緒 言
ALS を実船適用する際に検討すべき項目と考えた船底部の気泡流の挙動、および気泡流中プロ ペラ性能について模型実験を主体に総合的な調査を行った。本章では、実船実験を実施した大型浅 喫水二軸船であるモジュール運搬船を対象に実施した水槽実験(船体周りの気泡挙計測、プロペラ 特性計測)と、それらの実験結果から船体周りの気泡流れの特徴やプロペラに気泡が混入した場合の プロペラ特性への影響を総合的に検証した結果について述べる[84]。
まず、第2節では、モジュール運搬船を対象とした模型船による船底気泡流の可視化実験の方法、
および平水中直進時、横傾斜時、強制動揺時、斜航時、波浪中(向波、横波)における気泡挙動観察 結果について述べる。
第3節では、第2章で述べた船体周りの気泡流れ予測計算結果と第2節で述べる実験結果との定 性的な比較結果について述べる。
第 4 節では、モジュール運搬船で実施した曳航式水中航走体を用いた実船船底気泡流観察結果 やキャビテーション水槽で実施した空気吹出孔からの空気流出状況観察結果について述べる。
第5節では、気泡流中で作動するプロペラの単独特性計測方法と気泡がプロペラ単独特性(推力、
トルク、効率)に及ぼす影響について述べる。
第6節は、本章についてのまとめである。
模型船による船底気泡流の可視化実験
3.2.1 試験装置および方法
平水中や実海域を想定して潮流影響を考慮した斜航中、および波浪中における船体周りの気泡挙 動の可視化実験を、三菱重工業株式会社 長崎研究所所有の耐航性能水槽で実施した。供試模型 は、モジュール運搬船と相似な模型船(全長5.490m×全幅1.374m)および4翼プロペラ模型を使用し た。本船は、二軸スケグ付のバトックフロー船型である。Fig. 3.1に船底気泡流可視化の概念図を示す。
気泡発生部は、模型船の船底部にφ0.5mmの多孔板を3か所設置し、気泡が船底の広範囲を覆うこ とが可能な配置とした。3か所の気泡発生部にはヘッダータンクから分岐させて空気を供給する構造と し、実験時にはヘッダータンクの空気流量を調整した。はじめに模型速度にて観測しやすいシート状 の気泡流が得られるように空気流量を調整した結果、空気流量40L/minを基準流量とした。Fig. 3.2に 実験配置図を示す。船底を流れる気泡を撮影するために、模型船とともに移動する水中櫓を組み、櫓 に設置した水中レール上を船長方向に移動可能な水中カメラにより船底気泡流の撮影を行った。また、
プロペラ近傍の気泡流観測のために、プロペラ側面部には固定の水中カメラを配置した。Table 3.1に 実験条件を示す。模型速度は1.27m/sec(実船 13kn 相当)を基準とし、平水中、船体横傾斜中(傾斜 角一定)、船体動揺中(強制動揺)、潮流中(斜航中)および波浪中(横波、向波)の条件で実験を実 施した。
Fig. 3.1 An image of visualization of bubbly flow on ship bottom.
Fig. 3.2 Layout of visualization test for bubbly flow on ship bottom.
Table 3.1 Experimental conditions of visualization of bubbly flow.
模型速度
V
s 空気流量Q
a平水中直進 1.27m/s 40L/min 船体横傾斜影響
(傾斜角一定) 1.27m/s 40L/min 傾斜角=2.4°
船体動揺影響
(強制動揺) 1.27m/s 40L/min 傾斜振幅=3°
周期=1.3sec
潮流影響 (斜航)
0.98m/s 30.8L/min 斜航角=3°
0.98m/s 30.8L/min 斜航角=8.6°
波浪影響 (横波、向波)
1.27m/s 40L/min
波高=1.0m 波長船長比;λ/L=0.7
波方向=90°
1.27m/s 40L/min
波高=2.0m 波長船長比;λ/L=1.0
波方向=180°
3.2.2 模型船による船底気泡流の可視化実験結果
Table 3.1に示した条件の船底気泡流の可視化結果をFig. 3.3~Fig. 3.9に示す。Fig. 3.3に示す基 準となる平水中直進状態における気泡流は、気泡発生部から船尾に向かって真っ直ぐに船底を流れ、
気泡は船側から逃げることなく、船底の広範囲を覆うことが可能であることが分かる。Fig. 3.4は傾斜角 2.4°の一定横傾斜とした場合の気泡流れを示す。横傾斜は、図中上側(左舷)の喫水が深く、図中下 側(右舷)の喫水が浅い状態である。船体に横傾斜が発生すると気泡の浮力影響で気泡流れは船尾 に向かって真っ直ぐに流れず、気泡流れには横流れが発生する。このため、船尾付近では気泡が船 底表面を覆わない被泡無し領域(図中で黒枠赤色で示した部分)が発生する。
Fig. 3.3 Photographs of bubble flow visualizations on ship bottom (in still water).
Fig. 3.4 Photographs of bubble flow visualizations on ship bottom
(constant heel angle=2.4deg.).
Fig. 3.5は斜航角3°、Fig. 3.6は斜航角8.6°における船底気泡流れの様子を示す。斜航時は、空気 吹出部より気泡流れに横流れが発生し、被泡無し部が空気吹出部直後から見られる。斜航角が大きく なるほどの被泡無し部の領域は増加する。
Fig. 3.5 Photographs of bubble flow visualizations on ship bottom (in oblique flow, drift angel=3deg.).
Fig. 3.6 Photographs of bubble flow visualizations on ship bottom
(in oblique flow, drift angel=8.6deg.).
Fig. 3.7 は横揺れ振幅3°、周期1.3sec で強制動揺(ロール)させた場合の船底気泡流れの様子を 示す。この場合、気泡流が船幅方向に振動しながら船底を流れる様子が観察された。
Fig. 3.8 は横波中(λ/L=0.7、周期 1.6sec、波高 1m相当)における船底気泡流れの様子を示す。こ
の場合、Fig. 3.7 の強制動揺時と同様に、気泡流が船幅方向に振動しながら船底を流れる様子が観 察された。
Fig. 3.7 Photographs of bubble flow visualizations on ship bottom (in forced oscillation, amplitude=3deg., period=1.3sec).
Fig. 3.8 Photographs of bubble flow visualizations on ship bottom
(in beam wave, λ/L=0.7, period=1.6sec, wave height=1m).
Fig. 3.9は向波中(λ/L=1.0、周期1.9sec、波高2m相当)中における船底気泡流れの様子を示す。
この場合、船長方向に流れる気泡が、加速や減速しながら船底を流れる様子が観察された。加速部 分では船幅方向の気泡の幅は狭くなり、減速部分では船幅方向の気泡の幅は広くなることで、船側側 を流れる気泡の船幅方向位置は、左右舷で同位相に振動しているように見えた。
Fig. 3.9 Photographs of bubble flow visualizations on ship bottom (in head wave, λ/L=1.0, period=1.9sec, wave height=2m).
本研究で実施した平水中、斜航中および波浪中における船底気泡流の観察結果から、船底気泡 流は航走条件によりFig. 3.10に示す3種類のパターンに分類することができる。
Fig. 3.10 Patterns of bubble flow on ship bottom.
パターン1:平行型 平水直進,横傾斜,斜航
パターン2:振動型 強制動揺,波浪中(横波)
パターン3:加減速型 波浪中(向波)
1) パターン1(平行型)
パターン 1 は気泡流が船底を主流方向に平行に移動する流れであり、平行型と称することとする。
平行型は平水中直進時、横傾斜時および斜航時に観察された。横傾斜時は気泡の浮力影響により、
また潮流中を想定した斜航時では斜流の影響により、平水中直進状態と比較すると、気泡が船底を覆 わない部分が生じる。
2) パターン2(振動型)
パターン 2 は気泡流が船幅方向に振動しながら船底を流れる現象であり、振動型と称することとす る。振動型は、強制動揺時や波浪(横波)中航走時に観察された。船体のローリング影響により船底を 流れる気泡が幅方向に、おおよそローリング周期で振動しながら船尾方向に流れる。振動型では、気 泡が船側から逃げることはなく、船底の広範囲を気泡で覆うことが可能である。また、ローリングや横波 の影響は、船幅方向に水圧の時間的変化をもたらすため、左右に配置した気泡発生部の静圧が変化 し、吹出流量の不均一が生じることも考えられる。
3) パターン3(加減速型)
パターン3は船長方向に流れる気泡が、加速や減速しながら流れる現象であり、加減速型と称する こととする。加減速型は波浪(向波)中航走時に観察された。向波中では波のオービタルモーションの 影響で、船底を流れる気泡が船長方向に加速する部分が発生するため、気泡が加速と減速を繰り返 すような流れに見えるためと考えられる。
プロペラへの気泡流入状況を Fig. 3.11 に示す。平水中直進時には気泡のプロペラへの流入は観 察されなかったが、斜航時と波浪(向波)中航走時に気泡がプロペラ翼端へわずかに巻き込まれる現 象が観察された。本船はスケグ付の二軸船であるため、斜航時は、斜め後方に流れる気泡流がスケグ の影響でプロペラ上方に集中したと考えられる。また、波浪(向波)中航走時は、船体の縦揺れ(ピッチ ング)の影響と、加減速型の気泡流となるためにプロペラ近傍で気泡が減速された際、気泡層の厚み が増加することで、プロペラへ気泡が巻き込まれやすくなるものと考えられる。以上の結果から、本船 の場合、プロペラへの気泡流入の可能性は、平水中直進時や横波中では小さいが、向波中や旋回 時などの斜航状態となるときは、わずかに気泡が流入する場合があると考えられる。船底気泡流の観 察結果をまとめてTable 3.2に示す。
Fig. 3.11 Bubble flow into propeller.
Table 3.2 Observation results of bubble flow.
被泡エリア
の変化 プロペラ気泡流入
平水中直進 無 無
船体動揺影響
(一定傾斜) 有(数%) 無
船体動揺影響
(強制動揺) 無 無
潮流影響
(斜航) 有(数%) 有
片舷側へ気泡集中により翼先端部へ流入 波浪影響
(横波) 無 無
波浪影響
(向波) 無 有
縦揺れ(ピッチング)により翼先端部へ流入
船体周りの気泡挙動計算と実験結果の比較
ALS による船体摩擦抵抗低減において、船体表面の気泡分布は、重要なパラメータである。した がって、船体摩擦抵抗低減効果を高精度に予測するためには、船体周りの気泡分布を高精度に予測 する必要がある。気泡分布については、船体表面のボイド率分布によって評価する。ここでのボイド率 とは気液混合流体に占める空気の体積割合である。
3.3.1 計算対象・条件
水槽実験を実施したモジュール運搬船を対象に、模型スケールにて、自由表面の造波を考慮しな いダブルフローモデルによる直進時計算を実施した[85][86]。船体のセンターラインを通る面に対称 条件を与え、左舷側のみの計算を行った。
計算で設定した気泡径は Table 3.3 に示す値とした。気泡径の決定にあたっては、実船において
2~3mm の気泡径になっているものと想定し、単純にスケール比を乗じた値に設定している。気泡径
の影響を大まかに確認するため、Case2、3 では気泡径をそれぞれ5倍、10倍に設定した。
Table 3.3 Observation results of bubble flow.
Model Ship (mm) Actual Ship (mm) Case1 0.1 2.77 Case2 0.5 13.8 Case3 1.0 27.7
3.3.2 計算結果と実験結果の比較
Case1~3 の船体ボイド率分布予測結果をFig. 3.12に示す。コンターはボイド率分布を示している。
この値が大きいほど、単位体積中における空気の割合が高くなっていることを意味する。本計算結果 から、気泡分布に対する気泡径の影響は小さいことが分かる。したがって、気泡径にばらつきがある実 現象の予測も、代表的な単一気泡径の計算で概略再現可能であると考えられる。
気泡径0.1mmの結果と、第3.3.2項で示した実験結果を比較してFig. 3.13 に示す。両者ともに平
水中直進時の計算である。実験では、気泡分布量を定量的に評価することが困難であるため、本研 究では計算によるボイド率分布予測結果と、実験による気泡分布の画像を定性的に比較するにとど まっているが、以下のような傾向が共通して見られる。
・ 気泡が船底から漏れ出ることなく船体を流れる。