4. 動的な状況を考慮した献立計画支援手法 41
4.2 献立計画支援手法の仕様検討
4.3.4 考察
!"#$
!"%$
&"#$
&"%$
'"#$
'"%$
("#$
("%$
%"#$
!"!$)
#$%&
!"&$) '(%&)
*+,-./
!"'$) '(%&)
*+,-01
234
*+#"#!
*+#"#%
図 19 評価結果3: 1食毎の満足度
!"#$
!"%$
&"#$
&"%$
'"#$
'"%$
("#$
("%$
%"#$
!"!$)
#$%&
!"'$) '(%&)*+,-./
0*+1234566 78938:;<=>?@
ABC
図 20 評価結果4: 1食毎の満足度(外食可能な事実を考慮した場合)
人は単純に高栄養価な食事を選択し満足するわけではない.前章の被験者実験で 得たアンケート結果にもあったように,人が献立計画を考える際には,バランス や旬など様々な要因が影響する.このため,摂取量の上限が増したからといって 高栄養価の食事が選択されるのではなく,さほど高栄養価ではない食事が選択さ れる場合も多いと考えられる.今回の実験で使用した献立の全組み合わせは,下 限値が約1,300kcal,上限が約2,500kcalであり,中央値は1,900kcalであった.基
本的に1,900kcal付近の食事が選択されていたとすると,複数日での摂取量に制
限を課す提案手法においては,既存手法に比べて常に選択肢が多い状態になる.
以上より,条件2において被験者は常に多くの選択肢を与えられ,満足度の高い 献立選択が実施できていたと考えられる.
それに対し,条件3の満足度が高くなかった理由として,外食予定日前後の日 程における食事制限の影響により満足な献立選択ができなかったことが考えられ る.また,被験者は実際の料理を食べていないことも結果に影響したと考えられ る.被験者は,メニューの写真と内容から献立選択を行っていたため,見た目に美
味しそうと判断する料理が多い場合には腎臓病食に関する満足度が向上し,相対 的に外食予定に対する魅力が減少したと考えられ,結果,既存手法との満足度の 差が見られなかったと考えられる.つまり,食事制限を一週間程度で考えた場合 には,外食の重要度がそれほど高くなく,かつ外食予定日以外の日程での食事に 制限が課さられた不満が影響したために,満足度が上昇しなかったと推測される.
この選択手法が一生続く場合の満足度を比較した結果,図18[a]より,外食を 自身で選択できることを伝えなかった場合に,それぞれの手法によって満足度の 相違は見られなかった.外食を選択できると意識しない場合は,外食による満足 度の向上に比べ,食事制限が一生続くことの不自由感の影響が強く現れ,結果満 足度の有意差は認められなかった.また,図18[b]より,食事療法の長期実践に おいて外食を選択可能であるということは,満足度を向上させる要因となること がわかる.全体的に普通もしくは不満とする回答が得られており,一生続けるこ とに対する懸念が多いことが考えられる.また,被験者の中には,どの献立も美 味しそうだと話していたにも関わらず,一生続けることに対しては外食がない場 合には不満であると回答した人もいた.これは,外食が単においしい食事である という価値だけでなく,社会的意義のある食事としての価値が反映された結果で あると考えられる.このような結果から,外食等の食事イベントに参加が可能に なることの価値は多大なものであると示唆される.一方で,一生続けるというイ メージがわかないという意見も聞かれたことから,食事療法を実践している患者 や経験者に尋ねた場合には,今回得られた結果とは異なる傾向が得られることも 考えられる.
図19より,提案手法で外食予定がある場合に満足度が下がっているのは,外食 予定前後の制限が課された期間において,各日の選択肢が少なくなったことが満 足度の低下をもたらしていると考えられる.特に,外食前後の日程において,朝 昼の食事を決めると,晩ごはんが1種類しか選択できない状態になるなど,選択 の自由を失ったことが満足度に影響していると考えられる.しかし,図20から もわかるように「外食可能な代わりに,前後の期間の制限が厳しくなる」ことを 念頭に置き回答してもらうと,満足度は高くなっていた.このことから,制限が 多少厳しくなっても,外食を可能になることは既存手法と変わらないぐらいに満
足度を高めることから,外食に参加できることが,食事制限を課されている際の 食事の満足度を向上させる要因となる可能性があると考えられる.
以上より,今回我々が提案した手法は,外食などの食事イベントへの参加を可 能とするとともに,食事療法の長期実践において満足度を向上させる可能性が示 唆された.
5. 結論
本研究では慢性腎臓病の食事療法について,従来の食事療法における微量栄養 素量の分析を行い,従来手法の実態を明らかにするとともに,食事療法実践にお けるQOLの向上を目的とした献立計画支援手法を提案し,その評価を行った.
一つ目に,従来の食事療法の実態調査として,慢性腎臓病患者向けの献立本を 用いた被験者実験を行い,栄養素量の分析を行った.結果として,慢性腎臓病の 食事療法基準で基準値が定められている栄養素は概ね適切な管理がされていると 認められた一方で,基準が定められていない複数の微量栄養素について,日本人 の食事摂取基準に対する充足率が低いという結果が明らかになった.充足率の低 さの程度は栄養素ごとに異なり,充足率が50%以下の栄養素も複数存在し,微量 栄養素の明らかな不足が認められた.また,常食の栄養素量の分析結果との比較 により,微量栄養素量の不足は腎臓病食の制限による特有のものである可能性が 示された.二つ目に,動的状況に対応した献立計画支援手法の実現に向けて,複 数日にわたる栄養摂取量に対して摂取制限を課す手法を提案し,評価実験を行う ことで満足度の違いを比較した.その結果,提案手法により献立計画を立案する ことで,満足度の向上が確認された.特に,提案手法により外食が選択肢に加わ ることで,長期の食事療法実践を考えた場合においても献立計画時の満足度を向 上させる傾向が認められた.これらの結果から,我々の提案手法は,食事療法の 長期的実践の際に患者の満足度を向上させる献立計画支援手法となる可能性を示 した.以上より,本研究はこれまでの食事療法において配慮する栄養素の領域を 拡げ,ストレスに配慮した食事療法の実現の第一歩として貢献するものである.
最後に今後の展望を述べる.従来の食事療法に置いて用いられる献立中の栄養 素量の調査結果から,慢性腎臓病患者向けの食事には,たんぱく質の制限が厳し くなればなるほど,微量栄養素が不足傾向になることが予想され,今後さらなる 調査をすることでその詳細を明らかにする必要がある.加えて,データベースの 整備を進め,食事療法に利用可能なデータの量を増やすことで,実際にこのデー タベースを使用して長期的な食事療法の実践を補助することが可能であると考え ている.また,動的な献立計画支援手法について,我々は朝ごはんや昼ごはんな どといった献立を一つのまとまりとして扱ったが,主菜や副菜に分解して自由に
組み合わせることを可能とすれば,さらに選択肢の幅が広がり,食事療法の長期 的な実践を助けるものとなることが予想される.今回の実験では奈良先端科学技 術大学院大学の学生を被験者としていたが,これを実際の患者に使用してもらい 評価をすることで,本来目標としていた患者のQOL向上に効果があるかを確認 することが可能となる.これにより,我々が提案した献立計画支援手法が患者の QOL向上に寄与すると判断された場合には,提案手法の医学的な検証を行う意義 を生むこととなり,医学的にも妥当性が認められた際には,本研究で提案した手 法が実際の食事療法に応用できるものと考えられる.また,慢性腎臓病に限らず,
他の疾患が原因となって実施している食事療法や,生活習慣病に対しての食事指 導についても,我々の提案手法が精神的負担を軽減する一手法となると考える.
謝辞
本研究を進めるにあたり,私にこのような研究の場を提供してくださり,ご多 忙な中貴重なお時間を割いて,多大なるご指導・ご鞭撻を賜りましたインタラク ティブメディア設計学研究室 加藤博一教授に心より感謝申し上げます.副指導教 官として貴重なご助言をいただきました環境知能学研究室 萩田紀博教授に深く 感謝いたします.本研究の遂行にあたり,食事療法や栄養に関する内容を中心に 常日頃からご助言を賜るとともに,日々激励の言葉をかけてくださいました近畿 大学農学部 冨田圭子准教授に心より感謝申し上げます.慢性腎臓病に関する詳 細な情報をご教授いただきましたほか,医学的な観点から鋭いご指摘,ご助言を 常日頃から賜りました近畿大学農学部 木戸慎介准教授に心より感謝申し上げま す.研究遂行にあたり,多岐にわたるご助言をいただくとともに,温かいお言葉 をかけていただきました計算システムズ生物学研究室 金谷重彦教授に心より感 謝申し上げます.研究に使用するデータの提供をいただいたほか,データベース の整備をいただくなど多大なる貢献をいただきました計算システムズ生物学研究 室 森田晶研究員に心より感謝申し上げます.研究室内でのミーティングにおいて 鋭いご指摘をいただき,発表に対して多くのご助言を賜りましたインタラクティ ブメディア設計学研究室Christian Sandor准教授に深く感謝いたします.被験者 実験の計画等,研究を進める上で常日頃よりご助言をいただき,常日頃より気に かけてくださいましたインタラクティブメディア設計学研究室 山本豪志朗助教 に深く感謝いたします.日頃より鋭いご指摘,ご助言をいただきましたインタラ クティブメディア設計学研究室 武富貴史助教に深く感謝いたします.研究遂行 にあたり,作成したアプリケーションに使用した献立のデータを提供いただいた ほか,議論を通じて多くの知識や示唆をいただいた近畿大学農学部 稲村真弥助 手,上西梢助手に心より感謝申し上げます.数多くのミーティングの機会をくだ さり,食事や栄養に関するご助言をいただきましたほか,本研究で使用した数多 くのデータの提供をいただきました近畿大学農学部 生島早紀子さん,井関遥さ ん,川崎希美さんに深く感謝いたします.CKDプロジェクトのキックオフミー ティングにおいて有益な議論,意見交換をさせていただきました近畿大学農学部 林孝洋教授,近畿大学医学部奈良病院 井口真宏管理栄養士,近畿大学農学部 西