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蓄積の社会構造理論( SSA 理論)

ドキュメント内 はじめに (ページ 71-93)

第 2 章 資本主義の発展段階と世界システム 110 第1節 段階区分と段階移行

第4節 蓄積の社会構造理論( SSA 理論)

欧米のマルクス経済学では、長期波動(コンドラチェフ循環)論争やフランスのレギュラシオン 理論の戦後資本主義分析の中で、資本主義発展の理論(段階論)は言及されてはきた。アメリカの マルクス経済学(ラディカル派)ではこれらの研究と連動しながら、1980年代からの世界的な現代 資本主義の転換を解明しようとする問題意識から、「蓄積の社会構造」理論(SSA)がマルクス経済 学者によって研究されてきた。日本のマルクス経済学では「宇野三段階論」を中心として資本主義 発展の理論が論じられてきたが、欧米のこうした長期波動論やSSA理論については、「宇野三段階 論」の修正なり展開としてこれらの研究の成果を取り入れた若干の研究者の自説は提起されている が244、SSA理論については本格的に紹介されてこなかった。本節では、マルクス経済学の資本主義 発展の理論や長期波動論とSSA理論の関係、SSA理論の内容について紹介し検討しながら、SSA に依拠した段階論が21世紀初頭の現代資本主義の歴史的位相をどのように診断しているかを検討 する。

234 同上書、59~71頁。

235 同上書、85頁。

236 同上書、98頁。

237 同上書、104~7頁。

238 同上書、108頁。

239 同上書、113~125頁。

240 同上書、133頁。

241 ウォーラースティン『資本主義世界経済1』30~7頁。

242 同上書、104~6頁。

243 本多健吉・新保博彦編著『世界システムの現代的構造』日本評論社、1994年、の序章。

244 たとえば、新田滋「マルクス・宇野経済学と世界システム論」『情況』2002年4月号、新田滋

「<広義の段階論>序説―「資本主義」の超長期的循環と「資本主義社会」の生成・発展―」)『グ ローバル資本主義と段階論』(現代資本主義の変容と、第2巻)御茶の水書房、2016年3月、横川 信治(Working Paper Series)『ダイナミック産業と国際価値論』(「宇野理論を現代にどう活すか」

Newsletter、第2期第20号(通巻第32号)、2017年5月8日。

第 1 項 資本主義発展の理論と SSA 理論

1.20世紀初頭の資本主義の段階的転換と「マルクス後継者」たち―『金融資本論』と『帝国主義 論』

パックス・ブリタニカから帝国主義に移行する時期にイギリスは「19世紀末大不況」に陥ったが、

基軸国イギリスを追いかけていたドイツとアメリカ合衆国は真っ先に株式会社形態による重化学工 業化に成功し、資本主義は19世紀末から20世紀初頭にかけて独占資本主義・帝国主義段階に移行 し、新たな長期成長期を迎えた。この最新の資本主義の到来と高揚期をマルクスは予想できなかっ たが、マルクスの学説の適用可能性をめぐって第2インターナショナル内部においてドイツ社会民 主党を中心として国際的な論争が巻き起こった(修正主義論争)。論争は法則観(経済法則と自然法 則との違い)、恐慌と革命の関連、資本主義崩壊論の現実性などのマルクス主義全般におよんだ。ベ ルンシュタインに代表される修正主義派は、マルクスの恐慌激化論を否定し、資本家階級と労働者 階級への「両極化」を否定し、階級闘争の消滅と国家の平和的利用可能性(国家の道具説)を主張 した245。マルクスの正当性を全面的に主張し反論したのはカウツキーに代表される正統派であった。

しかしその反論は、資本主義が段階的に大きく構造的に変化したことを無視して、全面的に『資本 論』が適用できるとする「基底還元主義」であった。独占資本主義は資本主義一般の性格と段階的 な特殊性とを同時に持っている以上、修正主義派のように変化した面を全面化してマルクスを否定 するのも、正統派のように変化を一切認めないでマルクスに全面的に依拠しようとするのもともに、

誤りであった。段階移行した最新の資本主義において、どの面で変化がありどの面で資本主義一般 の理論(『資本論』)が貫徹しているのか、いいかえれば独占資本主義・帝国主義段階における資本 主義一般理論の変容論を展開しなければならなかった。最新の資本主義の構造的変化を体系的に分 析したヒルファディング『金融資本論』とレーニン『帝国主義論』によってはじめて、「修正主義論 争」は終止符が打たれた。

(1)ヒルファディング『金融資本論』(1911年)

ヒルファディングは最新の資本主義の変化を、銀行の積極的役割や資本形態の個人資本から株式 会社への変化を重視し、自由競争の排除と企業合同への変化として説明した246。そして株式会社の 発達とともに銀行の支配が拡大したと認識し、金融資本を産業資本に転化している銀行資本と定義 した247。しかし、産業独占と銀行独占のどちらが支配的なのかは国や時代によって変化するから、

本書では両独占の融合・癒着とするとするレーニンの金融資本概念を継承する。

金融資本は経済的に国内を支配するだけではなく、支配階級の統合と国家との結びつけを強める こと(金融寡頭制支配)をヒルファディングは分析する。労働者階級を抑圧するために土地所有と の同盟関係を作り、新中間を自陣営に引き込むことに成功する。世界市場に向っては、国内の独占 資本の独占価格と操業度(稼働率)を維持するために関税政策を張り巡らせ、輸出圧力をかける。

商品輸出だけではなく、原料獲得競争のための植民地の再分割を求めて攻撃的な資本輸出が志向さ れる。こうした帝国主義的抗争の最終的可決手段を軍事力に求め、国内では労働者階級やさまざま な中間階級との「域内平和」を作るための「同権化」と「総動員体制」が敷かれ、世界では植民地

(領土)再分割闘争が激化し植民地制圧のための植民地戦争と世界戦争の危機を醸成していった248

(2)ブハーリン『帝国主義と世界経済』

資本主義の構造的変化をブハーリンは、世界経済から出発している点が優れているが、同時にヒ ルファデイングとくにレーニンが重視した独占資本主義段階という認識は希薄であった249。二人に

245 テレンス・マグドノー(Terrence McDonough)はベルンシュタインの主張の背後にはカントの 倫理論の密輸入があると指摘している。Terrence McDonough,“The Marxian Theory of Capitalist Stages”,Terrence McDonough,David M.Kotz and Michael Reich edit.,Social Structure of Accumulation Theory,Volume1(Mark Blaug edit.,The International Library of Critical Writngs in Economics),Ezward Elgar Publishing Limited,2014, pp.7-8.最 初 の 掲 載 は 、Paul Zarembka(ed.),Transituions in Latin America and in Poland and Syria.Research in Political Economy,Volume 24,Amsterdam:Elservier Ltd.,2007.

246 ルドルフ・ヒルファディング著、岡崎次郎訳『金融資本論』岩波書店、1955~6年。

247 すなわちヒルファディングは、「現実には産業資本に転化している銀行資本、したがって貨幣 形態にある資本を、私は金融資本と名づける。・・・銀行によって支配せられ産業資本家によって 充用される資本である。」(同上書、中、97頁)。

248 独占資本主義・古典的帝国主義段階の全体的特質については、本書の第5章第2~4節参照。

249 ニコライ・ブハーリン著、西田勲・佐藤博訳『世界経済と帝国主義』(ブハーリン著作集3)現 代思潮社、1970年

比較してのブハーリンの特色は、経済・政治・イデオロギーの結びつきをとくに重視したことにあ る。もちろん、ヒルファディングやレーニンが政治やイデオロギーを無視していたのだはまったく ないが、ブハーリンは当時すでに物質代謝過程論の視点から環境問題を認識していた。

(3)レーニン『帝国主義論』

レーニンは、ヒルファディングの『金融資本論』の段階論をより一般化した。レーニン『帝国主 義論』の内容は、「資本主義の最新の最後の段階」を規定した指標に簡潔に要約されている250。すな わち、①経済生活のなかで決定的役割を演じている独占をつくりだしたほどに高度の発展段階に達 した、生産と資本の集積、②銀行資本と産業資本との融合・癒着と、この「金融資本」を土台とす る金融寡頭制の成立、③商品輸出と区別される資本輸出がとくに重要な意義を獲得すること、④国 際的な資本家の独占団体が形成されて世界を分割していること、⑤最大の資本主義的諸強国による 地球の領土的分割が完了していること251

レーニンは金融資本を、「生産の集積、そこから発生する独占、銀行と産業との融合あるいは癒着

―これが金融資本の発生史であり、金融資本の概念の内容である。」252と定義した。

2.戦後欧米での現代資本主義論の系譜

第2次大戦後の欧米マルクス経済学での資本主義発展の理論をマグドノーは、ポール・スウィー ジーたちの独占資本学派(マンスリー・レビュー誌)、アーネスト・マンデルに代表される長期波動 論、社会的蓄積構造論(SSA 理論)、レギュラシオン理論にまとめて、最近の各学派の分裂と収斂 状況をつぎのように整理している。

(1)独占資本学派

戦前のポール・スウィージー『資本主義発展の理論』はHBL(ヒルファディング・ブハーリン・

レーニン)の資本主義の段階論としての独占資本論を重要な点において継承としているが、金融資 本概念に代わりに銀行支配を排除した独占資本概念の採用した。スウィージーのポール・バランと の共著『独占資本』は過少消費説へに傾斜しており、市場構造(独占)以外の特殊な諸制度と独占 資本との関係が過小評価されている、とマグドノーは批判している。このマンスリー・レビュー誌 はアメリカでのマルクス主義の研究と普及に多大の貢献をしたが、スウィージー以外の主要な仕事 として、マグドフの外交政策研究とブレイヴァマンの労働過程分析、ゴードンとエドワーズの労働 市場分断論などがある253

(2)長期波動論(The Second Wave:LWT)

欧米のマルクス経済学研究に大きな影響を与えたアーネスト・マンデル『マルクス主義経済理論』

は、HBLの独占資本主義時代の分析を説明しその現代化をした。しかしマンデル自身はアメリカの

「独占資本学派」と同じく、ヒルファディングおよびレーニンの金融資本概念にかえて「独占資本 主義」概念を使用した。『後期資本主義論』においてマンデルは段階規定を与え、競争的資本主義・

古典的帝国主義・後期資本主義に段階区分した。マンデルの資本主義発展論はコンドラチェフ以来 の長期波動論を利潤率の動向を基軸として再構成したものであり、非経済的諸要因とその多元的変 化を重視した254

(3)蓄積の社会構造論(SSA理論)とレギュラシオン理論

デービッド・ゴードンは独占資本主義規定を継承しながら、蓄積の社会構造論を体系的に提起し た。ゴードンは長期波動論を段階論として再構成し、第2次大戦後のアメリカのSSAを具体的に 分析しながら独占資本主義への多元的制度アプローチを提起した。アメリカのマルクス派はこの SSA理論に結集したといえるが、その詳しい内容と展開については第2項以下で論じる。自由競争 資本主義(自由競争段階)から独占資本主義段階への転換点をコッツとエドワーズは第1次大戦と 規定するのに対して、マグドノーはHBLと同じく21世紀初頭に求めている255。フランスを中心と するレギュラシオン学派(RT)の「蓄積様式」・「蓄積レジーム」論は、資本蓄積と制度との関係を重 視する点においてSSA理論の「蓄積の社会構造」論と類似している。マイケル・アグリエッタ『資 本主義の調整理論』は主流派経済学の均衡論を批判して調整様式論を展開したが、レギュラシオン 理論全体を整理したR.ボイヤーは「蓄積レジーム」と「制度形態」を統合して「調整様式」として

250 ウラジミール・イリイッチ・レーニン著、宇高基輔訳『帝国主義』岩波文庫、1956年。

251 同上書、145~46頁。

252 同上書、78頁。

253 Terrence McDonough,David M.Kotz and Michael Reich edit.,op.cit.,pp.19-20.

254 Ibid.,pp.21-22.

255 Ibid.,pp.22-24.

ドキュメント内 はじめに (ページ 71-93)