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地域巡回入浴サービスの萌芽とその後の動向

ドキュメント内 著者 嶋田 芳男 (ページ 48-68)

研究対象の福祉用具等関係企業A社が関わる地域巡回入浴サービス業界を把握するため に、第 3 章で示した国や地方自治体による施策だけでなく、地域巡回入浴サービスを供給 していた事業者の動向や、同サービスに関わっていたボランティア・ボランティア団体、

入浴車を寄贈や支援を行っていた 24 時間テレビチャリティー委員会・各種新聞社・銀行・

生命保険協会など(以下、民間組織)の活動状況をも把握しておく必要がある。

しかし、今日に至るまで地域巡回入浴サービスの成立過程は明らかにされておらず、ま た、同サービスを供給する事業者の縦断的な動向とボランティア・ボランティア団体、民 間組織による活動についても示されていない。そこで本章では、今日に至るまで示されて こなかった成立過程を明らかにするとともに、同サービスに関わっていた事業者の縦断的 動向と、A社が関与していたボランティア・ボランティア団体と民間組織の活動状況を明 らかにしていく。

第1節 地域巡回入浴サービスの萌芽

本節では、世界で初めて地域巡回入浴サービスに取り組んだ宇都宮市や、その 2 年後に 福祉用具等関係企業A社が関わり取り組んだ水戸市における同サービスの成り立ちと、こ れ以降の他の市町村の動向、およびA社の関与が 1 つの要因となり取り組まれたと考えら れた老人福祉開発センター等による実践を示していく。その上で、政策・施策・事業の階 層性、市町村・都道府県・国への影響、有益性と課題の 3 つの観点から同サービスを検討 することで、同サービスがどのように体系化されていたのかを明らかにするとともに、ど のような有益性と課題が存在していたかを提示していく。

1.宇都宮市における地域巡回入浴サービス

宇都宮市は市独自の事業として、全国で初めての試みである入浴車による地域巡回入浴 サービスを創設し、1970(昭和 45)年 8 月から高齢者と障害者双方を対象に開始した。

1970(昭和 45)年の市議会において、入浴車の運行予算が提出され、承認されたが、宇 都宮市は地域巡回入浴サービスの創設について、当初から栃木県に相談していた。市議会 議事録をみると「…寝たっきりの老人や重度身障者のために入浴バスを巡回させるという 計画、全国でも初めてのケースであり、県の方も大変乗り気のようでありますが…」1)

と記されている。また、小笠原2)も「…県からの支援もあって自動車メーカーとの協力の

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下で大型自動車の中に浴槽を設置し、入浴車の中で入浴できるように改造して、在宅訪問 型の入浴福祉を始めました…」と県の同市への関与について示しており、双方の連携の下 で地域巡回入浴サービスが創設されたといえる。

宇都宮市では、「宇都宮市移動浴槽車設置及び管理条例」を 1971(昭和 46)年 3 月に制 定した。地域巡回入浴サービスの開始は、1970(昭和 45)年 8 月 17 日からであったこと から、同サービス開始後に条例化したことになる。地域巡回入浴サービスの対象は、単身 では入浴困難な重度の身体障害者(心身障害児含む)又は寝たきり高齢者で常時の介護を 要する者で、申請に基づいて入浴サービスが提供されていた。巡回数はおおむね 1 世帯に つき月 2 回であり、平日は午前 9 時から午後 4 時 30 分の間、土曜日は午前 9 時から正午ま でとなっていた。また、条例と合わせて制定された「宇都宮市移動浴槽車設置及び管理条 例施行規則」をみると、毎月医師の入浴についての証明書の提出が義務づけられており(経 済的理由のある者は、市の嘱託医を派遣)、入浴が及ぼす身体面への影響に一定の配慮が 当初から考えられていたことが窺える。

入浴車は、中型バス(40 人乗り)に寝たまま入れる洋式浴槽を設置し、車内で入浴でき るよう改造したものでる(以下、宇都宮式)。入浴介助は、看護師とホームヘルパーの 3 人で行われ、入浴前健康診査(体温・脈拍など)や入浴後の消毒(1 人毎)も実施されて いた。1971(昭和 46)年には、狭い道路でも入れる小型の搬送車(入浴車への搬送)が導 入されるとともに、1972(昭和 47)年 1 月 26 日からは、栃木県の補助金による 2 号車が 運行を始めている。1970(昭和 45)年 8 月 17 日から 1972(昭和 47)年 3 月末までの派遣 対象となった者は累計で 1,203 名、その内訳をみると入浴者が 957 名、清拭者が 246 名で あった。1972(昭和 47)年 4 月 1 日から 1973(昭和 48)年 3 月末の 1 年間では累計で 114 名、その内訳は入浴者 105 名、清拭者 9 名という状況であり、創設当初と比べると利用者 の減少がみられた。

2.水戸市・他市町村および老人福祉開発センター等による地域巡回入浴サービス 1)水戸市とその他市町村による地域巡回入浴サービス

水戸市は、1972(昭和 47)年 6 月 1 日から地域巡回入浴サービスを実施していた。水戸 市における入浴車は宇都宮方式とは違い、湯沸かし器、水タンク、ポンプ等を備え、搬送 式の簡易浴槽を車載した入浴車であり、簡易浴槽を利用者宅に運び込んで入浴してもらう 方法であった(以下、水戸式)。当初は、水戸市においても宇都宮方式に関心があったよ

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うだが3)、入浴車が大きすぎて狭い道や路地に入れない、自力で移動できない高齢者は入 浴しにくいといった理由で水戸市では小型の入浴車を希望していたようである。当時、水 戸市長であった木村は、簡易浴槽を製造・販売していたA社に依頼し、同社は木村市長の 希望に沿う形の製品を開発し、水戸市に納めている。

派遣対象は宇都宮市同様、寝たきり高齢者、身体障害者などであり、実施要項に基づき 実施されていた。地域巡回入浴サービス開始時は、3 名のホームヘルパーで入浴介助を行 い、入浴前健康診査は、ホームヘルパーで看護師資格を有していた者が担当していた。1 日に 3 人、週 1 回のペースで巡回入浴事業を行っていたようである。1972(昭和 47)年の 同サービス利用者数は累計 308 名、1973(昭和 48)年累計 675 名、茨城県の補助金により 購入された 2 台目の入浴車が導入された 1974(昭和 49)年は、ほぼ前年比 2 倍の累計 1182 名に同サービスが提供されていた。

1973(昭和 48)年には、水戸式の入浴車によるサービスが甲府市、大曲市、若美町、海 道市、伊勢崎市、藤岡市、川越市、鴨川市、長野市、松山市、石川県、他 13 の地方自治体 で開始された4)

2)老人福祉開発センター等による取り組み

老人福祉開発センター等(現長寿社会開発センター)によって、1974(昭和 49)年から 入浴サービス活動の促進を図るために、人口 5 万人以上の市、または、5 万人以上の人口 を有する広域市町村圏の民間団体(社会福祉協議会)に入浴車(水戸式)を貸与する事業 が開始された。この事業は、日本自転車振興会の助成金(1 台あたり 4 分の 3 を助成)を 活用し、1978(昭和 53)年度までに 80 台を全国の各市町村社会福祉協議会などに貸与し ていた。1974(昭和 49)年度は、37 市町村社会福祉協議会に貸与された(表 4-1)。厚 生省(当時)は、この事業が開始される前年の 1973(昭和 48)年 12 月に各都道府県(指 定都市)民生主管部(局)長宛に厚生省社会局老人福祉課長名で「老人福祉施策の充実強 化について」という通知を出しており、そのなかで「…一部市町村でなどにおいて取り上 げ、実施されている移動浴そう車による入浴サービス、福祉相談、(略)等の奉仕活動な どの施策を国としてもできる限り指導育成するとともに…」5)と記されていることから、

国による指導育成の具体化の 1 つが厚生省(当時)が所管している老人福祉開発センター 等(現長寿社会開発センター)による入浴車の貸与事業であったと考える。また、寝たき り老人の入浴状況を調査した福祉用具等関係企業A社関係者が、「…寝たきり老人がこん

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なに冷遇されているのは大問題と調査内容をすぐ厚生省老人福祉課に送り届けた。厚生省 では、財団法人老人福祉研究会に委託、昭和 49 年度から希望する市町村に入浴車を貸し与 えることにした」6)と表明していることから、このような働きかけも貸与事業の創設に影 響を及ぼした可能性があると考えられた。

このように地方自治体による事業が国に採用されたことでこの後、自治体間の「横並び 競争」が起き、地域巡回入浴サービスは宇都宮式と水戸式といった 2 つの方法で全国に広 まっていった。

表 4-1 入浴車貸与先

年 度 貸与先社会福祉協議会

1974(昭和 49)年度 浜松市社会福祉協議会、旭川市社会福祉協議会、鹿児島市社会福祉協議会、

鹿屋市社会福祉協議会、富士市社会福祉協議会、沼津市社会福祉協議会、

清水市社会福祉協議会、福島市社会福祉協議会、豊橋市社会福祉協議会、

大分市社会福祉協議会、丸亀市社会福祉協議会、鳥取市社会福祉協議会、

倉敷市社会福祉協議会、小松市社会福祉協議会、加古川市社会福祉協議会鉾田町 社会福祉協議会、神崎町社会福祉協議会、長野市社会福祉協議会、

館林市社会福祉協議会、粟野町社会福祉協議会、氷見市社会福祉協議会、

山田町社会福祉協議会、本別町社会福祉協議会、富岡町社会福祉協議会、

大宮町社会福祉協議会、苫小牧市社会福祉協議会、一関市社会福祉協議会、

那珂町社会福祉協議会、気仙沼市社会福祉協議会、中新田町社会福祉協議会、

沖縄県社会福祉協議会、泉市社会福祉協議会、登米地方社会福祉協議会、

武雄市社会福祉協議会、沖縄市社会福祉協議会、松阪市社会福祉協議会、

北九州市社会福祉協議会 出典 筆者作成

3.考察

本項では、政策・施策・事業の階層性、市町村・県・国への波及、有益性と課題の 3 つ の視点から考察していく。

(1)政策・施策・事業の階層性

公共政策の特性には、政策、施策、事業といった階層性があると指摘されている。政策 は、基本的方針の策定、施策は政策を実現させるための具体的方針の策定、事業は、具体 的方針を実現させるための具体的手段の策定である7)。そこで本項では、この指摘に基づ き、早期に固有の方法で巡回入浴事業を実施していた宇都宮市と水戸市に焦点をあて、そ れぞれの地方自治体行政がどのような政策や施策に基づき事業化していたかを検討してい く。

ドキュメント内 著者 嶋田 芳男 (ページ 48-68)