31
32
収集試験の特徴のうち体重、
BMI
、HOMA-β
、HOMA-IR
はいずれも海外試験よりも国内 試験で小さかった。これらの内因性民族的要因が地域差の要因となっている可能性がある と考えられた。欧米に多い肥満はインスリン抵抗性(HOMA-IR
)を増大させるが25, 26) 、一 方で、東アジアではやせ型にも関わらずインスリン分泌能(HOMA-β)が低下する患者が多い33-35) 。本研究からは民族差のメカニズムとして、インスリン分泌を促進する
DPP-4
阻害薬が、インスリン抵抗性増大状態にある海外患者(主に非アジア人)よりも、インスリ ン分泌低下状態にある日本人患者に奏功する可能性が考えられた。
我々の研究では、単剤試験(
DPP-4
阻害薬を単独投与する試験)だけでなく併用試験(DPP-4
阻害薬を他の糖尿病薬に追加投与する試験)のデータも収集し解析に含めた。収集した18
試験中、併用試験は2
試験のみ(いずれも海外試験)であった。日本糖尿病学会(JDS
) が推奨する治療は個々の患者の特徴に基づき血糖降下薬の選択を行うのに対し6) 、海外で の推奨レジメンは第一選択がメトホルミンで、第二選択がメトホルミンへの他剤併用投与 であるため24) 、海外ではメトホルミンへの追加投与試験が行われる傾向がある。なお、Park
et al.
のメタアナリシス7) によると、DPP-4
阻害薬は、単剤試験でも併用試験(併用薬:メトホルミン、スルホニル尿素薬、ピオグリタゾン、インスリンを含む)でも、同程度の有 効性を発揮する結果が得られている。本研究では感度分析として併用試験データを除いた 解析も行ったが、地域差は有意なまま(p=0.0065)であり、
DPP-4
阻害薬の地域差に関する 結論は頑健であると考えられた。なお、DPP-4
阻害薬に地域差がみられることは、シタグ リプチンの市販後に併用薬の有無に制限なく行われた大規模臨床試験(TECOS; TrialEvaluating Cardiovascular Outcomes with Sitagliptin
)試験の14,671
名のサブ解析の結果から も確認され、投与4
ヵ月後(約16
週後)のHbA1c
低下量は東アジア人で最も大きく、他 の人種と比較して有意であったと報告されている36) 。33
本研究の特徴を以下に述べる。
(1)
本研究は、承認用量における有効性を統合した過去のメタアナリシスとは異なり、DPP-4
阻害薬の薬力学的効果と有効性の関係に着目して地域差を見出した。このことから、
DPP-4
阻害薬の有効性の地域差は、薬物動態プロファイルや薬物動態-薬力学プロファイルの違いだけでは説明ができないこと、すなわち、
DPP-4
阻害後のプロセ スに地域差の要因が存在することを明らかにすることができた。DPP-4
阻害薬は生体内の
DPP-4
活性を阻害し、食事応答ホルモンであるインクレチン(GLP-1
、GIP
)の濃度を増加させることで、インスリン分泌を促進する。このインスリン分泌増加が、
インスリン抵抗性による高血糖の是正よりも、インスリン分泌低下による高血糖の是 正に寄与することで地域差が生じる可能性が考えられる。
(2)
本研究は、英語の資料のみを対象とした過去のメタアナリシスとは異なり、PMDA
のWebsite
に掲載されている日本語で記載された申請資料概要等の情報も利用した。実際、
DPP-4
阻害率の情報は英語の公表文献や海外の審査報告書には記載が乏しく、本研究の解析に使用した
DPP-4
阻害率データはほとんどがPMDA
の申請資料概要から 抽出された。これにより、本研究を実施する鍵であるトラフ時DPP-4
阻害率の情報 を多く得ることができた。本研究の限界を以下に述べる。
(1)
システマティックレビューは要約データを用いた解析であり、またDPP-4
阻害薬の 試験であってもDPP-4
阻害率を報告している試験は少なく、解析に使用可能なデー タ数が限られている。民族差と関連する要因を検討するための詳細な解析は行うこと ができなかった。(2)
同様にシステマティックレビューは公表されたデータを収集する手法であり、公表バ イアスの影響を完全には避けられない。ただしFunnel Plot
の視覚的検討からは結果 に大きく影響するほどの公表バイアスはないと考えられた。(3)
用法(1日の投与回数)に影響されずにHbA1c
低下効果を予測するPD
指標として、34
本研究で用いたトラフ時
DPP-4
阻害率よりも、定常状態の重み付き平均阻害率(steady state weighed average inhibition)が優れているとの報告がある
37) 。本研究では文献等 で最も多く報告されていたトラフ時の指標を利用したが、選択対象として1
日1
回 投与群のデータを採用したことから、1
日の投与回数の違いによる影響は最少に抑え られていると考える。(4) DPP-4
活性の測定系は標準化されておらず、収集試験間で測定方法が異なる可能性がある。また、
DPP-4
阻害率はex vivo assay
中に血漿を薄めるため基質に競合する人工 物の影響によって本来より低い値が出る可能性がある38) 。そのためDPP-4
阻害活性 や測定系の違いによるDPP-4
阻害率への影響を否定できない。しかしながら探索的に
DPP-4
阻害薬の成分ごとに解析をしても、概して全体の結論と同様な傾向がみられたため、大きな影響はないと考えられた。
以上の限界はあるものの、本研究は
DPP-4
阻害薬のDPP-4
阻害率と有効性の関係におけ る民族差を検討した初めての研究である。DPP-4 阻害薬の民族差には作用機序であるイン スリン分泌との関連が示唆されたことから、インスリン分泌機構を介さない他の糖尿病薬 を用いたさらなる検討により、2 型糖尿病治療薬の有効性の民族差のメカニズムを明らか にすることで、2
型糖尿病領域の開発において日本から国際共同治験に参加する上での留 意点となると期待される。
ドキュメント内
2型糖尿病治療薬の有効性における民族差研究:システマティックレビュー及びメタアナリシスによる検討
(ページ 35-38)