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日本の動向

ドキュメント内 Bob Taylor (ページ 31-36)

第2章  生物多様性に対する企業の責務

2.4 日本の動向

  次に、日本における生物多様性保全の法制度と、その中で企業の責務についてどのような規定がある かを見てみる。

2.4.1 日本政府の定める企業の生物多様性保全に関する責務

1992年の環境と開発のための国連会議を契機に、これまでは自然環境保全と公害対策がそれぞれ別の 基本法で制定されていたものを統合し、環境基本法(1993年)が成立した。最初に、この基本法におい て企業の責務がどのように規定されているかを見てみる。

2.4.1.1 環境基本法(1993年)

  企業を含めた「事業者」の責務については、「基本理念にのっとり、その事業活動を行うに当たっては、

これに伴って生ずるばい煙、汚水、廃棄物等の処理その他の公害を防止し、又は自然環境を適正に保全 するために必要な措置を講ずる責務を有する」(第8条)とされている。ここでいう「自然環境」には、

多様な生態系や動植物種が含まれていることから、事業者が事業活動を行う際には、それによって影響 を受ける生物多様性については、その保全のための措置を講じることが責務であると解釈できる。

   

2.4.1.2 生物多様性基本法(2008 年) 

  2008年に議員立法によって成立した生物多様性保全に関する基本法であり、この法律は、環境基本法 の下位に位置づけられる。

生物多様性基本法には、事業者の責務として以下の二つが規定されている(第 6 条): 

−   事業者は、基本原則にのっとり、その事業活動を行うに当たっては、事業活動が生物の多様性 に及ぼす影響を把握する。 

−   他の事業者その他の関係者と連携を図りつつ生物の多様性に配慮した事業活動を行うこと等に より、生物の多様性に及ぼす影響の低減及び持続可能な利用に努めるものとする。 

なお、この「持続可能な利用」とは、「現在及び将来の世代の人間が生物の多様性の恵沢を享受すると ともに人類の存続の基盤である生物の多様性が将来にわたって維持されるよう、生物その他の生物の多 様性の構成要素及び生物の多様性の恵沢の長期的な減少をもたらさない方法(以下「持続可能な方法」

という。)により生物の多様性の構成要素を利用することをいう」(第2条)と規定されている。この中 で「生物その他の生物の多様性の構成要素の長期的な減少をもたらさない」ということは、生物多様性 の減少は仮に短期的には生じたとしても、長期的には減少をゼロとすることを目標とすることを意味し ている。

生物多様性基本法においては、基本原則として、下記を旨としなければならないことが規定されてい る(第3条)。

−  生物の多様性の保全は、①野生生物の種の保存等が図られ、②多様な自然環境が地域の自然的社会 的条件に応じて保全される。

−  生物の多様性の利用は、生物の多様性に及ぼす影響が回避され又は最小となるよう、国土及び自然 資源を持続可能な方法で利用する。

−  生物の多様性の保全及び持続可能な利用は、下記の方法により行う。

科学的知見の充実に努めつつ生物の多様性を保全する予防的な取組方法

事業等の着手後においても生物の多様性の状況を監視し、その監視の結果に科学的な評価を加 え、これを当該事業等に反映させる順応的な取組方法

−  生物の多様性の保全及び持続可能な利用は、長期的な観点から生態系等の保全及び再生に努める。

−  生物の多様性の保全及び持続可能な利用は、地球温暖化が生物の多様性に深刻な影響を及ぼすおそ れがあるとともに、生物の多様性の保全及び持続可能な利用は地球温暖化の防止等に資するとの認 識の下に行う。

  また、生物多様性基本法では、事業の計画段階から生物多様性に対する影響を調査、予測又は評価し、

その結果に基づき生物多様性の保全に適正に配慮するための必要な措置を講ずることを規定しており

(第25条)、これは、従来の環境影響評価が事業アセスメントと呼ばれているのに対し、戦略的アセスメ

ントを取り入れたものとして注目を集めている。

2.4.1.3 第三次生物多様性国家戦略(2007 年) 

  日本政府は、生物多様性条約を1993年に締結し、1995年には生物多様性国家戦略(第一次)、2002 年には第二次国家戦略を作成し、2007年11月には第三次国家戦略を策定した。

第三次国家戦略の中では、企業などの事業者の責務としては、以下のことが期待されるとしている。

−  生物多様性の保全に配慮した原材料の確保や商品の調達・製造・販売 

−  保有している土地や工場・事業場の敷地での豊かな生物多様性の保全、 

−  投資や融資を通じた生物多様性の保全への配慮、 

−  生物多様性の保全に関する情報開示 

−  社会貢献活動としての国内外における森林や里山などでの生物多様性の保全への貢献 

−  企業・公益法人の基金による生物多様性の保全を目的に活動するNGOへの支援 

−  政府や生物多様性条約締約国会議など国際的な組織が提供する生物多様性の情報に関心を持つ 

−  企業活動の中で形成されるネットワークを通じ、国内外の企業に生物多様性の保全と持続可能な利 用に関する取組を促し、連携してその推進に努めること

 

2.4.1.4  環境影響評価法(1997 年) 

  環境影響評価(環境アセスメント)は、開発事業が環境に及ぼす影響を事前に調査・予測・評価する ことにより、環境の悪化を未然に防ぐものであり、日本では、1997年に環境影響評価法が成立した。同 法による環境アセスメントの対象となる環境要素は、大気や騒音などの公害環境要素と動植物などの自 然環境要素に大別される。この自然環境要素には、生物の多様性の確保および自然環境の体系的保全と、

人と自然との豊かな触れ合いが規定されている。

表2-5  環境影響評価法における対象環境要素

大気環境(①大気質、②騒音、③振動、④悪臭、⑤その他) 水環境(①水質、②底質、③地下水、④その他)、 1 環境の自然的構成要素

の良好な状態の保持

土壌・その他の環境(①地形・地質、②地盤、③土壌、④その他)

植物 2 動物

生物の多様性の確保お よび自然環境の体系的

保全 生態系

3 人と自然との豊かな触 景観

れ合い 触れ合いの活動の場 廃棄物等

4 環境への負荷

温室効果ガス等

(出所)環境影響評価法に基づく基本的事項(環境庁告示第八十七号)別表

  「植物」及び「動物」に区分される選定項目については、陸生及び水生の動植物に関し、生息・生育 種及び植生の調査を通じて抽出される「重要種」の分布、生息・生育状況及び「重要な群落」の分布状 況並びに動物の集団繁殖地等「注目すべき生息地」の分布状況について調査し、これらに対する影響の 程度を把握するものとされている(環境影響評価法に基づく基本的事項)。

  「生態系」に区分される選定項目については、地域を特徴づける生態系に関し、(上記の植物及び動物 に関する)調査結果等により概括的に把握される生態系の特性に応じて、生態系の上位に位置するとい う「上位性」、当該生態系の特徴をよく現すという「典型性」及び特殊な環境等を指標するという「特殊 性」の視点から、「注目される生物種」等を複数選び、これらの生態、他の生物種との相互関係及び生息・

生育環境の状態を調査し、これらに対する影響の程度を把握する方法その他の適切に生態系への影響を 把握する方法によるものとされている(同)。

(環境保全措置)

    環境影響評価法に基づく環境アセスメントにおいては、事業者は「環境保全措置」を実施すること とされている。この「環境保全措置」は、対象事業の実施により選定項目に関わる環境要素に及ぶおそ れのある影響について、事業者が実行可能な範囲内で、その影響を回避し、又は低減すること、及び、

その影響に係る各種の環境保全の観点からの基準又は目標の達成に努めることを目的として検討される ものである。

  この場合、環境保全措置の検討にあたっては、環境への影響を「回避」し、又は「低減」することを 優先するものとし、これらの検討結果を踏まえ、必要に応じその事業の実施により損なわれる環境要素

と同種の環境要素を創出すること等により損なわれる環境要素の持つ環境の保全の観点からの価値を

「代償」するための措置(以下「代償措置」という。)を検討することとされている。

  なお、環境保全措置の検討にあたっては、環境保全措置についての複数案の比較検討、実行可能なよ り良い技術が取り入れられているか否かの検討等を通じて、講じようとする環境保全措置の妥当性を検 証し、これらの検討の経過を明らかにできるよう整理することとされている。

  森本ら(2001)は、このような環境保全措置(ミティゲーション)の理解を深めるために、道路事業 における考え方の例を示しているので、参考までに以下に引用する。

表2-6  道路事業における環境保全措置(ミティゲーション)の考え方の例

影響の種類 環境保全措置の例 環境保全措置の効果 区分 地形改変の最小化(工事用道

路等の設置位置の検討)

地形変更による生息地の消失・縮小を回 避・低減できる

繁殖期を避けた施工 騒音に敏感な種に対する影響を低減で きる

回避・低減 生息地の消

失・縮小

重要な動物種(卵のう等)の 移設

地形改変区域に生息する個体を他の場 所に移すことにより、種を保全できる

代償 生息環境の

質的変化

地下水の保全(透水壁の設 置、地下水路の確保)

水環境(地下水、伏流水等を含む)の変 化に伴う生息環境の変化を低減できる

回避・低減

(出所)森本ら(2001)

ここで注意しなければならないことは、環境影響評価法が対象とする事業は、規模が大きく環境に著 しい影響を及ぼすおそれがあり、国が実施し、または許認可等を行う事業に限定されていることである。

すなわち、法律で定める基準以下の小規模な事業には適用されないし(これに対しては地方自治体が条 例によって小規模の事業を対象とする例がある)、国が関与しない民間の事業には適用されない。従って、

企業などの事業者には、自主的に環境影響評価を行うことが期待されているところである。

2.4.2 環境経営学会

  環境経営学会では、持続可能な社会の構築に貢献する企業経営の持続的発展可能性を評価することを 目的として、サステイナブル経営格付けを実施している。なお、サステイナブル経営は次のように定義 されている:「企業は社会の公器であるとの認識の下に、持続可能な社会の構築に企業として貢献するこ とを経営理念の一つの柱と定めて経営を進め、社会からの信頼の獲得と経済的な成果を継続的に挙げる ことによって真の企業価値を高め、企業の持続的発展を図る経営」

企業経営者が目指すのは、一般に「企業価値の向上と持続的発展を遂げること」にあると考えられる が、この二つは「いずれも結果として成就すること」であるとし、、学会の格付けでは「成就するために 企業がとる手段とその過程が、学会が希求するサステイナブル経営の理念にそって、企業の統治をもっ て具現されているかどうか」を問い、診断するものであるとしている。

  評価は、戦略、仕組、成果(パフォーマンス)の各段階で行われる。分野としては、経営、環境、社 会の3つであり、その環境の中の一つの項目として「生物多様性の保全」がある。

  生物多様性に関する評価基準においては、企業のマネジメントの評価が中心となっている。

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