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自主規制機関という用語は、証券監督者の監督の下で特定の業界の健全な発展、規制の遂行または公 益の機能を担う民間組織という広い意味で使われることが多い739。しかし、会員や市場参加者の業務遂 行を規制する(ここでの「規制」とは、活動または一連の行為に規則または法律を適用することで、こ れを体系化し管理することを意味し、規制ルールの執行を強調している)という意味で、そうした組織 全てが自主規制機関というわけではない。米国では法律で取引所、証券業協会(FINRAなど)、清算機関 のすべてを自主規制機関に分類している。1934年証券取引所法

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条(自主規制機関の登録、責任およ び監視)は、それらの自主規制機関に対して、SECから認可を受け、自主規制機関独自の規則と連邦証 券法の両方を会員もしくは参加者に遵守させるよう管理することを義務付けている。そして、清算機関

737 平成18年金商法制の整備前は、自主規制機関制度は個別の法律に基づき定められ、各自主規制機関の法律上の機能の 範囲にも差異があった。平成18年金商法制の整備により、金商法において横断的な自主規制機関制度(金融商品取引業協 会にかかる制度)が整備され、自主規制機関としての性格を最も強く有する証券業協会の機能との同等性を確保する観点 から、金融商品取引業協会は上記の自主規制を有するとされる。松尾・前掲注(236)458頁。

738 黒沼・前掲注(240)657頁。

739 世界の証券市場における取引慣行及び規制の調和を図り、メンバー間の情報交換及び理解を促進し、証券市場の健全な

発展に寄与することを目的に、1988年に日本証券業協会の提唱により設立された国際証券業協会会議(ICSA)は、自主規 制機関の定義を「市場の健全性、投資家保護、市場の効率性を強化するという公益目的に専念する民間非政府組織」とし ている。ICSAは、自主規制機関の詳細な説明を次のようにしている。自主規制機関は非政府組織であって、①市場の健全 性、市場の効率性、投資家保護の強化を含む公共政策目標を共有し、②政府規制当局の積極的な管理下にあり、③法定規 制権限、もしくは政府規制当局から委託された権限、またはその両方を有し、④規制権限の対象となる企業および個人の 規則と規制を制定し、⑤そうした規則と規制の遵守を監視し、取引市場を規制する自主規制機関の場合には市場の監視を 実施し、⑥適用される規則・規制に違反する会員を懲戒する権限を有し、⑦組織の役員会に業界代表を含む、または別の 形で業界の会員が統治に有意な役割を果たせるようにし、⑧その商業活動と規制活動の利益相反が適切に管理されるよう にする構造、運営方針、手続きを維持しているものとする。See ICSA, Self-Regulation in Financial Markets: An Exp loratory Study (September 2006), https://icsa.global/sites/default/files/Self-RegulationFinancialMarkets.pd f; ICSA, Best Practices for Self-Regulatory Organizations (October 2006), https://icsa.global/sites/default/

files/ICSABestPracticesSRO.pdf; John Carson(日本証券業協会訳)「証券市場における自主規制(January 2011)」Pol icy Research Working Paper 5542(http://www.jsda.or.jp/shiryoshitsu/houkokusyo/files/wbreportjp.pdf)5頁。

が自主規制機関として

SEC

で登録される要件の一部は、「自己が責任を負う証券取引ならびにデリバテ ィブ合意、契約および取引の迅速かつ正確な清算および決済を容易にし、自己の保管もしくは管理下に ありまたは自己が責任を負う証券および資金を保全し、本法ならびに本法に基づく規則の規定を遵守 し、その参加者が清算機関の規則を遵守することを実現し、本法の目的を遂行するよう組織され、か つ、そのようにすることができる能力をもっていること」(同法

17A

条(b)項(3)号(A))である

740。要するに、アメリカ連邦法上、自主規制機関の

CCP

は、①清算・決済の円滑化、②自己が責任をも って証券と資金を保全すること、③自らと清算参加者の法令及び規則の遵守の確保、④法的目的の遂行 という機能を果たすべき組織と解することができる。なお、中国の証券法では明文で清算・決済機関を 自主規制機関としていないが、規制当局である中国証券監督管理委員会による「証券登記決済管理弁 法」4条

3

項によると、証券登記決済機構が業界に対して自主規制を行うとされている。しかし、法律 が取引所だけを認可あるいは授権(authorization)の対象としており、それを唯一の自主規制機関の 形態とする多くの国のみならず、日米のような取引所や証券業協会を自主規制機関とみなす国において も、自主規制機関は法律で正式に定義されていない。

最も徹底した形態の自主規制の場合、自主規制は会員もしくは参加者の行動規則を制定し、そうした 規則の遵守を監督し、執行する権限を有しており、この権限は通常、法律または法定規制当局による権 限委譲に基づいているが、規制企業との契約に基づいている場合もあると考えられている741。そして、

全面的な自主規制機関は主に

3

つの規制機能(①規則の制定(会員企業およびその他の規制対象者の行 動を管理する規則と規制を制定する)、②監督(会員と市場が規則を遵守しているか監督する)、③執行

(違反の可能性を調査し、違反した個人または企業を罰することで規則を遵守させる))を果たすが、

それらの機能のうち

1

つまたは

2

つだけを行なうこともある742。その上、IOSCOは、こうした

3

つの機 能のいずれか、、、、

を満たしている組織を自主規制機関と見なしている743。そうだとすれば、金商法とは異な

740 また、同法17A条(証券取引の清算および決済のための全国制度)(b)項(1)号では、「本条に別段の定めがある場合

を除き、清算機関は、本項によって登録されていない限り、証券(適用除外証券を除く)に関して清算機関としての職務 を行うために、直接または間接を問わず、郵便または州際通商の方法もしくは手段を利用することは違法である」と定め ている。なお、同項(3)号では、清算機関の資格要件、その規則の具体的な内容が定められている。そのうち、(G)では、

「清算機関の規制がその参加者による清算機関の規則の規程違反に対し除名、権利停止、活動・機能および営業の制限、

罰金、戒告その他の適当な制裁による適当な懲戒を定めていること」が挙げられている。以上の各条文の仮訳は、日本証 券経済研究所(訳)『新外国証券関係法令集 アメリカ(Ⅲ)証券法、証券取引所法』(日本証券経済研究所、2016年)308 頁以下参照。つまり、取引所や証券業協会と同じように、懲戒上の制裁権限を与えている。ただし、取引所や証券業協会 とは異なり、清算機関は、会員と関係を持つ者にかかる規制権限(会員と関係を持つ者となることを禁止することやそれ に条件をつけることなど)を有していない(同法19条(d)項(1)号、15A条(g)項(3)号など参照)

741 Carson・前掲注(739)5頁。

742 例えば、自主規制機関は法定規制当局の制定規則遵守の監督に重点を置くこともある。大陸法系国家(civil code co

untries)の場合、政府の規制権限の委譲能力には法的な限界があるとともに、明示的な法的権限の必要性を根拠に、規則 制定における自主規制機関の役割は小さい。また、自主規制機関の担う監督・執行の責任範囲は、自主規制機関独自の規 則のみを対象にする場合もあれば、会員に課せられる証券法・規制の遵守の監督にまで拡大される場合もある。米国自主 規制機関の場合には、会員の連邦証券法の遵守を監督する法律上の責任を負っている。自主規制機関の執行管轄権は通常、

自主規制機関の会員である認定個人と企業に限定される。したがって、投資家、発行体、企業役員は、自主規制機関の執 行行為の対象となりえない。Carson・前掲注(739)5-6頁。

743 その原文は、「①個人または会社が重要な証券活動に参加するために満たさなければならない資格についての規則を確

立する。②取引、業務遂行、証券活動に従事する個人や会社に対する資格についての拘束力のある規則を確立および施行

り、ルールの制定・改正に係る業務などであっても自主規制業務となりうる。また、自主規制機関の責 務については、民間組織として、その構成員と株主に対して説明責任を負うほか、法令に基づき監督

(政府)規制当局に対しても説明責任を負う。また、自主規制機関は、投資家を中心に資本市場の全利 害関係者に対しても広く責任(公益責任)をも負う744。実際には、CCPや

CSD

などの証券業界組織は、

自主規制機関と見なされる場合と、証券法および規制に基づき類似の地位を得る場合があり、サービス の利用条件として、参加者に契約による活動規則の遵守を義務付けている。しかし、活動規則はサービ スの利用のみに適用され、通常は参加者の行動やその顧客との関係にまで及ばない745。CCPや

CSD

の規 則は一般に企業行動やその他の分野の要件を設定するところまでは及ばないが、中国・香港特別行政区

(SAR)など一部の地域では、リスク管理や内部統制の規則を制定している746

そもそも、IOSCOによる

1998

年版「証券規制の目的と原則」(以下「証券原則」という)の原則

B

自 主規制原則(原則

6

と原則

7)では、「6.規制制度は、市場の規模と複雑性に応じて、各専門分野に対

して一定の直接的な監視の責任を果たす自主規制機関を適切に利用すべきである」および「7.自主規 制機関は規制当局の監督に服し、その権限や委任され責務を行使する際には、公正性と機密性の基準を 遵守すべきである」と明記するとともに、自主規制にはさまざまなモデルがあり、自主規制が用いられ る程度も多種多様であると認め、自主規制機関に対して、自らが最も効率的に機能を果たすためのイン センティブを持つ規制責務を担うべきだと求めている747。2010年版「証券原則」では、以上の両原則を 統合して「規制のシステムが、権限の及ぶ分野に対して一定の直接的な監督責任を果たす自主規制機関 を利用する場合には、当該自主規制機関は、規制当局の監督に服し、権限や委任された責務を行使する 際には、公正性と機密性の基準を遵守すべきである」(原則

9)

748と改訂した。よって、IOSCOの原則で いう自主規制とは個々の金融機関や市場仲介者が自分で自分を規制することではなく、むしろ政府当局 に依らない民間機関による規制という意味で、証券市場の自主規制とは、「市場実務家の代表からなる 非政府民間部門組織(regulation by private-sector (non-government) organizations, representin

g market practitioners)

」による規制とでもしたほうが正確であるとも考えられる749。その改訂は、

当原則の着眼点を自主規制制度の推奨から自主規制機関に対する監督・規制へ転換し、適切に規制され た自主規制機関が担い得る価値を認識し、適切な権限付与と自主規制機関の監督に関する一般的勧告を

する。③規則の不遵守に対して適切な制裁を自主規制機関が課すことが可能となる規律を確立し、懲戒手続きを実施する。 であり、ほぼその3つの機能に当てはまっている。IOSCO・前掲注(717)証券規制の目的と原則59頁参照。

744 Carson・前掲注(739)6頁。

745 自主規制機関は、市場の公正さが確保され取引が活発に行われることが、自らの利益となる以上、市場の公正さを監視

するインセンティブを持っている。もっとも、自主規制機関が常に公正さを適切なレベルで確保するインセンティブを持 っているかは疑問も残る。例えば、相場操縦などは一時的にせよ、市場取引を活発にするため、会員証券会社や証券取引 所の手数料収入の増加に寄与する。このような不公正取引については、自主規制機関に厳格な規制を期待することは難し い。梅本剛正『現代の証券市場と規制』(商事法務、2005年)96頁。

746 Carson・前掲注(739)8-9頁参照。

747 IOSCO, Objectives and Principles of Securities Regulation (September 1998) p.13, https://www.iosco.org/li brary/pubdocs/pdf/IOSCOPD82.pdf.

748 IOSCO, Objectives and Principles of Securities Regulation (June 2010), https://www.iosco.org/library/pubd ocs/pdf/IOSCOPD323.pdf.

749 大久保良夫「国際的金融規制改革と日本:金融市場の自主規制に関する一考察」アジア太平洋討究23号(2014)154頁。

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