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ヒドロモルフォン及びオキシコドンにより血中レベルが低下した miRNA

ドキュメント内 九州大学学術情報リポジトリ (ページ 87-100)

第三章 : 医療用麻薬の新規バイオマーカーとしての血中 miRNA の探索

4.3 ヒドロモルフォン及びオキシコドンにより血中レベルが低下した miRNA

ヒドロモルフォン及びオキシコドン投与に共通して17種の血漿中miRNAレベルが低下 した。そのうち5種の代表的な

miRNA(miR-144-3p、miR-192-5p、miR-215、miR-363-3p、及びmiR-194-5p)の変動を図4.3-1に示す。これらのmiRNA発現レベルの平均変化量

は、オキシコドンよりもヒドロモルフォン投与群で大きかった。

図4.3-1 ヒドロモルフォン及びオキシコドン投与に共通して

血中レベルが低下した代表的なmiRNA

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4.4 µ-オピオイド受容体(MOR)機能調節に関与する miRNA(ヒドロモルフ ォン及びオキシコドンにより血中レベルが増加したもの)

これまでの報告に基づいてMOR機能調節に関与すると予測されるmiRNAとして、ヒド ロモルフォン投与により6種の

miRNA(let-7f-5p、let-7d-5p、let-7c、let-7e-5p、miR-181a-5p、及びmiR-103a-3p)の血中レベルが増加(代表的な4種を図4.4-1に示す)し、オキシ

コドン投与により1種のmiRNA(miR-339-3p)の血中レベルが増加した(図4.4-2)。

図4.4-1 ヒドロモルフォン投与により血中レベルが増加したmiRNAのうち、

µ-オピオイド受容体(MOR)機能調節に関与する可能性のあるmiRNA

図4.4-2オキシコドン投与により血中レベル増加したmiRNAのうち、

µ-オピオイド受容体(MOR)機能調節に関与する可能性のあるmiRNA

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5. 考察

ヒドロモルフォン及びオキシコドンの投与により変動する血漿中miRNAを評価し、医 療用麻薬に関する新規バイオマーカー候補の探索を行った。

本研究により、9種のmiRNAの血中レベルがヒドロモルフォン及びオキシコドン投与 24時間後に共通して増加することが確認された(表4.1-1)。ヒドロモルフォン及びオキシ コドン投与により血中レベルが増加したmiRNAとそのMOR機能調節への関与に関する文 献情報を表5-1にまとめた。

表5-1 ヒドロモルフォン及びオキシコドン投与により血中レベルが増加したmiRNA 及びその µ-オピオイド受容体(MOR)機能調節への関与に関する報告

投与薬剤 miRNA MOR機能調節への関与 文献 ヒドロモルフォン

及びオキシコドン 共通

let7a-5p  OPRM1遺伝子への結合によるMOR機能調節に関

与、オピオイド耐性と関連 17

miR-146a-5p

 ヒト単球由来マクロファージでモルヒネ処置によ り増加

 疼痛シグナル伝達に関与

18, 19

miR-23b-3p  モルヒネによって発現誘導され、MOR機能調節

に関与 20

ヒドロモルフォン

let-7 ファミリー

(let-7f-5p、let-7d-5p、let-7c、let-7e-5p)

 OPRM1遺伝子への結合によるMOR機能調節に関

与、オピオイド耐性と関連 17

miR-181a-5p

 マウス海馬細胞でモルヒネ処置により増加、神経 発生と関連

 マウス海馬細胞でコカイン処置により増加、薬物 中毒と関連

21, 22

miR-103a-3p  モルヒネ曝露により細胞系及びマウス線条体にお

いて発現レベルが増加、MOR機能の抑制に関与 23

オキシコドン miR-339-3p

 MORシグナル伝達と機能的に関連、MOR産生を

制御することでMORシグナル伝達を負にフィー ドバック

24

OPRM1: opioid receptor mu 1

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ヒドロモルフォン及びオキシコドン投与に共通して増加することが確認されたlet-7a-5p は、MORをコードしているopioid receptor mu 1(OPRM1)遺伝子の3'-非翻訳領域への let-7ファミリーの結合がMOR機能調節に関与し、オピオイド耐性に関連することが報告さ れている[17]。miR-146a-5pは、ヒト単球由来マクロファージではモルヒネ処置により増加 することが観察されており[18]、また、疼痛シグナル伝達に関与することが報告されてい る[19]。miR-23b-3pは、モルヒネによって発現誘導され、MOR機能調節に関与しているこ とが報告されている[20]。よって、今回観察されたlet-7a-5pをはじめとするmiRNAの血中 レベルの増加は、オピオイド投与によるMOR刺激に対する負のフィードバック制御反応 を反映している可能性が推察される。

また、ヒドロモルフォン投与により血中レベルの増加が見られたmiRNAのうち、6種の miRNA(let-7f-5p、let-7d-5p、let-7c、let-7e-5p、miR-181a-5p、及びmiR-103a-3p)(表 4.1-1)、並びにオキシコドン投与により血中レベルの増加が見られたmiR-339-3p(表4.1-2)

は、MOR機能調節と関連があることが知られている(表5-1)。ヒドロモルフォン投与に より血中レベルの増加が見られたlet-7ファミリー(let-7f-5p、let-7d-5p、let-7c、及び

let-7e-5p)は、上述のようにMOR

機能調節に関与することが報告されており[17]、miR-181a-5pは、マウス海馬細胞でモルヒネ又はコカイン処置により増加することから、神経発生や 薬物中毒との関連が報告されている[21, 22]。miR-103a-3pは、モルヒネ曝露により細胞株 及びマウス線条体において発現レベルが増加し、MOR機能の抑制に関与することが報告 されている[23]。オキシコドン投与により血中レベルの増加が見られたmiR-339-3p(表

4.1-2)は、MOR産生を制御することによってMORシグナル伝達を負にフィードバックす

る可能性が報告されている[24]。

したがって、今回見られたmiRNAの血中レベル増加は、ヒドロモルフォンもしくはオ キシコドン投与により生じたMOR刺激に対する負のフィードバック制御を示唆するもの と推察された。よって、これらのmiRNAがMOR刺激レベルを評価するための血中バイオ マーカーと成り得るものと考えられた(図5-1)。

一方、今回17種のmiRNAの血中レベルがヒドロモルフォン及びオキシコドン投与によ り低下することが確認された(表4.1-2、図5-1)が、これらのmiRNAの変動とMORシグ

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ナル伝達との関連についてはこれまでに報告がなく、その生物学的意義は現時点では不明 である。

図5-1 ヒドロモルフォン及びオキシコドン投与により変動するmiRNAのまとめ

注:上記のうち、let-7ファミリーやmiR-339-3pは、MOR刺激に対して抑制的作用することが報 告されているものの、その他のmiRNAについての関与は今後の検討課題である。

本研究は探索的研究であり、また関連情報がほとんど報告されていない現状では、その 結果の解釈に留意すべき点がいくつかあげられる。まず、今回の研究結果は、健康成人を 対象としたものであり、医療用麻薬の使用対象となるがん疼痛患者とは生体反応が異なる 可能性がある。また、被験者数が限定的であること、miRNA変動の評価時点が薬物投与前

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及び投与24時間後の一時点であること等を考慮すると、データの再現性を含めて、多様 な背景を有する被験者からの様々なオピオイドの投薬時、及び投与後の経時変化データ等 の充実が今後の重要な課題と考えられる。また、変動したmiRNAの特異性や、今回血中 レベルが低下したmiRNAとMOR機能調節との関係性についての検討を深める必要があ る。例えば、MORシグナル伝達を評価する候補バイオマーカーとして同定されたlet-7フ ァミリーは、様々な発がん遺伝子に抑制的に働くことが報告されている[25]。let-7 miRNA は選択的にエキソソームに取り込まれ、腫瘍細胞から分泌されることが報告されており

[26]、オピオイド投与によるmiRNA量増加の交絡因子と成り得る可能性がある。それゆ

え、オピオイドのバイオマーカーとしてmiRNAを活用する場合には、複数のmiRNAをセ ットとして評価する方策が有用と考えられる。実際、複数のmiRNAをセットとして前立 腺癌の腫瘍の悪性度評価や肺癌の発見に活用している例も報告されている[9, 10]。さら に、今回の解析対象として用いたmiRNAの種類は179個と限定されている点についても 考慮しておく必要がある。今回検討した179種のmiRNAは、ヒトの血漿や血清に検出さ れる事が報告されているものをExiqon社が選択したものであるが、これまでにヒトでは 2500種類以上のmiRNAが報告されている。これより、次世代シーケンサーを用いた手法 を用いることで、より網羅的な発現解析を実施する意義は高いと考えられる。

今回の研究は、健康成人を対象としたため、オピオイドの有効性についての評価は今後 の課題である。特に医療応用上の観点から、オピオイドによる鎮痛効果や安全性とmiRNA 変動との関連性を評価することが重要と考えられる。がん疼痛患者の血中miRNAプロフ ァイルを基に、患者一人一人にあった非オピオイドから弱オピオイド投与へのスイッチ、

弱オピオイドから強オピオイド投与へのスイッチ、及びオピオイドスイッチングの適切な 時期、使用するオピオイドの選択、至適用法用量設定等の実現を可能とするバイオマーカ ーの確立が望まれる。今後、様々な疾患状態、治療状況におけるより多くのmiRNAデー タの蓄積により、オピオイド投与によるMORシグナル伝達評価、及び治療効果予測のた めの臨床バイオマーカーとして、miRNAの活用が現実化していくものと考えられる。

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6. 小括

本研究により、健康成人にMORを活性化する医療用麻薬であるヒドロモルフォン及び オキシコドンを投与した時に循環血中レベルが変動するmiRNAを探索し、いくつかの

miRNAが特定された。これらのmiRNAは客観的かつ定量的にMOR活性化レベルを評価

するための新規の血中バイオマーカー候補と考えられる。今後、さらなる研究は必要であ るものの、医療用麻薬の使用対象となるがん疼痛患者の適切な選択、オピオイドの有効 性、安全性評価、及び至適用法用量設定等、オピオイドの個別化医療をサポートし、医療 用麻薬の適正使用への活用につながることが期待される。

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7. 本章の引用文献

1) 的場元弘, 山本弘史, 赤木徹, 他.医療用麻薬適正使用ガイダンス. がん疼痛治療及び 慢性疼痛における医療用麻薬の使用と管理のガイダンス.厚生労働省医薬・生活衛生 局 監視指導・麻薬対策課. 平成29年4月

2) Upadhyay J, Anderson J, Baumgartner R, et al. Modulation of CNS pain circuitry by intravenous and sublingual doses of buprenorphine. NeuroImage 2012;59:3762–3773.

3) Upadhyay J, Anderson J, Schwarz J, et al. Imaging drugs with and without clinical analgesic efficacy. Neuropsychopharmacology 2011;36:2659–2673.

4) Lopez P, Diallo A, Cruceanu C. et al. Biomarker discovery: Quantification of microRNAs and other small non-coding RNAs using next generation sequencing. BMC Med Genom 2015;8:35, doi:10.1186/s12920-015-0109-x.

5) 中島美紀. miRNA による薬の代謝・毒性制御. 薬剤学. 2016, 76(2), 99-104.

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10) Montani F, Marzi J, Dezi F, et al. miR-Test: a blood test for lung cancer early detection. J Natl Cancer Inst. 2015 Mar 19;107(6):djv063.

11) Barbierato M, Zusso M, Skaper D, et al. MicroRNAs: Emerging role in the endogenous mu opioid system. CNS Neurol Disord Drug Targets 2015;14:239–250.

12) Toyama K., Uchida N, Ishizuka H, e al. Single-dose evaluation of safety, tolerability and pharmacokinetics of newly formulated hydromorphone immediate-release and hydrophilic

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