• 検索結果がありません。

本報告は、過払金返還請求権の法的性質についての検討を前提に、倒産手続(再生手続 及び更生手続を念頭にしている。)の各場面において、過払金返還請求権又は過払金債権 者が、どのように取り扱われ、どのような問題点を生じさせるかについて、近時の消費者 金融業者の破綻事例を基に考察を行うと共に、近時消費者金融業者が、顧客に対する貸金 債権を流動化して資金調達を行っている点に鑑み、消費者金融業者が破綻した場合の貸金 債権流動化及び過払金返還請求権の所在の帰趨についての考察を行った結果を取り纏めた ものである。

第1 倒産手続における過払金返還債権のポジション

1 過払金返還請求権の法的性質

(1) 不当利得構成

利息制限法所定の上限利率を超える利息及び損害金が支払われた場合、その超 過利息等は元本に充当され、元本完済後に支払われた弁済金については、不当利 得として返還を求めることができる(最高裁大法廷判決昭和 43 年 11 月 13 日民集 22 巻 12 号 2526 頁、最高裁判決昭和 44 年 11 月 25 日民集 23 巻 11 号 2137 頁)。

(2) 不法行為構成

貸金業者が消費者より過払金となる弁済金を受領する行為は、消費者の無知に 乗じ、適法に保持し得ない金員を収受するものというべきであるから、社会相当

性を欠く違法行為である(神戸地裁判決平成 19 年 11 月 13 日判時 1991 号 119 頁。ただし、本判決は貸金業法施行前の取引に関するものである1。)

2 過払金返還債権の倒産手続における取扱い

(1) 問題の所在

倒産手続開始決定前の原因に基づく倒産債権者に対する財産上の請求権は、原 則として、再生債権又は更生債権(以下、個別に又は総称して「倒産債権」とい う。)となる(民事再生法 84 条 1 項、会社更生法 2 条 8 項柱書)。倒産債権となれ ば、債権カットの対象となり、また、債権届出期間内に届け出なかった場合、原 則として再生計画認可決定の確定時又は更生計画認可決定時に、失権する(民事 再生法 178 条本文、会社更生法 204 条 1 項)。

そこで、消費者金融業者が倒産した場合において、その顧客が倒産手続の前後 を通じて当該業者との間で貸付と弁済を繰り返したことにより過払金が発生して いるとき、その過払金返還債権は「倒産手続開始前の原因に基づく」請求権となる のであろうか。ここでは過払金返還債権の発生時期と関連して問題となる。

ア 個別発生説

過払金返還債権は、「過払金が発生した都度、具体的な債権として発生す る」と考える立場であり、これによれば、倒産手続の開始決定時までに発生 した部分(既存過払金返還債権)については、倒産債権となる。

イ 取引終了時説

過払金返還債権は、「基本契約に基づく取引が継続される限り、不当利得 債権として顕在化しないのであり、取引終了時(今後基本契約に基づく新た な貸付が発生しないことが確定した時)に、具体的な一個の債権として確定 的に発生する」と考える立場であり、この立場によれば、取引終了時が開始 決定時より後であった場合、過払金返還債権は倒産債権ではなく、手続開

1 本判決は、「本件取引において、超過利息の支払が貸金業法により有効な利息の債務の弁済とみなさ れる余地は全くなかった。」「本件取引には貸金業法が適用されないことに照らせば、被控訴人が、

本件取引において、支払われた超過利息を利息ないし損害金として適法に保持する余地はなく、適 法な営業を前提とする限り、残元本があれば超過利息は元本に充当し、元本完済後の弁済金は不当 利得とする以外の計算を行うことは、およそ観念できなかったのである。」と判示されている点には 注意を要する。

始後に生じた不当利得返還請求権として共益債権にあたり(民事再生法 119 条 6 号、会社更生法 127 条 6 号)、その全額の返還を請求できることにな る。

(2) 裁判例

ア 大阪高裁判決平成 20 年 9 月 25 日

本件は、会社更正法の適用を受けたライフに対し、その顧客であった者が 過払金の返還を求めた事案(以下、この事案を「ライフ事件」という。)である が、裁判所は、前記「個別発生説」に立ち、既存過払金債権は、更生債権に該 当すると判示した。

すなわち、「会社更生法は、基準時における更生会社の債権債務を明確に したうえで、それを基にその事業の維持更生を図るため更生計画を立てるも のであるから、基準時前の債権債務と基準時後の債権とは同一の債権債務で はなく、被控訴人(註・顧客側)主張のように、基準時前の既存過払金返還債 権が最終的には基準時後に確定することがあるとか、既存過払金債権が基準 時後の債務に充当されるような考えをとることはできないし、同債権が更生 債権でないと解する余地はない。…過払金返還債権は、過払金が発生した 都度、具体的な債権として発生するのであって、被控訴人が、控訴人を悪 意の受益者として法定利息の発生を主張することや、新たな貸付への充当を 認めること自体、過払金が発生した都度、その返還を求める債権が具体的な 債権として発生することを認めていることに他ならない。」などと判示して いる。

もっとも、①ライフは、顧客が既存過払金債権について債権届出をするか しないかでその権利関係に大きな影響があることを容易に認識していたはず であるから、債権届出をしない顧客を債権届出をした顧客と同様の取扱をす るか、更生管財人において全国各紙に「ライフカードはこれまで通り使えま す」との宣伝をする際、過払金返還債権について債権届出をしないと失権す ることがある旨付け添えて説明すべきであったと考えられること、②本件よ り後に会社更生手続開始決定を受け、ライフと同じくアイフルがスポンサー となったティーシーエムは、既存過払金返還債権につき共益債権と同様の取 扱をしているのであるから、ライフにおいても、同じスポンサーを持つ ティーシーエムの上記取扱が判明した後は、免責の主張をしないのが筋の 通った態度というべきであること、などを理由として、ライフの免責の主 張は信義則に反するとした。

その結果、ライフの免責(失権)の抗弁は排斥され、既存過払金返還債権に

ついては、一般更生債権の最低弁済率 54.268%を乗じた金額が認容された (なお、基準時後の過払金返還債権については、これを請求できることは明 らかであると判示している。)。

イ 神戸地裁判決平成 20 年 2 月 13 日(アの原審)

前記「取引終了時説」をとり、原告(顧客)の請求を全面的に認めた。

すなわち、「本件取引は、同一の貸主と借主との間で基本契約に基づき継 続的に貸付と弁済が繰り返される金銭消費貸借取引」であり、「このような 継続的取引において、超過利息の弁済を繰り返すことによって過払金が生じ た場合、この過払金については、その後に発生する新たな借入金に充当する 旨の合意を含んでいるものと解される(最高裁平成 19 年 6 月 7 日判決参照)」

から、「取引が継続される限り、…過払金返還債権の額も変動し、これが確 定するのは、基本契約が終了した時点(新たな借入も弁済もしないことが確 定した時点)である」として、「このような過払金返還債権は、取引終了時 に、具体的な一個の金銭債権として認識可能な状態となると解される(すな わち具体的な金銭債権として顕在化する-発生する-と解される)」と述べ て、更生手続後も更生会社による貸付と弁済の受け入れが繰り返された本件 取引には、免責にかかる旧会社更生法 241 条(現 204 条)の適用はないと判示 した。

2 「手続開始後に生じた不当利得返還請求権」以外の共益債権にあたるか

「個別発生説」に立脚し、既存過払金返還債権を倒産手続開始前の原因に基づく請求 権と解したとしても、なお同債権が民事再生法又は会社更生法が共益債権として掲げ る請求権にあたれば、もとより共益債権となる余地がある。

以下では、前記ライフ事件において争点になった条項について、顧客側の主張内容 とそれに対する前記大阪高裁判決の判示を紹介する。

(1) 更生手続開始後の更生会社の事業の経営並びに財産の管理及び処分に関する費用 の請求権(会社更生法 127 条 2 号、同旨民事再生法 119 条 2 号)又は更生会社のた めに支出すべきやむを得ない費用の請求権で、更生手続開始後に生じたもの(会

社更生法 127 条 7 号2、同旨民事再生法 119 条 7 号)

前記ライフ事件において、顧客側は、「貸金業者は、真実は過払金が発生して いる顧客であっても、更生手続上は、貸金債権を有する顧客として取り扱い、こ うすることによって、債権者の配当を極大化するとともに事業継続が可能となっ たのであって、多数の顧客の過払金返還債権について、更生手続内で更生債権と して統一的かつ集団的に取り扱うことは全く予定されていなかったのであるか ら、その返還に要する費用は、更生手続上避けることのできない、やむを得ない 費用というべきである」旨主張した。

しかし、前記大阪高裁判決は、「既存過払金返還債権は、更生手続開始前の原 因に基づいて生じた財産上の請求権であり、更生手続開始後の会社の事業並びに 財産の管理及び処分に関する費用とはいえない」などとして、顧客側の主張を採 用しなかった。

(2) 双務契約について更生会社及びその相手方が更生手続開始の時において共にまだ その履行を完了していない場合において、管財人が債務の履行を請求する場合に 相手方が有する請求権(会社更生法 61 条 4 項、民事再生法 49 条 4 項)

ライフ事件において、顧客側は、「カード会員契約は、顧客に信用事故等が生 じない限りは、限度額の範囲内において、控訴人(註・ライフ)が顧客に対し立替 払あるいは金銭消費貸借に応じるべき義務を負わせる契約である」などとして、

既存過払金返還債権は、旧会社更生法 208 条 7 号(現 61 条 4 項)の適用又は類推 適用による共益債権となると主張した。

しかし、前記大阪高裁判決は、「本件取引は、金銭消費貸借取引、すなわち片 務契約たる金銭消費貸借契約に基づく取引であって、これが双務契約であること を前提とする被控訴人の主張は明らかに理由がない」として、その主張を容れな かった。

3 結 論

既存過払金返還債権を倒産手続開始前の原因に基づく請求権と解する以上は、同債

2 なお、ライフ事件は、旧会社更生法の事案であるところ、現行会社更生法 127 条 7 号に相当する旧 同法 208 条 8 号には「更生手続開始後に生じたもの」という限定規定がなかった。そこで、旧会社更 生手続においては本来は更生債権であっても、人道上又は事業継続上の強い要請から、共益債権と しての支払が許容される条文上の可能性を残していた。しかし、現行会社更生法及び民事再生法に おいては、前記限定規定を設け、明文でその可能性を排除したことになる。したがって、現行法下 においては、本争点について、会社更生法 127 条 7 号及び民事再生法 119 条 7 号が問題とされるこ とはないと思われる。

関連したドキュメント