59
60
って時効の中断または停止事由を追加することができる。」,同条第
3
項に,「賃金,定期金,定額小作料,扶養定期金,賃料,賃借人の負担費用または貸金利息に関する支払訴権または 返還訴権,
1
年毎または1
年より短期の期間で定期的に支払うべきものに関する支払訴権に ついては,前2
項の規定は適用されない171。」との規定が置かれることとなった。また,こ れらに加え,消費法典 L. 137-1条(現L.218-1
条)に,「民法典2254
条の例外として,事 業者と消費者の間での契約において両当事者はたとえ合意があったとしても時効期間を変 更することも,時効の停止事由,中断事由を追加することもできない。」との規定が設けら れ,また,保険法典 L. 114-3条に「民法典2254
条の例外として,保険契約において両当 事者はたとえ合意があったとしても時効期間を変更することも,時効の停止事由,中断事由 を追加することもできない。」,さらに労働法典L.1134-5
条第2
項では,労働者らに対する 差別に基づく損害賠償訴権について適用される「この(5年の:筆者注)期間を合意により 変更することができない。」との規定も設けられるなど,附合契約の場面において時効期間 を合意により変更できる場面が広く制限されることとなった。第
3
款 小括以上みてきたように,カタラ草案において時効期間の合意による変更に関する規定の導 入が提案されたのは,時効期間の短期化・統一化が大きな影響を及ぼしていたと考えられる。
すなわち,カタラ草案で時効期間の短期化・統一化が提案された理由は,時効期間を現代の 取引にあわせた妥当な長さのものへと置き換え,多様化・複雑化した時効期間に関する規定 を統一することで,時効に関する規定が争いの原因になることを回避することにあった。そ のような目的の下,それまで
30
年であった一般の時効期間をドイツ法等に倣って3年とす るとの改正案が策定された。この大幅な短期化により生じうる弊害に対処する機能がある と期待され,従来判例・学説が認めてきた時効期間の合意による変更の導入が提案されるこ ととなったと理解することができる。もっとも,第
2
章において考察したとおり,時効期間の合意による延長に関して旧フラ ンス時効法下では期間の性質や時効制度の存在理由の関係など様々な点が議論されていた はずである。しかしながら,元老院第一読会の説明では,そもそも時効期間の直接的延長に 関する裁判例や学説について言及すらされていなかった点は疑問である。時効期間の合意 による延長の問題は,仏民旧2220
条と密接に関連する問題であることから,なぜ新フラン ス時効法において当然に直接的延長が認められるのか,それにより消滅時効制度の存在理 由や趣旨を没却することとならないのか,さらには,新法下での延長の限界とされる10
年 の最長期間(仏民新2254
条第1
項)と20
年の上限期間(仏民新2232
条第1
項)を設けた こととの関係をどのように理解すべきであるかについて,改正経緯において触れられてい なかった。そして,裁判例で認められていた瑕疵担保責任に関する期間延長についても,な171 これら訴権は,仏民旧2277条に規定されていた5年の短期消滅時効の対象とされていたものである。
61
ぜ延長が認められていたのか,時効の事前放棄の禁止に抵触しないのか,また,期間の性質 が関係するのかという点を含め言及されておらず,さらには学説で議論された短期消滅時 効期間の性質についても同様に議論がなされないままであった。
他方で,時効期間の間接的延長に関する裁判例・学説への言及はなされていた。しかしな がら,単に裁判例等が間接的延長を認めていたと言及するにとどまり,なぜ,間接的延長が 認められるかの根拠が示されていなかった。すなわち,旧フランス時効法下の裁判例におい ては,当事者が訴えることができない場合において,その間に時効期間が満了することを回 避する必要があり,かつ,当該合意によっても時効の事前放棄の禁止に抵触しないという要 件の下,進行停止の合意が認められていたという点について,なんら言及されていなかった のである。くわえて,間接的延長を認めることと直接的延長を認めることでは,その考慮す べき要素が異なってくるにもかかわらず,この点について説明がなされていなかった点は 注視すべきである。このように,元老院第一読会では,旧フランス時効法下において,時効 期間の直接的延長が認められていた事実やその根拠,また,時効期間の間接的延長が認めら れる根拠とそれにより新フランス時効法下においてなぜ直接的延長が認められるのかの根 拠に言及されることはなかった。これに関しては,ヨーロッパ契約法原則172やドイツ法173に おいて時効期間の合意による変更が認められるに至っていたこととの調整という意味合い があったことが予想されるが,この点についても詳細は定かではない174。以上のように,時 効期間の短期化との関係で時効期間の合意による変更を認める必要性は示されていたもの の,旧フランス時効法下での議論内容については深く踏み込むことなく,時効期間の合意に よる変更が認められるに至ったといえる。
第2節 改正後の議論の動向
以上のような経緯から
2008
年6
月17
日の法律により,仏民新2254
条に時効期間の合 意による変更に関する規定が設けられた。しかしながら,先にも指摘した通り,改正前の裁172 各国の時効期間の合意による変更については,鹿野・前掲注(23)52-62頁に詳しい。以下のPECL およびBGBの条文訳もそれに依拠するものである。
ヨーロッパ契約法原則第3部14 : 601条
1 時効の要件は,時効期間を短縮しまたは延長するなど,当事者間の合意によって変更することができ る。
2 前項の規定にかかわらず,時効期間は,14 :203条に定める起算日から1年未満に短縮し,または30 年を超えて伸長することはできない。
173 ドイツ債務法202条
1 消滅時効は,故意による責任の場合は,法律行為によりあらかじめ容易にすることはできない。
2 消滅時効は,法律行為により,法定の起算日から30年の時効期間を超えて伸長することはできな い。
174 本稿ではフランス法上の議論を対象としているため,ヨーロッパ契約法原則を含めたEU圏における 時効法改正の動向に関する検討は別の機会で試みたい。
62
判例を分析する限りでは,時効期間の合意による変更が認められていたのは附合契約の場 面であり,また,その判断の際には,期間や権利の性質も考慮されていたものと思われる。
これに対して改正後の裁判例の状況はいかなるものであろうか。明文の規定が設けられた 影響はみられるのであろうか。そこで,以下では,仏民新
2254
条が設けられた後の議論状 況について,主に裁判例を基に考察を行う。第
1
款 時効の存在理由について175まず,大幅に時効期間が短期化され,様々な規定が改正された新フランス時効法下におい て,消滅時効制度がどのように理解されているかについて簡単に確認する。
時効の存在理由としては,主に,①公序の保護,②弁済の推定,③証拠力の喪失,④二重 弁済の禁止が挙げられる。まず,①公序の保護についてであるが,いつまでも債権者が債務 者に対して請求することが可能な状況は認めるべきではなく,一定の期間の経過によって 弁済の証拠を有していなくとも債務者は訴追されないとする必要があるとする。そのため,
期間の経過をもって,債権者から訴える余地を奪う必要があるとされる。次に,②弁済の推 定については,債権者が請求しなかったということは,債権者がすでに満足を得ているから であるとする。しかしながら,あくまでも弁済の「推定」に基づくものであるため,この推 定を反対証拠により覆すことは可能であるとされる。そして,このような「推定」は弁済が なされるまでの期間が短いものについて働くものであるため,短期消滅時効の存在理由と して,②を説明する。また,③証拠力の喪失については,古い過去の事実に関して審理する ことで生じる裁判所の負担を軽減するために,時効を用いるとする。最後に,④二重弁済の 禁止については,すでに過去に支払った債務につき(元)債務者が再び支払請求を受けるこ とを回避するものであるとする。この④の存在理由をもって,時効が私益のための制度であ ると評価する学説もみられる176。
第
2
款 時効期間の合意による変更に関する学説による評価以上のように,時効の存在理由については,改正後においても従来と大きく変わることな く捉えられているといえる。それでは,時効期間の合意による変更についてはどのように捉 えられているのであろうか。学説上は,条文解説のかたちで改正後の扱いが取り上げられる にとどまるものが大半ではあるが177,公序との関係性,訴権消滅期間(forclusion)との関
175 Y. Buffelan-Lanore et V. Larribau-Terneyre, Droit civil Les obligations, 15e éd., Sirey, 2017, no725, p.237, etc..
176 J.Flour, J.-L. Aubert et E. Savaux, Droit civil Les obligations 3.Le rapport d’obligation, 8e éd., Sirey, 2013, no478, p.443, etc..
177 B. Fauvarque-Cosson et J. François, Commentaire de la loi du 17 juin 2008 portant réforme de la prescription en matière civile, Dalloz, 2008, no25, p.2519-2520 ; P. Hoonakker, La disposition de la prescription, LPA, 2009, no66, p.19 ; Malaurie et al., supra note 64, no1226, p.716 ; B. Fages, Droit des