• 検索結果がありません。

LIGHT EMITTING DIODE

3.2 蛍光体

このタイプに使用される蛍光体は、変換効率及び耐候性が高く、白色 LED として優れた発光効 率と寿命が得られる。しかし LED からの青色光と蛍光体からの黄色光の混合により白色光を得て いるために照明に使用する場合に演色性が低いことが課題となっている。また、LED からの青色 光の一部が蛍光体層を透過し、他の一部が蛍光体を励起して黄色の蛍光に色変換されてあらゆる 方向に発光するために、青色透過光と黄色蛍光の混色比が方位によって異なることが課題となっ ている。

(2)青色 LED チップと緑色蛍光体および赤色蛍光体を組合わせたタイプ

先のタイプの白色 LED の演色性を改善するために、黄色蛍光体の代わりに緑色蛍光体と赤色蛍 光体を用いたタイプである。緑色蛍光体には青色 LED チップの光を吸収して広帯域に緑色発光す る酸化物蛍光体 Ca3Sc2Si3O12:Ce(以下、CSS)や CaSc2O4:Ce が使用されている。また、赤色蛍光体 には窒化物蛍光体 CaAlSiN3:Eu が使用されている。やや短波長発光を示す(Sr,Ca)AlSiN3:Eu も 輝度を向上する目的で使用されている。

相対強度

波長[nm]

図 3.2.1-1 青色 LED と黄色蛍光体を組み合わせた 白色 LED の発光スペクトル(例)

0 10 20 30 40

400 450 500 550 600 650 700 750 波長/nm

発光強度

青色 LED

緑色 蛍光体

赤色 蛍光体

図 3.2.1-2 青色 LED と広帯域発光の緑色蛍光体と赤色蛍光体を

(3)近紫外 LED チップと青・緑・赤色蛍光体を組合わせたタイプ

このタイプは、発光色のばらつきを抑えるとともに演色性を上げるために、近紫外域に発光す る LED と青色、緑色、赤色の 3 色の蛍光体を組み合わせ、白色 LED を実現している。しかし、近 紫外励起蛍光体の発光効率が低いこと、更にはパッケージ材料の近紫外光劣化対策などが必要で あり、課題は青色 LED チップと黄色蛍光体を組み合わせたタイプより多い。

3.2.2 蛍光体の信頼性に影響を及ぼす因子

蛍光体の信頼性に大きく影響を及ぼす因子としては、湿度、熱、光があげられる。蛍光体には これらの輝度低下要因に対する耐久性が求められる。

(1)湿度

白色 LED の製作時や点灯時に蛍光体が曝される雰囲気中で蛍光体が分解して輝度が低下するこ とがある。一般に、母体結晶中でのアルカリ金属元素やアルカリ土類金属元素の構成比の高い蛍 光体は、雰囲気中の水分による劣化を受けやすい。また、構成する陰イオンによっても水分への 影響が異なり、酸化物は比較的水分で分解しにくく、酸窒化物・窒化物はやや良好で、硫化物は水 分で分解しやすい。

① 酸化物系

酸化物系蛍光体の中でも、Ce 付活黄色蛍光体 Y3A15O12:Ce や Tb3A15O12:Ce、及び、緑色蛍 光体 Ca3Sc2Si3O12:Ce などのガーネット構造を持つ蛍光体は、水分の影響をほとんど受け ずに安定に使用できる。また、CaSc2O4:Ce も水分に対して非常に安定である。

一方、アルカリ土類金属オルソシリケート黄色蛍光体の (Sr,Ca,Ba)2SiO4:Eu は、水分 使用した白色 LED の発光スペクトル

波長/nm

の影響を比較的受けやすい。

② 酸窒化物・窒化物系

酸窒化物蛍光体や窒化物蛍光体には水分の影響を受けにくい蛍光体が多い。例えば、窒化物 赤色蛍光体 CaAlSiN3:Eu は、その発光スペクトルが硫化物赤色蛍光体(Ca,Sr)S:Eu と酷 似しているが、CaAlSiN3:Eu は空気中の水分により分解することなく安定に使用できるた め、白色 LED や電球色 LED を作製する際にも雰囲気制御に特段の注意は不要であり、(Ca,

Sr)S:Eu では問題視される硫化水素などによる腐食の懸念もない。また、白色 LED 点灯時 の水分との反応もほとんど観察されず、耐湿性は極めて良好である。

③ 硫化物系

例えば、青色 LED 励起用赤色蛍光体の中の重要な蛍光体の一つとして、硫化物蛍光体(Ca,

Sr)S:Eu があげられる。この蛍光体は、460nm 近傍に励起帯があって青色 LED の発光で励起 され、発光波長 650nm に広帯域の赤色発光を示し、YAG 系黄色蛍光体だけでは不足する赤色 光を補って演色性を上げることができるため、高演色の電球色 LED を得るために使用される ことがある。しかし、この蛍光体は、空気中の水分と反応して硫化水素を発生して分解する ため、電球色 LED を製造する際には雰囲気中の水分を極力低減することが重要であり、また、

電球色 LED の耐久性を高めるためには、水分を遮蔽する封止方法を採用するなどパッケージ を工夫する必要がある。

(2)熱

高出力白色 LED など小さな空間で大量の熱が発生する環境では、蛍光体の輝度が低下すること がある。熱による蛍光体の輝度の低下には、二つの現象がある。

① 熱劣化現象

温度上昇により蛍光体の母体結晶が分解するか、もしくは、付活剤の価数変化により輝度 が低下する熱劣化現象がある。この場合には温度を下げても輝度が復元しない。

熱劣化現象は、通常 1000℃以上の高温で焼成されるものがほとんどの無機蛍光体について は、白色 LED の通常の使用条件である 200℃以下の温度において熱劣化はほとんど無視でき る。また、実装時に約 260℃で短時間の加熱がなされる際にも熱劣化はほとんど無視できる。

② 温度消光現象

図 3.2.2-1 に示すように、温度消光現象とは、白色 LED の点灯時に発生する熱で蛍光体の 温度が上昇し、輝度が低下する現象である。この場合は温度を下げれば輝度は復元する。

即ち白色 LED パッケージが十分に放熱されるように設計すれば輝度低下は防ぐことができ る。

ところで、温度消光現象は、ほぼ全ての蛍光体に観察される現象であり、それぞれの蛍光体で 温度上昇に伴う輝度低下の大きさが異なるため、蛍光体の発光効率の温度特性を測定し、白色 LED パッケージ中で蛍光体が受ける温度環境を考慮して、蛍光体を慎重に選択する必要がある。

白色 LED を照明用光源として使用する場合、十分な光量を得るために高い電流密度(大電流)で 駆動させる場合が少なくない。このとき LED チップからの発熱量も同時に増加するため、パッケ ージ温度は上昇する。蛍光体の高い変換効率を維持するためには、低熱抵抗のケースにヒートシ ンクなどを組み合せて LED チップの温度上昇、蛍光体の温度上昇を防ぐ工夫が必要となるが限界 がある。従って、温度上昇に伴う LED チップの発光量の低下率と、蛍光体からの蛍光量の低下率 が同程度となるよう配慮しないと、温度上昇により発光色が変化する場合がある。

温度消光現象は、蛍光体の結晶構造や蛍光体を構成する元素の種類によって大きく異なる。一 般的には、構成元素間の距離が比較的小さい酸化物蛍光体や窒化物蛍光体の温度消光が小さい傾 向にあり、その距離が比較的大きい硫化物蛍光体の温度消光は顕著に観察される。

青色 LED 励起黄色蛍光体の中では、酸窒化物系の Ca-αサイアロン系蛍光体の温度特性が良好 であり、オルソシリケート系黄色蛍光体や YAG 系黄色蛍光体がやや劣る。

また、窒化物蛍光体においても、結晶構造によって温度消光の度合いが異なる。構成元素間の 結合距離が短い結晶構造を持つ蛍光体は、温度消光が小さくなる。例えば、窒化物系赤色蛍光体 の中では、温度上昇に対する輝度の低下率について CaAlSiN3:Eu が最も小さく良好であり、

Ca2Si5N8:Eu が少し悪く、CaSiN2:Eu が最も劣る。

ところが、青色 LED で励起できる硫化物系緑色蛍光体 SrGa2S4:Eu や赤色蛍光体(Ca,Sr)S:Eu

(注2)

[%](注1)

図 3.2.2-1 青色 LED 励起黄色蛍光体と緑色蛍光体の輝度の温度特性 注 1) 相対輝度:25℃での輝度を 100%としたときの相対値

注 2) CSS:Ca3Sc2Si3O12:Ce

の温度消光現象は顕著であり、これらの蛍光体を使用する際には、白色 LED パッケージ内で青色 LED チップの点灯による発熱により、蛍光体がほとんど加熱されないように熱管理する必要があ る。白色 LED からの放熱が十分ではない場合には、蛍光体の輝度が低下するために白色 LED の発 光効率が低下するだけではなく、青色 LED チップや他の蛍光体との温度消光の差により白色 LED の色ずれも発生する恐れがある。

(3) 光

特にチップサイズに関係無く高電流密度(大電流)で駆動する場合、LED の表面輝度(光子密度) は非常に高くなるので蛍光体の光劣化現象が観察される場合がある。この現象は、低温条件や真 空中や不活性ガス雰囲気中において抑制される傾向にあるが、85℃程度の高温条件や相対湿度 85%程度の高湿条件での加速劣化試験においては顕著に観察される。

一般的に使用される黄色蛍光体(Y,Gd)3(Al,Ga)5O12:Ce(YAG)や、緑色蛍光体 Ca3Sc2Si3O12:Ce、

CaSc2O4:Ce などの酸化物蛍光体は、高温・高湿条件下でも光劣化は観察されない。また、CaAlSiN3: Eu などの窒化物蛍光体も光劣化はほとんど観察されない。これらの光劣化の少ない蛍光体は、そ の融点が比較的高く、その母体結晶を構成する元素間の結合が強固であると考えられる。

一方、酸化物黄色蛍光体であっても、アルカリ土類金属オルソシリケート(Sr,Ca,Ba)2SiO4: Eu は、高温・高湿下で光劣化を受けやすい。しかしながら、アルカリ土類金属の化学組成比を変 えることにより、緑色から橙色まで様々な発光を得ることができる便利な蛍光体である。

最後に硫化物蛍光体である緑色蛍光体 SrGa2S4:Eu は、狭帯域発光を示すためにディスプレイの 色再現範囲を拡げる緑色蛍光体として有望だが、水分の存在下では光劣化しやすく、LED 用には 不向きである。

3.2.3 信頼性改善方法

蛍光体の信頼性を改善する方法としては、前述の信頼性に及ぼす因子ごとに様々な事項があげ られる。ここでは、その中でも特に重要な改善方法である、蛍光体の化学組成、粒径、表面処理 について取り上げる。

(1)化学組成

蛍光体を構成する母体結晶を変更することは、最も確実な信頼性の改善方法である。蛍光体に 要求される励起波長帯や発光色や発光ピークの半値幅などの制約があるために、発光イオンとな る付活元素を変更することは難しい。しかし、発光特性を大きく変更することなく母体結晶を変 更することは可能である。

例えば、青色 LED の発光で励起可能な照明用赤色蛍光体を一例にあげると、Eu2+付活アルカリ 土類硫化物蛍光体(Ca,Sr)S:Eu は、耐水性が低く、温度消光が大きく、光劣化を受けやすい。

それに対して、Eu2+付活アルカリ土類窒化物蛍光体 CaAlSiN3:Eu は、発光イオンが同じ Eu2+であ りほぼ同様の励起スペクトルや発光スペクトルを持つが、耐水性が高く、温度消光が小さく、光 劣化を受けにくい。信頼性に関する両者の差は、硫化物と窒化物の差、すなわち陰イオンの違い による母体結晶の安定性の差と言える。

関連したドキュメント