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福祉用具等関係企業 A 社による取り組み

ドキュメント内 著者 嶋田 芳男 (ページ 87-107)

本研究対象である福祉用具等関係企業A社は、地域巡回入浴サービスに必要な福祉 用具等を製造・販売するだけでなく、同サービスにおけるソフト面に関わる各種事業 と、同サービスに関係する他の事業を展開していた。

そこで本章では、おもにソフト面の安全対策に関わる各種事業内容を詳細に明らか にするとともに、同サービスに関係する他の事業についても併せて提示していく。ま た、ソフト面に関わる各種事業がどのような方策によって実践されていたかを明らか にしていく。

第1節 福祉用具等関係企業A社の概要

本節では、福祉用具等関係企業A社の企業方針と事業内容、および経営戦略の提示から 同社の概要を示していく。

1.A社の企業方針および事業内容

A社は、1970(昭和45)年に資本金50万円(その後、数回の増資を経て、1977年に3,

200万円)で創業し、当初は、ガラス繊維強化プラスチックを使用した特殊浴槽などの製 品を製造、販売していた。特殊浴槽は、寝たきり高齢者、身体障害者などが寝たまま入浴 できる製品であり、1971(昭和 46)年に厚生省(当時)の日常生活用具給付制度の適格 品となっている。その後、地域巡回入浴サービスに関わる福祉用具等の製造をはじめ、各 種浴槽、布団乾燥車、高齢者用搬送車、配食車、ガラス繊維強化プラスチックを用いたさ まざまな商品の製造など、多様な事業を展開している。

同社の社是 1は、「個々の和と技術、英知を結集し、あらゆることに挑戦して明日の家 庭、社会づくりのために邁進します」、「多角的総合的福祉を目指して、日々の努力を重ね、

人間性を重視したハード、ソフトをつくります」、「国内外に福祉の輪、愛の手を拡大し明 るい将来を築くため、福祉と企業の調和を図り、企業福祉の実践を通して貢献します」で あり、社会福祉への貢献を謳った社是となっている。この要因の1つとして、創設者が満 州赤十字社で人道的活動を展開していた経験が影響を及ぼしたものと考えられた2

また、同社は地域巡回入浴サービスに対する提言 3として、「入浴福祉サービスを実施 していない地域の皆無をめざし、自助共助公助の有機的結集を強く希望し、民間活力のバ イタリティーによりこの必達を画します」、「入浴介護を手段とし、過程の団欒を目的とし

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て、良質の介護と安全衛生倫理等、基準の普及運動を展開し、入浴福祉の一層の充実をめ ざします」、「人間性を重視した用具機器の開発に努め、優秀な入浴福祉専門職の養成に尽 し、長寿社会の取り残されがちな部分に、明るい将来を築く努力をします」、「社会福祉と 企業との調和を計りつつ、入浴福祉を基盤として、企業福祉の実践をとおし多角的福祉介 護の分野に参画し、長寿社会に貢献します」、「海外にも視野をひろげ、総合的福祉情報を 収集し、より豊かな福祉を提供する。我々の持つハード、ソフトも求められればこれを提 供し、福祉の輪、愛の手の拡大を計ります」をあげ、おもに地域巡回入浴サービスに関わ る企業活動を展開している。

2.A社の経営戦略

A社は、1989(平成1)年に入浴福祉や福祉車両の新規事業、在宅福祉事業に関わる企 画・市場調査、医療・福祉機器の研究と開発、先進的な介護技術の指導するために新たな 会社(資本金1,000万円。以下、A社プランナーズ)を設立し、1990(平成2)年には、

A 社の福祉車両製造部門(メンテナンス含む)を分社化(資本金 1,000 万円。以下、A 社テクノ)している。とくに、製造部門の社内分社化に至った要因として、1987(昭和

62)年に創設者に代わって新たな経営者が就任した際、「…先代の功績があまりにも知れ

渡っていたので、当時は、『2代目になったらA社はどうなるか』という眼でみられ…」4、 こうした状況を打開するために「…年間ごとの売り上げ15%アップを目標に掲げ、組織の 有機的活用を図って権限と責任を委譲する施策をとった」5ことが契機となっている。

また、新たな経営者は「…会社全体の安定収入を図るために1人3役の働きが必要です。

私はそれを社員に要求しています。人に頼るような仕事をしていては会社は伸びない。自 主独立できる人間が連携してこそ組織の機能が円滑になる…」6といった経営方針を認識 していたこと。さらに、「言われたからやっているという考えでは責任感が育たない。また、

何のために役員や部課長がいるのか。役員になったら一生役員だという考えは捨ててもら う。任期2年で良ければ継続するが、悪ければ辞めていただく。仕事の厳しさを、いくら 弱小企業でも追及する必要はある…」7と述べている点から、成長した企業が直面する「…

怠り、フリー・ライディング(ただ乗り)、戦略的情報操作、組織内の自己満足…」8などの 問題の存在を認識しながら、企業を優位に持続させていくために、企業内のルールやシステ ムを絶えず見直していったといえる。

そして、ある時期にA社関係者が社員に対して言った「…今年の決算も赤字にも黒字に

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もならなかった、とんとんだった。しかし、利益では15%の伸びがあったんだよ。15%伸 ばしたにもかかわらず赤も出なかったし、黒もでなかったのは、それだけいろんなものに 投資しているからだ。…」9、「…福祉だけで食べていくにはものすごい努力がいるんだ。

今から5年後には福祉がビジネスとして成り立つ時代が来るだろう。その時にはこの会社 がよくなっているように、基盤の、足腰の強い企業に、いまのうち我々の手で築いていこ うじゃないか」10との言動から、新たな機会を探知し、機会に対応するための投資を行っ ていたと推測できる。

この結果、A社およびグループ企業は、売上高は22億2,900万円(2011年時)、また、

管理面で非常に効果をあげている11。その一方で、次節で示すような全国を対象にした各 種事業に取り組んできた。社会福祉領域で、福祉民間企業や一般民間企業によるこのよう な取り組みはA社以外では確認できず、貴重な実践であると考えられた。

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第2節 地域巡回入浴サービスのソフト面に関わる各種事業

福祉用具等関係企業A社が地域巡回入浴サービスの安全を確保するために、同サービス の従事者に対して各種事業を展開していた。既述した企業方針などをみると、各種事業を 運営していく組織的な方針が整えられ、また、同社研修部門には、2~3 名の専任社員が配 置され、各種事業を展開していた。

そこで本節では、A社による各種事業内容を実践方法と結果で明らかにしていく。

1.安全確保対策の方法

A 社は、全体研修、レベル別研修(基礎・中級)、研究、資格の創設、教材(テキスト)

の作成、機関紙の発行などの方法で、安全確保対策を実践してきた(表6-1)。

表6-1 各種活動年表

年 度 活 動 状 況

1974(昭和49)年 1回全体研修 1975(昭和50)年 2回全体研修 1977(昭和52)年 3回全体研修 1978(昭和53)年 4回全体研修 1979(昭和54)年 5~8回全体研修 1980(昭和55)年 9~10回全体研修

1981(昭和56)年 11回全体研修、研究部門発足

1982(昭和57)年 12回全体研修、第1回基礎研修、研究部門による研究活動が始まる

機関紙を創刊(以後、年4回程発行)

1983(昭和58)年 13回全体研修、第2回基礎研修 1984(昭和59)年 14回全体研修、第3~5回基礎研修

テキスト『入浴福祉講座入浴編1(基礎編)』を作成 1985(昭和60)年 15回全体研修、第6~7回基礎研修

1986(昭和61)年 16回全体研修、第8~14回基礎研修、テキスト『入浴福祉講座入浴編2(応

用編)』を作成、2種類の資格(安全管理者、従事主任者)を創設 1987(昭和62)年 17~18回全体研修、第1回中級研修、第15~26回基礎研修

『B 型肝炎の正しい知識』を作成

1988(昭和63)年 19~20回全体研修、第2~4回中級研修、第27~39回基礎研修

1989(平成元)年 21~22回全体研修、第5~6回中級研修、第40~47回基礎研修

龍野市社会福祉協議会による従事者向けテキスト作成に協力

1990(平成2)年 23~24回全体研修、第7~9回中級研修、第48~53回基礎研修

『在宅サービス従事者研修用テキスト』の作成に協力(編集、執筆を担当)

1991(平成3)年 25~26回全体研修、第10~11回中級研修、第54~62回基礎研修 1992(平成4)年 27~28回全体研修、第12~13回中級研修、第63~72回基礎研修

1993(平成5)年 29回全体研修、第14~15回中級研修、第1回ブロック研修

73~82回基礎研修

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1994(平成6)年 30回全体研修、第16~17回中級研修、第83~91回基礎研修

1995(平成7)年 31回全体研修、在宅入浴サービスシンポジウム開催、第18~19回中級研修、

92~103回基礎研修

1996(平成8)年 32回全体研修、第20~22回中級研修、第105~115回基礎研修 1997(平成9)年 33回全体研修、第23~25回中級研修、第116~127回基礎研修 1998(平成10)年 34回全体研修、第26~28回祉中級研修、第128~136回基礎研修 1999(平成11)年 35回全体研修、第29~32回中級研修、第137~145回基礎研修

出典 嶋田芳男:福祉用具等関係企業の安全確保対策―地域巡回入浴サービスにかかわる事例(A 社)を 通して―.介護福祉学,22(1):29(2015).なお、研修については、欠落している部分もあった ため、同社が発行している機関紙(第1~67号)にて補足したが、第104回基礎研修のみ確認で きなかったことを付記しておく。

2.安全確保対策の結果

(1)研修 1)全体研修

1974(昭和49)年以降、1999(平成11)年までの間に35回の全体研修会が行われて

いた。研修日程は2日間であり、全体会と分科会といった研修方式の下で、入浴福祉に係 る内容についての講義、事例報告、意見交換などが行われていた。参加人数は1999(平成

11)年までに延べ4,088名が参加していた。

2) レベル別研修

① 基礎研修

基礎研修は、福祉用具等の納入先に対して実施してきた講習会がスケジュール的に難し くなったため、1982(昭和57)年から実施されたものである。研修日程は2日間(12時 間程度)で、おもに入浴に係る生理や技術、体験入浴、入浴実習などの内容で開催され、

1999(平成11)年までの間に延べ145回実施していた。1997年度までの延べ参加者数は

17,956名であった。

② 中級研修

中級研修は、1987(昭和 62)年に創設され、基礎研修を修了し、実務に従事した者を 対象に3日間(18時間)の日程で実施され、おもに入浴に係る生理(実験を含む)、感染 予防、症状別入浴法、入浴実習などの内容で開催されていた。1999(平成 11)年までの 間に延べ32回実施し、1997年までの延べ参加者数は652名であった。

ドキュメント内 著者 嶋田 芳男 (ページ 87-107)