• 検索結果がありません。

考察

ドキュメント内 九州大学学術情報リポジトリ (ページ 43-47)

第一章 :新規医療用麻薬ヒドロモルフォン即放錠及び徐放錠の日本人健康成人における

5. 考察

国内で初めて、新有効成分の医療用麻薬について、健康成人を対象とした臨床試験を実 施した。海外治験データや文献情報等を活用し、安全性に問題ないと推定された用法用量 を設定し、被験者の安全性を最優先に臨床試験を計画した結果、日本人健康成人男性に、

新規に開発したヒドロモルフォン即放錠又は徐放錠を単回投与したときの安全性及び忍容 性に問題はなかった。また、ヒドロモルフォンによる薬物依存は認められなかった。

ヒドロモルフォン即放錠投与時の体内動態について、ヒドロモルフォンは速やかに吸収 され、投与約1時間後にCmaxに達した。また、今回の投与範囲(1~4 mg)ではヒドロモ ルフォンの曝露はおおむね投与量に比例して上昇した。空腹時に即放錠4 mgを投与した 時のヒドロモルフォンのT1/2は、18.3±11.7時間であり、外国人での報告値(12.7±3.4時 間)と同程度であった[19]。ヒドロモルフォンは、肝臓でUGT2B7により抱合代謝を受け

[20]、主代謝物であるH3Gが生成される。H3GはMORに対するアゴニスト活性が非常に

低く[4]、モルヒネのグルクロン酸抱合代謝物とは異なり鎮痛効果には寄与しない。

UGT2B7の遺伝子多型は、日本人と白人でアレル頻度(UGT2B7*1及びUGT2B7*2)が異

なることが報告されている[21]。しかし、UGT2B7の遺伝子多型がヒドロモルフォンの薬 物動態と安全性に及ぼす影響について、台湾健康成人で麻薬拮抗剤であるナルトレキソン を併用して検討したところ、UGT2B7*2アレル数の増加によりUGT2B7*1/*1と比べて、

Cmax及びAUC0-36hの若干の増加が見られるものの、AUCinfには変化がなかった[22]。ま

た、代謝能の指標の一つであるヒドロモルフォンとH3Gとの比はいずれの遺伝子タイプで も同様であった。これらの結果から、ヒドロモルフォンの薬物動態に人種差は無いものと 考えられた。また、今回の検討は日本人健康成人男性のみを被験者とした試験であった が、ヒドロモルフォンの体内動態の性差について、白人健康成人男性と女性とでほとんど 差異がない(AUC0-24hの差異は2%程度)ことが報告されている[23]。これより、日本人健 康成人女性についても今回得られた日本人健康成人男性の結果と類似した体内動態を示す ものと推察される。

ヒドロモルフォン徐放錠投与後の体内動態について、血漿中ヒドロモルフォン濃度の上 昇は緩徐でTmaxの中央値は、投与量2 mg及び6 mgでそれぞれ3.5及び5時間であっ

41

た。即放錠と同様に、投与量2 mg及び6 mgでヒドロモルフォンの曝露はおおむね投与量 に比例して上昇し、空腹時に徐放錠6 mgを投与した時のヒドロモルフォンのT1/2は、

16.8±6.69時間であった。空腹時投与におけるヒドロモルフォン即放錠2 mg及び徐放錠 2 mgの薬物動態を比較すると、ヒドロモルフォンのAUCinfは製剤によらずほぼ同様であ った一方、徐放錠でCmaxは低下し、Tmaxは遅延した。

海外の徐放性製剤(ヒドロモルフォンOROS錠)と比較すると、ヒドロモルフォン徐放 錠について、投与量で補正したCmaxは0.18 ng/mL、投与量で補正した投与24時間後の血 漿中濃度は2 mg及び6 mgでそれぞれ0.042 ng/mL及び0.058 ng/mLであった。ヒドロモル フォンOROS錠の慢性疼痛患者対象の評価において、投与量で補正したCmax及び定常状 態ヒドロモルフォン濃度はそれぞれ0.16 ng/mL及び0.069 ng/mLであり[24]、上述の値と 類似していた。徐放性製剤を評価するときの一つの指標としてCmaxとトラフ濃度との濃 度変動比があるが、ヒドロモルフォン徐放錠2 mg及び6 mgの空腹時投与での濃度変動比 はそれぞれ102.6%及び76.6%であり、ヒドロモルフォン即放錠では172.0%、ヒドロモル フォンOROS錠では健康成人で60.5%、慢性疼痛患者で99.6%であり[24]、ヒドロモルフ ォン徐放錠とOROS錠とで類似した値を示した。また、ヒドロモルフォン徐放錠6 mgの

T1/2(16.8±6.7時間)は、ヒドロモルフォンOROS錠16 mgを空腹時に健康成人に投与し

たときの値(14.7±6.07時間)と同様であった[17]。このように、ヒドロモルフォン徐放錠 の体内動態特性はヒドロモルフォンOROS錠と類似した薬物動態プロファイルを示してお り、1日1回投与のヒドロモルフォン徐放性製剤の一つとして適切な薬物動態特性を有し ているものと考えられた。

食事がヒドロモルフォンの体内動態に及ぼす影響について、ヒドロモルフォン即放錠及 び徐放錠とも食後投与で曝露がやや上昇する傾向がみられ、ヒドロモルフォン徐放錠では 食後投与で、AUCinf及びCmaxが空腹時投与と比較してそれぞれ127.2%及び164.9%に上 昇した。

ヒドロモルフォン製剤の薬物動態に及ぼす食事の影響については、即放性製剤につい て、海外で市販されているDilaudid® IRでは、空腹時投与に比べて食後投与で、ヒドロモ ルフォンのCmax(平均値)は25%低下、AUCinfは24%増加する傾向が見られた[16]。

42

徐放性製剤については、ヒドロモルフォンOROS錠では、AUClastに対する食事の影響 はないものの、Cmaxは食後投与時に上昇がみられている(1.352 ng/mL vs. 1.107 ng/mL)

[17]。同様に、OROS錠とは異なる徐放機構を用いた製剤(multiparticulate melt-extrusion

pellet capsule formulation)でも食後投与によりCmaxの増加(16.9%)が報告されている

[18]。しかし、どちらの徐放性製剤も臨床的には有意な影響がないことが報告されている [17-19]。

一般的に、薬物の吸収過程には飲食物中の成分も大きな影響を及ぼすことがあり、例え ば脂溶性が高く消化管内での溶解性が低い薬物の中には、高脂肪食の摂取に起因する胆汁 の分泌増加等により溶解性が高まり、薬物の消化管吸収が増加する場合もある[25]。本研 究において、ヒドロモルフォン徐放錠、即放錠とも体内曝露は食事により上昇する傾向が 見られたが、ヒドロモルフォンの脂溶性は低く、その原因は不明である。しかし、体内曝 露の情報の程度は軽微であり、また食事の有無により安全性に差異はなく、ヒドロモルフ ォンの服薬時に食事制限の必要はないものと考えられた。

今回、新たに開発したヒドロモルフォン徐放錠2 mg及び即放錠2 mgについて、AUCinf の比(徐放錠/即放錠)は1.094であった。疼痛刺激に対する鎮痛効果とヒドロモルフォ ン血漿中濃度との間に線形の関係があり、1日あたりの投与量が同じである場合に、ヒド ロモルフォンOROS錠(1日1回投与)とヒドロモルフォン即放性製剤(反復投与)とで 同様の効果が得られるとの報告がある[24]。これより、ヒドロモルフォン即放錠とヒドロ モルフォン徐放錠とで1日投与量を同一とした場合には、両者で同様の治療効果が期待さ れるものと考えられた。

安全性について、海外では、健康成人を対象としたオピオイドの臨床薬理試験では多く の場合、中枢性の副作用回避のため麻薬拮抗薬である経口ナルトレキソン(国内未承認)

を併用投与する。今回の臨床試験では、ナルトレキソンの併用投与を実施しなかったもの の、ヒドロモルフォン即放錠及びヒドロモルフォン徐放錠とも日本人健康成人男性で安全 性及び忍容性に問題はなかった。オピオイドの有害事象として一般的に報告されているも のとして、嘔気、嘔吐、めまい、頭痛、呼吸抑制等が報告されているが、ヒドロモルフォ ンOROS錠では疼痛患者で嘔気、便秘、ねむけ、嘔吐、頭痛、めまいなどが報告されてい

43

る[17]。今回の臨床試験でも、これらと類似した有害事象(眠気、頭痛、嘔吐)が見られ たものの、安全性及び忍容性に問題はないことが示された。

本研究によって、新規ヒドロモルフォン製剤の即放錠及び徐放錠について、健康成人に おける安全性、忍容性、及び薬物動態特性が確認された。この結果を元に、がん疼痛患者 を対象とした臨床第II相及び第III相の後期臨床試験が実施され、がん疼痛患者での安全 性及び有効性が確認された[4, 26]。即放錠は短時間での鎮痛効果の発現が確認され、徐放 錠は1日1回投与にて期待される効果が得られた。さらに服薬時の食事の影響について、

患者試験においても食事の有無による安全性及び有効性への影響はなく、服薬時に食事制 限は必要ないことが確認された。本研究で得られた健康成人を対象とした臨床試験の知見 は、臨床使用が想定されるがん性疼痛を有する患者の安全性及び有効性、至適用法用量の 設定のための基本情報として有効活用された。

44

ドキュメント内 九州大学学術情報リポジトリ (ページ 43-47)

関連したドキュメント