第 6 章 数値シミュレーションによるディーゼル噴霧解析
6.1 低圧場噴霧における噴霧特性
6.1.2 計測結果を基準とした数値予測
第2章の図2.1に示されたように,KIVA3vを用いてディーゼル噴霧数値解析
Table 6.1 Injection and test condition
Injection pressure 40MPa
Injection period 0.87ms
Diameter of Injector hole 0.113mm
Ambient gas Air
Ambient pressure 0.1MPa
Ambient temperature 300K
48
を行った際のモデル定数は種々の値が採用されている.米国ウィスコンシン大 学エンジン研究センターの Reitz らのグループにおいては 2003 年から KIVA3v を用いたディーゼル噴霧数値解析が行われている.このグループから公表され た,Ricartら(49)のモデル定数を表6.2に示している.このモデル定数を用いて解 析を行い,第5章で述べたL2Fの計測結果と比較した.
Fig. 6.1 Computational grid
Table 6.2 Adjustable constant
B1 60
B0 0.61
CRT 0.1
49
図6.2は液滴速度とサイズの軸方向変化を示す.実線および破線はKIVA3vに よる解析結果を示す.KIVA3vにおいて算術平均速度およびサイズは,x - y平面 上に設置した噴霧軸を中心とする一辺が0.1mmの正方形の計測面積を通過する 液滴を用いて算出した.また,白丸および黒三角は噴射期間の間に L2F の計測 点を通過した液滴の算術平均液滴速度およびサイズを示す.z = 20および25mm において,液滴速度およびサイズは L2F の計測結果に比べて KIVA3v における 計算結果の方が過大に評価されている.
図6.3(a)は液滴速度の空間分布を示す.白丸がKIVA3vの解析結果を,黒丸が
L2Fの計測結果を示す.L2F計測による液滴速度が噴霧中心から外縁に向かうに つれ減少していることに対して,KIVA3vの解析結果は単調減少ではないものの,
おおむね L2F 計測と同様の傾向であることが確認された.しかし,いずれの計 測位置においてもL2Fの計測結果に比べてKIVA3vにおける解析結果の方が過
Fig. 6.2 Spatial distributions of velocity and size at spray center in the z-direction
; B1 = 10, CRT = 0.1
0 5 10
1520 25
0 50 100 150
200250 300
0 5 10 15 20 25 30
Size[µm]
Velocity[m/s]
z[mm]
Velocity(KIVA) Velocity(L2F)
Size(KIVA) Size(L2F)
50
大に評価されている.図6.3(b)はサイズの空間分布を示す.いずれの計測位置に おいても液滴サイズはL2Fの計測結果に比べてKIVA3vにおける解析結果の方
(a) Velocity
(b) Size
Fig.6.3 Arithmetic mean velocity and size; B1 = 10, CRT = 0.1, z = 25mm
0
50
100 150
200250
-3 -2 -1 0 1 2 3
Velocity[m/s]
x[mm]
L2F KIVA
0
5 10 15
2025
-3 -2 -1 0 1 2 3
Size[µm]
x[mm]
L2F
KIVA
51
が過大に評価されている.
図6.4(a)は液滴数密度の空間分布を示す.L2F計測による噴霧内の液滴数密度
(a) Number density
(b) Mass flow rate
Fig.6.4 Arithmetic mean number density and mass flow rate;
B1 = 10, CRT = 0.1, z = 25mm
0
10,000 20,000
30,000 40,00050,000
-3 -2 -1 0 1 2 3
Nunber density[ 1/mm3 ]
x[mm]
L2F KIVA
0 0.1 0.2 0.3 0.4 0.5 0.6
-3 -2 -1 0 1 2 3
Mass flow rate[mg/mm2 /ms]
x[mm]
L2F
KIVA
52
はおよそ 10,000 から 30,000 1/mm3であった.しかし KIVA3v による数密度は
2,000 1/mm3に満たない.これは図6.3(b)に示したようにKIVA3vの液滴サイズが
いずれの半径位置においても L2F の計測結果より大きい,つまり KIVA3v の計 算において噴霧全体で液滴の分裂が緩慢であることに対応すると考えられる.
図6.4(b)は質量流量の空間分布を示す.KIVA3vによる液滴速度やサイズの空間
分布が L2F の計測結果と大きく異なっているにもかかわらず KIVA3v による質 量流量の空間分布はL2Fの計測結果に近い分布を示した.これは,KIVA3vの噴 射量と実噴射量がほぼ等しく,また噴霧中心に質量が集中していること,さら に計測した噴霧幅とKIVA3vにおける噴霧幅がほぼ同じ値を示したためである.
以上のように,Ricartら(49)が提案するモデル定数を用いた場合,液滴サイズの 軸方向変化ならびに液滴サイズの半径方向の空間分布について,KIVA3vの解析 結果はL2Fの計測結果と大きく異なることが明らかになった.
噴霧特性向上を目的として,KIVA3vの液滴サイズ空間分布とL2Fの液滴サイ ズ空間分布が一致するようモデル定数を変更することとした.得られたモデル 定数を表6.3に示しており,表6.2に示した,Ricartら(49)らの値に対して.B1を 10から5へ,CRTを0.1から0.15へ変更した.
Table 6.3 Adjustable constant for atmospheric condition
B1 5
B0 0.61
CRT 0.15
53
図6.5は液滴速度とサイズの軸方向変化を示す.横軸はインジェクター噴孔か らの距離を示す.実線および破線はKIVA3vによる解析結果を,白丸および黒三 角は L2F の計測結果を示す.半径方向の液滴サイズ空間分布を一致させること
により,KIVA3vにおいてL2F計測によって得られた液滴速度とサイズの軸方向
変化を良く再現することができた.
図 6.6(a)は噴射期間中に計測された液滴を用いて算出した z = 25mm におけ
る算術平均液滴速度の空間分布を示す.KIVA3vにおける液滴速度は,L2Fによ る計測結果と同様に噴霧中心が最も速く,外縁に向かうに従い減少している.
また噴霧中心および噴霧外縁では L2F の計測結果に近い値を示した.図 6.6(b) は液滴サイズの空間分布を示す.x = ±1.0mmの範囲においてKIVA3vによる解 析結果と L2F の計測結果が良く一致しており,また KIVA3v の解析結果におい て,噴霧中心から外縁にかけて一度液滴サイズが減少し,外縁部で増加する傾
Fig.6.5 Spatial distributions of velocity and size at spray center in the z-direction;
B1 = 5, CRT = 0.15
0 5 10
1520 25
0 50 100 150
200250 300
0 5 10 15 20 25 30
Size[µm]
Velocity[m/s]
z[mm]
Velocity(KIVA) Velocity(L2F)
Size(KIVA) Size(L2F)
54
向が確認できた.
図6.7(a)は液滴数密度の空間分布を示す.KIVA3vによる解析結果とL2Fの計
(a) Velocity
(b) Size
Fig.6.6 Arithmetic mean velocity and size; B1 = 5, CRT = 0.15, z = 25mm
0
50 100 150 200 250
-3 -2 -1 0 1 2 3
Velocity[m/s]
x[mm]
L2F KIVA
0 2 4 6 8 10 12
-3 -2 -1 0 1 2 3
Size[µm]
x[mm]
L2F
KIVA
55
測結果は共に噴霧中心と外縁の間で最大値を示し,KIVA3vによる数密度の最大 値とL2F計測による数密度の最大値はほぼ同じであった.図6.7(b)は質量流量の
(a) Number density
(b) Mass flow rate
Fig.6.7 Arithmetic mean number density and mass flow rate
; B1 = 5, CRT = 0.15, z = 25mm
0
10,000 20,000
30,000 40,00050,000
-3 -2 -1 0 1 2 3
Number density[ 1/mm3 ]
x[mm]
L2F
KIVA0 0.2
0.4 0.60.8
-3 -2 -1 0 1 2 3
Mass flow rate[mg/mm2 /ms]
x[mm]
L2F
KIVA
56
空間分布を示す.L2Fの計測結果において噴霧中心に比べて噴霧外縁の質量流量 が低い.KIVA3vの解析結果においても同様に傾向が得られた.また,L2Fの計 測結果において質量流量はx = ±1.5mmの間に集中している.KIVA3vの解析結 果において質量流量はx = ±1.0mm の間に集中しており,L2F の計測結果より もやや狭い領域に質量流量が集中しているものの,L2Fの計測結果と同様に噴霧 内部に質量流量が集中する傾向を示した.
以上のように,KIVA3vにおいて液滴サイズ空間分布とL2Fの液滴サイズ空間 分布が一致するようモデル定数を変更することで,噴霧軸上の液滴速度と液滴 サイズが L2F の計測結果と良く一致することを確認した.さらに液滴数密度お よび質量流量の空間分布も L2F 計測によって得られたそれらと同様の傾向を持 つことを確認した.