3. 食事療法における栄養素摂取量の分析 20
3.2 被験者実験
3.2.2 方法
慢性腎臓病患者向けの食事中の栄養状態を分析するため,予備調査と同じ献立 本[30]を用いた被験者実験を実施した.実生活を想定するため,被験者は日常的 に家族の分の食事を作っている者とし,奈良先端科学技術大学院大学に勤務する 30代から50代の女性11名とした.被験者は,慢性腎臓病を患った50歳,体重 60kgの男性患者に食事を作る想定のもと,1週間分の献立計画を立案する.実験 を実施するにあたり,下記のような想定を被験者に説明した.
• 家族構成
夫 50歳男性(患者),妻 46歳(被験者),息子 15歳,娘12歳
• 時期
春から夏 (6月頃)
• 患者
50歳男性,身長165cm,体重60kg 会社員として働いており,平日は19時 まで仕事をしており,土日は休みである.患者の前週の仕事内容は通常通り であり,デスクワークが中心で1日の出張があった.
• 被験者
毎日栄養摂取制限を気にして料理を作っている
• 前々日の食事:
– 朝:ご飯,納豆,サラダ – 昼:そば,天ぷら,おひたし – 夜:ご飯,焼き魚,煮物
• 前日の食事:
– 朝:パンケーキ,ジュース,ヨーグルト – 昼:チキンライス,中華スープ
– 夜:ビーフカレー,サラダ
腎臓病の進行具合の違う3条件を想定するため,独立変数と従属変数を以下のよ うに設定する.
• 独立変数
朝昼晩の食事で選択できる単位数.
• 従属変数
選択できる朝昼晩の食事の組み合わせ.
朝昼晩のご飯を選択する際,その単位数の合計は,20, 16, 12単位となるように 選択をするものと設定した.この設定は,患者数の比較的多い腎臓病ステージ2,
3a, 3bの患者を想定し定めたものである.被験者は以上に基づき献立計画作成を
実施した.
実験の流れを以下に示す.
(I) 同意書の記入
被験者に本実験が慢性腎臓病の食事療法に関する実態調査である旨を説明 し,参加に同意する場合に同意書を記入させる.
(II) 慢性腎臓病の食事療法に関する説明
食事療法には複数の栄養素摂取量の適切な管理が必要である旨を説明する.
(III) 実験における想定の説明
前述の想定を説明し,被験者に想像させる.
(IV) 献立本の使用方法の説明
(IV-i). 献立本は「単位」という尺度で食事制限を実施できることを説明する.
(IV-ii). 腎臓病の病状によって選択できる単位数が異なることを説明する.
(IV-iii). 献立選択時に,同じ食事の重複等には制限を設けないことを説明する.
(V) 献立計画作成
被験者は,指示された単位数に合うように1日の食事中の単位数が一致す るような組み合わせを選択し,1週間分の献立計画を立案する.これを単 位数の制限が異なる3条件について実施する.
(VI) アンケート記入
被験者は,実験終了後にアンケートに回答する.
なお,慢性腎臓病のことを知らない被験者もいると考えられたため,実験中の質 問にはできる限り答えることとした.
実験終了後に,得られた食事のデータから栄養素量の分析を行った.食事中の 栄養素量の分析には,奈良先端科学技術大学院大学,情報科学研究科の計算シス テムズ生物学研究室が作成しているKNApSAcK Family DB[36]を使用した.図
9にKNApSAcK Family データベースのメインウィンドウを示す.本研究では図
9中の左列にあるレシピ検索データベース「YAKUZEN」を使用しており,この データベースには,今回の実験に用いた献立本の栄養素情報が掲載されている.
データベースに掲載の栄養素情報は,献立本に記載の食材とその重量をもとに,
日本食品標準成分表2010のデータを用いて計算されている.
食事療法基準において摂取量の基準値が規定されていない栄養素に関して,そ れらの充足率の算出には日本人の食事摂取基準の値を用いた.摂取基準の下限値 に採用した指標の説明を以下に示す.
• 推定平均必要量(EAR):50%の人が必要量を満たす量
図 9 KNApSAcK Familyデータベース[36]
• 推奨量(RDA): 97.5%の人が必要量を満たす量
• 目安量(AI):特定の集団において不足状態を示す人がほとんどいない量.
十分な科学的根拠がないためEARやRDAが示せないものに設定
• 目標量(DG):生活習慣病の発症および重症化予防のために現在の日本人 が当面の目標とすべき量
今回の分析では,主にRDAを採用することとし,科学的根拠に乏しくRDA並び にEARが設定されていない場合に,AI,DGを用い充足率の計算を行った.