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先行する取引の終了時からは10年が経過しており、取引最終日を消滅時効の起算点と 考えた場合、先行する貸付け、弁済により発生した過払金については、消滅時効が完成し ているということになる。

但し、いったん発生した過払金が、その後の貸付けと相殺されないかという問題は残る。

民法508条によれば、時効によって消滅した債権がその消滅以前に相殺に適するように なっていた場合には、この債権を自働債権として相殺に供することができるとされている からである。

ただ、後続の取引に残債務がない場合には、相殺の対象となる債権が存在しないことと なるため、相殺の意思表示前に弁済その他の債権消滅事由により債権が消滅した場合、そ の後になってされた相殺の効力は生じないとされていることが問題となる。

① 横浜地判平成20年9月5日

◎ 第1取引と第2取引とは、ともにリボルビング契約であり店番・会員番号とも同一

の2口の取引について、利息や遅延損害金の利率・各回の最低弁済額・借入限度額等の 契約の重要な要素が異なること、1年2月の空白があること及び第2の取引が偶然に開 始されていることから充当の合意があったと推認できる特別事情がないとして一連計算 を否定。

◎ 過払金の発生事実を取引終了時に原告が認識していたかどうかには疑問もあり、権 利を行使することができる時(民法166条1項)をどのように解釈するかは問題があ るが,引き直し計算により、過払金が発生した年月日を「権利を行使することができる 時」とみるのが相当であるとして、第1取引の過払金返還請求権は時効消滅していると した。

◎ しかし、以下のように判示して、先行する取引の過払金(約132万円)をその後の 借入金との相殺における反対債権に供することができるものとして、結論的に一連計算 した場合と同一の結果を認めた。(第2取引単独でも約204万円の過払金)

(1) 債権が消滅した後になってされた相殺の意思表示が原則として効力を生じないこと は主張のとおりであるが、その効力の発生が否定される理由は、返済を受けた当事者の 期待を保護する点にあるというべきである。

(2 )ところで、本件のような過払金返還請求訴訟においては,利息制限法所定利率によ る引き直し計算を行い、いわば過去の弁済の効果を一部覆して計算をし直すものである から、弁済により債権が消滅しているという前提そのものが崩れており、過去の弁済に より債権が消滅したという事実を維持する必要はないことになる。また,問題の性質上 消費者金融業者である被告の期待を保護する必要性も否定される。また、過払金の有無 及びその額は,引き直し計算によって、初めて確定するものであるから、比喩的にいえ ば、相殺過状は,引き直し計算によって、初めて発生すると考えることもできないでは ない。その効果は過払金発生年月日に遡るとしても、以上の諸点を考慮すれば、意思表 示の時点で相殺適状が現に存在しなければならないとする原則は、この種訴訟では考慮 する必要はないと解する。

(3) なお、原告の相殺の意思表示は順次相殺という包括的なものであり,相殺充当の特 定性(額及び充当債権)に問題がないわけではないが、これも許されるものと解する。

そうすると、第1取引の終了時点で過払金(及び法定利息)が発生し、第2取引の開始 時点以降相殺適状を生じ、順次借入金債務に充当されることとなることから、結論的に は、第1取引と第2取引とを一連計算したのと同一の結果となる。

② 岐阜地多治見支判平成20年3月31日

先行する取引と後続の取引とは基本契約を異にする別個の取引であり、先行する取引 により発生した過払金を新たな借入金債務に充当することはできず、先行する取引によ り発生した過払金の返還請求権は、遅くとも、先行する取引の終了時点から10年を経 過したことにより消滅時効が完成するとし、また、時効が完成した過払金の返還請求権

と後続の取引の貸金債権との相殺につき、受働債権とされた後続取引の貸金債権は、相 殺の意思表示のなされる以前である同取引の終了時までに、全額、各弁済ないし引直し によって消滅したこととなるとし、借主の相殺の抗弁を排斥した。

もっとも、同判決は、継続的金銭消費貸借取引においては、過払金返還請求権の存否 は、借主にとって当該取引を継続すべきか否かの判断に当たり、重要な要素となってお り、後続取引の開始時点で、先行する取引により発生した過払金の存在を知っていれば、

借主はその返還を求める一方、後続の取引の借入を受けることはないのが通常であるか ら、後続の借入には、借主にとって、取引の可否を左右するに足りる重要な動機の錯誤 が存在したと認めるのが相当であり、この動機を十分知りうる立場にあった被告にその 表示の有無を争わせることは、信義則及び民法130条の趣旨に照らし不相当といわざ るを得ず、この動機は、被告に対し黙示的に表示されており、後続取引の各借入の要素 になっていたとして、錯誤により後続取引を無効とし、錯誤の結果、被告は後続取引の 各弁済金相当額及び従前から負担する先行する取引により発生した過払金の不当利得返 還義務を、原告は後続取引の各借入金相当額の不当利得返還義務をそれぞれ相手方に対 し負うことになるが、これについて対等額による相殺を認めた。

なお、中断期間は約8年間。

なお、相殺を認めると、結論的には、先行する取引と後続の取引とを一連充当計算したの と同一の結果となる。

第4 消滅時効が完成する場合のその他の処理

最終の貸付日から訴え提起時まで10年以上経過している場合 【最終弁済日(取引終了時)から訴え提起までは10年内】

(1)裁判例

① 前掲高松高判平成19年2月2日(添付資料10)

◎ 事案の概要

(1頁参照)

裁判所の判断:

消滅時効の起算点につき各過払金の発生時説に立ち、消滅時効が完成するとした上で、次 のように述べ、消滅時効の援用を信義則に反するとした。

(1) 約15年にわたって恒常的に過払いの状態が続いてきた

(2) (過払いが生じたあと)の借入金額と返済金額との不均衡には著しいものがある

(3) 被控訴人は,貸金業法の正当な解釈に従った措置を十分に講じることなく多額の金員を 取得してきた

(4) 被控訴人と控訴人(債務者)の立場・法的知識・能力の違い

(5) 被控訴人が,貸金の返還請求を続けることによって結果的に過払金の累積

などの事情にかんがみれば・・・被控訴人による消滅時効の援用を認めることは,誠実な債 務者に不利益を強いる一方で,貸金業法を遵守しなかった貸金業者に対して長期間に及 ぶ過払い状態の放置による不当利得の保持を容認することにつながるものであって,ク リーンハンドの原則に反し,信義にもとる結果をもたらすものとして許されない。

② 大阪高判平成17年1月28日(添付資料11※別紙省略

◎ 事案の概要

昭57.11.2 当初取引(100万円貸付)

複数回の貸付が予定されていたが、実際には以後新たな貸付なし 昭61.4.28 過払金発生(以後最終取引日まで過払状態)

平15.4.15 最終弁済日

裁判所の判断:

消滅時効は各過払金発生時から進行し、消滅時効が完成するとした上で、過払金の消滅時 効が完成したのは、貸金業者が長期(貸付時から約20年間、過払発生時点から約17年 間)にわたって支払を請求し弁済を受け続けてきたことによるものであり、本件の貸付金 は100万円にすぎないのに、貸付後貸金業者が借主に対して残債務の一括返済ないし早 期完済を請求した形跡はないことなどを挙げ、このような事情にもかかわらず、過払金の 一部の消滅時効を援用することは信義則に反する。

(2)検討(判タ1209号17~18頁)

ア 消滅時効の完成を認めた上で、その援用が信義則に反するとする上記大阪高判平成1 7年1月28日を事例判決であるとし、ただ、最終貸付けが訴え提起時から10年以上 前であり、かつ、最終貸付け後に弁済を受け続けたという場合に、いかなる事情があれ ば時効の援用が信義則に反するといえるかについては十分な検討を要するであろうと指 摘されている。

イ 他方、(取引終了時説の立場によれば、このような場合も消滅時効は完成しないことに なるが、)取引終了時をもって消滅時効が開始するとの見解に対しては、上述のように民 法166条1項の解釈論との整合性を検討する必要があるところ、このような場合、借 主は、貸金業者から既に貸付けを受けていないのであるから、借主が依然として貸付け

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