福祉用具等関係企業A社が各種事業を展開していた同時期、高齢者福祉施設の全国レベ ルの業界団体である全国老人福祉施設協議会が高齢者福祉施設におけるサービス内容の改 善に向けた取り組みを行っていた。また、福祉系団体である老人福祉開発センター等は、
在宅福祉サービスの中核を担うホームヘルパーを対象に全国レベルの同様の取り組みを行 っていた。サービスの「…質を保証するためのアプローチは、安全を保証するための要素 を多く含んでいる」1)ため、全国老人福祉施設協議会と老人福祉開発センター等は、A 社 とほぼ同様な目的に沿った実践を行っていたと解釈できる。このため、他分野の取り組み とA社による取り組みの検討も必要と考え、本章では双方の取り組み内容を提示していく。
なお、全国老人福祉施設協議会による取り組みは、高齢者介護施設である特別養護老人 ホームが創設された 1963(昭和 38)年から、もう一方の老人福祉開発センター等は、ホー ムヘルプサービス内容の改善をめざし、始動した 1972(昭和 47)年からとし、双方とも社 会福祉専門職の国家資格化がなされていない 1986 年までの取り組みについて提示してい く。その理由は、双方の取り組みは、入浴という福祉サービス利用者の「生活の一部分へ のサポート」とは違い、「生活全般へのサポート」に関するものであるため、1987(昭和 62)年の社会福祉専門職の国家資格化前後では、双方による取り組みにも違いが生じてく るものと考えられたためである。
また、本章で示す双方の内容は、あくまでも取り組みの傾向に過ぎないことを付記して おきたい。なぜならば、本章で示した年代には全国老人福祉施設協議会および老人福祉開 発センター等以外の諸機関、諸団体などにより多様な取り組みが展開されており、本章で 示す内容はそれら取り組みの一部に過ぎないからである。
第1節 全国老人福祉施設協議会による取り組み
本節では、高齢者福祉施設の全国レベルの業界団体である全国老人福祉施設協議会 によるサービス内容の改善に向けた取り組みを提示していく。
1. 全国老人福祉施設協議会とは
1932(昭和 7)年全国老人福祉施設協議会の前身である全国養老事業協会が設立された。
同協会は、当時、全国的に増加していた施設間の連絡や調査研究のために組織された高齢 者福祉施設の団体である。1953(昭和 28)年になると、全国社会福祉協議会の厚生委員会
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の中に養老部会(後に、老人福祉施設協議会)が創設されたため、同協会と同協議会の養 老部会は協働しながら事業を展開することとなった。その後、高齢者福祉事業をより一層 発展させるために、1966(昭和 41)年に全国養老事業協会と全国社会福祉協議会老人福祉 施設協議会が統合され、全国社会福祉協議会全国老人福祉施設協議会が創設された。同協 議会は、2001(平成 13)年に全国老人デイサービスセンター協議会を統合するとともに、
2006(平成 18)年には新たな組織として、全国老人福祉施設協議会が発足し、今日に至っ ている。
2.研修
研修は、全国レベルの「全国老人福祉関係者会議」(この後、研修会の名称が改称される ため、以下、全国大会)と職種別研修、ブロック別研修で行われていた(図 5-1)。つぎ に各研修内容について、論述していく。
図 5-1 研修実施期間[1963~1986 年までの間]
[全国大会]
1963 年 1986 年
[職種別研修(寮母、看護師、生活指導員)]
1970 年 1980 年
[職種別研修(看護師)]
1981 年 1986 年
[ブロック別研修]
1983 年 1986 年
出典 筆者作成
(1)全国大会
1967(昭和 42)年度の全国大会において、給食に関する研究部会がはじめて設置され、
栄養や病人食、調理器具の工夫、食事の嗜好、食事時間などについて検討された。また、
1970(昭和 45)年度には希望献立に関する発表、1971(昭和 46)年度には終末期食につい
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1968(昭和 43)年度の全国大会から特別養護老人ホームの「処遇」に関する研究部会が 設置され、これ以後、処遇向上などについて検討された。とくに、同年度においては家族 との交流、リハビリテーション、レクリエーション、「精神障害を持つ高齢者に対する処遇」
に関して発表された。この実践発表は、特別養護老人ホームとしては、わが国ではじめて 行われたものであった2)。1970(昭和 45)年度には認知症高齢者に関する発表、1972(昭 和 47)年度には、「リハビリテーション」に関する研究部会、および 1974(昭和 49)年度 には「終末期の看護・介護」に関する研究部会も設置された。
つぎに 1975(昭和 50)~1984(昭和 59)年度までの全国大会における各研究部会テー マ(分科会テーマを含む)をみると、1965(昭和 40)~1974(昭和 49)年にみられはじめ た「栄養と食生活」、「リハビリテーション」、「処遇」、「終末期看護・介護」、「認知症高齢者 への対応」に関するテーマに沿った検討が引き続き行われていた。また、1980 年度には「介 護器材」、1982(昭和 57)年度には「高齢者の性」に関する検討も行われるとともに、「基 本的処遇としておむつを考える」という分散会も置かれた。食生活については、夕食時間 延長への取り組みや食事時間のあり方、バイキング方式についての検討がなされ、大きな 影響を各方面に与えた3)。
(2)職種別研修
1970(昭和 45)~1978(昭和 53)年度までの全国レベルの職種別研修会である特別養護 老人ホーム職員研修会(対象は、寮母、指導員、看護師等)をみると、老人看護・老人基礎 看護の理論、精神病老人・老人の精神障害、リハビリテーション、老人の看護心理・老人の 心理などの研修科目がおかれていたが、1977(昭和 52)年度からは「介護」という言葉を 含む科目(介護論)が置かれるようになった。
また、1979(昭和 54)年度から寮母以外の生活指導員や看護師を対象に、老人ホーム看 護婦研修が年 1 回、老人ホーム生活指導員研修が 1 回、老人ホーム主任生活指導員研修が 1 回開催され、おもにサービス提供(精神障害者分野を含む)の考え方やそれぞれの職種
の役割、チームワーク、高齢者の心理、などの内容に関する研修が行われていた。
(3)ブロック別研修
ブロック別研修は全国を 8 ブロックに分け、1983(昭和 58)年度から行われている。各
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ブロックのテーマを概観すると、共通したテーマと共通しないテーマが混在しているが、
高齢者福祉施設の役割、老人福祉法改正、サービスの質、他職種との連携、高齢者福祉施 設の運営、地域のネットワークなどをキーワードとする内容について、研修が行われてい た。
3.資格の創設
急増した老人ホーム職員のなかで中核的な役割を果たす寮母に対する系統的な研修の必 要性が認識され、1979(昭和 54)年度から福祉寮母資格認定講習会が開始された。この講 習会は、主任寮母の養成と専門職化をめざした資格認定講習会である。
期間は1年間で社会福祉、介護、看護、家政学に関する科目が配置されていた。福祉寮 母資格認定講習会は介護福祉士資格制度の創設にともない 1987(昭和 62)年終了している が、この間に約 1,800 人のリーダーを養成したことは、サービスの質の向上に大きな役割 を果たしたと考えられる。
4.出版物
(1)ハンドブック・ガイドブックの発刊
1967(昭和 42)年には、大阪老人福祉施設連盟によって『ハンドブック-老人ホーム職 員のために-』が発刊された。これは、大阪府社会福祉協議会内に置かれた「近代化研究 会」において、実践から得られた知識と研究の成果を現場の職員がまとめたものであり、
サービスの質的向上に答えるために 1972(昭和 47)年に改訂された。
改訂されたハンドブックの内容は表 5-1 のとおりであり、その内容も多岐にわたってい た。「食事介助」、「排泄介助」、「認知症高齢者の介護」、「終末期介護」に関する記述はほと んどみられないが、サービス内容の改善や職員の資質の向上に大きな影響を与えたと推察 できる内容であった4)。
全国老施協は、「老人福祉施設職員研修要綱(案)」を作成し、1976(昭和 51)年度の全 国大会において発表した。この際に職員研修テキストの必要性が指摘されたため、1977(昭 和 52)年に義務教育修了レベルを対象に分かりやすい教材として『老人ホーム職員ガイド ブック』(以下、旧ガイドブック)を作成した。この旧ガイドブックは 12 章から構成され、
約 1 万 2,000 部が発行された。また、このガイドブックは職場内のグループ研修において 活用されることが期待されていた。
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旧ガイドブックの内容は表 5-1 のとおりであり、「特別養護老人ホームにおけるケア」
のなかでは、医療・看護・福祉・栄養に関わる職種のチームワークの必要性と介護技術につ いて触れている。しかし、「食事介助」、「排泄介助」、「清潔の介助(入浴含む)」、「褥瘡予 防(福祉用具含む)」、「危篤時の介助(死後の処置含む)」、「緊急時の対応法」に関しては、
大まかな手順と留意点は示されているものの、具体性に欠ける内容になっている。
表 5-1 『ハンドブック』および『旧ガイドブック』の内容 書 名 内 容(項 目)
『ハンドブッ ク-老人ホー ム職員のため に-』
「個別性への配慮」「生きてきた時代の理解」「受容的態度」「他職種との連携」「高齢者 の身体・知的特徴」「身体の清潔介助(入浴含む)」「衣服の着脱介助」「褥瘡予防」「移動 介助」「安楽な姿勢」「あんま・マッサージ」「緊急時の対応法」「リハビリテーション」
「睡眠」「レクリエーション」「居住環境の整備」「福祉用具」「栄養・調理」「被服」「洗 濯」
『老人ホーム 職員ガイドブ ック』
「老人の社会的役割」や「老人福祉法概要」、「老人のからだ(老化と疾病)」「老人のこ ころ(老化と疾病)」「ケースワークとグループワーク」「リハビリテーション」「栄養(高 齢者の食生活の留意点を含む)と調理法(治療食を含む)」「養護・軽費・特別養護老人ホ ームにおけるケア」
出典 嶋田芳男:高齢者福祉施設のサービス内容の改善に関する基礎的研究.介護福祉教育,17(2):68
(2012).
1982(昭和 57)年には旧ガイドブックも改訂され 14 章からなる『新老人ホーム職員ガ イドブック』(以下、新ガイドブック)となり、最終的に 4 万 8,000 部が発行された。改訂 前と後の内容を比較すると、新たに「処遇総論」、「レクリエーション」、「処遇と記録」な どの項目が設けられるとともに、その他項目の内容も一部充実させている。「処遇総論」の なかでは、とくに「生活の場」と「身体的自立(食事・排泄・移動面)」、「離床」、「終末期介 護」、「老人の性」などのキーワードが示され、それぞれの内容について述べられている。
また、新ガイドブックではリハビリテーションに関する項目のなかで、移動技術(今日で は介護技術のなかに含まれている内容)や移動・食事に関係する福祉用具の内容も詳細につ け加えられているが、介護技術の項目は旧ハンドブックのものとほとんど変わらない内容 になっている。
(2)機関誌『老人福祉』の発行
『老人福祉』は、全国養老事業協会(全国老人福祉施設協議会の前身)時代から発行さ れていた機関誌であり、老人福祉制度、施設運営、処遇方法などに関する論文や実践報告