3. 食事療法における栄養素摂取量の分析 20
3.4 考察
40 60 80 100
2004006008001000
Protein (g)
Calcium (mg)
12 exchanges 16 exchanges 20 exchanges regular RDA
(a)カルシウム
40 60 80 100
5101520
Protein (g)
alpha-Tocopherol (mg)
12 exchanges 16 exchanges 20 exchanges regular AI
(b)ビタミンE
40 60 80 100
020406080
Protein (g)
Vitamin B-12 (μg)
12 exchanges 16 exchanges 20 exchanges regular RDA
(c)ビタミン B12 図 12 有意差の有無とその栄養素量分布
結果から,各単位の食事に関してほとんどの栄養素においてp<0.005となってお り,帰無仮説を棄却し有意差があると認められるといえる.一方で,脂質や炭水 化物などの基本栄養素以外において,ビタミンEやビタミンB12など一部におい て帰無仮説を棄却できない検証結果が得られた.カルシウム,ビタミンE,ビタ ミンB12について,たんぱく質量に対する分布を表したものを,図12に示す.横 軸がたんぱく質量,縦軸が各栄養素量となっており,それぞれに設定されている 下限値を破線で示す.各単位食ごとにプロットの種類を変えており,たんぱく質 量の少ないものから順番に,12単位食,16単位食,20単位食,常食と分布して いる.カルシウムの分布から,腎臓食に比べ常食中の栄養素量が優位に多いこと がわかり,その分布は推奨量付近に存在していることがわかる.それに対し,ビ タミンEやビタミンB12は常食と腎臓食中における栄養素量の分布が近い範囲で 存在していることがわかる.
表 9 常食と腎臓病食に関する有意差の検定結果
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た.ただし,カリウムなど一部において栄養素量のバラつきが大きいものに対し,
別途調整方法などを記載し対応していることから,一律の指標を用いて複数の栄 養素を適切な値で管理することの難しさが示唆された.
また,腎臓病患者の食事療法基準において基準値の設定がない複数の微量栄養 素に関して充足率が100%に満たないという事実が確認された.カルシウム,マ グネシウムをはじめとする複数の微量栄養素において,単位数が減少するに従っ て微量栄養素量の不足が顕著になる傾向があり,相関係数の計算結果からも,中 程度の相関が見られるものが多数存在した.このことから,腎臓病の食事療法に よってたんぱく質制限が厳しくなり,献立中のたんぱく質量が減少することに伴 い,他の多くの微量栄養素量が日本人の食事摂取基準を下回り,栄養不良状態に 陥る可能性が高くなる傾向があると考えらる.カルシウムなど一部の栄養素につ いて充足率が50%を下回るものが複数見られたほか,本に記載された献立をどう 組み合わせたとしても,充足率が100%に達しないものが存在した.栄養素の必 要摂取量は個人差によって変動するものではあるが,日本人の食事摂取基準に定 められた値の50%を下回るものに関して,健康的に問題がないとは言い難いと考 えられる.特に,カルシウムやビタミンDなどが不足状態となると,慢性腎臓病 に伴う骨ミネラル代謝異常のリスクが高まり,血管壁の石灰化や骨病変を引き起 こす原因となる.12単位食におけるカルシウムの充足率が38%であることから,
食事療法の実践によって骨ミネラル代謝異常のリスクを高めている可能性が考え られる.慢性腎臓病患者は腎性貧血の予防のために亜鉛や鉄の適当量の摂取も必 要となる.12単位食では,これらの充足率も低く70%程度であることから,こう いった微量栄養素に配慮して献立作成をするか,サプリメント等によって不足し ている栄養素を補ってやる必要があると考える.また,アンケートの結果から,
人は好みだけでなく食事のバランスも考慮して食事選択を行うことがわかり,実 際の献立選択時には単に好きなものを提示するだけでなく,日毎や週毎にバラン スのとれた食事選択をできる仕組みが必要となることが示唆された.
常食中の栄養素量の分析結果から,常食中のどの微量栄養素量に関しても日本 人の食事摂取基準の少なくとも80%が満たされていることが確認できた.また,
多くの栄養素について,その栄養素量は充足率100%を満足しており,常食中の
栄養素量はおおむね良好であると言える.常食と腎臓病患者向けの食事を比較し た結果,ほとんどの栄養素量に関して有意差が確認されたことから,これらの栄 養素の不足は腎臓病食特有の問題であると考えられる.一方で,ビタミンB12の ように単位数との相関が見られない栄養素も多く存在した他,栄養素量の分布が 単位数によらず幅の広いものも確認できた.このことから,食材の組み合わせに よっては,食事摂取基準を満たす腎臓病患者向けの献立を作成することが可能で あると考えられる.しかしながら,本実験で用いた書籍の手法において,多数の微 量栄養素の組み合わせを考慮した献立を作成することは容易ではない.栄養素の 種類が増えれば,それに応じて計算すべき次元が増えることになる.分析により カリウムの量にばらつきが確認できたことからも,すべての栄養素を一律の「単 位」のような値で表すことは現実的には難しいと考えられる.また患者が複数の 栄養素量の計算を毎食行うことも大きな負担となることが予想される.そのため,
複数の栄養素に関して適切な管理を行うために,情報技術を用いて複数の栄養素 量について配慮した献立計画支援手法は必要不可欠なものであると考える.本研 究においては,レシピの栄養成分データベースを整備し,添付の専門誌でも紹介 されているほか,産学官のみならず市民もオープンサイエンスとして利用可能な ものとした[31].そのため,次章では,このような情報技術を用いて長期的な食 事療法の実践における精神的負担を軽減する方法として,我々の考案した動的な 状況を考慮した献立計画支援手法について述べる.