• 検索結果がありません。

清算・決済機関の組織形態 (1) 垂直型と水平型 (1) 垂直型と水平型

清算・決済機関の形態は、「垂直型(インハウス)」と「水平型(アウトハウス)」の

2

つに区分され る。垂直型は、取引所と

CCP

が一体的に運営され、自市場・自グループの取引所の取引の清算を自ら行 う体制をいい、水平型は、1つの

CCP

が複数の取引所における取引の清算を横断的に行う体制をいう。

日本では、上場株式現物取引について水平型、市場デリバティブ取引について垂直型となっている318。 その

2

つの形態を比較すれば、取引所の収益の向上、取引業務の円滑化、および取引所の新たな取扱 いの金融商品に対する

CCP

のサポートという点で、垂直型は優れているが、取引所の競争の促進や、清 算参加者からの証拠金の低減、清算参加者の資金の移転の減少という点で、水平型は優れている319

Tina P. Hasenpusch

氏の文献レビューによると320、垂直型に比べて水平型の一般的な利点と欠点、お よび組織形態の選好について議論がよく行われている321。垂直型には多くの利点があるが、潜在的な欠

316 JDCC・前掲注(127)72頁。

317 TFXにおける間接参加者は以下のとおり分類される。それは、①清算参加者の顧客(清算参加者に口座を開設している 顧客)、②非清算参加者(TFX市場における取引を行うことができる資格(取引資格)を有するが、清算資格を有しない参 加者)、③非清算参加者の顧客(非清算参加者に口座を開設している顧客)である。TFX・前掲注(315)74頁。

318 上場株式現物取引の清算業務は、すべてJSCC(東京証券取引所グループの子会社)に集約されている。東京証券取引所

グループと大阪証券取引所の経営統合に伴い、20137月に、大阪証券取引所の市場デリバティブ取引にかかる清算業務 JSCCに統合された。松尾・前掲注(236)531頁。

319 陳晗「衍生品清算業務:『垂直型』清算模式与『平行型』清算模式的比較」(http://www.cfachina.org/yjycb/cbw/zgqh /2008/0000NDSQ00ZDWQ/200812/t20081201_1433935.html)参照。

320 See TINA P. HASENPUSCH, CLEARING SERVICES FOR GLOBAL: A FRAMEWORK FOR THE FUTURE DEVELOPMENT OF THE CLEAR ING INDUSTRY (2009) pp.60-62.

321 詳細については、See Susan V. Scott, Moving Markets: Report on IT-enabled strategic developments in cleari ng and settlement (Unpublished Reports), The Moving Markets Research Project, Information Systems Departmen

点がないわけではない。一般的に言及されるメリットには、インターフェースの減少による処理スピー ドの向上、安全性の向上、リスク管理の容易さ、法的確実性の向上が含まれる。これらの特徴のすべて は、効率性の向上に役立っている。垂直型についてよく指摘される潜在的な欠点の

1

つは、CCPの選択 が事前調整されてしまい、ユーザーの選択肢が限られていることである。水平型の支持者は、垂直型が ユーザーを一連のサービスによって効果的にロックし、他のサービス提供者との競争を制限すると主張 している。また、垂直型については、市場参加者は、価格の透明性の低下をも懸念している。垂直型 は、事業の垂直的な補助(subsidisation)を可能にし、清算コストを増やすおそれがある。垂直型に ついての非難が遍在するにもかかわらず、どの組織形態を優先すべきかについての明確で広く合意され た提案はまだない。これまでのところ、欧州委員会は、最終的に市場の力によって形態を決めるべきだ と主張し、特定の形態を推薦することを拒否している。

これまでの文献は、「水平主義者(horizontalists)」と「垂直主義者(verticalists)」の対立した 見解の両方を支持する論拠を提供してきた。

Baris Serifsoy

氏は、垂直型が他のビジネス・モデルよりも効率的または生産的だという証拠を見つ

けていないが、垂直型が他のビジネス・モデルよりも非常に強力な要素生産性の成長力(factor produ

ctivity growth)を持っているようだと結論付けている

322。Thorsten V. Koppl & Cyril Monnet氏によ ると、垂直サイロ(silo)323は、取引プラットフォームと決済プラットフォームの水平的な統合による 効率性向上の完全な実現を妨げる可能性がある324。Dirk Baur氏は、取引と決済に焦点を当てている が、垂直型が取引、清算および決済の価格低下につながるという明確な証拠の欠如を明らかにしている

325。Jing Yang & Jens Tapking氏は、水平型の決済システムが垂直型よりも望ましいが、垂直的な統合 がまったく統合されないものよりも優れていると主張している326

一方で、欧州銀行連合会(EBF)は、垂直型を活用することで市場に積極的な影響を与えると考えて いる327。Alistair Milne氏は、垂直型と水平型のどちらを優先すべきかを市場によって決めるべきだと

t, London School of Economics and Political Science (2003) pp.3–5, cited by HASENPUSCH, supra note 320, at 6 1. また、欧州とアメリカの水平型と垂直型の例については、See Daniela Russo et al., The Evolution of Clearing a nd Central Counterparty Services for Exchange-Traded Derivatives in the United States and Europe: A Comparis on (September 2002), ECB Occasional Paper No. 5, pp.31–36, https://ssrn.com/abstract=748968.

322 See Baris Serifsoy, Stock Exchange Business Models and Their Operative Performance, Journal of Banking an d Finance, Vol. 31, Issue 10 (2007) pp.2978–3012.

323 組織が縦割り構造になっていて各業務部門の活動が連動を欠いていることを「サイロ型業務」という。

324 See Thorsten V. Koppl & Cyril Monnet, Guess What: It’s the Settlements! Vertical Integration as a Barrie r to Efficient Exchange Consolidation, Journal of Banking and Finance, Vol. 31, Issue 10 (2007) pp.3013–303 3.

325 See Dirk Baur, Integration and Competition in Securities Trading, Clearing and Settlement, IIIS, Universi ty of Dublin - Trinity College and Joint Research Centre - European Commission, Research Paper (23 Mar 200 6), https://ssrn.com/abstract=891223.

326 See Jing Yang & Jens Tapking, Horizontal and Vertical Integration and Securities Trading and Settlement, ECB Working Paper No. 387 (August 2004), https://ssrn.com/abstract=576025.

327 See European Banking Federation (ed.), Response to the Commission’s Communication on the London Economic s Paper, Enclosure to Letter No. 0809, Brussels 2004.

主張し、上述の欧州委員会の立場を支持している328。Susan V. Scott氏は、既存の

CCP

が単に両極端の 垂直型と水平型の形に分類されるという勘違いを与える限り、垂直型/水平型に関する議論が誤解を招 くことを明らかにしている。また、同研究は、CCPが複数の組織間業務形態(inter-organisational bu

siness configurations)から構成され、分析されたビジネス/商品種目(line)によって、その一部の

形態は実際には垂直型であるが、その他はより水平的であることを示唆している329。さらに、既存の清 算業界では垂直型と水平型が混在しているところにより、一般的に利害関係者が両形態のいずれかを特 に選好していないことがわかる。

要するに、垂直型のメリットは、主に取引所との業務連携および経営の効率性にある。他方で、水平 型のメリットは、清算参加者の

CCP

に対するエクスポージャーおよびコストの低下である。下表のよう に、世の中の主要なデリバティブ

CCP

のほとんどは、垂直型を採っている。ただし、アメリカとイギリ スにおいては、主に水平型を採っている。また、特に垂直型または水平型へ転換する動きが見えない。

しかし、垂直型の問題として、①取引所の傘下にある

CCP

の直面したリスクが最終的に当該取引所に負 担されているため、このような

CCP

にはモラル・ハザードが生じ、システミック・リスク管理に悪影響 を与えるおそれがあること、②垂直型の下で、取引所の清算業務をほとんど自分の傘下にある

CCP

に任 せるため、店頭取引における清算参加者が

CCP

を選べなくなり、そして

CCP

の業務運営が、所属取引所 の組織形態や内部統制システムに囚われ330、または実際に独占的地位にあるおそれがあり、自主規制お よび清算市場の競争にとって不利になること331、③所属取引所における一定の金融商品に限られている せいで、CCPの業務範囲が広がりにくくなり、規模の経済や規制要件の統合化を妨げるおそれがあるこ とが指摘されている。

328 See Alistair Milne, Competition and the Rationalisation of European Securities Clearing and Settlement (J uly 2002) Working Paper, London 2002, http://citeseerx.ist.psu.edu/viewdoc/download?doi=10.1.1.196.9629&rep=

rep1&type=pdf.

329 See Scott, supra note 321.

330 証券の清算機関および決済機関が1つの取引所グループに属する場合には、さまざまな問題が生じる可能性がある。欧

州中央銀行が発表したペーパー(Daniela Russo et al., Governance of Securities Clearing and Settlement Systems (October 2004) European Central Bank Occasional Paper Series No. 21, p.18, https://www.ecb.europa.eu/pub/pd f/scpops/ecbocp21.pdf)では、取引所グループに関する問題として、グループの利益配分や投資に関する決定が当グルー プにおける証券清算・決済システムの顧客の利益よりも取引所を優先する可能性、技術革新のインセンティプが下がる可 能性、他のサービスの手数料をチャージして、赤字のサービスを埋め合わせる可能性、水平的統合が競争的取引所の立場 を害する可能性、CSDCCPが競争関係にある場合、関連CSDから以外のネッティングやCCP行業務供給が妨げられる可 能性があるとしているが、さらに1つのシステムの独占による問題もこれに含まれる。これらの他、出資者を取引所に限 定するか、顧客である参加者からの出資を認めるか、またそれらの出資比率をいくらにするか等の問題を含めた出資に関 する問題、職員の出身母体、取締役会の構成、運営コス卜の配分方法なども挙げられよう。JSCCは中立な機関かについて は、問題が指摘されているところである(二上季代司「清算機関のガバナンス―競争と市場インフラ―」証券経済研究37 号(2002)1-14頁)。システムの選定から出資割合、職員の母体など、JSCCは東京証券取引所に依存した組織であり、中 立性は認めがたいと考えられている。福本葵「証券決済清算機関のガバナンス」証券経済学会年報41号(2006)215頁。

331 例えば、米国司法省は、先物取引所が清算・決済業務を務めているため、他の取引所が先物取引所との取引の競争をし

難いようになることを問題視し、熾烈な競争があると、イノベーションや取引コストの低減、取引量の増加などをもたら しうると主張している。高成興=符文佳「論中央交易対手与交易対手信用風険管理」中南財経政法大学学報20105期(2 010)74-79頁参照。

関連したドキュメント