第 5 章 EGR クーラの性能回復処理
5.4 まとめ
a function of flow direction, Applied Thermal Engineering, 29, 2335-2343 (2009).
[4] H. Teng et al:Physicochemical Characteristics of Soot Deposits in EGR Coolers, SAE International, No.2010-01-0730 (2010)
[5] D. Styles et al:EGR Cooler fouling - Visualization of deposition and removal mechanism, 17th Directions in engine efficiency and emissions research conference (2011).
第 6 章 結論
6.1 本研究の意義
EGR クーラはディーゼル自動車の NOx 低減対策としての役割を持つ熱交換 器であるが,排ガスを冷却するという用途から,伝熱壁面上にすすが堆積し,
熱交換性能が劣化するという問題を抱えている.この性能劣化を抑制するため には,すすの堆積を抑制することや堆積したすすを除去することが求められる.
本研究ではらせん溝付管を持つ多管式のEGRクーラを用いて,すすの堆積と 熱交換性能の劣化の関係を調査した.ホットスタートとコールドスタートによ るすす堆積試験を実施し,エンジンの暖気状態がEGRクーラの性能劣化に与え る影響を明らかにした.また冷間運転時に一度劣化した熱交換性能がすす堆積 前に近い状態に戻る性能回復現象について,その詳細を調べるために種々の試 験を行った.その結果,性能回復が起こる排ガスおよび冷却水の条件を見出す ことができた.これらの内容を以下に本研究の成果として示す.
6.2 本研究の成果
6.2.1 熱交換性能評価方法の確立
本研究では小型商用車用のディーゼルエンジンを用いて EGR クーラのすす 堆積試験を行った.すす堆積による熱交換性能劣化の評価手法として,JE05モ ード運転の繰返し試験を採用した.JE05モードのエンジン回転数と軸トルクの 目標値と計測値から運転精度を検証し,高負荷運転モードの期間においては設 定した目標値を良く再現しており,評価の指標として有用であるという結論を 得た.この結果から,本論文内ではJE05モードの高負荷運転期間である1470sec
~1640sec の平均値を用いて EGR クーラの熱交換性能を評価することとした.
またこの高負荷運転期間におけるエンジンから排出される排ガスの総流量はお
よそ50g/sであり,本研究で実施したすす堆積試験における排ガス流量は,EGR
率ではおよそ15%~50%の範囲であることがわかった.
すす堆積前の EGR クーラに対して高温の空気と冷却水を用いた熱交換性能 試験を行い,排ガスおよび冷却水温度と流量を様々に変化させて,熱伝達率を 計測した.この結果を無次元数であるヌセルト数とレイノルズ数の関係として 整理し,過去に報告された円管内の乱流に対する関係式とほぼ一致するという 結果を得た.
6.2.2 すすの堆積とEGRクーラの熱交換性能の関係
JE05モード運転1回を1サイクルとした繰返し試験によってEGRクーラの 熱交換性能の劣化挙動を評価した.運転開始時のエンジン暖機状態とEGRクー ラを流れる排ガスの流量を変えてすす堆積試験を実施し,それぞれの条件にお ける伝熱性能の変化を計測した.また排ガス流路内のすすの堆積状態を調べる ために断面観察を行った.その結果,ホットスタート試験とコールドスタート 試験ではすすの堆積状態と性能劣化度合いに大きな違いが見られた.ホットス タート試験では排ガス流量の増大とともに熱交換量および圧力損失が低下し,
すすの堆積質量も増加した.一方コールドスタート試験では排ガス流量によら ず熱交換量はさほど低下しなかった.すすの堆積質量もホットスタート試験と 比較して小さく,圧力損失は堆積試験前後においてほとんど変化しなかった.
また断面観察の結果から,ホットスタート試験ではコールドスタート試験と 比較してすすが非常に厚く堆積していることがわかった.ホットスタート試験 における圧力損失の低下は,すすが排ガス流路のらせん溝を埋めることで排ガ ス流れが平滑化したためと考えられる.また第 2 章で実施した排ガス流れ解析 結果との比較から,排ガスが流路壁面に衝突する部分で堆積層が最も厚くなり,
一方らせん溝の山頂のように流れの剥離が起きる部分では堆積層は薄くなるこ とがわかった.
両試験のすす堆積層厚みの計測からかさ密度と熱伝導率を算出したところ,
か さ密度 はホットスタート 試験 で 0.066g/cm3,コールド スタート 試験で
0.33g/cm3となり,両者の間に大きな差が見られた.一方熱伝導率はエンジンの
暖機状態によらず,およそ0.05W/(mK)と算出された.
次に溝形状がEGRクーラの熱交換性能に与える影響を評価した.排ガス流路 のらせん溝を浅くすることで,溝へのすすの堆積を抑制する狙いで評価を行っ たが,期待した効果は得られなかった.また形状 A(深溝・短ピッチ)に対し て形状B(浅溝・長ピッチ)のEGRクーラをでは熱交換性能の低下に伴い圧力 損失が低下したが,では圧力損失の変化を伴わずに熱交換性能が低下した.従 って圧力損失の低下から熱交換性能の劣化を検出可能である形状 A の方が,
EGRクーラの機能としては優れているとの結論を得た.
6.2.3 EGRクーラの性能回復条件
EGRクーラの性能回復のメカニズムについて,第2章では一般的な検討を行 い,第 4 章では過去の研究例や実験結果に基づく具体的な検討を行った.第 4 章で実施した性能回復試験では,JE05モードのコールドスタート運転を1サイ クル行うことによって,初期性能に近い値までEGRクーラの熱伝達率が回復す ることが明らかとなった.さらにこの時,運転初期の排ガス温度および冷却水 温度が低い 0sec~80sec の期間で性能回復が起きていることが推定された.ま
たコールドスタートによる性能回復時には,EGRクーラ内に堆積したすすの質 量が減少することがわかった.
すすの成分分析および示差熱分析においては,コールドスタート試験後のす す層にはSOFと炭化水素がホットスタート試験の場合より多く含まれているこ とがわかった.またすすの酸化分解温度がJE05モード運転時にEGRクーラに 流れる排ガス温度よりも高く,性能回復時の質量減少が酸化分解ではないこと がわかった.
第3章~第4章の実験結果から,冷間運転によってEGRクーラ内のすす堆積 層を凝集させる作用と堆積したすすを物理的に除去する作用が働き,伝熱性能 が回復したと推定した.
第5章ではEGRクーラの熱交換性能の回復条件について詳しく検証するため に,種々の排ガス条件および冷却水条件で性能回復試験を行った.エンジンの 運転状態と EGR クーラに流れる冷却水の条件を定常として性能回復試験を行 い,EGRクーラの性能回復が起こるためには,低い冷却水温度によって排ガス 流路内部に凝縮水が発生する必要があることを明らかにした.次に性能回復の 程度を表す熱伝達率の回復率 R を定義し,排ガスや冷却水の状態による影響を 定量的に評価した.その結果,排ガス温度の低下,排ガス流量の増加および冷 却水温度の低下によって,回復率が大きくなることがわかった.また定常運転 による回復率と JE05 モード運転のコールドスタート運転の回復率との比較か ら,排ガスや冷却水の状態が変動する後者の運転モードの方が,EGRクーラの 性能回復に適していることがわかった.
以上の結果から,本研究の結論として EGR クーラの性能回復策を提示する.
例えば EGR クーラを流れる排ガスと冷却水の温度が低い運転初期の段階にお いて排ガス流量をある程度多量に流すことや,負荷運転中に低温の冷却水を供 給することなどが考えられる.この様にエンジン運転状態や冷却水温度を制御 することで,EGRクーラの伝熱性能を回復させることが可能と考えられる.
6.3 結言
本研究を通してエンジンの暖気状態による EGR クーラの熱交換性能劣化挙 動の差異と,排ガス流路内のすす堆積層の差異との関係を明らかにすることが できた.また冷間運転によるEGRクーラの熱交換性能回復挙動について,排ガ スおよび冷却水の温度や流量の影響を明らかにし、EGRクーラの性能回復策を 提案することができた.ここで得られた知見をEGRクーラに堆積したすすの除 去技術として,製品機能へ応用することが今後の課題となる.