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第 2 章 インドにおける医療制度整備の必要性と提案

2.2 インドにおける医療の現状と遠隔医療

2.2.6 インドの通信環境と院内通信

インドでの通信環境に多大な影響を与える IT 産業がが大きく台頭するように なったのは、1990 年代である。UCTAD の発表によれば、インターネット利用数 は、2000 年が 550 万から 2004 年は 3500 万に増加している。インドにおけるソ フトウェア産業は新しい産業であり、それを所管する官庁が当初から存在しな かったことが幸いし、従来の規制や圧力・束縛に煩わされず、インド産業の特 徴である企業と労働組合との対立という図式はあてはまっていない(UNCTAD ITU World Telecommunicaton Indicators2005)。

インドは 1990 年代末以降、IT サービスは急速な伸びを示しているものの、顧 客サ-ビス、財務、総務、コンテンツ開発が中心である。近年では、データ調 査・管理、マーケット・リサーチなど、高度の専門性を要求される知識プロセ ス・アウトソーシングが急成長する傾向にある。

人材育成については、インドの最大の強みは、毎年、IT 技術者を豊富に供給 できる世界的な人材大国であるということである。独立後、インドの高等教育 機関は着実に拡充され、1951 年に創立されたインド工科大学(Indian Institute of Technology、インドの 15 の工科系大学の総体)を始め総合大学数は 20 校から 272 校、また単科大学は 500 校から 1 万 4000 校に増加しているが、大学進学率 は 9%ほどである。先進国に比べると依然として低い水準にある。しかしながら、

特に IT 技術者の母体として、注目されるべきは工学系卒業生である。工学系の 年間卒業生数は 28 万 5000 人であり、このうち IT 専攻者(コンピュター科学、

エレクトロニクス、通信など)は 16 万 5000 人に及んでいる(20 ICT 04 年 3 月現在)。このように、当分の間インドでは IT サービス系の人材不足に伴う競 争力低下という事態は想定しにくい状況にあるといえる。多言語国家であり、

英国の統治下にあったことから英語が実質的に公用語となっておりインド人の 英語能力は高い。このことから、海外ジョブに容易にアクセスし易く、バンガ ロール市には日印共同のオフシショア開発センターが設立されている。

情報セキュリティーの面でもインドは、法治国として伝統が長く、他の開発 途上国に比べて、データ保護と知的所有権の分野で法制度はかなり整備された 状況にあるといえる。情報分野に関連した法律として、インド IT 法、インド契 約法、インド刑法、インド著作権法が制定されている。このうち、データ保護 など IT 関係全般にかかわる法律として制定されている法律が、2000年に制定さ れたインド IT 法である。それによって、電子記録、デジタル署名に法的効力が 付与されている。然るべき権限や許可なくデータにアクセスし、ダウンロード、

コピー、抽出をした場合には、刑事的責任を問われる。また、サイバー規制上 告法廷の役割が明記され、コンピュター・ネットワーク上の情報を攪乱、悪用 した場合に処罰の対象になる、といったことが新たに規定されることになった。

そして、企業は従業員との間で機密保持、守秘義務の取り決めを交わしている

(NASSCOM,2005,Chapter6)。

また、インドでのインターネット利用者数は拡大している。UNCTAD 発表の 利用者数は、2008 年度第 1 四半期に 438 万人であったのに対して、第 2 四半期 は 490 万人にもなっている。

さらに、携帯電話サービスは近年成長しており、インドの通信業界全体の成長 に貢献している。月 800 万人以上が携帯電話に加入している。2008 年度は携帯 電話のシェアは 2 年前比約 15%増となっている(財団法人日本データ通信協会 2009)。通信回線については、光ファイバー等の有線回線、無線回線等々が考え られる。光ファイバーの場合はコスト問題が課題となってくるので、現実的に は相当の年数を要すると考える。

病 院 ・ 診 療 所 の 院 内 で は ペ ー ス メ ー カ ー を 使 用 し て い る 患 者 を 考 慮 す る と

WiMAX などの無線回線の使用は難しく、有線回線が必要となる。個人情報保護

の観点からセキュリティーの問題も重要となる。州政府の通信環境によっては 拠点となる地方病院までは光ファィバーあるいは DSLを整備し利用するのが現 実的である。しかし、都市部のインターネット利用者は 1,000 世帯中 59.5 であ るのに対して地方農村部では 1,000 世帯中わずか約 3.5 である。地方農村部は 1,000 世帯中都市部 17 分の 1 の利用率となっている(JETROニューデリー、2013)。

さらに、インドには途上国特有の電力不足問題も内在している。都市部では インターネットの利用者が増えているが、一般社団法人海外電力調査会の報告 (2013)によれば、インドは、国民の 4 分の 1 人が電気を利用できないと状況に ある。2012 年にスタートした第 12 次 5 ヵ年計画では、2017 年までに 7,800 万 kW の電源開発目標を打ち立てている。一方で、電源開発は、資金調達、燃料調 達、用地取得の難しさ、関連手続きの煩雑さなどの問題から、大きく遅れをと っている。10 年間の発電設備容量の年平均伸び率は5%の規模にとどまってお り、経済の急成長に追いつけない状態と説明している。このような電力不足は 深刻で、年間の発電電力量や最大電力で 10%もの電力が不足している。停電は インド全土の各地で頻発している。特に、IT や自動車産業が集中し、電力需要 が大きい南部地域での不足率は 15から 16%とされる。この電力不足は安定的な 電圧を必要としている医療機器にとって、使用する上で、大きくマイナス要因 となっている。都市部と地方部との比較おいては、インターネットの普及率格 差に加えて電力供給不足と地方部は電力利用量でも劣っている。