第 6 章 数値シミュレーションによるディーゼル噴霧解析
6.2 高雰囲気圧力場
6.2.2 計測結果を基準とした数値予測
雰囲気圧力が大気圧の場合と同様にB1 = 5およびCRT = 0.15のモデル定数を用 いて解析を行った.この場合をOriginal caseと呼ぶこととする.モデル定数は表 6.3と同様である.
図6.8は液滴サイズの軸方向変化を示す.実線はz = 6mmおよび12mmのL2F による計測結果を結んだ線を示し,破線はKIVA3vによる解析結果を示す.それ ぞれ雰囲気圧力を1.0から3.0MPaまで変化させた.L2F計測によって得られた 液滴サイズはz = 6mmにおいて10µm程度であり,いずれの雰囲気圧力において も液滴サイズはz = 6から12mmの間で減少している.一方,KIVA3vによる解 析結果において,z = 6mmにおいて液滴サイズはいずれの雰囲気圧力においても
Table 6.4 Injection and test condition
Injection pressure 80MPa
Injection period 1ms
Diameter of Injector hole 0.113mm
Ambient gas Nitrogen
Ambient pressure 1.0, 2.0 and 3.0MPa
Ambient temperature 300K
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2µm以下であり,z = 6mm以降は液滴サイズの変化がほとんどない.L2Fによる 計測結果とKIVA3vによる解析結果が異なるため,雰囲気圧力が大気圧の場合と 高圧の場合ではモデルの変更が必要であると判断される.ここで,Reitz は式 (4.17)について,実験式である表面波の波長および表面波の成長速度を求め る際,ディーゼル噴霧のように液滴数密度が極めて高い状況を加味していない
(41)と述べており,具体的な対策が必要である.本研究では雰囲気圧力を大気圧 場から高雰囲気圧力へ変更するにあたり,次に示す3点について変更を行った.
これまでに著者は,雰囲気圧力が3MPaの場合,噴孔下流6mmの位置で噴霧 先端の平均液滴We数が,レール圧が80MPaのとき300 以上であり,レール圧
が120MPaのときにいたっては400以上であることを報告している(60).We数が
大きい噴霧ではBag breakupやSheet stripping breakup(61)のように大きな液滴から 小さな液滴が徐々に生成される分裂よりも,液滴が一気に分裂する Catastrophic
breakupを起こす分裂が起きる割合が多いと判断される.本研究では分裂後の液
Fig. 6.8 Measured and calculated size of droplets; Original case
0
5
1015
203 6 9 12 15
Size [μm]
Distance from nozzle exit [mm]
1.0MPa 2.0MPa 3.0MPa Pamb
L2F KIVA
59
滴サイズがほぼ均一であると仮定した.また,We数が高い場合,液滴の分裂が 活発であり,液滴同士が合体したとしても合体直後に分裂してしまうと考えら れる.高圧場に噴射された噴霧において液滴の合体がないものと判断し,計算 を行った.さらに,本研究では KIVA3v の液滴サイズ空間分布と L2F の液滴サ イズ空間分布が一致するようモデル定数B1を変更した.図5.12に示したように,
雰囲気圧力が増加すると液滴数密度は増加した.このとき噴霧内部では液滴間 の相互作用により相対速度が小さくなり液滴は分裂しにくくなると判断される.
液滴が分裂しにくくなることは分裂時間が長くなることを示すので,液滴の分 裂を支配するモデル定数であるB1を変更した.
噴霧画像から求められた噴霧先端到達距離と KIVA3v による解析結果を比較 することでモデル定数を決定した報告がある(42-45).図 6.9 はモデル定数 B1を 2 から 8 まで変化させたときの噴霧先端到達距離の変化を示す.実線は雰囲気圧
力が2.0MPaの場合における噴霧画像から求めた噴霧先端到達距離を示しており,
噴孔近傍において,B1 の変化が噴霧先端到達距離におよぼす影響が小さい.す なわち噴霧先端到達距離は B1を変化させても解析結果が変わらないため,液滴 サイズを考慮したB1を選定する必要がある.
図6.10は液滴サイズの軸方向変化を示す.雰囲気圧力は2.0MPaである.黒の
実線はz = 6mmおよび12mmのL2Fによる計測結果を結んだ線を示し,青およ
び赤の線は KIVA3v による解析結果を示す.2 から 8 までのモデル定数 B1の変 化に対して,z = 6mmの位置における液滴サイズは3µmから12µmまで変化し た.モデル定数 B1を変化させた時の液滴サイズの軸方向変化の内,L2F 計測に おける液滴サイズの値に近いのはB1が7の場合であった.雰囲気圧力が2.0MPa の場合,図6.10よりB1は6と判断できる.
60
液滴サイズの空間分布を基に決定したモデル定数B1を図6.11に示す.この場
合をModified caseと呼ぶこととする.横軸は雰囲気圧力を示し,1.0から3.0MPa
Fig. 6.9 Effect on adjustable constants for penetration length; Pamb = 2.0MPa
Fig. 6.10 Effect on adjustable constants for size of droplets; Pamb = 2.0MPa 0
3 6 9
12 15
0 0.02 0.04 0.06 0.08 0.1
Penetration[mm]
Time[ms]
Exp.
B1=3 B1=5 B1=7 B1=9
0 5
10 15 20 25 30
3 6 9 12 15
Size[μm]
Distance from nozzle exit[mm]
Exp.
B1=3
B1=5
B1=7
B1=961
まで変化させた.雰囲気圧力が高くなるに従い,設定された B1の値は大きくな った.
Fig.6.11 Effect of ambient pressure on B1; Modified case
Fig.6.12 Measured and calculated penetration; Modified case
0
2 4 6 8 10
120 1 2 3 4
B1
Ambient pressure[MPa]
0 5
1015 20
0 0.02 0.04 0.06 0.08 0.1
Penetration [mm]
Time [ms]
1.0MPa 2.0MPa 3.0MPa Pamb
L2F KIVA
62
図 6.11 のモデル定数 B1 を用いて計算したときの噴霧先端距離の時間変化を 図6.12に示し,雰囲気圧力を1.0から3.0MPaまで変化させた.丸印が噴霧画像 より求めた噴霧先端到達距離を示し,破線がKIVA3vによる解析結果を示す.い ずれの雰囲気圧力においても,KIVA3vによる解析結果は噴霧画像より求めた噴 霧先端到達距離に近い値を示している.雰囲気圧力が増加すると噴霧先端到達 距離が短くなることが再現されている.
図6.13は液滴サイズの軸方向変化を示す.実線はz = 6mmおよび12mmのL2F による計測結果を結んだ線を示し,破線はKIVA3vによる解析結果を示す.それ ぞれ雰囲気圧力を1.0から3.0MPaまで変化させた.いずれの雰囲気圧力におい ても,下流に向かうに従い液滴サイズが減少する L2F の計測結果を KIVA3v で 精度良く再現出来た.
図6.14はOriginal caseとModified caseにおける液滴数密度の空間分布を示す.
太い実線がOriginal caseを,破線がModified caseを示し,白丸がL2F計測によ
Fig.6.13 Measured and calculated size of droplets; Modified case
0
5
10
1520
253 6 9 12 15
Size [μm]
Distance from nozzle exit [mm]
1.0MPa 2.0MPa 3.0MPa Pamb
L2F KIVA
63
って得られた液滴数密度を示す.図6.8に示したように液滴サイズが過小評価さ
れた Original case の場合の液滴数密度は,L2F 計測による液滴数密度に比べて
100 倍以上大きな値を示した.それに対し Modified caseの場合,液滴数密度は L2F計測による計測値に近い値を示した.