第 7 章 福祉用具等関係企業 A 社による各種事業の有益性
第 2 節 総括
福祉用具等の業界団体である日本福祉用具・生活支援用具協会によると、2012年度にお ける福祉用具の市場は1兆2,346億円である。今後も更なる高齢化の進展、あらたな介護 ロボットの導入により、市場規模が拡大していくものと考えられる。
しかし、進歩した福祉用具等が導入されても、利用者や支援者などが適切な方法で利用 しなければ、効果を得ることは難しい。第1章第1節で述べたように、障害者分野の「補 装具の給付制度」は、医師や理学療法士らの専門家が福祉用具等を選定する際に介入し、
適合判断によってオーダーメイドの福祉用具等が交付されているが、高齢者を対象とする 福祉用具等にはこのような適合と言う考え方が無く、供給するだけであった。このような 状況を背景に利用者による誤使用と不注意、利用者と用具、使用環境の不適合から生じた 重大製品事故等が約6割を占めている状況にある6)。
現在、高齢者を対象とした公的介護保険制度における福祉用具貸与や販売事業所には、2 名以上の福祉用具専門相談員(なお、福祉用具に関する知識を有している保健師、看護師、
准看護師、理学療法士、作業療法士、社会福祉士、介護福祉士、義肢装具士も福祉用具専 門相談員の業務にあたることができる)の配置が義務づけられ、他の専門職との連携を図 りながら、高齢者の自立生活を福祉用具等でサポートしているが、個別的な対応が必要な 福祉用具等利用者に対して適切に提供していくためには、短時間での講習(表9-1)や福 祉用具に関する知識を有する医療・保健・福祉国家資格保持者ということだけでは十分と はいえない。東畠が福祉用具専門相談員を対象に行った調査結果7)をみても、福祉用具等 関係企業に多様な取り組みを期待していた。
そこで本研究は、今日まで詳細に明らかにされてこなかった地域巡回入浴サービスの成 立過程とその後の展開過程を詳細に明らかにした上で、福祉用具等関係企業A社に焦点を あて、そうした展開過程のなかで同社が行っていたソフト面の安全対策に関わる各種事業 の分析から、同社による実践形態(研修、研究、資格の創設、教材の作成、機関誌の発行 の5つの事業形態と、企業の社会的責任の明確化、研究フィールドの提供、連携、活動の 蓄積、知見の蓄積、情報発信の6つの実践方策)を明らかにし、他の福祉用具等関係企業 がソフト面の安全対策を具体化していく手がかりになる1つの実践形態(モデル)を提示 した。本研究対象期間は、介護保険法が施行される2000(平成12)年以前としているが、
この実践形態(モデル)は介護サービスの給付制度の転換に左右されるとは思われず、今 後、他の福祉用具等関係企業が参考にすべきものと考えられた8)。この実践形態(モデル)
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の活用による他の福祉用具等関係企業による社会福祉に対する貢献を期待したい。
表8-1 福祉用具専門相談員の新カリキュラム
科 目 名 区 分 時 間 数
福祉用具と福祉用具専門相談員の役割 講 義 2時間
介護保険制度等における基礎的知識 講 義 4時間
高齢者の介護・医療に関する基礎的知識 講 義 16時間 個別の福祉用具に関する知識・技術 講義・演習 16時間 福祉用具に係るサービスの仕組みと利用の支援に関する知識 講 義 7時間 福祉用具の利用の支援に関する総合演習 演 習 5時間
合 計 50時間
出典 厚生労働省告示第250号を参考に筆者が作成した
さらに、A社はソフト面の安全対策以外の事業(全国調査、保険の創設)も展開し、地 域巡回入浴サービスの進展に寄与していたが、これら事業も他の福祉用具等関係企業の参 考となる取り組みであったといえる。
また、第2章第4節で述べたように、近年では、社会福祉と接点を持っていなかったコン ビニエンスストアや宅配企業が、高齢者の見守りや交流場づくりなどの生活支援事業を始 めている。これらの生活支援事業は、本業に寄与するとの期待から実践されているもので あり、近い将来、衣食住に関わるサービスを提供している民間企業もこのような付加価値 としての事業を積極的に行っていく可能性も想定される。本研究で示した実践形態(モデ ル)は、第 7 章の総括で述べたように、他の福祉用具等関係企業による製品との差別化を 促していたと考えられたため、これら民間企業にも1つの手がかりを提供できるものと考 える。地域における福祉課題が山積するなかで、さまざまな企業が付加価値としてのサー ビスを提供することで、地域における社会福祉のあり様が変化していく可能性がある。
最後になるが、個別的な対応が必要となる福祉用具等利用者に対して適切に対応できる ように、福祉用具専門相談員講習の時間数を増やす、前記した各専門職に対して新たな講 習を課す、といった政策や施策だけでなく、福祉用具等関係企業に対しても、高齢者に対 するソフト面の安全対策を奨励するような政策や施策が併せて必要になっていることを付 記しておきたい。
147 注
1)棟近雅彦、水流聡子:福祉サービスの質保証―職員の質を高めて利用者満足を獲得する
―.79,全国社会福祉協議会,東京(2009).
2)古瀬徹:市場活動から学ぶ―その 3《さまざまなサービス》―.老人福祉 ,75:88-94,
東京(1987).
3)厚生労働省ホームページの「厚生労働科学研究事業費の概要」をみると、学術的成果、
社会・経済への貢献、行政施策への反映によって国民の健康水準の向上を図っていく 旨が示されている
4)木村憲司:福祉用具への提言―安全安心な利用環境を目指して―.福祉介護機器 technoプラス,7:1(2014).
5)一番ヶ瀬康子監修:訪問入浴介護の理論と実践.126,一橋出版,東京(2000).
6)福祉用具の安全な利用を推進するための調査研究事業報告書.テクノエイド協会,東京
(2012).
7)東畠弘子:福祉用具の安全を考える.福祉介護機器technoプラス,7:5-8(2010).
8)嶋田芳男:福祉用具等関係企業の安全確保対策―地域巡回入浴サービスにかかわる事例
(A社)を通して―.介護福祉学,22(1):29(2015).
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論文初出一覧
※印は、博士後期課程に在学中に初出した論文である