カリフォルニア州ソノマを訪れるのは何年ぶりだろうか。ここはワイン地方の真ん中に あって、三方を美しい丘陵に囲まれている。最も魅力的なのは町の公園で、町のど真ん中 に置かれており、古い石造の郡庁舎があって、アヒルのいる池に、昔の戦争時代から遺さ れた古い大砲がある。
この四角い公園を取り巻く小さな商店は、おおむね週末の観光客向けで、数々のガラク タめいた商品を売りつけて何も知らない連中をぼったくっているのだけれど、かつてのメ キシコ支配期から残る本当に歴史的価値のある建物がいくつか建っていて、ペンキも塗ら れ、その古代の役割を説明した銘板もかかっている。空気はいいにおいだった̶̶特に南 方からやってきた者にとっては̶̶だから夜ではあったけれど、しばらくそぞろ歩いてか らやっと、ジーノズというバーに入ってランプトン家に電話したんだった。
白いフォルクスワーゲンラビットに乗って、エリックとリンダ・ランプトンが連れだっ て迎えにきた。ぼくたち四人がジーノズでテーブルを囲んで、ここの名物であるセパレー タを飲んでいるところに会いに来てくれたのだ。
「空港に迎えにいけなくて悪かった」とエリック・ランプトンは、妻とテーブルのほう に歩きながら言った。明らかに、宣伝写真で見てぼくに気がついたのだった。
エリック・ランプトンはやせていて、長いブロンドの髪をしていた。赤いベルボトムと、
「クジラを救え」と書いたTシャツを着ていた。ケヴィンはもちろん一発でかれに気がつ いたが、バーの他の人もそうだった。呼びかけや叫び、あいさつなどがランプトン夫妻を 迎え、二人はあたりをにっこり見回して友人らしき人々にあいさつしていた。エリックと 並んだリンダは足取りが素早く、同じくやせていて、歯はエミルー・ハリスのようだ。夫 と同じくやせていたが、髪は黒くてとても柔らかく長かった。かなり洗い古したひざまで のジーンズをはき、チェックのシャツと、首にはバンダナを結わえている。二人ともブー ツをはいていた。エリックのはサイドブーツで、リンダのはショートブーツだ。
まもなく、ぼくたちはラビットにぎゅうぎゅう詰めになり、広い芝生のある比較的新し い家が並ぶ、住宅街を下っていった。
「オレたちはリピドン協会なんだ」とファット。
エリック・ランプトンは「私たちは
フ レ ン ズ・オ ブ・ゴ ッ ド
紙様の友だちだ」と言った。
ケヴィンは驚愕して荒っぽい反応を見せた。エリック・ランプトンを凝視したのだ。残 りのみんなはそれを不思議に思った。
「すると君はこの名前を知ってるんだな」とエリック。
「ゴッテスフロインデ」とケヴィン。「十四世紀までさかのぼる!」
「その通りよ」とリンダ・ランプトンが言った。「紙様の友だちはもともとバーゼルで結 成されたの、最後にはドイツとオランダに入ったわ。マイスター・エックハルトは知って
るのよね?」
ケヴィン曰く「紙様とは別の紙性を初めて考案した人物だ。キリスト教神秘主義者の最 高峰。人物が紙性との合一を実現できると教えた̶̶紙様が人間の魂の中に存在するとい う考え方を抱いていた!」ケヴィンがこんなに興奮しているのは初めて見た。「魂は本当 にありのままの紙様を知ることができるんだ! 今日そんなことを説く人はだれもいな い! そして、そして̶̶」ケヴィンはどもった。どもるところも初めて見た。「九世紀 インドのシャンカラ。かれもエックハルトと同じことを説いた。これはキリスト教を超え た神秘主義で、人は紙様の彼方に到達できるか、あるいは紙様と融合できるというもの だ。その紙様は、創造されたものではないある種の火花として、またはそれとともに融合 するんだ。ブラフマンだ。だからこそシマウマは̶̶」
「ヴァリスだ」とエリック・ランプトン。
「なんでもいい」とケヴィンはぼくに向き直り、興奮して言った。「これで仏陀や聖ソ フィアまたはキリストに関する啓示の説明がつく。これはどこか一つの国や文化や宗教に 限った話じゃないんだ。ごめんな、デヴィッド」
デヴィッドはにこにこしてうなずいだが、衝撃を受けているようだった。これがキリス ト教の正統教義でないのはわかっていた。
エリック曰く「シャンカラとエックハルト、同一人物だ。二つの場所に二つの時代に生 きていた」
半ば自分自身に向けてファットは言った。「かれはものごとが変わったように見せて、
それにより時間がたったように見えるんだ」
「時間と空間のどっちもよ」とリンダ。
「ヴァリスって何です?」とぼく。
「巨大活性諜報生命体システム」とエリック。
「それは単なる説明だ」とぼく。
「だってまさにそういうものだから。それ以外に何があるね? 神様が人にあらゆる動 物の命名をさせたような名前がほしいのか? 名前はヴァリスだ。そう呼んで満足しな さい」
「ヴァリスは人ですか? 神様? あるいは何か他のもの?」とぼく。
エリックもリンダもにっこりした。
「星からきたんですか?」
「いま私たちがいるここも、星の一つだ。太陽だって星だ」とエリック。
「なぞなぞですか」とぼく。
ファットが言った。「ヴァリスは救済者なんですか?」
一瞬、エリックもリンダもだまり、それからリンダが言った。「私たちは神様の友だち です」。それ以上、何も付け加えようとしなかった。
慎重にデヴィッドはぼくのほうを見て、目をあわせ、問いかけるような仕草をした。・ こ
・の・ 連・
中・
、・ は・
ぐ・ ら・
か・ し・
て・ る・
の・ か?
「それはとても古い集団だ。何世紀も前に滅びたもんだと思ってた」とぼくは答えた。
エリックが言った。「私たちは決して滅びてなんかいないし、君たちが考えるよりずっ と古いんだ。君たちが聞かされたより。尋ねられて私たちが語るより」
「じゃあエックハルトより昔にさかのぼるんですね」ケヴィンが鋭く詰問した。
リンダは言った。「そう」
「何世紀も?」とケヴィン。
答えなし。
「何千年も?」やっとぼくは言った。
「『高い丘は山羊が彷徨い、岩山は岩狸の隠れ家である』」とリンダ。
「それ、どういう意味です?」とぼく。ケヴィンも声をあわせた。二人で同時にしゃべっ ていた。
「ぼくはわかるよ」とデヴィッド。
「そんなはずはない」とファット。明らかにあいつも、リンダが引用したものがわかっ たのだ。
「『こうのとりはそのてっぺんに巣を作る』」しばらくしてエリックが言った。
ぼくに向かってファットは言った。「これはイクナアトンの種族だ。いまのは詩編104 章、イクナアトンの頌歌に基づいたものだ。それがオレたちの聖書に入っている̶̶聖書 より・
古・ い・
ん・ だ」
リンダ・ランプトンは言った。「あたしたちは醜い建設者でかぎ爪のような手をしてい るの。恥ずかしさのあまり身を隠しているのよ。ヘファイストスと共にあたしたちは台状 壁を作り、紙々自身の家を建てたわ」
ケヴィンは言った。「そう、ヘファイストスも醜かった。建築神なんだ。あなたたちは アスクレピオスを殺した」
「この連中はキュクロペスなんだ」ファットは消え入るような声で言った。
「その名は『丸い目』という意味だぜ」とケヴィン。
「でも私たちは三つ目だ。だから歴史記録にまちがいが行われたわけだ」とエリック。
「わざと?」とケヴィン。
リンダが言う。「そう」
「あなたたちはすごく高齢なんだ」とファット。
「うんそうだ」とエリックが言って、リンダもうなずいた。「すごくね。でも時間は本物 じゃない。少なくともあたしたちにとってはね」
「なんてこった。この連中は元々の建設者なんだ」
「一度も止めたことはない。いまでも造っている。この世界を造り、この時空間マト リックスを造った」とエリック。
「あなたがオレたちの創造者だ」とファット。
ランプトン夫妻はうなずいた。
「あなたたちは本当に紙様の友だちなんだ。本当に文字通り」とケヴィン。
「恐れないで。シヴァが片手をあげて、恐れるものはないと示すのは知っているだろう」
とエリック。
「でも恐れるものはある。シヴァは破壊者だ。シヴァの第三の目は破壊する」とファ ット。
「シヴァは回復者でもあるのよ」とリンダ。
ぼくによりかかってデヴィッドが耳に囁いた。「こいつら狂ってるの?」
こいつら神々なんだ、とぼくはつぶやいた。二人は破壊もして保護もするシヴァだ。・ か
・れ・ ら・
は・ 裁・
く。
恐れを感じるべきだったのかもしれない。でも感じなかった。かれらはすでに破壊は終 えていた̶̶映画『ヴァリス』に描かれたような形でフェリス・F・フレマウントを失脚