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第 7 章 コスト面からの評価

7.5 地域医療連携に基づくコスト・シミュレーション

7.5.2 患者医療費シミュレーション

費用:病院で設置する医療機器購入費 317,000 INRは全額借入とする。固定費(人 件費)はクリニック車が内科中心であるが、一次医療機関として病院・診療所は 小児科、産科があるので、内科の人件費の倍 114.4 万 INR を適応した。

収入:前提条件として稼働日数は 1 か月あたり 20日、1日当たりの外来人数40 人、診療時間 8時間とした。1日当たりの外来単価 40 INR として試算した。減 価償却率は定率法を適用し、国際基準法定償却率 0.369%耐用年数 5 年を適用。

割引率は金利6.5%、税率20%(2011年1月現在)より算出した5.2%を適用した。

これにより、クリニック車往診と全病院に医療機器を導入して通院を行う場 合の差額は 199.58 万 INR (例えば、病院・診療所 5 地区合計では 3,911.85万 INR

-981.95 万 INR=2,929.9 万 INR)と試算される。クリニック車の方が、補填金額

が多いことになる。これは、クリニック車等の医療機器の初期投資額の差額に よるものと考えられる。

画像診断料 20 INR×2(通院の場合)×α(回数)となる。

以上により、患者にとっては、移動型クリニック車による診断は交通費の節 減や時間の節約となる。さらに、移動型クリニック車から送信された診療デー タを地方拠点病院や都市部病院の複数の専門医がカンファレンス診断を加える システムを想定すると、最適診断が、都市部総合病院へ通院する場合よりも、

安価で得られる結果が予想される。

このように、資金計画や医療費節減の試算を踏まえると、途上国においては、

移動型クリニック車システムの方が、高品質の医療機器を、地域ごとの病院単 位で所有・管理するよりも、1 ヶ所に集中したシステムになり、コスト面でも盗 難防止を考えると安全面でも得策といえる。

(2) マルコフモデルによる地方村における医療費試算

次に地方住民の医療費をマルコフモデルにて試算する。

① マルコフモデルとは

マルコフモデルとは、モンテカルロ法の一部である。モンテカルロ法とは、

偶然現象の経過をシミュレーションする場合に、乱数を用いて数値計算をおこ ない、問題の近似解をうる方法である。具体的には、解析的には解くことがで きないあるいは解くことが難しい、偶然の現象や確定的な現象を、乱数とコン ピュターを利用して、実験的つまり数値的に解く方法である。

この方法では、対象とする現象のある部分が確率的である場合、この現象を 解析的に表現した数学モデルを作って分析・検討するのではなく、この現象を 数値的に表現したより簡単な数学モデルをコンピュターの中に作り、このモデ ルを数値的に計算して、その結果を分析・検討して近似的な結果を得る方法で ある。

さらに、モンテカルロ法は、解析的には解けない物理現象の問題をコンピュ ターへ利用して数値的に解く方法が生まれているほか、サービスを受ける顧客 とサービスを提供する側からなるシステムのサービスを検討する「待ち行列モ デル」のシミュレーションに、モンテカルロ法は使われている。現在ではコンピ ュターの活用により物理学、半導体工学、通信工学、生物学、生態学、経済学、

マーケテンング、社会心理学、交通工学、金融工学や医学経済学などの多分野 で活用されている。

このようなツールのなかで医療経済学では、モンテカルロ法のマルコフモデ ルが有効である。マルコフモデルの計算方法には、コホート単位で計算を行う 方法と、一人の患者のシミュレーションを何回も繰り返す方法の 2 種類がある。

コホート単位シミュレーションは、分析開始時に「無症候性キャリア」のステ ージに存在した 100 人のコホートが時間の経過とともにどのように他のステー ジに分布していくかを計算することより、費用や健康結果の推計を行う患者の シ ミ ュ レ ー シ ョ ン 方 式 は 慢 性 疾 患 の モ デ ル に 用 い ら れ る こ と が 多 い 。 健 康な 人々が翌年とりうる状況は健康、病態、死亡の3つであり、病態の人が翌年と りうる状況は病態の完治及び継続、死亡の3つとなる、という考えである。例 えば、健康体 100%が翌年健康体継続 60%、疾病率 20%、死亡率 20%との繰り 返しをシミュレーションする下図の通りとなる。医療費の積数計算を行なうこ とから、マルコフモデルでは疾病患者が完治し、健康体に戻るというケースは 考えず医療費がどの程度必要となるかを試算するシステムである。これにより、

マルコフモデルにより医療費の予想数字が算出できる(Frank & Robert(1993))。

健康体 健康体

病体 健康体

死亡

病体

死亡

2年目2年目 1年目1年目

病体 死亡

健康体

3年目3年目 0年目0年目

97.02 98.50

95.57

0.0004 1.47

1.45

0.0004

0.0004 1.47

単位(%)

図 7.7 マルコフモデルの説明図

② ジャイプール地区 ( Jaipur )

ここで、ジャプール市のマルコフモデルによる都市部及び地方部での医療費 を算出する。都市部と地方部の慢性病かかる医療費をモンテカルロ・マルコフ モデルシミュレーションによる分析を通して推計する(図 7.8)。データはアジア 研究所太田著インドの高齢者と生活保障システムに基づき、一人当たりの医療 費 を 地 方 村 380INR 、 都 市 部 525INR 、 ま た 、MHFW 作 成 の National Health

Profile2010 から疾病率 4.20%、死亡率 0.0002%として地域別マルコフモデルで

シミュレーションを行う(National Health Profile 2010)。人口は地方拠点都市ジャ イプール市の都市部 3.5 百万人、地方 3.2 百万人として試算する(Census of India 2011)(図 7.9、図 7.10)。

100

4.20

96

4

0年目 1年目経過 1年目結果

8.23

1年目から 4.20

92

8

2年目経過 2年目結果

95.8 91.98

4.03

4.20 4.20

疾病率4.2%

12.08

2年目 から 8.22

88 3年目経過3年目結果

12 3.86

12.08 88.12

8.23 8.22

0.0002 0.0002 0.0002 0.0002

死亡率 0.0002%

図7.8 マルコフモデルによるワークシート

0 50000 100000 150000 200000 250000 300000 350000 400000 450000 500000

Year one

Year two

Year three

Total

Population 3,500,000 Trend of

Monthly Medical costs Unit:1000 INR

図 7.9 ジャイプール都市部の医療費推移(3 年間)

0 50000 100000 150000 200000 250000 300000

Year one

Year two

Year three

Total

People 3,200,000 Trend of

Monthly Medical costs Unit: 1000INR

図 7.10 ジャイプール地方部の医療費推移(3 年間)

表 7.14 マルコフモデルのワークシート(ジャイプール市都市部) 単位 INR

生活習慣病 年間 月間医療費 患者数 費用

1年目 525 3,500,000 × 4.2%=147,000 77,175,000

2年目

1 年目か らの

繰越 525 3,500,000 ×4.2%= 147,000 77,175,000

2年目新規 525 3,353,000 ×4.2%= 140,826 73,933,650

3年目

1 年目か らの

繰越 525 3,500,000 ×4.2%= 147,000 77,175,000

2 年目か らの

繰越 525 3,353,000 ×4.2%= 140,826 73,933,650

3年目新規 525 3,212,174 ×4.2%= 134,911 70,828,275 年間平均費用:150,073,525 INR 合計 450,220,575

表 7.15 マルコフモデルのワークシート(ジャイプール市地方部)単位 INR

生活習慣病 年間 月間医療費 患者数 費用

1年目 380 3,200,000 ×4.2%=134,400 51,072,000

2年目

1 年目か らの

繰越 380 3,200,000 ×4.2%=134,400 51,072,000

2年目新規 380 3,065,600 ×4.2% = 128,755 48,926,900

3年目

1 年目か らの

繰越 380 3,200,000 ×4.2%=134,400 51,072,000

2 年目か らの

繰越 380 3,065,600 ×4.2% = 128,755 48,926,900

3年目新規 380 2,936,845× 4.2% = 123,347 46,871,860 年間平均費用:99,313,887 INR 合計 297,941,660

急性疾患のデータは取りにくいので生活習慣病の患者につきマルコフモデル で試算したところ、表 7.13、表 7.14 の通り、年間平均医療費はジャイプール市 の都市部 150 百万 INR と地方部 99 百万 INR と算出される。3 年間の個人医療費 は、都市部が 1,065 INR、地方部 420 INRと試算され、月間医療費は都市部る。

下層家族の月間収入は 5,916 INRで 1家族の平均人数が 5 人なので、一人当たり の 月 間 収 入 が 1,183 INR と 試 算 さ れ る(National Council of Applied Economic Research 2004-05)。

地方部での医療費:420INR/月間 貧困層の所得:1,183INR/月間

(出所: National Council of Applied Economic Research)

医療費は 貧困層の所得の36%近い⇒医療費にはマイクロ保険 が必要。

1,183 420

1,065

300 800 1,300 1,800 2,300 2,800 Lower Income

Upper Income Rural Area Urban Area

83000

Unit: INR/月間

図 7.11 地方部の医療費と生活費の比率

このように、都市部の富裕層は病院に通院や入院する機会は多いが、貧困層 の多い地方部では受診の機会は少なくなることがわかる。