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日本の場合676、1990年代後半まで当時の大蔵省(2001年より財務省と改称)が金融規制のほぽすべ ての分野の監督を行っていたが、日銀も大手の金融機関の検査を担当しており、1971年に設立された預 金保険機構(DICJ)が預金保険システムの管理を行っていた。ただし、DICJそのものは実態は大蔵省の 一機関である。大蔵省は行政府として、かなり政治的な性格をもつ組織ではあったが、ある意味では、

統合規制機関の先駆けだったといえる。現場の監督官の独立性を促すことを目的とした大蔵省内の改革 は不十分なものとみなされ、1997年に政府は国会の決議を経て金融監督庁という新しい監督機関の創設 を決定した。この組織は、1998年

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月の設置とともに内閣府のもとに置かれ、大臣クラスの長官に統率 されていた。2000年の再編では、法案提出権と規則制定権が与えられた。名称も金融庁に改められた。

要するに、現在、統合アプローチを採っている日本では、金融庁とそれに置かれる証券取引等監視委 員会(金融庁設置法

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1

項)は、金融規制・監督機関として、①日本の金融の機能の安定を確保する こと、②預金者、保険契約者、有価証券の投資者その他これらに準ずる者の保護を図ること、③金融の 円滑を図ることを任務とし(金融庁設置法

3

1

項)、金融規制法677を所管し、金融規制法に基づき業 態横断的に金融行政を行い、金融制度の企画・立案機能を果たしている一方で、日銀は、中央銀行とし て「銀行券を発行するとともに、通貨及び金融の調節を行うこと」(日本銀行法

1

1

項)および「銀 行その他の金融機関の間で行われる資金決済の円滑の確保を図り、もって信用秩序の維持に資するこ と」(同条

2

項)を目的とし、引き続き銀行監督の責任権限をもち、流動性の問題に特別な注意を払 い、金融政策の決定・実行機能を有している。国際会議の場では、金融庁と日銀が金融安定化フォーラ ム(FSF)と

BCBS

の日本代表を務め、金融庁は単独で

IOSCO

と保険監督者国際機構(IAIS)の日本代表 を務めている678。よって、統合アプローチにもかかわらず、実際には、両者とも、マクロ健全性政策の 中心となり、それぞれの機能を活かす形で協力しながら、金融システム全体のリスクや金融不均衡の状 況を注視しつつ、健全性政策に取り組んでいる679。かような規制構造をイギリスのツイン・ピークス・

アプローチと比較しつつ、以下の

3

点を検討しよう。

676 本段落の記載は、島村=中島・前掲注(660)259-260頁を参照した。

677 金融規制法には、例えば、①預金取扱金融機関に関する法律として、銀行法、信用金庫法、協同組合による金融事業に

関する法律や預金保険法など、②市場や投資に関する法律として、金融商品取引法、投資信託及び投資法人に関する法律 や資産の流動化に関する法律など、③保険会社に関する法律として、保険業法など、④その他法律として、信託業法、貸 金業法、資金決済に関する法律や金融機関等の更生手続の特例等に関する法律などがある。この分類は、松尾・前掲注(2 36)29頁による。

678 Howard Davies=David Green(野村総合研究所訳)『金融監督規制の国際的潮流――変革の道標』(金融財政事情研究 会、2010年)141-142頁参照。

679 日銀は以下の機能や特性を有しており、これらの特性を活かすことがマクロ健全性上有効と考えられる。①中央銀行は、

金融政策の実施や決済システムの運営などを通じて、日ごろからマクロ経済や金融資本市場、金融取引の綿密な把握に努 めている。②中央銀行は、金融システムの安定確保のため、個別金融機関等に対する最後の貸し手としての機能を有して いる。③上記のような役割を果たす中で、中央銀行は、実体経済や金融システムの状況をマクロ的に捉え、分析する組織 文化を有している。④中央銀行は、各国の金融資本市場や金融システムに深く関与するとともに、情報交換や協力のため のグローバルな中央銀行間ネットワークを有している。

以上につき、日本銀行「日本銀行のマクロプルーデンス面での取組み(20111018日)(http://www.boj.or.jp/f insys/fs_policy/fin111018a.pdf)5頁参照。

(1)

日銀の

CCP

規制における位置付け

上述のように、BOE(または

PRA

を含む

BOE

グループ)を国の金融規制システムの中心に位置づける というイギリス金融規制仕組みの改革の理由の

1

つは、強調された中央銀行の金融政策の決定・実行機 能および信用秩序の維持という目的と、金融安定性の確保を目指すマクロ健全性政策との密接不可分の 関係にある。さらに、日英等中央銀行のほとんどは通常、金融商品清算・決済の一環でもある資金決済 の円滑の確保という目的を有し、中央銀行当座預金を用いて資金決済を行うシステムを提供している。

日本においても、金融機関同士が行う資金取引の決済や国債などの証券取引の代金の決済、民間決済シ ステムの最終的な決済に日銀当座預金の振替が利用されている。また、日銀は、国債振替決済制度など 国債の決済システムも提供しており、国債取引に伴う受渡しを帳簿上の口座振替などによって処理して いる。

しかも、CCPに対する中央銀行の関心の高まりが強調されている680。一般的に、中央銀行は常に、資 金決済および金融商品決済システムの安全性と効率性に大きな関心を寄せている。また、資金決済シス テムと金融商品決済システムの両方における担保の使用が増えているため、両システムはより密接にリ ンクされ、重複(overlap)が生じる可能性も大きくなっている。両システムにおける

CCP

の役割と

CCP

清算に伴うリスクおよび金融市場への大きな影響に鑑み、中央銀行の主要な責務、すなわち金融政策の 円滑な実施と資金決済システムの円滑な運営に対する、CCPによる重大な混乱の潜在的な影響のため、

中央銀行は、CCPの安全性・効率性向上という機能に固有の関心を持っているが、その

CCP

規制機能、

すなわち正式かつシステミックなオーバーサイトは、他の銀行に決済サービスを提供する銀行としての 従来の役割と比して、比較的に新しいものであり、既存および計画的なシステムを監視し、そして中央 銀行の規制目標に照らして評価することによって果たされる681。中央銀行は常に以下の理由で取引後の 金融商品システムの監督に関与している682。①これらのシステムが金融取引の適切な完了にとって必要 不可欠なものである。その結果、これらのシステムは、誤動作すると、潜在的に金融システム全体を混 乱させ、システミック・リスクを分散させるおそれがある。②金融商品決済システムは資金決済システ ムと密接にリンクしている。③それらのシステムの円滑な運営は金融政策の実施にとって重要である。

したがって、CCPに対する規制とオーバーサイトには、中央銀行の関与が必要となろう。そのため、F

MI

原則では、「中央銀行・市場監督者・その他の関係当局は、FMIの安全性・効率性を促進する上で、

適切な場合には国内と国際の双方の関係において相互に協力すべきである」ことを責務として、「本原 則に照らして

FMI

の決済がシステミックに重要な通貨すべてにおいて、当該

FMI

の決済の枠組みやそれ に関係する資金流動性リスク管理を評価する場合には、当該

FMI

に関して主たる責務を有する単一また

680 例えば、中央銀行によるオーバーサイトに対するCCPの影響(例えば、民間非銀行部門(non-bank private sector)

とのレポ・ポジションのネッティング、および以前に除外されていた銀行間ポジションの移行を通じてマクロ経済に関す る情報への影響など)に関する統計上の観点からの研究として、See Chris Wright, Central Counterparty Clearing an d Settlement: Implications for Financial Statistics and the Balance of Payments (2004) BOPCOM-04/8, https://

www.imf.org/external/pubs/ft/bop/2004/04-8.pdf.

681 See HUANG, supra note 64, at 137-138.

682 See id. at 138.

は複数の当局は、当該通貨発行国の中央銀行の見解を考慮すべきである。通貨発行国の中央銀行がその 責務の下でこれらの枠組みや手続を評価することを求められている場合には、当該中央銀行は、FMIに 関する主たる責務を有する単一または複数の当局の見解を考慮すべきである」という注意事項を挙げて いる683。実際には、決済分野においては、日銀は、銀行や証券会社などの個々の取引先に対するミクロ 健全性上の働きかけ(調査の手法としては、取引先へ立入って調査を行う「考査」と、立入りを伴わな い調査(面談や電話によるヒアリングや提出資料の分析など)である「オフサイト・モニタリング」) とは別に、自ら運営している日銀当座預金にかかる決済システムや国債の決済システムおよびこれらを 円滑に処理するためのコンピュータ・システムとしての日本決済システムの中核をなす日銀金融ネット ワークシステム(「日銀ネット」)の安全性、効率性の向上に取り組んできているほか、2013年

4

1

日 をもって「決済システムに対する『オーバーサイト』の基本方針(2010年

5

14

日)」の廃止につれ、

主に上述の

FMI

のための「基本方針」に沿って

CCP

規制を

FMI

規制およびマクロ健全性政策の一環と捉 え、オーバーサイトを行っている684

具体的には、日銀は、主として日本銀行法

44

1

項に規定する取引先金融機関等(国内銀行、信用 金庫、外国銀行・証券会社)との間で締結する考査の契約によって考査を行っており、日銀に口座を持 っていない

CCP

を考査対象としていないが、マクロ健全性面での取組みとして、FMI規制において有す る政策ツールを総動員し、FMI安全性・効率性向上のため、中央銀行として最大限の努力を重ねるほ か、CCPを含む

FMI

のオーバーシーアーとして上述の「基本方針」など一連のガイダンス等も踏まえ、

金融システムの安定性に関する分析・評価685を通じて、CCPのリスク管理高度化などの取組みを支援 し、さらには国内外の関係当局と協力し、国際的な議論や国際的に活動する

CCP

のオーバーサイト(そ の制度設計やリスク管理体制、運営状況等をモニタリングし、その各種取組み(リスク管理の強化やオ ペレーション面での安全性・信頼性の強化等)の状況を継続的に確認し、その安全性と効率性を評価す るとともに、必要に応じて改善に向けた働きかけ)など(本篇

2

1③参照)にも、積極的な貢献を果

たすことができる686。なお、国債振替決済機関として、日銀自身が運営する

FMI

である日銀ネット当預 系・国債系についても、FMI原則への適合状況を評価している。

それがイギリスのツイン・ピークス・アプローチの下での

BOE

CCP

等に対する健全性規制に類し、

上述の法的目標の解釈により、日銀をマクロ健全性規制当局とみなすことができるが、日銀に期待され ているマクロ健全性規制の実効性を確保するための手段は限られている。というのは、日銀は、最後の 貸し手の責任を果たすために取引先との契約に基づき考査を行うこと、および

CCP

等の

FMI

に対するオ ーバーサイトが認められているが、処罰権限または強制力がない。しかも、内閣総理大臣が議長を務め

683 CPSS & IOSCO・前掲注(41)184-185頁参照。

684 日本銀行・前掲注(679)日本銀行のマクロプルーデンス面での取組み8-9頁参照。

685 その内容については、日銀によると、①マクロ・ストレステストを用いた頑健性評価の充実、②実体経済と金融システ

ムとの間で生じる時系列的な相乗作用の把握、③システム横断的な観点を踏まえた金融部門に内在するリスクの分析、④ マクロ指標等を用いた金融不均衡の状況の把握、⑤金融資本市場から観察されるリスクの把握が挙げられている。日本銀 行・前掲注(672)日本銀行のマクロプルーデンス面での取組み6-8頁参照。

686 日本銀行決済機構局・前掲注(152)19頁。

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