スに死に、聖霊により蘇る」ということだ。これはかれらが帝国が破壊して失われ た不死の秘密を再発見したということを意味する。「帝国は終わっていなかった」
10. テュアナのアポロニウスは、ヘルメス・トリスメギストスの筆名で「上に あるものは下にあるものである」と述べた。これはつまり、われわれの宇宙がホロ グラムだと言おうとしたのだが、ホログラムということばを知らなかったのだ。
12. 不死なる者はギリシャ人にはディオニソスとして知られていた。ユダヤ人 にはエリヤ、キリスト教徒にはイエスとして。かれは、それぞれの人間宿主が死ぬ と次に移り、したがって決して殺されたり捕まったりすることはない。だから十字 架にかけられたイエスは「エリ・エリ・ラマ・サバクタニ」と語り、それを聞いて その場の数名は正しく「あの人はエリヤを呼んでいるのだ」と言った。エリヤはイ エスを去り、イエスは一人で死んだ。
この項目を書いていたその瞬間、ホースラヴァー・ファットも一人で死につつあった。
エリヤだか、一九七四年にあいつの頭蓋に山ほどの情報を発射した何やら聖なる存在は、
確かに去っていた。ファットが繰り返し自問した恐るべき質問は、日誌やトラクタテに書 き記されることはなかった。その質問はこんなふうに書ける。
聖なる存在がクリストファーの生まれつきの欠陥を知っていて、それを正すため に何かをしてくれたなら、なぜシェリーの癌については何もしてくれないんだろ う? どうして彼女をあのまま死なせちゃうんだろう?
ファットにはこれがわからなかった。彼女は丸一年も誤診を受けていた。なぜゼブラは その情報を、ファットやシェリーの医師やシェリー自身̶̶だれでもいいから送らなかっ たのか?
彼女を助けるのに間に合うときに送らなかったのか!
ある日ファットが病院のシェリーを見舞うと、病床の横に、にやけたバカが立ってい た。ファットもあったことのある阿呆だった。こいつはファットとシェリーが同居してい るときにふらふらやってきて、シェリーを抱きしめ、キスして愛しているというのだ̶̶
ファットなんかおかまいなしに。このシェリーの幼なじみは、ファットが病室に入ったと き、シェリーにこう言っていた。
「ぼくが世界の王様になって君が女王さまになったら、二人で何がしたい?」
これに対してシェリーは苦悶しつつこうつぶやいた。「あたしはこのノドのでき物を何
とかしたいだけよ」
ファットはその瞬間ほどだれかをぶっ飛ばしてやりたいと思ったことはなかった。同行 したケヴィンが、物理的にファットを押しとどめなくてはならなかったほどだ。
ファットとシェリーが実に短期間同居していた、あの孤独なアパートへの車中で、
ファットはケヴィンにこう語った。「オレ、頭がおかしくなりそう。もう我慢できないよ」
「それが普通の反応だよ」というケヴィンは、最近は皮肉屋のポーズを一切見せなくなっ ていた。
「どうして紙様がシェリーを助けてくれないのか、教えてくれよ」とファット。ケヴィ ンには釈義の進捗を伝えていた。一九七四年に紙様と会ったのは知っていたから、ファッ トも公然と話ができた。
ケヴィン曰く「それは大いなるプンタの謎めいたやり方なんだ」
「そりゃ何のこった?」
「ぼくは紙を信じない。大いなるプンタを信じてる。そして大いなるプンタのやり口は 謎めいている。プンタがなぜ何かをするか、しないかは、だれも知らない」とケヴィン。
「ふざけてんだろ」
「いやいや」とケヴィン。
「大いなるプンタはどっからきた?」
「大いなるプンタだけが知っている」
「善良なの?」
「そうだという人もいる。そうでないという人も」
「やろうと思えばシェリーを助けられた」
ケヴィン曰く「それは大いなるプンタしか知らない」
二人は笑い出した。
死が頭から離れず、シェリーについての悲しみと心配で発狂しつつあるファットは、ト ラクタテの第15項を書いた。
15. クーマイの巫女はローマ共和国を守護してタイミングよく警告を発した。
一世紀CEに彼女はケネディ兄弟の二人、キング牧師、パイク司教の暗殺を予見し た。この暗殺された四人の共通項を二つ見抜いた。まず、みんな共和国の自由を守 ろうと立ち上がった。そして第二に、みんな宗教指導者だった。このためにかれら は殺された。共和国はまたもやカエサルを戴く帝国となった。「帝国は終わってい なかった」
16. 巫女たちは一九七四年四月にこう言った。「陰謀家たちは見つかり、正義 が下されるだろう」。彼女はそれを第三の目、あるいはアジナの目、内省をもたら すシヴァの目で見た。これは外に向けられると、高熱を発射して吹き飛ばす。一九 七四年八月に、巫女たちの約束した正義が実現した。
ファットは、トラクタテにゼブラが頭の中に放射した予言的な声明すべてを書き記すこ とにした。
7. アポロの頭領が戻ってくるところだ。聖ソフィアが生まれ変わる。彼女は 昔は受け入れられなかった。仏陀は遊園にいる。シッダールタは眠る(だが目覚め る)。お前の待っていた時がやってきた。
これを聖なるものからの直接ルートで知っていたので、ファットは末日予言者となっ た。でも狂っていたから、トラクタテにはわけのわからないことも書き込んだ。
50. われわれのあらゆる宗教の原初的な源は、ドゴン族の先祖にある。かれら はその宇宙創生論と宇宙論を、はるか昔に訪れた三つ目の侵略者から直接得たの だ。三つ目の侵略者は口がきけず耳も聞こえずテレパシー能力があり、地球の大気 は呼吸できず、イクナアトンの引き延ばして変形した頭蓋骨を持ち、シリウス星系 の惑星から流出したものだ。手はないけれど、かわりにカニのようなハサミツメを 持っていたので、優れた建設者だった。かれらは密かに人類の歴史が有益な結末を 迎えるよう影響を与えている。
この頃にはファットは、ついに完全に現実から切り離されてしまったのだった。
第 7 章
ファットがもはや妄想と聖なる啓示とのちがいがわからなくなっていた理由は、ご理解 いただけるだろう̶̶この両者にちがいがあればの話だし、そんなちがいは一度も証明さ れたことがないのだけれど。あいつはシマウマがシリウス星系の惑星からやってきて、一 九七四年八月にはニクソンの圧政を打倒し、いずれ地球に平和な王国を設置して、そこに は病気も苦痛も孤独もなく、動物たちは喜びに踊るのだと想像していた。
ファットはイクナアトンの頌歌を見つけて、その一部を参考書から自分のトラクタテに 書き写した。
「(前略)卵の中の雛が卵の中でさえずるとき 汝は中の雛に息を与えその生を保つ。
汝が雛をまとめあげて 卵を破り出るまでにしたとき 雛は卵から進み出て
全力でさえずる。
そこから出で来たる後に 雛は二本足で動き回る。
汝の御業はなんと多様であることか!
それはわれわれの前からは隠されている
おお唯一紙よ、他にだれも持っていない力の保有者よ。
汝はまさに地を御心にしたがって創られ 汝自身は一人きり:
大小様々な仔牛である人間すべて 足であるきまわるすべて
高みにいて
翼で飛ぶものすべて。
汝は我が心の中におり 汝を知るものは
我が息子イクナアトン以外にはいない。
汝は彼を賢くして
汝の設計とその御意志を知らしめた。
世界は汝の手中にあり(後略)
第52項は、人生のこの時点におけるファットが、どこかに何らかの善があるという安
心感を少しでも支えてくれるようなものなら、手当たり次第に手を伸ばしていることを示 している。
52. われわれの世界はまだ秘密裏に、イクナアトンから生まれた隠された人種 に支配されており、イクナアトンの知識はマクロ精神そのものの情報である。
「あらゆる仔牛はその放牧場で安らぎ 草木は花開く
鳥は湿地で羽ばたき その翼は汝を讃えて開く 羊はみな立って踊り 羽持つものは飛び
汝が輝きを垂れるとみな活気づく」
イクナアトンからこの知識はモーゼに伝わり、モーゼから不死人エリヤへと伝わ り、かれがキリストになった。だがこれらの名前すべての下にあるのは、たった一 人の不死人である。そして・
わ・ れ・
わ・ れ・
こ・ そ・
が・ そ・
の・ 人・
物・ で・
あ・ る。
ファットはいまだに紙様とキリスト̶̶それ以外にもいろいろ̶̶を信じていた。でも なぜシマウマ(これはあいつ流の、全能の聖なる唯一者の呼び名)がシェリーの状態につ いてもっとはやく警告してくれなかったのか、彼女を治してくれなかったのか知りたいと 願い続けていた。そしてこの謎はファットの脳を攻撃し、あいつを狂った者に仕立て上げ ていた。
ファットは死を求めたことがあったが、なぜシェリーが死ぬに任されているのか、しか もひどい死に方をさせられているかが理解できなかった。
ぼく自身が進み出て、いくつか可能性を提示してもいい。生まれつきの障害に苦しむ少 年は、死にたいと思っていて悪意に満ちたゲームをしている成人女性とは、分類がちがう のだ。そのゲームは彼女の肉体的な相似物、つまり彼女の肉体を破壊しているリンパ腫と 同じくらい悪性だ。だいたい全能の聖なる唯一者は、ファット自身の自殺未遂を妨害する ために進み出たりもしていない。聖なる存在は、ファットが高純度ジギタリス49錠を飲 むに任せた。また聖なる至高者はベスがファットを見捨てて息子を連れ去るのも妨害しな かった。それはまさに、
しん
紙性示現による医学情報が与えられた息子だったのに。
三つ目で、手の代わりにハサミがあり、口がきけず耳も聞こえないテレパシー能力を持 つ侵略者たる異星からの生命体に関する言及に、ぼくは興味を覚えた。この話題に関し て、ファットは自然に小ずるい寡黙さを示した。あまりペラペラしゃべらないだけの分別 はあったのだ。一九七四年三月、紙様(もっと正しくはシマウマ)に会ったとき、あいつ は三つ目人たちについて鮮明な夢を体験した̶̶そこまでは話してくれた。三つ目人たち はサイボーグ存在として現れた。ガラスの泡に包まれて、大量の技術装備の下でよろめい ていた。変な側面があらわれて、ファットもぼくも困惑した。ときどき、こうした幻視の ような夢の中に、ソ連の技術者が見かけられ、その三つ目人たちを覆っている高度な技術 通信装置の故障を直そうと駆け回っているのだ。
「マイクロ波の心因性だか心機性だか呼び方はなんでもいいけど信号をお前に送った のって、ロシア人なのかもよ」とぼくは言った。ソヴィエトがテレパシーメッセージをマ