第 3 章 有機染料水の磁気シーディング 実験実験
3.5 考察
図3.20: TOCを用いた場合の染料水溶液のpHが吸着に及ぼす影響
3.5.2 RNIP の吸着作用
一方、RNIPの吸着作用について考察する。前述したように、RNIPの水酸基の表面電
荷とOrange のアニオンとCrystal violetのカチオンとの静電相互作用による吸着が主な
作用であると考えられる[58]。
RNIPについては、共存するイオンの影響も考える必要がある。RNIPは製造過程にお いて硫酸第一鉄を使用する。その結果、SO24−が残存し、水に懸濁させたときSO24−が溶 け出す。一方、Orange 水溶液には、SO−3 が存在する。このSO24−がSO−3 より先にRNIP の水酸基に再結合するため、吸着サイト(水酸基)が少なくなり、Orange の吸着を妨げ るというものである[1, 58]。陰イオンクロマトグラフィー(Dionex ICS-1600、日本ダイ オネクス 、東洋大学生命科学部角野研)によって懸濁水中のSO24−を測定した結果は、
9.407 ppmでった。
MACも製造過程において硫酸第一鉄を使用し、水に懸濁させるとSO24−が溶け出す。陰 イオンクロマトグラフィーによって測定した結果は、25.399 ppmであった。しかしなが ら、MACは無機イオンを吸着しないため、SO24−がMACに再結合する可能性はない。懸 濁水中に溶け出したままである。
図3.21: 活性炭の細孔の種類
3.6 脱着実験
より高速で磁性粒子を分離するためには、磁気シーディングにおいて染料分子と磁性粒 子が固く結合していることが重要である。そこで、pHの変化が、各染料とMAC、RNIP の脱着にどのように影響するかを実験によって調べた。実験方法を以下に示す。まず、吸 着実験を4.3.1節と同様に行った。その後、上清を捨て、pH 3, 5, 7, 10に調整した蒸留水
100 mLを添加した。2分間よく撹拌した後、4.3.1節と同様の方法で上清を取りサンプル
とした。吸光度とTOCにより脱着率を求めた。吸光度による脱着率は、以下の式から求 めた。
Desorption ratio(%) = Arel
Aini−Af in ×100 (3.3) ここで、Arelは脱着実験後の上清の吸光度、Ainiは、染料水溶液の吸光度、Af inは、吸 着実験後の上清の吸光度である。
TOCによる脱着率は、以下の式から求めた。
Desorption ratio(%) = Crel
Cini−Cf in ×100 (3.4) ここで、Crelは脱着実験後の上清のTOC量、Ciniは、染料水溶液のTOC量、Cf inは、
吸着実験後の上清のTOC量である。
3.6.1 実験結果と考察
(1)吸光度による評価
pHが脱着に及ぼす影響を、吸光度により評価した結果を図3.22に示す。その結果、MAC では、Orange の脱着率はpH 3で0.2%、pH 5〜10では0.1%であった。Crystal violet は、pHが高くなると脱着率は僅かに低下したが、すべて0.06%以下であった。
一方、RNIPは、Orange の脱着率は、MACと同様にpHによって殆ど変化なく、脱着
率0.4%前後であったが、Crystal violetは、pH 3において脱着率が7.61%と高かった。そ れ以外のpHでの脱着率は、約0.5%でpHによる変化はなかった。pH 3で脱着率が高い のは、RNIPの表面電荷がよりプラスになったことで、一度吸着したプラスの電荷をもつ
Crystal violetが静電反発により脱着したためと考えられる。また、脱着実験後の上清を目
視した結果は透明であった。この結果からMAC、RNIPからの染料分子のpHによる脱着 の可能性は、わずかであることがわかった。
図3.22: pHによる脱着への影響(吸光度特性)
(2)TOCによる評価
pHが脱着に及ぼす影響を、TOCにより評価した結果を図3.23に示す。その結果、MAC では、Orange 、Crystal violetともに脱着率はpHが高くなるに連れて増加する傾向を示 した。Orange のpH 10での脱着率は6.34%、Crystal violetのpH 10での脱着率は2.38
%であった。
一方、RNIPの場合も、Orange の脱着率はpHが高くなるに連れて増加する傾向を示 し、pH 10での脱着率は9.26%であった。しかしながら、Crystal violetは、pH 3におい て脱着率が最も高く、4.24%であった。
TOCによる評価と吸光度による評価に相違があった。この相違は、脱着実験後の上清 は、すべてのサンプルで透明であり、pH3のサンプルも着色は目視できなかったことか ら、吸光度では、検出できない染料分子,あるいは、分解された染料分子がTOCによって 検出されたためと考えられる。TOCによる結果からも、MAC、RNIPからの染料分子の pHによる脱着の可能性は、わずかであることがわかった。
図3.23: pHによる脱着への影響(TOC特性)