2.6.4 薬物動態試験の概要文
2.6.4.9 考察及び結論
Wistar
ラット及びビーグル犬を用いた単回及び反復投与,並びに妊娠雌性ウサギを用いた反復投与試験後の薬物動態試験(TK試験)では,血漿中
Org 25969
濃度が一般に用量にほぼ比例して 増加し,単回投与-反復投与間及び雌雄動物間で曝露量に生物学的に有意な一貫した差は認めら れなかった.ラット,イヌ及びウサギにおける半減期及びクリアランス(表 2.6.4-3)から,Org 25969
はGFR
とほぼ同じ速度で迅速に消失することがわかった1.ラット及びイヌにおいて測定した分 布容積から,Org 25969は細胞外液中に分布することが示唆された.様々な毒性及びTK
試験で到 達した曝露レベルは,全身曝露量(AUC)及び最大曝露量(C0又はC
max)のいずれについてもヒ トにおける推奨用量2,4
及び16 mg/kg
での曝露レベルを超えていた(表 2.6.4-4).Org 25969
とOrg 48302
の比較ラットに
%の Org 48302
を含むOrg 25969
(ロットAE)を単回静脈内投与したときの Org 25969
と
Org 48302
の経時的な血漿中薬物濃度変化のパターンは類似していた(2.6.4.3.1).両薬物の薬物動態パラメータにおいて観察されたわずかな差は,
Org 25969
とOrg 48302
の分析方法の定量下 限が異なり(表 2.6.4-2),本薬物動態試験で使用した特定のOrg 25969
ロットにおいて定量下限がOrg 48302
の割合に比例していないためと考えられるiv.いずれもγ-シクロデキストリン誘導体である
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及びOrg 48302
の薬物動態は類似しており(図 2.6.4-3),これらの薬物動態特性は他のシクロデキストリン類3,4の非経口投与時とも同様のものであった.
分布(in vitro)
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はヒトを含めて多くの動物種の血漿タンパクに結合しなかった.Org 25969の存在下におけるロクロニウムのヒト血漿タンパクへの結合率を検討したところ,ロクロニウムのタンパ ク結合率は
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の添加により低下し,Org 25969
とロクロニウムの濃度が等モルのとき,ほ ぼゼロとなった(2.6.4.4.1.1).ヒトを含む種々の動物赤血球に対し,Org 25969 及びOrg 25969/
ロクロニウム包接体のいずれも結合しなかった(2.6.4.4.1.2).ラット肝細胞への
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の取り 込 みはわ ずか であり ,in vitro においてOrg 25969
はラット 肝細胞 中で 代謝さ れな かった(2.6.4.4.1.3).
分布(in vivo)
ラットにおいて,
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は全身に迅速かつ広範に分布し,主に細胞外液中に存在すると考え られた.血液-脳関門の通過はほとんど認められず,また選択的メラニン結合性も認められなか った(2.6.4.4.2.1).Org 25969
はラット骨への可逆的結合を示し,消失半減期は検査した骨の種類に応じて67~252
日であった【表
2.6.5.5.B,INT00010275】.さらに,ラットにおいて歯への結合も認められたが,
軟骨結合率は他の組織と同程度であった(2.6.4.4.2.2).ラット大腿骨及び肩甲骨におけるミクロ オートラジオグラフィーデータから,[14
C]-Org 25969
は骨形成が活発な部位又はその付近に選択 的に蓄積することが示唆された(2.6.4.4.2.4).大腿骨及び肩甲骨切片のデータからは,Org 25969 の結合部位が細胞であるか細胞外マトリックスであるかを特定できなかったが,結合特性がEDTA,ビスホスフォネート及びテトラサイクリンと類似していることから,最も可能性が高い結
合部位は骨中の石灰化細胞外マトリックスのヒドロキシアパタイトと考えられる【INT00047251,4.2.3.7.7.6】.ラットにおいて,低用量及び単回投与では骨への結合率が飽和状態に達しなかった
が,反復投与後及び高用量では結合率は用量の増加及び時間の経過に対して直線的ではなかった(2.6.4.4.2.3).ラット
4
週間毒性試験の条件下では,骨中のOrg 25969
濃度がかなりのレベルに達 すると推定される(4週間の30 mg/kg
投与で骨1 g
あたり2.5~5 mg).興味深いことに,ロクロ
ニウム存在下ではラットにおけるOrg 25969
の骨及び臼歯への結合率が顕著に低下した.さらに,Org 25969
の骨及び歯への結合率は動物の成長速度に大きく依存しており,幼若ラットでは若齢成熟ラットに比べて骨及び歯への結合率が著しく高く,高齢ラットでは
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の骨及び歯への 結合率は非常に低かった(2.6.4.4.2.3).ラットの腎臓及び膀胱において[14
C]-Org 25969
濃度が比較的高かったのは,放射能が長時間に わたって尿中に排泄され,これらの組織での再吸収率が低いため【NL00043521,4.2.3.2.3
】【INT00038389,4.2.3.5.4.4】と考えられた.ラットでは,消化管の内容物及び壁,特に盲腸内容 物及び小腸内容物にも顕著な量の放射能が検出された.これは,ラットにおける副次排泄経路に よるものと考えられ,イヌ及びヒトでは糞中での回収率が低かったことから重要性はきわめて低 い(表 2.6.4-31).
生殖発生に関連した分布(in vivo)
ラット(2.6.4.4.2.5及び2.6.4.4.2.6)及びウサギ(2.6.4.4.2.8)において,Org 25969の胚・胎児へ の胎盤通過はわずかであり,概して胎盤通過は妊娠中に減少した.また,Org 25969はロクロニウ ムのわずかな胎盤通過を増加させなかった(2.6.4.4.2.5).
胎盤通過はわずかであるが,反復投与下では[14
C]-Org 25969
がラット胎児にある程度蓄積した(2.6.4.4.2.6及び2.6.4.4.2.7).主な結合部位は胎児骨であったが,胎児尿路及び羊水にも放射能が 認められた(2.6.4.4.2.6及び2.6.4.4.2.7).また,羊水の代謝分析より,羊水中に移行又は排泄され た放射能のほとんどが
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と同時溶出することがわかった(2.6.4.4.2.7).なお,ラット【表2.6.7.13,NL0043173】及びウサギ【表 2.6.7.13,NL0043447】の胚・胎児発生に関する試験では,
検出された胎児骨への
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の結合による生物学的影響(骨格奇形など)は認められなかっ た.ラットでは
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は乳汁中への移行が認められた(2.6.4.6.3).一般に,シクロデキストリ ン類はほとんど経口吸収されないため5,6,経口経路による新生児のOrg 25969
曝露量は低く,ヒト における乳汁排泄の重要性は低いと考えられる.代謝
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はin vitroにおいてラット肝細胞中で代謝されなかった(2.6.4.5.1).ラット(2.6.4.5.2),イヌ(2.6.4.5.4)及びヒト【2.7.2.2.2.2.3】の尿及び血漿試料を分析したところ,代謝物プロファイ ルは類似しており,いずれも
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を主要ピークとするものであった.ラジオクロマトグラ ムでは他のピークが認められたものの,ラット,イヌ及びヒトの間でラジオクロマトグラムプロ ファイルに明白な種差は認められなかった.尿のラジオクロマトグラムで 体で ある類縁物質E*及び類縁物質 I*
(図 2.6.4-14)が同定された.これらがin vivoにおいて生成され たかどうかは不明であるが,[14C]-Org 25969
以外に認められたピークは投与液中の類縁物質E*及
び類縁物質I*の存在,及び/又は尿及び血漿サンプルの採取後の酸化/変化によるものであった
ことが示唆されている.したがって,これらが実際のin vivoにおける代謝物である可能性はきわ めて低く,代謝がOrg 25969
の薬物消失の主要経路であるとは考えにくい.このような所見は他 のシクロデキストリン類の代謝特性と一致している3,5,6.なお,Org 48302
はOrg 25969
の代謝物で ないことが示されている.ラット,イヌ及びヒトの血漿及び尿中に認められた他の微量放射性成 分は投与量の3%未満であり,適用されたクロマトグラフィー条件下では分離能が十分ではなく,
同定することができなかった.
代謝の動物種間比較
血漿及び尿中の放射能特性は非臨床動物種であるラット及びイヌ,並びにヒトで類似していた
(図 2.6.4-13,図 2.6.4-15~図 2.6.4-18,【2.7.2.2.2.2.3】).なお,ラットに限り糞中への排泄が約
4~7%認められたため(表 2.6.4-31)
,ラットのみ糞中の代謝分析も行った.いくつかの微量放射能ピーク(イヌでは広い
M1
ピーク,ラット及びヒトではM1~M5)並び
に2
つの主要放射性成分が認められた.微量放射性成分(ラット,イヌ及びヒトでM1~M5)は
割合が投与量の3%未満であり,適用されたクロマトグラフィー条件下で分離が十分でなかったた
め同定されなかった.さらに,ラット及びヒト尿中でいずれもOrg 25969
の類縁物質である2
つ の 体,類縁物質E*及び類縁物質 I*が質量分析により同定されている.これらは
ラット,イヌ及びヒトの排泄及び代謝分析試験の投与液中でも少量検出された.しかし,血漿及 び尿サンプル中での割合は一般に投与液中より高かったものの,この増加がin vivoにおける代謝 によるものか,血漿及び尿サンプルの採取後変化によるものかは依然として不明である.しかし ながら, 体類縁物質E*及び類縁物質 I*が
in vivoにおいて生成されるとしても,その生成に種間差はなかった.なお,ラット,イヌ及びヒトにおいて
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の代謝は薬物消 失の主要経路ではないことが示されている(2.6.4.5.2,2.6.4.5.4及び【2.7.2.2.2.2.3】).排泄
すべての非臨床動物種において,Org 25969は顕著な代謝を受けることなく
GFR
とほぼ同じ速 度で尿中に迅速に排泄された.ラットでは投与量の約5%が糞中に排泄されるが,これは他の動
物種では認められない.ラットではα-及びγ-シクロデキストリンについて糞中への同様の排泄が 認められている5,6.消化管の内容物及び壁で検出される[14
C]-Org 25969
放射能標識の観察に基づき,ラットでは被 覆上皮による直接的排泄が微量排泄経路であると考えられる.ヒトにおいてOrg 25969
は糞中に ほとんど排泄されないことから(表 2.6.4-31),ヒトにおけるこの経路の重要性は低い.ロクロニウムが
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の薬物動態に及ぼす影響ロクロニウム投与後に
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を投与したネコ【NL0037029,4.2.3.1.11】及びイヌ【NL0034953,
4.2.3.1.9】における試験では,ロクロニウムが Org 25969
の血漿中薬物動態に及ぼす影響は認められなかった.
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がロクロニウムの血漿中薬物濃度,分布,代謝及び排泄に及ぼす影響ラット(2.6.4.3.2の表 2.6.4-8)及びイヌ(2.6.4.3.9及び2.6.4.3.11の表 2.6.4-16)に
Org 25969
を 投与すると,ロクロニウムへの全身曝露量が増加した.これは,血漿中でOrg 25969/ロクロニウ
ム包接体が生成されると,ロクロニウムが組織及び血漿タンパクから再分布して分布容積が減少 するためと考えられる.実際,Org 25969静脈内投与後に,ロクロニウム(ほとんどがOrg 25969
との包接体として存在)の分布容積の減少が認められている.ロクロニウム投与後
5
分にOrg 25969
を投与しても,ラットにおけるロクロニウムの組織分布 にほとんど影響しなかった(2.6.4.4.2.1).Org 25969投与後にロクロニウムの濃度が顕著に上昇し た組織は認められなかった.また,ラット(2.6.4.4.2.5)及びウサギ(2.6.4.4.2.8)において,ロク ロニウムの胎盤通過はOrg 25969
投与による大きな影響を受けなかった.ラット骨及び臼歯へのOrg 25969
の 結 合 率 は ,Org 25969 の 半 分 の モ ル 量 の ロ ク ロ ニ ウ ム に よ り 著 明 に 低 下 し た(2.6.4.4.2.3).
ロクロニウムはほとんど代謝されないため,
Org 25969
のロクロニウム代謝に及ぼす影響は検討 しなかった.ラット(2.6.4.6.1)及びイヌ(2.6.4.6.2)において,Org 25969は尿中に排泄されるロクロニウム の量を増加させた.ラットでは[3
H]-ロクロニウム投与後 5
分に,イヌでは[3H]-ロクロニウム投与
後
10
分にOrg 25969
が投与されているにもかかわらず,ラットにおける糞中から尿中への排泄移行はイヌほど大きくなかった(表 2.6.4-33と表 2.6.4-35の比較).この主な原因はロクロニウムと
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の比率がラット(2:8 mg/kg)とイヌ(0.36:8 mg/kg)では異なることであると考えられる.イヌではロクロニウムに比べて