サイバーナイフは多方向からの 6 MV X 線ビームにより 1つまたはいくつかの標的へ高 線量を正確に照射できる、高精度放射線治療の1つである。サイバーナイフにおける標的サ イズは直径5 cm以下と小さいため、勾配が急峻な小さな線量分布が用いられる。半導体検 出器または並行平板電離箱線量計の 2 次元多列検出器の空間分解能は検出器間距離により 制限されるため、サイバーナイフにおける線量分布検証に十分ではない。そのため、このよ うな検証には高空間分解能な2次元受動型線量計が使用される53,54)。
2 次元受動型線量計の一つであるラジオクロミックフィルム (RCF) は、放射線治療にお ける幾何学的な試験や線量分布検証によく使用される 53-57)。RCF は組織等価性が高く、フ ラットベッドスキャナの読み取り分解能 (300 または 600 dpi など) に依存した、高空間分 解能な分布を取得することができる。しかしながら、RCF のダイナミックレンジは高線量 におけるラジオクロミック反応の飽和により制限される。さらに、RCFの1%程度の感度不 均一56) は、絶対線量測定の不確かさとなる。それにも関わらず、RCFは高精度での連続分 布の取得が可能な2次元受動型線量計であるため、米国医学物理学会 (American Association of Physicists in Medicine: AAMP) のタスクグループ135レポート52) において、サイバーナイ フの品質保証での利用が推奨されている。
エネルギー依存性が小さい組織等価型2次元TLDはいくつかの研究グループにより開発
され35,37,39-41)、臨床への応用研究がなされてきた36,39,41,42,44-48)。組織等価型2次元TLDは一
般的に、TL素子と熱耐性樹脂のシートや結合剤で構成されるため、繰り返し使用により樹 脂の熱変性が起こり、感度が低下することが明らかになっている47)。組織等価型TL素子の みで構成される2次元TLD39) も開発されているが、製作が困難である41)。これまでに開発 されたほとんどの2次元TLDは感度の不均一が大きく、繰り返し性が低いため、十分な精 度での2次元TL測定が実現されなかった。
そこで、眞正ら51) はCr添加Al2O3 (Al2O3:Cr) セラミックスから成る2次元TLDを開発 した。この2次元 Al2O3:Cr TLDは非組織等価型であるが、結合材を含まないため、感度を 低下させることなく繰り返し使用できます。また、少なくとも50 Gyまでの広いダイナミッ クレンジ、耐水性を有している。さらに、変動係数1%未満の高い繰り返し性を有している ため、TL画像の各ピクセルに対して感度補正することができる。従って、感度の不均一性 はほとんど0%にできる。筆者らの先行研究48) において、2次元 Al2O3:Cr TLDを用いて、
幾何学的チェックや線量分布検証を含むサイバーナイフの品質保証試験を実施することが できることが報告されている。しかしながら、サイバーナイフにおける2次元 Al2O3:Cr TLD のエネルギー依存性の影響は明らかになっていない。Al2O3の実効原子番号は11.14であり 組織等価ではないため、2次元 Al2O3:Cr TLDのエネルギー依存性は組織等価型TLDのエネ ルギー依存性よりも大きいと考えられる。また、光子のエネルギースペクトルは照射野サイ
化する。従って、サイバーナイフにおける2次元線量分布の検証のために、2次元 Al2O3:Cr TLDのエネルギー依存性を明らかにする必要がある。本章では、サイバーナイフにおける2 次元 Al2O3:Cr TLD のエネルギー依存性に対する照射野サイズと水の深さの影響を調査し、
線量分布検証への実現可能性を調査した。
5.2 方法
5.2.1 2次元TLDと2次元TLリーダ
2次元 Al2O3:Cr TLD (Chiba Ceramic MFG. Co. Ltd.) は、一辺が63 mm、厚さ0.7 mmのも のを使用した (図5.1)。Al2O3:Cr TLDは>99.5wt%のAl2O3に0.05 wt%のCr2O3を添加したも ので、実効原子番号と密度はそれぞれ11.14 と3.7 g/cm3である。新緑脳神経外科横浜サイ バーナイフセンターの第4世代CyberKnife® robotic radiosurgery system (Accuray™ Inc., USA)
からの6 MV X線ビームを使用して2次元 Al2O3:Cr TLD は照射され、冷暗所での24時間
保管後、首都大学東京の2次元TLリーダで読み取られた。20枚の2次元 Al2O3:Cr TLD を 使用して、各照射条件において3回の測定を行った。
図5.1 サイバーナイフ用の2次元 Al2O3:Cr TLD (63 mm × 63 mm × 0.7 mm)
5.2.2 レファレンス検出器
レファレンス検出器として、高ドープ p 形シリコン半導体 (Scanditronix Medical AB, Sweden) から成る定位照射野検出器 (stereotactic field detector: SFD) を使用した。SFDを使 用して測定したデータは、極小電離箱線量計 (Exradin A19, Standard Imaging, USA および
TN31006, PTW, Germany)のデータと一致することを確認している。図 5.2にSFDと極小電
離箱線量計 (TN31006, PTW) によるOPFとTMRの比較を示す。SFDの有感領域の直径は
0.6 mm, 厚さは0.02 mm、すなわち有感体積は0.000023 cm3である。極小電離箱線量計の有
感体積は0.0015 cm3であり、SFDは極小電離箱と比較して極めて小さい。図5.2からTMR
については表面を除いてSFDは極小電離箱とよく一致している。また、OPFについては15–
60 mmの公称コリメータサイズでは一致しているが、公称コリメータサイズが15 mmより
小さい場合では、SFD では極小電離箱線量計より小さい値となっている。有感体積が大き いほど小照射野における体積平均効果の影響が大きくなるため、新緑脳神経外科横浜サイ バーナイフセンターでは有感体積の小さいSFDによるビームデータを採用している。従っ て、本研究においてSFDによるビームデータをレファレンスデータとして取り扱った。
図5.2 SFDと極小電離箱のOPFとTMRの比較
5.2.3 TL画像分析
TL 画像はオープンソースの画像処理ソフトウェア ImageJ (1.48v)61) を使用して補正処理 及び分析された。各TL応答は照射野の中心における、SFDの有感領域の直径と同じ、直径
0.6 mmの円形領域の平均値とした。
5.2.4 照射野サイズ依存性測定
2 次元Al2O3:Cr TLD に対する照射野サイズの影響を評価するために、固定コリメータを
使用してOPF測定を実施した。図5.3に照射野サイズ依存性測定の幾何学的配置を示す。
TLDは、650, 800, 1000 mm の3つの一定SDDで全散乱固体水ファントムを使用して15 mm
深に設置された。サイバーナイフにおけるアイソセントリック治療では800 mmのSDDが 使用されるが、通常、他のSDDを使用する非アイソセントリック治療が実施される。その ため、650, 800, 1000 mmのSDDで測定されたOPFは、ビームデータとしてTPSに取り込 まれている。使用した固定コリメータのSDD 800 mmでの照射野の直径である、公称コリメ ータサイズは5, 10, 20, 40, 60 mmであった。各測定における線量は、800 mmのSDDにおい
てDw = 250 cGyとした。基準値はSFDを使用して水中で測定された。
図5.3 2次元Al2O3:Cr TLDの照射野依存性測定の照射体系
5.2.5 深さ依存性測定
2 次元Al2O3:Cr TLD に対する水の深さの影響を評価するために、固定コリメータを使用
してTMR測定を実施した。図5.4に深さ依存性測定の幾何学的配置を示す。TLDは800 mm の一定のSDDで全散乱固体水ファントムを使用して、0, 15, 50, 100, 200, 300 mm の6つの 深さに設置された。使用した固定コリメータの公称コリメータサイズはOPF測定と同じで あった。各測定における線量は、800 mmのSDDにおいてDw = 250 cGyとした。基準値は SFDを使用して水中で測定された。
図5.4 2次元Al2O3:Cr TLDの深さ依存性測定の照射体系
5.2.6 線量分布検証
サイバーナイフにおける2次元Al2O3:Cr TLDのエネルギー依存性を検証するために、170 mmキューブの固体水ファントムを用いて線量分布検証を実施した。2次元Al2O3:Cr TLDは 立方体ファントムの横断面に設置された。アイソセントリックシングルターゲットプラン は、TPS (MultiPlan™ version 5.2.1, Accuray™Inc.)を使用して計算された。公称コリメータサ
イズ25 mmの固定コリメータが使用された。治療計画の最大線量とピクセルサイズは、そ
れぞれ3.946 Gyと0.684 mmとした。2次元Al2O3:Cr TLDの各ピクセルの感度は、ImageJを 用いて、首都大学東京の放射線治療装置 (Clinac® 21EX system, Varian Medical Systems) の6 MV X線による均一照射のTL画像を使用して補正された。感度補正されたTL画像は、分 析ソフトウェアDD-System (DD IMRT version 12.26, R-TECH.INC, Japan)を使用して、図5.5
に示す2次元Al2O3:Cr TLDの線量応答曲線を使用して線量分布に変換され、TPSで計算さ
れた線量分布と比較された。また、同ソフトウェアを使用して、線量差 (dose difference) と 位置ずれ (distance to agreement: DTA) の両方を評価するガンマ分析法による線量分布検証 を実施した。線量差と位置ずれの判定基準はそれぞれ3%, 2mmとした。
図5.5 SDD 800 mm、公称コリメータサイズ60 mmにおける 2次元Al2O3:Cr TLDの線量応答曲線
0.0 0.2 0.4 0.6 0.8 1.0 1.2
0 100 200 300 400 500 600
T L I nt ens it y (a rb. uni ts )
Dose (cGy)
(×105)