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(1)裁判例

① 前掲鹿児島地名瀬支判平成18年6月6日

② 札幌地判平成18年1月27日

被告は、過払金の不当利得返還請求権について商法522条の短期消滅時効が適用な いし類推適用されないこと(最一小昭和55年1月24日参照)との均衡を主張するが、

過払金の不当利得返還請求権について商法522条が適用ないし類推適用されないのは、

同請求権には商事取引関係の迅速な解決のため短期消滅時効を定めたという同条の趣旨 が妥当しないからであり、この論理は、これと趣旨を異にする商法514条ないし民法 704条の解釈に直ちに妥当するものではない。

(2)検討(判タ1209号14頁)

上記昭和55年最判が10年説を採用したのは、消費者保護等の見地に立った利息制 限法の趣旨を踏まえたものであるから、利息については、消費者保護等の見地から商事 法定利率の適用を認めるべきとの見解もあり得るところである。同判例の調査官解説に おいても、過払金の消滅時効を5年にするか、10年にするかは、借主をどこまで保護 するかという利益衡量が決定的な要素であると指摘されている(篠田省三・昭55最判 解説(民)31頁)のも確かである。しかし、過払金の利率を年5分ではなく年6分に しなければ消費者保護に欠けるといえるかについては疑問なしとはしないし(過払金返 還請求権の存否そのものにかかわる消滅時効の問題とは質的に異なるのではないか。)、

同一の請求権について、商法514条は適用されるのに、商法522条は適用されない

とする合理的な根拠を見出すのは困難ではなかろうか。と指摘されている。

問題③:運用利益の返還

前掲最三小昭和38年12月24日とは事案を異にするとした裁判例

東京高裁平成17年7月21日

上告人が、前掲最判昭和38年12月24日(以下「昭和38年判決」という。)を引用 し、民法704条における「利益」にも受益者における運用益が含まれると主張したのに 対し、昭和38年判決は、銀行業者が不当利得した金銭を利用して得た運用利益について は、商事法定利率による利息相当額であり、損失者が商人であるときは、社会通念上、受 益者の行為の介入がなくても、損失者が不当利得された財産から当然取得したであろうと 考えられる収益の範囲内にあるものと認め、受益者が善意のときであっても、返還義務を 免れないと判示したものである。これに対し、本件においては、損失者である上告人は商 人ではないから、上告人が不当利得された財産から当然取得できたであろうと考えられる 範囲の損失は民法法定利率年5分の利息相当であると解すべきであるから、所論引用の昭 和38年判決は本件とは事案を異にするものであって適切でない。

この判例は、年6%の利息を認めない理由として『損失者が商人でないこと』を挙げて いるが、この判示からすると、損失者が商人の場合には、商事法定利率年6分と解する余 地のあることを示唆しているようにも解されると指摘されている(金法1761号44頁)。

第4 前掲平成19年最判後の下級審裁判例

利率の割合の問題は、最高裁判決をもって解決されたといえよう(金判1262号17 頁)。

もっとも、損失者が商人である事案において、民法703条により、年6分の割合による 利息相当額の返還を認めた裁判例がみられた。

長崎地裁佐世保支判平成19年5月18日

原告(損失者=有限会社)が、被告は原告に返還すべき過払金を他への貸付資金などし て運用することで年15%以上の割合で利益を得ているので、過払金とともにその運用利 益を不当利得として返還することを求めたのに対し、前掲最判昭和38年12月24日を 引用した上で、「被告が貸金業を営む株式会社であることを照らすと、被告は、原告の過払 金を受領した日の翌日から少なくとも商事法定利率である年6%の割合による利息相当額

の利益を得ており、かつ、同利益は現存していると推認される。そして、同利益について は、社会通念上、有限会社である原告においても、受益者である被告の行為の介入がなく ても当然取得することができた利益であると推認される。」として、年6分の割合による利 息相当額の利益の返還を認めた(もっとも、上記商事法定利率による割合を超える部分に ついては、社会通念上、被告の介入がなくてもそのような運用利益を原告も当然得ていた であろうとまでは認めがたいとした。また、原告が、予備的に、不当利得に関する損害賠 償として、過払金に対する年15%の割合相当額の支払を求めたことから、年6%を超え、

年15%までの範囲の支払を求める点について、予備的主張を検討しているところ、その 主張は、利息制限法所定の利率の範囲内における原告と被告との間の約定利息の支払をも って原告の損害とするものであるが、同利息の支払は原告と被告との消費貸借契約に基づ く支払であって、これを原告の損害とみることはできない旨判示した)。

※ なお、この判例は、利息相当額の返還を認める条文上の根拠を民法703条の「利益」

としている。そこで、この民法703条による利息相当額の請求のほかに、さらに民法 704条前段「利息」や同後段「損害」を請求することはできないだろうか。同判例で は、原告は、上記運用利益のほか、被告は悪意の受益者であるから、過払金に利息を付 した返還、及び、過払金の返還を請求した翌日からの遅延損害金についても求めたが、

次のように判示し、いずれも否定した。

ア 悪意の受益者の利息の付加返還義務について、

民法704条は、悪意の受益者は利得財産に利息を付加して返還すべきことを定めて いるところ、その趣旨は、利得財産から法定利息程度の付加利益が生じるのが通常であ り、損失者には同利益を得られなかった損失があるので、これを悪意の受益者に賠償さ せる点にあると解されるとし、原告は、被告に対し、過払金に対する年6%の割合によ る利息相当額の運用利益の返還を求めることができるのであるから、このような原告が、

被告に対し、運用利益と別個に、被告が悪意の受益者であることを理由に、同じく過払 金から生じる付加利益である法定利息(民法所定の割合によるべきである。)を請求する ことを認めることはできない。

イ 遅延損害金について、

民法704条は、「なお損害があるときは、その賠償の責任を負う。」として、悪意の 受益者が賠償すべき損害の範囲は、利得財産及びその利息(又はその利息相当額)を返 還してもなお損失者に損害がある場合の、その超過部分であることを明らかにしている。

ところで、金銭債権における利息は元本利用の対価であり、他方、遅延損害金は金銭債 権の履行遅滞に基づく損害賠償であって、両者は法律上の性質を異にするものの、金銭 債権の履行遅滞に基づく損害は、結局債権者が元本使用によって得ることができた利得

の損失にほかならず、両者は経済的な実質を同じくするというべきであり、法定利息の 付加返還義務を負う悪意の受益者の不当利得返還において、法定利率に基づく遅延損害 金が上記の超過部分にあたる損害としてなお存在すると認めることはできないとし、原 告の主張を排斥した。

以 上

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