第 7 章 コスト面からの評価
7.4 医療機関原価計算の考察
7.4.1 診療科別原価計算の考察
第 5 章で述べた移動型クリニック車が巡回して得た診療データは診療科部門 別に仕分ける。そのデータに基づき原価計算をおこない診療別原価を算出する。
さらに、診療別原価を地域別に集積する。ここでは、診療科別に仕分けられた データを個別に原価計算を行なう際の原価計算につき述べる。
診療科別原価計算は、医業費用について診療科を単位として計算する方法で ある。表 7.2は医療費用を各診療科に固有の費用と診療科共通の費用診療に係る 費用とそれ以外の費用とに区分することによって、医療利益を段階的に表示し たものである(図 7.2)。この図表の形式をとる利点は、医療利益を段階的に示し、
結果を合理的に説明することである。貢献利益はその診療科に固有の費用を控
除した段階の利益であるが、よほどのことがない限り黒字であり、その診察科 固有の利益として示される。診療科利益は自科診療のために負担するコメディ カル部門の費用を控除した段階の利益であるが、ここは診療科の診察を支える コメディカル部門の利用の程度・方法によってプラスにもマイナスにもぶれる。
ここで、医業損益を段階的に示して、どの費用負担が自科の医業損益を圧迫 しているかを説明できれば、診療科別担当医者の納得も得やすくなると考える。
診療科別損益計算の結果を医療従事者、特に医師に示した場合、まず自分の診 療科の医療利益または損益の欄に注目する。そこが赤字であったら、すんなり と納得してもらえるかどうかが疑問である。どの計算前提・過程でそのような 結果が導かれたかについて説明を求められることは必至である。
移動型クリニック車で回収した診療データを診療科別に会計処理を行なうシ ステムを導入する際には目的を明確にしないと結果をうまく活用できない。
以下の表7.2 に診療科別収支計算結果の活用目的についてまとめた。
表 7.2 診療科別収支計算活用目的
診療別 収支計算
内部利用
経営意思決定目的 戦略的・投資意思決定目的 業務的意思決定目的
業績評価目的 利益管理目的 原価管理目的
外部利用 財務諸表作成目的
活用できない要因は、診療科別収支計算のプロセスを図 6.2に示す。活用でき ない要因が多岐にわたるため、収支計算にいたるプロセスに沿って、問題点を 考察、整理する。
導入の
意思決定
⇒
収支計算 の構築⇒
収支計算 の分析⇒
計算結果
の分析
⇒
分析結果 の活用⇒
次年度に 向けた 見直し
図 7.2 診療科別収支計算のプロセス
診療科別収支計算を活用できない最大の原因は、導入目的が明確化されていな い点にある。すなわち、診療科別収支計算は各診療科の業績評価と目標設定の ために利用することを第一義的な目標としている。全ての費用を各診療科に従 事した患者数に応じて配賦するという一般的な収支計算方法では、医療職全て が納得するまでには至らない。その主な要因は以下にある。
・配賦される原価が責任範囲と一致しない
一般的な原価計算では、算定した損益と管理責任者の損益責任範囲が
一致しない。例えば、前年度比病床利用率や手術件数も多い実績がでているに も関わらず、高額医療機器への投資により各診療科に配賦される原価が増えた 結果、前年度比で損益が悪化し結果的に評価は下がるケースが仮定される。
・多くの固定費の配賦計算が存在する
多くの固定費が配賦基準で各診療科に負担させられている。固定費を変動費 的な基準配賦すると、他診療科の変動要素が自診療科の損益に影響を与えてし まうという問題が発生する。例えば、検査費用を検査件数に基づいて配賦する 場合、前年度と同じ検査の実施頻度にも関わらず、他科の検査件数の増減によ り配賦される費用が増減してしまう。これは、当該診療科が実際に実施した検 査件数とのずれが生じ、各科に納得のいく配賦基準にはならないことになる。
各科より配賦基準に対する批判がたかまり診療科別収支計算方法の導入目的の 趣旨に反することとなる。
・評価が妥当ではない
結果の評価において、他の診療科との比較や経年比較というような評価の視 点しか持ち合わせていない点も挙げられる。異なる診療科との比較は、同じ前 提条件での比較が出来ないため比較する意味がなくなる。
・妥当な配賦基準での他科への配賦
管理可能な収益・費用のみを診療科へ配賦する。診療科にとって管理可能な 収益・費用のみを集計する。例えば、事務部門の人件費や建築物減価償却費は 各診療科に配賦しない。また、診療科に固有の固定費のみを直課、配賦も最低 限に留める。特定診療科でのみ利用される固定費を、当該診療科の責任原価と して直課するが、複数診療科で利用する固定費は各診療科が利用する機器の減 価償却費は各診療科には配賦しない。
このような方法で実施することにより、診療科別収支計算方式の理論的な矛 盾点を排除してゆく必要がある。病院や診療科における診療科別収支計算の位 置づけは、経営管理に利用するために任意に実施されるべきものであるため、
必ずしも全ての費用を配賦するというような一般的な原価計算方式ではなく柔 軟な発想が必要となる。