第 3 章 評価基準に関する先行研究
3.1 評価指標の考え方
3.1 評価指標の考え方
企業活動が生物多様性へ与える影響を評価するためには、そのためにどのような指標が必要かつ適切 であるかを検討する必要がある。現在存在している指標には、大きく分けて、①企業の環境経営努力(マ ネジメント)に関するもの、②企業活動が生物多様性や生態系に与える影響に関するもの、あるいは③ 地域の住民や先住民族の人々の生活や文化に与える影響に関するもの、の3つのタイプがある。以下で は、現在存在する指標を個別に見ていくが、最初に環境に関連する指標についての考え方をまとめた代 表的な例である、OECDが開発した環境指標と、ISO14000シリーズの中のパフォーマンス評価の指針
(ISO 14031)を見てみる。
3.1.1 OECD環境指標
OECDでは、加盟国における環境政策をレビューしており、そのための必要なツールとして環境指標 を定めている。以下は、その環境指標の開発、測定と利用に関する指針である。
OECD (2003) Environmental Indicator− Development, Measurement and Use
「OECD環境指標―開発、測定と利用」(仮訳)
過去30年間で、環境政策とそれに関連する報告活動は増加した。これは、公衆の環境問題に対する認識 が向上したことや、環境問題の国際的な側面が経済的・社会的な問題に関連していることによる。当初は、
環境に関する情報の必要性は、環境政策の定義と実施と、その環境状態への影響に関連していた。しかし、
環境政策の優先順位が高くなるにつれて、環境関係者だけでなく、他の公的機関、ビジネス、一般、環境 NGOその他のステークホルダーから、信頼でき、調和し、理解が容易な情報への需要が増えてきた。この 結果、政策の必要性と公共の情報の要求に対して対応できる環境情報を創出するようになった。
OECD 主要環境指標(Core set of environmental indicators)は、OECD加盟国と国際的な利用のた めに合意され、定期的に出版される。環境面での進展に関連する要素を追跡する最初のステップとして用 いられ、環境政策と環境パフォーマンスを測定するための主要なツールとなっている。この指標は、PSR モデルによって開発された。
PSRは、人間の活動が環境に対し圧力(Pressure)をかけ、その質と自然資源の状態(State)に影響を与え る。社会はこのような状態変化に対し、環境的、経済的、そして分野ごとの政策を通じ、認識や行動にお ける変化を通じ、対応する(Response)。PSRモデルは、このような原因と結果の関係に焦点をあて、
政策決定者や一般公衆が環境や経済などの問題が相互に関連していることを理解することを助けるもので ある(下図参照)。また、PSRモデルは、指標又は環境報告書の報告事項を選定して系統化し、政策決定 者と一般公衆の役に立ち、重要な事項が見逃されないようにするための手段である。
環境の圧力(pressures)は、人間の活動が環境(自然資源を含む)に対して与える圧力である。この 圧力には、直接の圧力(例:資源の利用、汚染物質や廃棄物の排出)だけでなく、間接的な影響(例:人 間の行動自体、環境の重要性の傾向やパターン)も含まれる。 環境圧力の指標は、生産と消費のパター ンに密接に関連している。また、しばしば、排出と資源利用の強度と、一定期間の関連する傾向や変化と を反映する。環境圧力指標は、国の目標や国際的な約束(例:排出量の削減目標)の達成に向けての進捗 を示すためにも用いることができる。
環境の状態(conditions)は、環境と自然資源の質と量に関するものである。そのため、環境状態は、
環境政策の究極の目標を反映する。環境状態指標は、環境の状況(state)とその変化を概観するために設 計されている。環境状況指標の例は、環境の媒体中の汚染物質の含有量、負荷限度の超過量、一定レベル の汚染物質や質的に劣化した環境へ暴露される人口と健康への影響、野生生物と生態系の状態と自然資源 の貯蔵量である。実際には、環境の状態を測定することは困難であり、大変費用がかかる。このため、し ばしば環境圧力が代替指標として測定される。
社会の対応(responses)は、社会が環境問題に対してどの程度対応しているかを示すものである。ま た、個別又は集団での、以下のことを意図した行動や対応に関するものである。
− 環境に対する人為的な負の影響を防止し、緩和し、若しくは適応する。
− 既に生じた環境の損害を止める、もしくは回復させる。
− 自然と自然資源を保存し、保全する。
社会的対応指標の例は、環境対策の支出、環境に関連する税や補助金、価格構造、環境に配慮した製品 やサービスの市場におけるシェア、汚染の減少率、廃棄物のリサイクル率、法執行や法遵守の活動であ る。実際には、指標は、多くの場合は、防止と管理手段に関するものである。予防的、統合的な手段を 示す指標は、得ることがより困難である。
圧力(Pressure)
間接的な圧力と駆動力 直接的な圧力 状態(State) 対応(Response)
経済、環境、社会 の主体
•行政
•家計
•企業
•地方
•国家
•国際 環境と自然の資
源 状態
•空気/大気
•水
•土地/土壌
•野生生物/生物 多様性
•自然資源
•その他(例:人間 の健康、アメニ ティ)
汚染物と廃 棄物発生
資源の利用
情報
社会の対応(意図ー行動)
情報
社会の対応
(意図一行動)
人間の活動
エネルギー
•輸送
•産業
•農業
•その他 [生産、消費、取 引]
OECD (2003)によると「環境状態は、環境政策の究極の目標を反映する」とあるように、生物多様性
の状態(野生生物と生態系の状態と自然資源の貯蔵量)を測定することは、生物多様性の保全やその構 成要素の持続可能な利用が実現しているかどうかを測定するための最も理想的なものである。しかしな がら、生物多様性の状態自体を測定することは、様々な理由から難しい。
OECD (2003)には、主要な環境指標(Key Environmental Indicators; KEI) として生物多様性が取り
上げられており、下記のとおり説明されている。
− 圧力(P):自然の状態からの生息地の改変と土地の転換
− 状態(S):既知の種に占める絶滅危惧種と絶滅種の数の割合、重要な生態系の地域
− 対応(R):国の領土における保護区の割合と生態系のタイプ別の保護区、保護されている種
3.1.2 ISO 14031 (1999) 環境マネジメントー環境パフォーマンス評価―指針
ISO 14031 (1999)は、環境マネジメントシステム規格の一つである環境パフォーマンス評価に関する 指針である。環境パフォーマンス評価は、組織の環境パフォーマンスが組織のマネジメントによって定 められた基準を満たしているか否かを判定するために、信頼ができて検証可能な情報を、いつでもマネ ジメントに提供する内部的なプロセスであり、ツールである(ISO 14031序文)。
ISO 14031 (1999)(環境マネジメントー環境パフォーマンス評価―指針)(抜粋)
(ISO 14031を翻訳したJIS Q 14031(2000)による)
環境パフォーマンスは、「組織の環境側面についてのその組織のマネジメントの結果」と定義される(2.7)。
環境マネジメントシステムの中では、結果は組織の環境方針、目的及び目標に対して測定されるのが一般 的である。
この規格では、環境パフォーマンス評価についての指標の、二つの一般区分を述べる。
・環境パフォーマンス指標(EPI-Environmental Performance Indicator)
・環境状態指標(ECI- Environmental Condition Indicator)
環境パフォーマンス指標(EPI)には、次の2種類がある。
− マネジメントパフォーマンス指標(MPI)は、組織の操業の環境パフォーマンスに影響を与えるマネ ジメント努力に関しての情報を与えるEPIの一種である。
− 操業パフォーマンス指標(OPI)は、組織の操業の環境パフォーマンスについての情報を提供するEPI の一種である。
環境状態指標(ECI)の(定義:局地的、地域的、国家的又は地球規模の、環境状態に関する情報を提供する 特定の表現(2.3)
備考:ECIは、組織がその環境側面の実在の影響又は潜在の影響をよりよく理解することを助け、それ によって環境パフォーマンス評価の計画及び実施の支援をする(3.1.2)。ECIは、環境への影響の尺度で はないが、ECIにおける変化は、環境の状態と組織の活動、製品及びサービスとの関係についての有益 な情報を提供できる(3.2.2.4)。
ECIの例(附属書A(参考)) 植物
− 局地的又は地域的に見つかる特定植物種の組織中の特定汚染物濃度
− 組織の施設から所定距離内での特定植物種の個体数
− 所定の局地的範囲における、全植物種の数、作物種の数・多様性
− 局地的範囲における特定種の生息地の質についての特定値
− 所定の局地的範囲における、植物の発育量の特定値、植物の発育状況の特定値 動物
− 局地的又は地域的に見つかる特定動物種の組織中の特定汚染物の濃度
− その組織の施設からのある所定距離内での特定動物種の個体数
− 局地的範囲における特定種の、生息地の質についての特定値
− 所定の局地的範囲における全動物種の総数
ECIは、環境状態についての情報を与える。この情報は、組織がその環境側面の実在の影響又は潜在の影 響をよりよく理解することを助け、それによって環境パフォーマンス評価の計画及び実施の支援をする。下 図は、一つの組織のマネジメントと運用、環境状態との間の相互関係を図示し、各要素にかかわる環境パフ ォーマンス評価指標の種別を明記する。
図 環境状態における、組織のマネジメント及び操業の相互関係
出所:ISO 14031 (1999)(環境マネジメントー環境パフォーマンス評価―指針)
•情報の流れ
•組織の操業に関する入力及び出力の流れ
•決定の流れ
組織(EPI)
環境状態 及びその 他情報源
組織のマネジメント(MPI)
組織の操業(OPI)
設備及び装置 入力
供給
凡例(程度):
出力 引き渡し
利害関 係者
3.1.3 環境省「事業者の環境パフォーマンス指標ガイドライン(2002年度版)」
環境省は平成15年(2003年)に「事業者の環境パフォーマンス指標ガイドライン(2002年度版)」 を策定した。ここでは、次の3つの指標を環境パフォーマンス指標として、ガイドラインを定めている。
しかしながら、生物多様性についての言及はない。
①オペレーション指標:
事業活動を実施することに伴う環境負荷を捉える指標。事業活動全体の物質・エネルギーのイン プット・アウトプットを把握するマテリアルバランスの考え方に基づき、事業活動の全体像が把握 できることに主眼をおいた指標の構成となっている。
②環境マネジメント指標:
事業活動に係る資源を管理・運用する手法・組織、事業者が実施する環境に関する社会貢献活動等 に関する指標。
③経営関連指標:
事業活動の結果としての経済活動や事業活動を行うための資源に関する指標。環境への影響を直接 示す指標ではないが、経済活動の単位当たりの環境負荷を低減していく必要があることから、それ らを把握するために必要な指標である。