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⑴ 「冒頭ゼロ計算」

争点

不当利得返還請求権の要件(損害,利得,因果関係,法律上の原因がないこと)のうち,

「法律上の原因がないこと」の主張立証責任につき…

原告が負うとの見解 ⇒ 当初貸付残高がないことを原告が証明しなければならない 被告が負うとの見解 ⇒ 当初貸付残高があることを被告が証明しなければならない ア 原告が負うとの見解に立ちつつ「冒頭ゼロ計算」を認めなかった裁判例

東京地判平17.5.24(後記⑵ア①と同じ)

「控訴人は,主位的主張として,平成5年2月3日現在の本件取引における元金の残高を0円とし て,それ以後の借入れと弁済に基づく不当利得の主張をすれば足りると主張している。しかしながら,

不当利得返還請求権における利得と損失の発生原因事実については,控訴人に主張立証責任があると いうべきであるから,本件取引のうち,一定時期以後の期間のみを取り出して主張立証すれば控訴人 として主張立証責任を果たしたと解する根拠はない。また,控訴人は,平成5年2月3日現在の借入 残高は,少なくとも0円であったと推認されると主張するが,このような事実上の推定が働くために は,少なくとも控訴人と被控訴人との間に一定期間の金銭消費貸借取引が行われていたこと,これに 基づき一定の利息制限法所定の制限利息を超える利息の弁済が行われてきたことが具体的な経過ま では別として一応推認できることを基礎として,これに対して利息制限法所定の制限利息を超過する

利息の弁済を元金の弁済に充当する計算すれば,前記のとおり具体的な取引経過が認定できない結果,

具体的な過払金の金額までは認定できないとしても少なくとも元金が完済され,過払金が生じている 可能性が高いということを推認することができなくてはならない。しかるに,本件取引においては,

控訴人の主張する取引経過は,別紙計算書のとおりであるところ,同計算書によると,これに対して 前記の利息制限法所定の制限利息の弁済を元金への弁済に充当する引き直し計算をしても平成5年2 月3日現在の元金残高は15万6590円であるとされている。したがって,本件においては,控訴 人主張の事実上の推定をする前提事実を推認することができないから,控訴人の主位的請求は失当で ある。」

イ 原告が負うとの見解に立ちつつ「冒頭ゼロ計算」を認めた裁判例

① 東京地判平16.3.31

「原告は,遅くとも昭和62年3月2日に貸金業者と取引を開始して以来,平成4年9月18日 まで5年あまりという長期間にわたって金銭消費貸借取引を継続してきたこと,その間,ほぼ限度 額一杯まで借り入れをしては,ほぼ毎月元利金の弁済をし,また借入れを繰り返すという取引経過 をたどってきたこと,その間の利息は,実質年率39.785パーセントと利息制限法所定の利率 を超えるものであったことを推認することができる。」「一般にこのような長期間にわたり,この ような状況の下で利息制限法所定の制限利息を超える部分を元本の弁済に充当していけば,元本を 全額弁済し,さらに過払金を生じることになると認められる。したがって,原告と上記貸金業者と の取引経過を詳細に認定することができない結果,原告が平成4年9月18日の時点で具体的に幾 らの過払金返還請求権を有していたのか認定することはできないとしても,上記のような制限超過 利息の元本充当計算によって原告の被告日する借入元本が完済され,過払金返還請求権が生じてい たことを推認することができる。」「したがって,原告主張のとおり,平成4年9月18日時点に おいて原告の上記貸金業者に対する残元本をゼロとした上で制限超過利息の元本充当計算を行うこ とには合理的な根拠があると考えられる。」「上記帳簿は仮にこれが存在していれば文書提出命令 の対象となるべき文書である。したがって,前記のとおり,被告がこれを存在しないと主張してい ることは,これが前記のとおり貸金業法施行規則に違反している疑いがあることと相まって訴訟上 の信義則に反すると評価せざるを得ない。以上によれば,本訴において,原告に対し,被告が取引 履歴を開示した部分よりも前の取引について貸付けと弁済についての具体的な主張,立証を求める のは相当ではなく,前記に挙げたような諸事情から平成4年9月18日の時点における原告の借入 金残高を控えめにみてゼロと認定することも許されるというべきである。」

② 東京高判平16.7.29(上記①の控訴審)

上記①の判決理由の記載を引用するほか,下記を説示して,上記①の判断を是認。

「控訴人は,控訴人の手元に残っている資料によれば,平成5年2月18日における貸付残元本 は31万5692円である旨主張し,顧客取引リストにはその旨の記載があるが,同リストによれ ば,その利率は実質年利39.785パーセントという利息制限法所定の利率を大幅に超えるもの であり,被控訴人は,これを支払い続けてきたのであるから,仮に平成5年2月18日における貸 付残元本が31万5692円であったとしても,その5か月前である平成4年9月18日の時点で 制限利息超過部分を元本に充当していれば,少なくとも借入金元本は完済されたものと推認するこ とができる。」

ウ 被告が負うとの見解に立ちつつ「冒頭ゼロ計算」を認めた裁判例

① 広島地判平16.8.3

「被告の主張が期間の初日現在の残高についてまで原告らが証明責任を負担すべきであるという ものであるならば,独自の見解であって採用できない。そのように解するときは,債務者において

債権の存在(正確には,より以前の債権の発生原因事実)について証明責任を負担することになる からである。したがって,期間の初日現在の残高については被告において主張立証すべきところ(こ れが請求原因に対する反証であるのか,抗弁に係る本証となるのかはともかくとして),これに係 る主張立証がない以上,同日現在の残高は存在しないもの,すなわち,原告らによる計算のとおり 0円であったとして以後の計算をするのが相当である。」

② 広島高判平17.4.6(上記①の控訴審)

上記①の判決理由の記載をそのまま引用して,その判断を是認。

③ 盛岡地判平16.12.27

「昭和63年5月18日現在で貸金債権が存在することについては被告に主張立証責任がある と考える

べきであり(そのように解さないと,債務者である原告が同日以前の債権の発生原因事実について 証明責任を負担することになる。),かかる主張立証がなされない以上,原告が主張するように,

昭和63年5月18日の時点では,債務残高を0円として以後の計算をするのが相当である。また,

このように同日時点において,貸付残高も過払金もいずれも存在しないものとして計算することは,

当事者間の公平の観点からも相当というべきである。」

⑵ 「推定計算」

手持ち資料によって取引履歴が再現されたとしてもあくまで推認に過ぎず、文書提出 命令に従わない場合の真実擬制を用いることにより取引履歴を認定する例が多い。

ア 文書提出命令に従わない場合の真実擬制により「推定計算」を認めた裁判例

① 東京地判平17.5.24(前記⑴アと同じ)

「・・・控訴人と旧レイクとの間の平成5年2月3日までの取引の内容についての控訴人の予備 的主張は,控訴人の陳述書及び控訴人本人尋問の結果によってもおおよそ事実に近いものと推認 できる。しかし,個々の具体的な借入れと返済の年月日及び金額についてまでは,これらによっ ても認定することはできないので,被控訴人が文書提出命令に従わないこととの関係について,

さらに検討する。

前記・・・のとおり,被控訴人は,上記の取引経過を記載した帳簿等の文書提出命令が確定しても これらを提出していない。弁論の全趣旨によれば,控訴人は,上記取引経過を客観的に示す文書 を保管していないため,上記文書提出命令によって提出を命じられた文書の記載に関し控訴人が 具体的な主張をすることは著しく困難であると認められる。また,上記の事情からみて,控訴人 は,当該文書により証明すべき事実(・・・)を他の証拠により証明することが著しく困難であると 認められる。したがって,民事訴訟法224条3項により,前記文書提出命令によって上記取引 経過についての控訴人の予備的主張(・・・)を真実と認めることとする。

② 大阪地判平17.1.25

「被告のような利息制限法を超える利息金利を収受している貸金業者から金員を借り受ける者 の中には,多重債務者となり,債務整理を余儀なくされるようになる者が多いことは公知の事実で あること,その際,債務者側が借入れ及び返済の証拠を保存しているようなことは稀であると考え

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