会社経営者 13. 8%となり非労働者の比率が高い。また会社経営者であっても実 際は個人で活動するフリーランスと変わらないケースも多いといわれる。経済
5.2 アニメーターの労働市場についての考察
5.2.5 考察
ここから、アニメーターの労働市場とキャリアプロセスについての調査結果 を踏まえて、アニメーターの労働市場の特徴について考察をしていきたい。
(1) アニメーターの労働市場についての概説
まず、今回の調査結果から明らかになった点は、アニメーターの労働市場に おいても欧米で蓄積されてきた芸術家・クリエーターの労働市場の研究で論じ られてきた特徴が同様に観察できることである。アニメ産業におけるアニメー ション制作部門も、映画や
TV
番組のコンテンツ制作など映像産業における労働 市場と基本的には共通の特徴を有しているといえるだろう。アニメーターの労 働市場においては以下のような特徴を挙げることができる。101
・アニメーターが最初に就く工程である動画において労働の供給過剰が観察さ れる。
・プロジェクトベースのもと業務委託・請負契約が一般的である、小規模なス タジオやフリーランスが多く正規雇用されるケースは少ない。
・アニメーターの技能の評価については、制作部門のコミュニティ内における 評価・評判の共有が大きな影響力を持っている。
・コミュニティ内で共有される評価・評判がアニメーターへの次の仕事の契約、
キャリアアップの機会を決定する上で決定的な要因となっている。
・各アニメーター間では、技能の評価・評判に大きな個人差があり、契約数や 収入においても大きな格差が形成される。
ここでは欧米の芸術家・クリエーターの労働市場の研究蓄積をベースに、調査 によって明らかになった詳細な点を踏まえながら、アニメーターの労働市場の 特徴について考察していきたい。
(ア) アニメーターの労働市場における労働力の供給過剰と動画工程におけ る審査機能
アニメーターの労働市場においても最初に就く動画工程の段階で、労働の供 給過剰が観察できる。アニメーターの労働市場にも制作への憧れや興味、華々 しいトップクリエーターとしての成功を目指すなどして大勢の若者が参入して くる。一方で、周縁労働市場においては断片化された契約が無数に存在し、参 入者は低報酬ではあるが作画の契約を得るチャンスはある76。新規参入者はまず フリーランスとして周縁労働市場に参加し、プロジェクトベースのもと周縁労 働者の訓練と審査が行われる。マネージメントサイドにとっては、新規採用・
人材育成などに必要な人的コストやリスクをカットでき、労働法の制約や社会 保障費負担も避け、各プロジェクトに合わせて労働力調整も容易なため、こう したシステムから得るメリットは大きい。
アニメーターの労働市場では原画マン以降の本格的なフリーランスの競争に 入る前に、動画工程で参入者の審査が行われる。動画工程において、参入者は 制作会社に所属しながらフリーランスとして就労する。基本的技能の習得がで きない場合や業界の体質と合わない場合、参入者は労働市場から退出する仕組 みになっている。
76 Benhamou(2000)は芸術家・クリエーターの労働市場についてプロジェクトベースによ
る断片化した契約の存在によって参入者は、自身のキャリアについて判断を誤りがちだと 指摘する(pp303-305)。
102
(イ) 原画マン以降フリーランスのアニメーター間における競争の本格化、
キャリアプロセスと戦略の多様化
原画工程へと進んだアニメーターは本格的にフリーランス間の技能競争に参 入する。この段階ではアニメーターは制作会社所属から、完全なフリーランス へと転向する者も多い。独立したアニメーターはプロジェクトベースでの技能 競争及び評価・評判の形成・発展に専心する一方で、人的ネットワークを形成 し、プロジェクトベースにおける失業リスクをカバーし、契約数の増加と収入 の安定化を計る。このプロセスにおいて制作部門内のコミュニティ内でアニメ ーター間の技能について評価・評判、契約数や収入の格差が形成され、中核労 働者と周縁労働者の分離が決定的なものになる。
この段階から各アニメーターの戦略の多様化が観察できる。中核労働市場に進 んだアニメーターの中には、トップアニメーターとしての技能についての評 価・評判を発展させていくケースや、作画監督、監督・演出など制作部門内に おける上位工程を含め多様な職を兼ねることによって失業リスクのカバー、収 入の安定化を図るケースが存在する。アニメーターが他工程へ進出したり、複 数工程を兼ねたりすることによって制作プロジェクトにおける自身のポジショ ンを安定させることができる。一方で、プロジェクトへの参加を通じて技能競 争に勝ち、高い評価・評判を形成できなかったアニメーターは、周縁労働市場 へと移行していく。この場合、契約数の減少及び収入の不安定化が進む。中核 労働市場のアニメーターと異なり、制作部門内で他工程との兼業もできず、ア ルバイトなど芸術外労働との兼業も難しいため、収入の維持はますます難しく なっていく。したがって、労働市場から退出していくケースも多いが、一方で アニメーターの労働には高い心理的報酬が存在するため、低収入でも労働市場 に留まるケースも存在する。
(ウ) 不確実性に由来する不確実な将来、失業リスク、不安定な収入へのア ニメーターの対応について
3
章で述べたように、芸術家・クリエーターの労働市場について、Menger(2006)
は芸術家・クリエーターによる不確実なキャリア、失業リスク、不安定な収入 に対する対応策として①芸術家・クリエーターの兼業、②家族・友人の支援、結婚相手の収入、貯金など個人的リソースの活用、③政府の補助金や助成、企 業のスポンサーシップ、年金や保険など移転所得、共同保険や相互保険、組合 活動による労使間交渉、再使用料の分配(residual payment)、社会保障制度など 公的・共同的リソースの
3
つを挙げている。これら3
つの手段のうち③につい ては、日本においてフリーランスの芸術家・クリエーターへの労働政策、社会103
保障政策は整備されず、職能組合の成立・労使間交渉も幾つかの例外を除いて 普及していない。さらに①についてアニメーターのケースでは、一部の中核労 働者による制作部門内での他工程(芸術労働)との兼業、大学や専門学校での 教職(芸術関連労働)などとの兼業があるが、周縁労働者を含むその他のアニ メーターについては、制作部門内での芸術関連労働、およびアルバイトやパー トタイム労働など芸術外労働の兼業は少ない。一般に映像産業における労働市 場においても、スタッフや俳優など実演家は芸術関連労働やアルバイトなど非 芸術労働を含めて兼業で不安定な収入をカバーしている。しかしアニメ産業で は制作スケジュールが厳しく仕事の依頼が不規則で、いつ作画の仕事が入って くるかわからず、兼業をできるだけの時間を安定的に確保できない。そのため アニメーターは兼業という手段を採りにくく、対応策は②の貯金や家族の支援、
結婚相手の収入など個人的リソースの活用が中心となる。このことが、日本の アニメ産業におけるフリーランスのアニメーターが不確実な将来、失業リスク、
不安定な収入に対応することを困難にしている。
(エ) アニメーター間の格差
アニメーターの労働市場においてもアニメーター間の技能競争と格差の形成 が観察できる。アニメーターは制作プロジェクトへの参加を通じて経験を積み、
仕事の成果によって評価・評判を形成していくことになるが、制作現場におけ る絶えざる審査によってアニメーターの技能の評価・評判は常に刷新されてい くため、高いパフォーマンスを維持できなければ成功したアニメーターであっ てもそのポジションを維持できるとは限らない。アニメーター間の格差は、多 様な制作プロジェクトにおける仕事の成果と評価・評判に拠って形成・刷新さ れているといえる。そうした仕組みによって形成された中核労働者のアニメー ター、中でもトップアニメーター、カリスマアニメーターに対する需要と技能 に対する信頼・評価は大きい。しかし、アニメ産業の制作プロジェクトでは限 られた制作予算の中で海外へのアウトソーシング含め多くのアニメーターが制 作に動員されるため、アニメーター間における経済的格差は広がりにくい。一 部の監督やキャラクターデザイナーなどのケースを除いて個々のアニメーター が追加の成功報酬や流通ビジネスによる利益分配を得ることは稀である。
この点、著作者として映画産業において興行や