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第 14 章

ドキュメント内 ヴァリス VALIS (ページ 173-197)

新聞とテレビはマザー・グースの娘の死亡を報道した。エリック・ランプトンはロック スターだったので、当然なにやら後ろ暗い力がそこに作用していたというほのめかしが行 われた。育児放棄とか、ドラッグとか、その他各種の不気味なしろものだ。ミニの顔が映 り、それから映画『ヴァリス』からの要塞じみたミキサーの映像が登場した。

二、三日後、みんなそれを忘れた。テレビ画面には他の恐ろしいニュースが流れた。い つもながら。西ロサンゼルスの酒場が強盗にあって店員が撃たれた。老人が不適切な養老 院で死亡。サンディエゴ高速で車三台が材木車と衝突して炎上し、道路封鎖。

世界はいつも通り続いていた。

ぼくは死について考えるようになった。ソフィア・ランプトンの死ではなく、一般的な 死について、そしてやがては、次第に、自分自身の死について。

実は、それを考えたのはぼくではなかった。ホースラヴァー・ファットだった。

ある晩、あいつは居間のぼくの安楽椅子にすわり、コニャックを片手に、瞑想するよう にこう言った。「それが証明してくれたのは、オレたちがどのみち知っていたことでしか なかった。彼女の死がってことだぜ」

「そしてぼくたちが知ってたこととは?」とぼく。

「連中が狂ってるってこと」

「両親は狂ってた。でもソフィアはちがう」とぼく。

ファットは言った。「もし彼女がシマウマだったら、ミニのレーザー装置によるへまも 事前にわかったはず、それを避けることもできた」

「もちろん」とぼく。

ファットは言った。「そうだろう。彼女はそれを知っていたし、加えて――」とぼくを 指さした。勝ち誇った声だった。全面勝利の声。「それを避ける力もあった。ちがうか?

 フェリス・F・フレマウントを打倒できるんなら――」

「やめろよ」とぼく。

ファットは静かに言った。「最初っから要するに、高度なレーザー技術が絡んでいるだ けの話だったんだよ、ミニはレーザー光線で情報を送信する方法を見つけたんだ。人間の 脳をトランスジューサーとして使い、電子インターフェースを不要にする方法をね。ロシ ア人たちも同じことができた。マイクロ波も使える。1974年3月にオレはたぶんミニの 送信の一つを偶然に受信しちゃったんだろう。それがオレに放射されたんだ。だからこそ 血圧がやたらに上がり、動物たちが癌で死んだんだ。ミニもそれで死にかけてた。自分の レーザー実験が生み出した放射線のせいでね」

ぼくは何も言わなかった。言うことがなかった。

ファットは言った。「ごめんな。お前、大丈夫か?」

「もちろん」とぼく。

ファットは言った。「結局のところオレは彼女に話す機会がなかったんだよな、他のお 前らが話したほどは。あの二回目のとき、彼女がオレたち――協会――に使命を与えたと きにはいなかったんだから」

そしていまや、ぼくたちの使命はどうなるんだろう?

ぼくは言った。「ファット、お前また自殺しようとしたりしないよな? 彼女が死んだ からって?」

「大丈夫」とファット。

信用できなかった。ぼくにはわかる。あいつのことは、あいつ自身よりよくわかるん だ。グロリアの死、ベスに見捨てられたこと、シェリーが死んだこと――シェリーの死後 にあいつを救った唯一のものは、「第五の救済者」を探しに行こうという決意だけで、い まやその希望が潰え去った。他に何が残っているというんだ?

ファットはすべてを試した。そしてすべてが失敗した。

「またモーリスに会いに行ったらどうだよ」とぼく。

「あいつなら『本気だからな』と言うだろうな」。ぼくたち二人は笑った。「『自分がこ の世でいちばん望むもの十個を書くんだ。じっくり考えて書き留めるんだぞ、本気だか らな!』」

ぼくは「おまえ、何がしたいんだ」と言った。本気だった。

「彼女を見つけること」とファット。

「だれを?」

「知らんよ。死んだ子。二度と会えない子」とファット。

そのカテゴリーに入る子はたくさんいるぞ、とぼくはつぶやいた。悪いがファット、お 前の答えは曖昧すぎる。

「ワイドワールド旅行社で、あそこのお姉さんにもっと相談しよう。インドのことを。

インドがそこじゃないかって気がするんだ」とファットは半ば自分に向かって言った。

「そこってどこ?」

「かれがいるところだよ」とファット。

ぼくは返事をしなかった。しても無意味だ。ファットの狂気が戻っていた。

「どっかにいるはず。いるのはわかってるんだ、いまこの瞬間に。世界のどこかに。シ マウマがそう語ってくれた。『聖ソフィアが再び生まれる。彼女は――』」

ぼくは割り込んだ。「本当のことを言ってやろうか」

ファットは目をぱちくりさせた。「もちろん、フィル」

きつい声でぼくは言った。「救済者なんかいないんだよ。聖ソフィアは生まれ変わっ たりしない。仏陀は遊園にいない。アポロの頭領は復活しかけてなんかいない。わかっ たか?」

沈黙。

「第五の救済者は――」ファットはおずおずと口を開いた。

「忘れろ。お前、頭おかしいんだよ、ファット。エリックとリンダ・ランプトン並に狂っ てる。ブレント・ミニと同じくらい狂ってる。グロリアがシナノンビルから投身自殺し て、自分を炒り卵サンドに変えた時以来、八年ずっと狂ってるんだ。あきらめて忘れろ。

わかったか? お願いだから、たった一つそれだけ頼みを聞いてくれよ。ぼくたち・ み・

ん・ な

・の・ た・

め・

に、たった一つその願いを聞き届けてくれって」

ファットはだまりこくってから、やっと低い声で言った。「じゃあお前、ケヴィンに同 意するんだな」

「うん。ケヴィンに同意する」

「じゃあオレが続けるべき理由があるのか?」ファットは静かに言った。

「知るかよ。正直いって気にもしてない。お前の人生でお前のやることで、ぼくじゃな いんだ」

「シマウマがオレにウソをつくはずがない」とファット。

「『シマウマ』なんて、いねーんだよ。お前自身なんだよ。自分自身も見分けがつかない のか? お前だ、お前しかいないんだ。応えられていない願望を、グロリアが自分でくた ばってから、満たされない欲望を外に投射しただけなんだよ。その空虚を現実で埋められ なかったもんで、妄想で埋めたんだよ。実りのない、無駄な、空疎な、苦痛まみれの生涯 に対する心理的な補償なんだし、なんでやっといまそれを、ついにあきらめようとしない のかぼくにはわからんよ。ケヴィンのネコみたいだ。お前、バカなんだよ。最初から最後 までそれに尽きるんだ。わかったか?」

「オレから希望を奪うのか」

「何も奪ってない。もともと何もなかったんだからな」

「このすべてがそうなのか? そう思うのか? 本当に?」

ぼくは言った。「そうなのを知ってるんだよ、ぼくは」

「かれを探すべきだとは思わないのか?」

「一体全体どこを探す気だよ。どこにいるのか丸っきり、これっぽっちも見当がついて ないんだろうが。アイルランドにいるかもしれない。メキシコシティにいるかもしれな い。アナハイムのディズニーランドにいるかもしれない。そうす――ディズニーランドで 働いてるかもしれないぜ、ホウキ持った清掃人として。どうやって見分けるんだよ? ぼ くたちみんな、ソフィアが救済者だと思った。みんなそう信じたけど、それもあの子が死 ぬまでだった。あの子は救済者みたいに・

し・ ゃ・

べ・ っ・

た。証拠はすべてそろってた。徴もみん なそろってた。映画『ヴァリス』があった。二語の暗号もあった。ランプトン夫妻にミニ もいた。連中の話はお前の物語とも一致した。すべてが一致していた。それがいまや、ま たもや死んだ女の子が、またもや箱に入って地面の中だ――のべ三人になる。三人が何の 意味もなく死んだ。お前も信じた、ぼくも信じた、デヴィッドも信じた、ケヴィンも信じ た、ランプトン夫妻も信じた。特にミニは信じて、信じるあまりうっかり彼女を殺してし まったほど。それがいまや終わった。そもそも始まるべきじゃなかった――ちくしょう、

ケヴィンがあんな映画を観たばっかりに! さっさと自殺でもしてこい。もうどうでも いい」

「それでもひょっとしたらオレ――」

「できない。かれを見つけたりできない。わかってるんだ。お前にもわかるように、簡 単な言い方をしてやろう。お前、救済者がグロリアを蘇らせると思ったんだろ――な? 

かれだか彼女だかは、そうしなかった。彼女のほうも死んだ。蘇るどころか――」ぼくは あきらめた。

「じゃあ宗教の真の名前は、死なんだ」とファット。

「秘密の名前はね」とぼくも同意した。「その通りだ。イエスは死んだ。アスクレピオス は死んだ――ミニの殺され方はイエスよりひどかったけど、だれも気にもしないよ。だれ も覚えてさえいない。南仏ではカタリ派を何万人単位で殺した。三十年戦争ではプロテス

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