out
Tw_out
Tw_in No.65
凝縮水を発生しやすくし,さらにこれを維持する働きを持つと考えられる.第3 章で示したコールドスタート試験後のすす堆積層のかさ密度の増加は,凝縮水 によるものであると推測できる.また排ガスの流れはすすの物理的な除去に関 与していると考えられる.
定常運転試験では排ガス流量16g/s,排ガス温度50℃,冷却水温度-5℃の条件 で,最も回復率が大きくなりR=0.54であるが,JE05モードのコールドスタート 試験による回復率はこれよりも大きくR=0.62であった.このコールドスタート 試験の冷間運転期間(0sec~600sec)では,排ガス温度は 30℃~250℃,排ガス
流量は 6g/s~17g/s,冷却水温度は12℃~80℃の範囲で変化するが,これらは定
常運転試験での排ガスと冷却水の条件から大きく逸脱するものではない.した がって低排ガス温度と冷却水温度において,排ガスや冷却水の状態が変動する 運転モードの方が,定常の運転モードよりもEGRクーラの性能回復として好ま しいと言える.
Fig.5-14 Heat transfer coefficient after recovering test
Fig.5-15 Recovery ratio after recovery test -0.2
0.0 0.2 0.4 0.6 0.8
-10 0 10 20 30 40
R=0.62 (No.21 Cold start test)
Coolant temperature t sec
Recovery ratio R
Tg=220, wg=8 Tg=50, wg=8 Tg=220, wg=16 Tg=50, wg=16
Recovery ratio R
Coolant temperature Tc ℃ R = 0.62 (No.21 Cold start recovery)
0 50 100 150 200 250
1st 10th 11th_No.54 11th_No.65 11th_No.66
11th_No.69 Tgin= 50℃,wg = 8g/s
Tgin= 220℃,wg = 16g/s Tgin= 50℃,wg = 16g/s Tgin= 220℃,wg = 8g/s
Repetition number of JE05 mode testN
Heat transfer coefficient a W/(m2K)