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一般船舶の推進馬力の推定には模型船を用いた水槽実験結果が用いられるが、ALS を搭載した 船舶の推進馬力を、模型船を用いた水槽実験結果より求めることは困難である。その理由は、実船周 りを流れるミリオーダの気泡を模型スケールにした場合、マイクロオーダの気泡を模型船体周りに流す 必要があり、単に模型船から空気を吹き出すだけではマイクロオーダの気泡を生成することが困難な ためである。このため、水槽実験では縮尺比よりも大きな気泡を用いることになり、摩擦抵抗低減効果 やプロペラ周りの気泡分布を過小評価することになる。したがって、ALS 搭載船の省エネ効果予測に は、水槽実験とCFDを用いた摩擦抵抗低減効果予測手法の組み合せによる予測技術が必要かつ重 要となる。

本章ではCFDを用いた空気潤滑法による船体周りの気泡挙動予測技術および摩擦抵抗低減効果 予測技術に関し述べる。船体周りを流れる気泡流を取り扱うための気泡流モデルと本研究で開発した 摩擦抵抗低減モデルについて、平板と船体を対象とした試計算を実施し、その有効性について考察 する[77][78]。

まず、第2節では、CFDを用いた数値計算法の概要について述べる。

第3節では、船体周りの気泡挙動を推定するための基礎方程式として、二流体モデルをベースとし た気泡流モデルについて述べる。

第 4 節では、船体周りの気泡分布を用いて摩擦抵抗低減効果を推定するために用いた 2 種類の 摩擦抵抗低減モデル(従来モデルおよび本研究で提案する新しいモデル)について述べる。

第 5節では、数値計算例として長さ 150mの平板を対象に計算を実施し、摩擦抵抗低減モデルの 違いによる計算格子(計算メッシュ)の依存性や計算結果の妥当性について述べる。

第 6 節では、実船実験に用いたモジュール運搬船に近い主要目を有する二軸船型を対象に計算 を実施し、摩擦抵抗低減モデルの違いによる計算結果の妥当性や計算効率について述べる。

第 7 節では、CFD を用いた船体周りの気泡挙動予測技術および摩擦抵抗低減効果予測技術を キー技術として、計算と水槽実験との組み合せによる ALS による省エネ効果の推定手法に関する流 れについて述べる。

第 8 節では、モジュール運搬船による実船実験結果として、海上試運転時の速力試験結果、燃料 消費量、および船底に設置した実船用せん断力計による局所摩擦抵抗計測結果について述べる。

第 9 節では、実船実験結果と本研究で開発した摩擦抵抗低減効果予測手法による計算結果を比 較することにより、本計算手法の推定精度について述べる。

第10節は、本章についてのまとめである。

数値計算法

2.2.1 概要

本研究では、有限体積法をベースとしたANSYS 社の汎用熱流体解析ソルバーFluentをベースに、

気泡流モデルと摩擦抵抗低減モデルを考慮することにより、船体周りの気泡挙動と気泡により船体周 りの流れが変化することにより生じる船体に作用する摩擦抵抗や粘性圧力抵抗の変化を予測する計 算手法を開発する。Fluent は世界で広く使われている CFD コードの一つであり、研究例も数多く存 在し、十分に実績のあるコードだといえる。空気潤滑法は船体周りに空気を混入するため、船体周りの 流れは気液二相流(気泡流)となる。気泡流は混相流の一つであり、Fluent には混相流についても、ド リフトフラックスモデル、二流体モデル、VOFモデル、キャビテーションモデルといった代表的なモデル が組み込まれている。また、FluentにはUDS(User Defined Scalar)やUDF(User Defined Function)と 呼ばれる機能が搭載されている。これらは、ユーザーが輸送方程式を増やしたり、各モデルの項など をカスタマイズしたりできる機能である。本研究では、川村ら[63][79][80][81]により開発された気泡流 モデルおよび摩擦抵抗低減モデルと同様なモデルと、本研究で新たに開発した摩擦抵抗低減モデ

ルをUDSおよびUDFを使ってFluentに組み込んで計算を行った。

船体周りの非圧縮性流れの解析には、レイノルズ平均ナビエ-ストークス式(Reynolds-averaged

Na-vier-Stokes, RANS)を用いた。使用した乱流モデルは、付録 A に示す 2 方程式乱流モデルである

Realizable k-εモデルとSST k-ωモデルである。

本章ではプロペラを装備していない、いわゆる抵抗状態における平水中を対象とした計算手法や 計算結果について述べる。プロペラの吸い込み影響を考慮した波浪中(規則波中)を対象とした計算 手法や計算例については、付録Cにまとめた。

2.2.2 計算の流れ

計算に用いたFluentでは、運動量方程式の離散化にQUICK スキームを用い、圧力の離散化に2 次精度のスキームを選択した。実際の計算にあたっては、まず単相流計算を行ったのち、One-way 計 算、Two-way計算、Three-way計算と順に行っていく。それぞれの計算の概要は以下のとおりである。

計算の流れをFig. 2.1に示す。

1) 単相流計算

通常の計算と同様であり、UDSやUDFは使用しない。乱流モデルには、Three-way計算時に使 用する摩擦抵抗低減モデルに応じてRealizable k-εモデルもしくはSST k-ωモデルを使用する。

2) One-way 計算

単相流計算結果を読み込み、UDSとUDFの設定を行って気泡流の計算を行う。ただし、水の密 度、粘性、通常の渦粘性係数を用いて気泡流の計算を行い、気泡は「パッシブ・スカラー」として解 かれる。液相の流れは気相に影響を与えるが、気相の流れは液相に影響を与えないため、この計

算をOne-way計算と呼ぶ。この計算では、気泡の分布を求めることができる。

3) Two-way 計算

One-way 計算の結果を読み込み、密度と粘性がボイド率(気液混合流体に占める空気の体積割合)

に応じて変化する計算を行う。気相の流れが液相の流れに影響を与えるので、この計算を Two-way 計算と呼ぶ。船体抵抗は密度と粘性が変化する影響で変化する。摩擦抵抗と圧力抵抗はそれぞれ変 化するが、気泡による乱流変調の影響は含まれていないので、摩擦低減効果はほとんどない。また、

密度変化の影響により、ボイド率分布は少し変化する。

4) Three-way 計算

Two-way 計算の結果を読み込み、前述の摩擦抵抗低減モデルを有効にして計算を行う。この計

算では摩擦抵抗低減とそれによる流れの変化が全て考慮される。

Fig. 2.1 Calculation flow.

本研究で使用する気泡流モデル

2.3.1 概要

本研究では実用的な計算規模・時間にて船体周りの気泡流れを推定し、設計に適用することを目 的としている。付録 B に示す代表的な気液二相流モデルのうち、現時点でこの条件を満足するモデ ルは、二流体モデルとドリフトフラックスルモデルのいずれかである。二流体モデルとドリフトフラックス モデルの本質的な違いは、二流体モデルが気泡の運動に対して平衡状態を仮定しない点である。気 泡径が十分小さく、気泡の反応時間が液相の流れの時間スケールに対して無視できる場合は、気泡 の速度を力の釣り合いから求めることは妥当である。しかし、船体やプロペラ周りの気泡流では気泡径 が比較的大きく、応答時間も長いため、平衡を仮定しないモデルが必要となる。このため本研究では 二 流 体 モ デ ル を ベ ー ス と し た 気 泡 流 モ デ ル を 使 用 し た 。 使 用 し た 気 泡 流 モ デ ル は 川 村 ら [63][79][80][81]によるモデルと同様なモデルを用いた。

2.3.2 仮定

本研究で使用する気泡流モデルには次の仮定をしている。

 気相は全て気泡によって構成される。すなわち、気相は分散相、液相は連続相をなす。

 気泡は常に球形である。

 気泡の合体および分裂は起こらない。

 気泡は非凝縮性ガスであるとし、気泡界面を介する物質の拡散はない。すなわち、個々の 気泡内のガスの質量は不変である。

 流れ場は等温である。

2.3.3 支配方程式

支配方程式は、以下の4式から成っており、それぞれ混合相の連続の式、混合相の運動量保存方 程式、気泡のボイド率の保存式および気泡の並進運動方程式である。

 混合層の連続の式

        0

m m

m

v

t

 

(2.3.1)

 混合相の運動量保存方程式

v   vv p   g

t

m m m m m m

   

         

(2.3.2)

 気泡のボイド率の保存式

   0

 

g g

g

v

t

 

(2.3.3)

 気泡の並進運動方程式

  

l l g l

B S D TL L W TD g g

l

g V v F F F F F F F

Dt v D Dt V

D





       (2.3.4)

ここで、tは時間、

p

は圧力、

はボイド率、vgおよび

v

lはそれぞれ気相および液相の速度ベクトル、

g

は重力加速度ベクトル、

は密度、Vgは気泡体積、

は付加質量係数である。本研究では一様 な直径の球形気泡を仮定し、

は 0.5とした。また、下付き添字mは混合相、下付き添字

g

は気相、

下付き添字lは液相を表す。すなわち

mは混合層の密度であり、

v

mは混合層の質量平均流速ベク トルである。

(2.3.1)式、 (2.3.2)式における混合層の密度

mは次式で示される。

g

l g g

m

   

1  (2.3.5)

船体周りのように計算対象が大きいスケールの場合は圧力による気泡量の変化は無視できない。

ボイド率は、気泡の体積に比例して増減するため、 (2.3.5)式で使用しているボイド率

gの代わりに

(2.3.6)式に示す実効ボイド率

g を定義して、混合層の密度

mを求め、(2.3.1)式、 (2.3.2)式の計算 を行う際には実効ボイド率を用いる。

gz P

P P

l g

g

 

 

0

0 (2.3.6)

ここで、

P

0は大気圧、

g

は重力加速度、

z

は水面からの距離である。

gは(2.3.3)式の気泡のボイド 率の保存式から求めた大気圧下におけるボイド率を示している。また、P はソルバーから得られる「圧 力」の値であり、圧力から静水圧を除いた値である。

(2.3.2)式における

は応力テンソルであり、次式で表される。

   v vv

m

I

m

g

T m m t

m

     

   

       

 3

2

(2.3.7)

ここで、

mは混合層の粘性係数であり、

tk

乱流モデルあるいはk

乱流モデルより与えら れる渦粘性係数、Iは単位テンソルである。上付き添字

T

は行列の転置を表す。

混合層の粘性係数

mおよび動粘性係数

mは、アインシュタインの粘度式より実効ボイド率

g を 用いて次式で近似される。

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