第 2 章 資本主義の発展段階と世界システム 110 第1節 段階区分と段階移行
第1節 独占資本主義論と段階論―通説的諸見解
『帝国主義論』は、「自由競争が支配する資本主義」から「資本主義の最高の発展段階としての独 占資本主義・帝国主義」へと資本主義が段階的に発展し変質したと認識した。日本における宇野派 以外の「正統派的マルクス経済学」諸派はこのレーニンの段階区分に『資本論』で歴史的に分析さ れた原始蓄積期を加えて、原始蓄積期・自由競争段階(自由競争資本主義)・独占段階(独占資本主 義)という発展段階を暗黙的に前提していた。本書の段階区分も資本主義の世界システム上の基軸 資本主義の段階区分としてはこのような区分を継承している。しかしこの「通説」的な段階は「ク ローズド・システム」内で区分されたものであり、レーニンたち20世紀初頭の「マルクス後継者」
がまさに取り組んでいた世界システムとしての「オープン・システム」が決定的に排除されている。
本書は、世界システムとしての世界体制と基軸資本主義国の国内体制とを区別し、そして総合した 段階区分を与えている点において、「通説」とは異なることをあらかじめ指摘しておきたい。
1.生成期の資本主義―確立期の資本主義―現代資本主義(飯田説)
飯田和人は、「国家の資本主義的再生産過程とりわけ『資本―賃労働』関係への関与」によって歴 史的段階区分をして、3段階・5小段階を提起している118。すなわち、(1)「生成期の資本主義」(2)
「確立期の資本主義」(3)「現代資本主義」の3段階に区分し、さらに小段階として(2-1)「確立 期の資本主義―前半」・(2-2)「確立期の資本主義―後半」、(3-1)「現代資本主義―前半」・(3-
2)「現代資本主義―後半」、と区分する。本書の自由競争段階(自由競争資本主義)が「確立期の資 本主義―前半」にあたり、独占段階(独占資本主義・帝国主義)が「確立期の資本主義―後半」に あたるが、飯田説では独占資本主義概念が排除されている。さらに「確立した資本主義」以降が現 代資本主義と規定されているが、成立・確立の後の資本主義の歴史的位相がはっきりしていない。
本書の段階区分も、「国家の資本主義的再生産過程とりわけ『資本―賃労働』関係への関与」とその 景気循環の変容は重視しているが、段階区分は世界システムとヘゲモニーの交代を取り入れている。
本書の段階区分は飯田説と対比しておこう。(1)「生成期の資本主義」→「環大西洋世界経済の成 立―資本主義の成立」、(2)「確立期の資本主義―前半」→「パックス・ブリタニカ―資本主義の確 立」、(3)「確立期の資本主義―後半」→「帝国主義―独占資本主義への転化と資本主義の爛熟と変 質」、(4)「現代資本主義―前半」→「パックス・アメリカーナの確立と動揺―IMF=GATT体制下 の国家独占資本主義」、(5)「現代資本主義―後半」→を「グローバル資本主義下の国家独占資本主 義」、となる。そして、「確立期の資本主義―後半」と「現代資本主義の前半と後半」が、独占資本 主義・帝国主義の3小段階、としている。
2.自由競争的資本主義―古典的独占資本主義―国家独占資本主義(福祉国家資本主義)―グロー
118 飯田和人「資本主義の歴史区分とグローバル資本主義の特質」『政経論叢』第77巻第3・4号
(2009年3月)、62~4頁。
バル資本主義(鶴田説119)
鶴田満彦は、第1次大戦までを古典的独占資本主義、第2次大戦後は国家独占資本主義あるいは 福祉国家資本主義と規定し、スタグフレーションを契機として現代資本主義は「新しい局面」を展 開し、それを「グローバル資本主義」とネーミングした120。福祉国家規定の妥当性については次節 で論じるが、鶴田規定では「グローバル資本主義」は戦後資本主義の「新局面」とされており新段 階とは規定はされていない。近著の論文では「欧州・日本中心の急速な経済成長ゆえにブレトンウ ッズ体制に内在する矛盾多表面化し、当時の労働力・資源の制約にも逢着して、国家独占資本主義 はグローバル資本主義に変容」121していく、と「国家独占資本主義のグローバル資本主義への転換」
と規定している。この点は現代資本主義の転換をめぐる諸見解を検討する第7章の補論においてコ メントする。
3.自由競争の資本主義―独占資本主義―世界寡占のグローバルな競争の資本主義(重田説)
重田澄男は,「現代資本主義の現局面の規定的形態と歴史的性格」を問題にした論争的論文を公表 した122。重田は国家独占資本主義規定の基礎にある独占資本主義そのものが継続しているかと問題 を絞り、「レーニンによって解明された独占資本主義を基底的内容とした帝国主義段階としての構造 の継続であって、その展開形態にほかならないものであるのか。そうではなく、独占資本主義とは異 なる規定的特徴と歴史的性格をもった資本主義の新しい事態を示すものであるのか。」123、と問題提 起する。重田は現代資本主義の転換の内容規定として自説を提起しているので、第7 章の補論で検 討することにし、段階論そのものについて重田は、(1)自由競争の資本主義、(2)独占資本主義、(3)
世界寡占のグローバルな競争の資本主義、と規定していることを紹介しておこう。世界構造(世界シ ステム)は大きく変化してきたが、独占資本主義そのものは依然として支配的である、と筆者は考え ている。
4.「三層構造」論(北原説)
北原勇は、現代資本主義論としては「資本主義の一般理論」・「独占資本主義論」・「国家独占資本 主義論」を積み重ねた「三層構造」論を主張してきた124。筆者も「三層構造」論はクローズド・シ ステム内の発展段階論としては支持するが、「三層構造」論を継承しながら以下の点では独自の見解 をもっている。(1)レーニンの国内経済基盤としての独占資本主義規定に従っていえば、現在は依 然として独占資本主義や国家独占資本主義規定は生きているが、世界経済の構造と動態は戦後そし てグローバリゼーション以後は急変してきた、と認識している。さらに新自由主義の進めた「グロ ーバル資本主義」化が国内の国家独占資本主義の作動に「溶解」的に作用していることは軽視して はならないと考える。(2)北原の独占資本主義論は協調的行動=停滞基調論であるが、独占資本相 互の関係は「協調的関係」と「競争的関係」の両面があるのであり、協調的行動=独占=停滞基調 というのは一面的である125。レーニンは、独占資本主義は一時的・地域的(国)に停滞しても、以 前より急速な技術進歩が進むと述べている。(3)北原「三層構造論」は一種の「重ね餅」論である が、資本主義一般の理論と独占資本主義の理論を包括するような現代資本主義論(国家独占資本主 義論)を「一層」として展開しなければならないと考えている。現代資本主義論として本格的に「一 層構造」としてかつオープン・システムにまで展開する課題は、残されている。
5.重商主義―産業資本主義―独占資本主義―国家独占資本主義―グローバリゼーション(小澤説)
119 鶴田満彦『グローバル資本主義と日本経済』桜井書店、2009年、鶴田満彦「『資本論』と現代 資本主義」鶴田満彦・長島誠一編著『マルクス経済学と現代資本主義』桜井書店、2015年。
120 鶴田満彦『グローバル資本主義と日本経済』98頁、101~2頁。
121 鶴田満彦「『資本論』と現代資本主義」25頁。
122 重田澄男「<論争>現代資本主義の現局面―規定的形態と歴史的性格」『政経研究』第101号
(2013年12月)
123 重田澄男「<論争>現代資本主義の現局面―規定的形態と歴史的性格」45頁。
124 北原勇・伊藤誠・山田鋭夫『現代資本主義をどう視るか』青木書店、1997年、北原勇・
鶴田満彦・本間要一郎編『現代資本主義』(『資本論体系』10)、有斐閣、2001年、の第1章
「『資本論』体系と現代資本主義分析の方法」(北原執筆)、増田壽男・澤田幸治編『現代経 済と経済学』(新版)有斐閣、2007年の序章第3節「経済学の対象と方法」(増田執筆)。し かし独占資本の投資行動や景気循環の変容・形態変化などについては筆者とは見解が異な っている。しかし北原が協力した井村喜代子『大戦後資本主義の変質と展開』(有斐閣、2016 年においては、大戦後の「変質」と1970年代を境とした「展開」の段階的規定はされてい ない。
125 さしあたり拙著『現代マルクス経済学』桜井書店、2008年、119~20頁、参照。
小澤光利は「社会経済のトータルな歴史段階認識」こそマルクス経済学固有の課題であると正当 に認識しながら、組織資本主義論を重視し、生産力の段階的発展によって発展段階を上記のように 定式化した。この発展段階区分は世界システム上の基軸となるヘゲモニー国(イギリスとアメリカ 合衆国)の国内体制によって与えられているが、小澤には世界システムの視点はない。
小澤説の特徴は、基軸国の発展段階を恐慌・景気循環を基準として与えているところにある。こ の点では本書と共通する。すなわち、産業資本主段階は周期的恐慌によって資本主義の自立性が確 保されていたが、イギリスを中心とした19 世紀末の大不況によって恐慌が形態変化(好況局面の 短縮化・脱落、恐慌の急性的性格の消失、世界市場恐慌の後退)し、「帝国主義列強の対立と独占資 本主義」に段階移行した。そしてこの段階を発展の停滞・腐朽と飛躍の不均等性、景気循環の不均 等性と同時性喪失として特徴づけている。国家独占資本主義段階になると、軍需インフレーション 的蓄積体制のもとで景気循環の自立的法則性が喪失し、人為的「政治的景気循環」へと変質した、
としている126。
第2次大戦後は、国家独占資本主義段階からグローバリゼーション段階に移行したとしているが、
この見解については現代資本主義の転換として第7章の補論で検討する。小澤説における景気循環 の変容についてコメントすれば、独占段階においては不均等発展が特徴的であるとしながら、独占 資本主義段階になると「資本主義経済の諸矛盾は経済過程の内部で自律的に解決されることは不可 能」となるとの断定や、国家独占資本主義体制を「軍需インフレーション的蓄積体制」と規定する のには127、疑問である。「景気循環の自立性」とはそもそもどのような内容なのか、その「喪失」は 何によってもたらされたのかが理論的明らかにされていない。国家独占資本主義のもとで「政治的 景気循環」的な性格を持ってきたとの指摘は筆者も賛成であるが、やはり政策的にコントロールさ れ国家独占資本主義的な調整を受けながらながら、景気循環は貫徹している。「軍需インフレ的蓄 積」についてはもっと経済学的な内容を展開すべきである。経済の軍事化やインフレ国家独占資本 主義の矛盾の展開の結果である(第6章第4節、参照)。
小澤は従来の諸研究に対して、宇野三段階論では段階論と現状分析が切断されており、加藤榮一・
馬場宏二・柴田徳太郎たちの現代資本主義論は類型的・政策論的であり、段階移行の契機や関連が 不明であるとの指摘には同感できる。また北原勇の「三層構造論」は、実質的には「重層的な理論 体系」にはなっていないとの指摘も正当である128。
6.自由競争的資本主義―組織された資本主義―グローバル資本主義(唐渡説)
唐渡興宣は生産様式を組織化原理の視点から、資本主義の発展段階をこのように表現している129。 小澤と同じく、資本主義の転換を「新しい生産様式」と規定する唐渡の見解については第7章の補 論で検討する。唐渡の見解の独自性は、小澤と同じく「資本主義の組織化」に注目している点にあ る。
唐渡は資本主義は、生産様式の矛盾を克服すべく新しい生産様式をつくり段階的発展をしてきた として、①「生産の連続性を基礎」とする「自由競争的資本主義」(19世紀初頭から第1次大戦ま で)、②「生産の連続性+弾力性」に基礎を置いた「組織された資本主義」(第1次大戦後から1970 年代半ばまで)、③「生産の連続性+弾力性+柔軟性)」を基礎とした「グローバル資本主義」(1970 年代半ばから現代まで)と、段階区分をしている130。唐渡の段階区分の基準は「生産様式の変化」
であるが、「資本=賃労働」という資本主義の基本的生産関係は変化していないから、「生産様式」
から生産関係は除外され、新しい生産力段階のもとでの労働過程と労働関係の変化によって段階区 分することになっている。しかし生産力の基盤はリーディング産業として明示されてはいないが、
機械制大工業の確立による剰余価値獲得のために必要な「生産の無制限性と連続性」が「自由競争 的資本主義」を規定し、独占資本の下での「価格調節的市場」から「数量調節的市場」への転換が
「組織された資本主義」を規定し131、1970年代半ばからのグローバリゼーションとメガ・コンペテ
126 小澤光利「資本主義発展段階におけるグローバリゼーションの歴史的位置」『経済志林』第77巻 第2号(2009年)、9頁、11頁。
127 同上論文、11~13頁。
128 同上論文、20~1頁。
129 唐渡興宣「資本主義の新しい段階」『政経研究』第86号(2006年)。斎藤正美「<巻頭言>『第 4次産業革命』と生産様式の移行」『政経研究』No.108(2017.06)も、IoT・ビッグデータ・AI(人工 知能)などの「第4次産業革命」によって段階規定している。
130 唐渡興宣「資本主義の新しい段階」17~8頁。
131 「組織された資本主義」論において唐渡が展開している「市場調節的市場」と標準原価計算に もとづく参入阻止価格論や、そこから生まれる「計画的過剰能力」の説明は拙著『独占資本主義の